国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0054話「微量物証」

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ふと目覚めると、江遠はベッドから起き上がった。

精力的で軽やかに、まるで専科チームに参加したこともなかったように感じた。

実際には、彼が関わる余地などなかったのだ。

法医の分野では、市局には死体を前にしてもマスクだけ着用するようなベテラン法医もいれば、二週間で一具の解剖をこなす博士法医もいた。

刑事側でも、市局の刑務支隊には大規模事件や重大案件を解決した腕利きが数多く、社交的で荒々しい男たちもいる。

寧台県から来た江遠らは、むしろ支队长の特別扱いを受けた。

彼らが何日間も張り込んでいたことを知っているため、少し息抜きする時間を与えてくれたのだ。

「ぶーん」と電話が鳴った。

ウィーチンゴーが声をかけてきた。

「下に朝食だよ。

門前の油条店で」

江遠は苦笑いし、ベッドから這い出した。

事件解決後、新たな場所での宿泊条件は格段に向上していた。

以前の刑事出張では二人一室やビジネスホテルが多かったが、今回はウィーチンゴーが全員にシングルルームを確保してくれた。

少なくとも専科チーム昇格後の予算増加を示す証拠だった。

階段下の最も賑わっているのは油条店だ。

熱い油の中で揉まれる麺は、腕を伸ばし足を動かしながら膨らみ続け、数秒で元の生地よりも何倍も大きくなる。

その熱湯は欲望の沸騰を連想させ、最も激しい手段で二つの塊を膨張させ、成長させ、色を変え、香り付け、水分や粘性、小麦粉本来の姿を失わせた。

「三本の油条、豆腐脑一皿、豆乳一杯。

小菜に卵一個」江遠は腹をさすりながら注文した。

ウィーチンゴーが豆乳を飲みながら舌鼓を打つ。

「若いもんはいいわね、もう食べられなくなっちまった」

「特に問題ないさ」江遠は少し間を置いて尋ねた。

「ところで、私は解剖に参加できる?」

「骨だけならどうだ?」

ウィーチンゴーが江遠を見やった。

「余隊長は自分の法医チームを信じているから、君がやろうと何だろうと認めないさ」

「僕には『法医学人類学レベル3』のスキルがあるんだ。

これで問題ないはずよ」

ウィーチンゴーは諫めるように言った。

「行くなよ。

行っても彼らの法医に補助するだけだし、何か問題が出たら責任を取らされるかもしれない」

隣のモウチヨウヤが「自分の馬鹿は使わないからさ。

ましてや知らない連中だ」と付け加えた。

同じく来ていた刑事テンミンイーも感慨深げ。

「みんな自分たちの馬鹿を使うように大事にするんだよ」

江遠は黙って豆乳を飲むだけだった。

寧台県では明らかに同僚たちより優れていたが、長陽市のような都道府県庁所在地ではそうとは限らない。

だからこそ解剖には積極的にならなかったのだ。

数人の刑事が静かに朝食を摂りながら、ふと「のんびりとした時間が流れる」という感覚に浸った。



「あの車を調べてみようか」江遠が牛乳を飲み干すと新たなアイデアが浮かんだ。

「柳課長も何も準備してないみたいだから、やってみる?」

「やるなら分かるけど」魏振国は首を傾げる。

「何をしたいの?」

少し考えてから江遠は言った。

「谭勇の車を見たいんだ。

あの車でどこに行ったのか見つけるかもしれない」

「その車?」

魏振国は即座に反応した。

「長陽市刑捜が調べ尽くしてるはずだよ。

タイヤの溝やエンジンの排ガスまで全部チェック済みさ」

「だからこそ再検査する価値がある」谭勇がまだ何も話していない限り、現状の証拠で捜査するのが最も直接的な方法だと江遠は考えていた。

そして彼のLv4犯罪現場調査スキルもその場で発揮される。

車を調べればさらに多くの手掛かりが見つかるかもしれない。

解決する確率は低いが、手掛かりが増えれば解決に近づくのだ。

曹州权現勘中隊長が電話に出ると江遠の顔を見た瞬間笑みがこぼれた。

「不服ならどうぞ。

谭勇の車は全擦りしたんだよ。

動かしてないはずだ」

地下室の囚人房外で待っていた江遠が我慢できなかったという話も曹州权は二日間ずっと口にしていた。

彼が今言ったのはそのことだった。

「うちの小江には何かあるんだろうな」魏振国は笑った。

「曹隊長は気にしないで」

「構わないよ。

あの地下室全部を残しておいてやったんだからね。

車をもう一度調べてもらうくらいなら全然いいさ」曹州权は広く笑って叫んだ。

「杜磊!」

振り返りながら曹州权が紹介した。

「前回も杜磊と一緒だったんだよ。

今度は君と一緒だ」

多少の抵抗感はあるようだ。

長陽市で命を奪った車を調べるなら腕利きが必要だからだ。

ドンとバランスバイクが江遠の前に滑り込んだ。

警服姿の杜磊は細長い腰を鍛え抜かれたように見えた。

「小江たちが再検査したいと言っているから一緒にやろう」

「タイヤカバーも車輪保護板も全て外したんだよ」杜磊が眉をひそめて言った。

「微量物質証拠を探してるんだ。

あの車が悪路を通ったなら、現場の破片・種子・花粉・髪の毛や羽毛などが残っているかもしれない。

調べてみる価値がある」

江遠はLv4犯罪現場調査スキルの真価をここで発揮するつもりだった。



江遠は自信たっぺいの表情でそう言い、最も重要なのはその言葉が確かに道理だったからだ。

「貴県警に微量物証実験室があるのか?」

曹州権は意外そうな声を出した。

刑科の実験室は簡素なものが多く、多くの場合中学校レベルの化学実験室と同等で、DNA実験室だけが少し高価だった。

そしてどのような実験室を作るかは需要だけでなく関連する人材にも依存する。

つまり多くの実験室は人材を配置するために設置されるものだ。

例えば寧台県の毒物検査実験室は当時毒物検査が必要だったからも、刑科中隊の中隊長陸建峰がその能力を持っていたからこそ設立されたのだ。

曹州権は江遠が自信たっぺいに微量物証実験室と語るのを聞いて驚いた。

あれだけ高価なものなのだ。

「寧台県には微量物証実験室がない」と江遠は曹州権に首を横に振った。

「ないなら何言ってんだよ」平静な伝統的イケメンである曹州権が不機嫌になった。

「長陽市のやつを使うか、省庁の微量物証実験室に送検する」と江遠は言った。

「市内の奴も形ばかりだ。

微量物証実験室は複雑で費用も高く装置も多いんだ。

省庁の奴もそれほどじゃない」曹州権が首を横に振り続けた。

「だから俺はもうやめろと言っているんだ。

これ以上調べても何も出てこないし、手間だけかかる」

「微量物証の有無は採取次第だよ。

実験室での作業は誤差の余地が大きい」江遠は謙遜を捨てて再び強調した。

「我々が何か見つければ、どこかの実験室なら必ずやれる」

「わかった」曹州権も反論できず、素直に同意した。

とにかく調べるのは自分ではないのだ。



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