国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0145話「視界外の容疑者」

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王鐘は全身に力みなぎっていると感じた。

江遠が足跡から何かを見抜いたことに驚いていたのだ。

痕跡鑑識員とはいえレベル1未満の技術ではあるものの、何年も警察をやっている身として、もし犯人が193センチという高身長だとすれば捜査は容易だという確信があった。

つまりこの命案積案が本当に解決する可能性があるのだ。

その考えだけで王鐘は胸が躍った。

寧台県でも一、二ヶ月かけて未解決事件を集中処理する際、特に重大な殺人事件の場合は一つの案件に絞っても必ずしも解決しないのが常だった。

それが江遠が数分間自分のそばに立っただけでやった分析だというのに王鐘は心から信じていた。

彼の目には現在の江遠こそが全てを知っている存在のように映っていた。

「続けますか?」

と王鐘は期待の眼差しで江遠を見た。

「伍隊長を待つ方がいいでしょう」と江遠は首を横に振った。

伍軍豪が適切な容疑者リストを提供できればこの命案積案は即座に動き出すだろう。

寧台県警の配置では重大事件が出ると必ず専門チームが編成されるものだ。

その初期段階では他の案件には手が回らないのが常だった。

江遠は現在別の事件や未解決事件を調べても時間節約になるどころか逆効果だと考えていた。

一つの殺人事件を解決するだけでも、報告書を作成し証拠を集める逮捕と取り調べを行うなどどれだけ忙しいことか。

現代社会では誰かを死刑にするか終身刑にするという決定は決して軽々しくなされるものではない。

江遠が自分の机に戻るとパソコンを開き足跡のあった過去の事件ファイルを探し出した。

他の手法で解決したこれらの事件だが、後に証拠として比較された足跡には多くの情報を含んでいたのだ。

つまり多くの事件は複数の角度から解明できるということだ。

犯人たちは反偵察意識を持っていても無意識にレベル1や2の対策しかできず、レベル3の刑務所技術が関われば残る手がかりは危険なものになる。

足跡学の観点では「背が高いと犯罪を起こすな」「身長が低いと犯罪を起こすな」「太りすぎは犯罪を起こすな」「痩せているのはまだ許される」「障害があると犯罪を起こすな」といったことが読み取れる。

これらは全て足跡から読み取れるのだ。

「ドン!ドンドン!」

という重いノックの音が響いた。

江遠と吴軍が顔を向けると、魁梧な伍軍豪伍隊長が立っていた。

彼の背後には二人の巨漢が付き添っており、三人が並ぶとまるで一人に三つの頭があるように見えた。



三頭の食人魔のように。

「伍隊長」江遠が立ち上がり尋ねた。

「適切な容疑者を思いついたか?」

「思った」伍軍豪は真剣極まりない表情で答えた。

未解決の事件は、どの警官にとっても聖なる意味を持つ。

吴軍も興味深げに見やった。

江遠が先ほど何をしたのか知らないからだ。

こんなにも早く死んだのか?

伍軍豪が重々しく言った。

「俺のノートには、当時記録されていた容疑者がいる。

寧台県出身で高校生だった。

県立第三中学校の生徒でバスケットボール部に所属していた。

事件発生日二日前、被害者の息子と衝突があった」

「俺はその息子から最近誰かと不仲になったか尋ねたんだ」

「だが電話で相手に身長を確認した際も『188センチ』と言っていた。

父親が付き添って来て質問を受けた時は、陳文明の作成した178-185cmの基準を超えていたからすぐに帰らせてしまった」

伍軍豪はそう言いながらますます険しい表情になった。

この身長188センチの容疑者の父親は県財政局の公務員で、多くの警察関係者と知り合いだった。

トマト

当時父子が質問を受けに来た際、その父は巧みな言葉遣いで話していた。

そして身長も陳文明の基準を超えていたため、すぐに帰らせてしまった。

伍軍豪はそこで思い出し、重々しく言った。

「この事件は最初に被害者の関係網から人物を特定する方向で捜査し、その後強盗や侵入目的殺人という方向に変わったが、被害者の息子の関係網には目を向けなかった」

つまりその身長188センチの少年は捜査員の目の前を一瞬だけ通過しただけで、本格的に視界に入ることもなかった。

伍軍豪が江遠を見やり尋ねた。

「身長193なら188と報告するのか?」

意外にも江遠は首を横に振った。

「合わない」

伍軍豪の背後の一名警官が焦って言った。

「俺たちの責任じゃないんだから、身長が193でなくてもとりあえず訊きたいだろう……」

「俺はその少年が身長を虚偽報告したと推測する」江遠は冷静に話をさえぎった。

「実際は188センチなら、嫌疑を減らす可能性がある」

「もっともだ」伍軍豪は頷いた。

「それで行くぞ。

身長基準に合致すれば連れてくる」

「承知した」江遠が肯定する。

伍軍豪は何も言わずに立ち上がり、歩きながら言った。

「みんな集まれ、その男の身長を測ってみよう」

三人の巨漢が廊下に出た時、その存在感は十三人分に感じられた。

王鐘もオフィスから顔を出した。

人々が去った後、小声で江遠に尋ねた。

「本当に特定したのか?」

「連れてこないで報告する必要はないのか?」

江遠は大隊長の黄強民に電話をかけた。

予想通り黄強民も伍軍豪からの報告を受け取っていた。

「老伍が測ってみろ。

お前と俺は局長に報告に行く」黄強民はいつものように鋭い指示を出した。

江遠は意外そうに尋ねた。

「連れてこないで報告するのか?」



「あの男の父親は政府関係だ。

最近昇進したから、局長に事前に連絡しておく必要がある」

黄強民(こうきょうみん)の口角が180度引き上げられ凶悪な表情を浮かべた。

命案の重大性は全く比較にならない。

人命に関わるのだ。

どれだけ重視しても過剰ではない。

江遠(えん)は早速、会議室への準備を整えた。

水を飲む→トイレ→服装チェックと一連の動作を素早くこなす。

そして江遠が完全にスーツを着込んだところで、まず大隊長室へ向かい、その後局長室へと移動する。

広さはそれほどない局長室で、彼は書類を手にし3分間黙っていた。

「もうすぐ判明するだろうな」局長が書類を置き厳粛な表情で口を開く。

黄強民(うーん)と頷き、大隊長と共に江遠を見つめながら言った。

「犯人の身長が193cmなら再調査が必要だ。

重大犯罪の疑いがある」

「190でも十分だ。

彼自身が主張する188よりはるかに高い」

局長は椅子に座り平静な表情で続けた。

「肝心は事件そのものだ。

犯人の父親や家庭関係などは考慮しなくていい」

「承知しました」

黄強民は予想通りの結論を聞いても、局長が直接口に出したことで安心感を得ていた。

「それでは待機しよう。

ソファに座って待っていてくれ。

伍軍豪(ごぐんぼう)もすぐ来るはずだ」

局長の表情は厳粛→平和→穏やかと変化し、二人をソファに促す。

自らファイルを開き再び詳細に読む。

江遠と黄強民が目配せし合うと、大隊長が33.3度の角度で口元を動かして安心させようとした。

江遠はリラックスしてソファーに横になり目を閉じる。

黄強民も一息ついた。

若い連中がスマホで動画を見るような無分別な行動をするのが怖かったのだ。

間もなく黄強民のスマホが鳴った。

彼は立ち上がり即座に受話器を取り、スピーカーフォンにして言った。

「伍隊長、局長室だ。

状況を報告してくれ」

「了解です」伍軍豪(ごぐんぼう)が返し、言葉を選んで報告する。

「犯人の身長を計測しました。

193cmの正確値です」

「連れてこい!現地で証拠収集して。

検察に電話する」黄強民の顔は喜びで輝いた。

ここまでが順調だ。

被害者に犯人を見つける、冤罪を晴らすのが警察の務めだ。

さらに今年は未解決事件を白黒つけたことで、成績が爆発的に伸びそうだ。

局長も体勢を正し江遠に満足げな視線を向け、黄強民に向かって指示した。

「即時専門チームを編成して事実関係を固めろ」

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