国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0052話「あの世の人」

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「これ……」江遠も慰める方法を知らなかった。

魏振国の言葉に衝撃を受けたのは言うまでもない。

丁蘭が失踪したばかりか、さらに遺体まで発見された事件と重なることで、魏振国の妻の行方不明は自然と最悪な方向へ結びつくように思えた。

魏振国がタバコを一本取り出し、煙をくゆらせながら言った。

「出張から帰ったら、人がいなかった。

電話もつながらず、消息なし。

黄隊(※注:原文の「黄队」はおそらく黄強民を指すが、補足情報がないため原文通り表記)たちも捜索してくれたが、結果が出ない。

残された手掛かり……というのも何とも言えない状態だ。

江法医に見てもらいたい」

「えぇ……分かりました」江遠は頷いた。

「刑事の妻が失踪したとなると、局は全力で捜索しているはずなのに見つからないなら、単なる誇大表現では済まない問題だ」

「行こう、ホテルで寝てみようか。

明日も忙しいからね」魏振国は車を動かし始めたが、江遠に何か期待するわけではなかった。

寧台県の刑科中隊では目立つ存在だが、長陽市ではそれほどでもない。

市警や省庁には技術専門家が数多く、かつて黄強民も呼ばれたが、それでも手掛かりは見つからなかった。

刑事としての魏振国は、確かに些かも解決できない事件があることを知っていたし、解決したとしても運が良かったケースもあると理解していた。

テレビドラマのように事件発生直後に各方面が集結して真相に迫るなんて理想論だ。

現実には事件自体がすぐに気付かれず、気がついてもすぐには重要視されない。

重要視されても様々な失敗が発生するものだ。

例えば魏振国自身、妻がいなくなった時、最初に考えたのは警察への届けや証拠の保存ではなかった。

刑事だろうと、自分が身近で起こる重大な事件とは思ってもみないのが人情というものだ。

車を動かし始めた魏振国はホテルに戻った。

数人が次々と帰宅したが、話すこともなくそれぞれベッドに入った。

江遠も頭の中がいっぱいだったが、睡眠の誘惑に負けた。

翌日までぐっすり眠り込んだ。

次の日の正午。

陽光が暖かく照らす中、小さなホテルの小さなロビーにはチェックインやチェックアウトする人々が集まっていた。

彼らはリラックスした様子で、多くの顔に笑みがあった。

昨夜は良い時間を過ごしたようだ。

テーブル上の観葉植物・ポトスも水をたっぷり受け、鮮やかな緑色だった。

多くの人が手入れしてくれたのだろう。

社会の影に覆われていた刑事たちが、突然陽光の中に現れた時、一瞬戸惑いを感じたようだ。

「陰間で戦ったような気分だぜ」牧志洋はペットボトルの水を飲みながら言った。

「俺らはせいぜい陰間でアルバイトした程度さ」魏振国が伸びをしながら答えた。

「まあ、谭勇だけ捕まえたんだからね」

「この鬼畜野郎、一人でも多すぎるよ」魏振国はため息をついた。

牧志洋は師匠の沈黙に気が付き、「あ、谭勇は連行したのか?」

と訊ねた。



うん、置いておいてくれるならいいぜ。

あとで行って確認するからな。

「置いておくだけでもありがたい」みんなが笑顔になる。

監視生活はこんなに辛かったんだから、 хоть какая-то成果が出たもんな。

数人が会話しながら外に出た。

小さなレストランに入って座った。

江遠が落ち着いたら、訊ねた。

「最初の動機は丁蘭への片思いだったのか?それとも何か他の理由があったのかな?」

証拠からは読み取れない部分だ。

江遠も気になって仕方なかった。

「まあそんな感じだよ。

丁蘭は長身の男が好きなんだってさ……小牧が言った言葉を忘れちゃったんだよ」

「顔野郎」志洋が補足した。

「そうだよ、その通りさ」振国が頭をかいた。

「彼女は恋人を変えてもうまくいくし、夜這いも頻繁にやるけど、条件は顔野郎なんだってさ」

志洋が静かに言った。

「師匠、この言葉の使い方は違いますよ」

「とにかく、丁蘭が恋人を次々と変えているのを見て、振国は色欲に駆られたんだ。

彼は供述で言うには、一度プレゼントを送ったけど断られ、食事に誘われても断られたんだってさ。

その後、振国は別の考えを持ち出したんだ」

他の刑事たちが振国の煙草を取り合い始めた。

それぞれが振国手の烟草を全部奪い取り、次々と吸い始めた。

江遠はポケットから中華タバコの箱をテーブルに置いた。

彼は禁煙だ。

でも金はあるんだ。

志洋は江遠のタバコを無礼にも破り開け、振国に差し出した。

「師匠、続きをどうぞ」

「最後には路上で丁蘭と会い、振国が彼女を止めたんだ。

二人の会話が合わず、振国は彼女を殴った。

その後、車に乗せたんだってさ」振国がため息をついた。

「振国によれば、最初は高速道路脇に捨ててやろうと思っていたけど、つい犯行に及んだんだって」

数人は黙っていた。

誰もコメントする気にならなかった。

「あの家は、元々振国が以前に抵当物として確保した部屋なんだよ。

その後、購入規制のため遠縁の親戚名義にしておいたんだ。

彼女を連れて行ったのは殺人埋葬の計画だったんだけど、後に……丁蘭の哀願で地下室を作ることにしたんだってさ。

地下室も彼女の手で掘ったらしい」

振国は首を横に振った。

「その後、三人の女性が売春婦として関わっていたと話している。

死んだ子も含めて、振国に騙されて遊ばせられた後、地下室を掘らせたんだ。

今回の逮捕に至らなければ、さらなる誘拐や地下室拡張計画があったんだろう」

「死んだ子は振国が殺したのか?言うことを聞かなかったからなのか?」

志洋が追及した。

「振国は否定している。

ある日突然見つけて驚いただけで、詳細は分からないと答えたらしい。

でもその答えでは通らないだろうさ」

振国が深く吸い込んだ。

「まあ、上層部は確実な証拠を欲しがってるんだよ。

もちろん振国も死ぬわけにはいかないからね」

この土地では証言が物証より重視されることが多かった。

特に司法システムの外で殺人犯が「無実だ」と繰り返す限り、全ての証拠が彼を指し示しても多くの人々は死刑判決を下せない不完全さを感じる。

刑事たちにとって嫌疑者の自白を引き出し、その心身に納得させることは極めて重要だった。

達成できればそれで十分だ。

まきしよしは唇を歪めて言った。

「まだ生きているのか?」

「分からないわね。

でも殺人から逃れられたら死緩が濃厚になるのよ」えんべんは皿が運ばれてきたと同時に手を振った。

「食事、それ以上は言わない。

あとで省公安廳から人が来るって話だから帰りに部屋を片付けて」

「省公安廳?」

えんべんは首を傾げた。

省公安廳の名前は大きく聞こえたが実際には人員も少ない。

一般的な殺人事件では省公安廳が関わることはない。

今回の案件は確かに影響力があったが終盤を迎えているため残る捜査段階は些末なものだった。

除非……えんべんは推測した。

「何か新たな手掛かりを掴んだのか?」

「もしかしたらね」えんべんは頷いた。

「あの世の民、あの世の人間がずっと規則に従っているわけがないわよ」

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