国民の監察医（こくみんのかんさつい）

きりしまつかさ

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第0147話「足跡の専門家」

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捜査本部の廊下に置かれた観葉植物の葉は黒ずんでいた。

老練な刑事たちが江遠に教導を施す声が響く中、取調べ室では劉暢が『被告人権利義務告知書』に署名する最中に「足跡専門家」と叫び出した。

県警の捜査も教科書通り進められるべきだ。

そうでないと指導する輩は山ほどいる。

「貴方のお名前は？」

「劉暢です」

「他に使用した名前や愛称はありますか？」

「ない」（※URLを省略）

「民族と生年月日は？」

...

「足跡専門家を見たい」と突然叫び出した瞬間、彼の表情が混乱し顔色も蒼白になった。

半フレームのメガネをかけた二十代前半の男だが、意外に見目好い容姿だ。

身長も高い。

向かい側には警部補の五軍豪が強健な体躯で宥め声をかけた。

「先に供述録を作成したらすぐ連れてくる約束だ」

「一刻も早く来ていないか？来ないならその旨告げろ」彼の瞳孔が頻繁に揺らぐ

五軍豪は逮捕時の凶暴さとは対照的に穏やかな語調で諭す。

「騙す必要はない。

足跡専門家を呼ぶにはまず連絡が必要だ」

「貴方は一刻も早くと言ったではないか」

「まだ時間は十分だ」

「じゃあ時間を確認せよ」取調べの基本ルールに反して五軍豪が硬直した

「父を見たい」と新たな要求が出た瞬間、室内と外側の顔色が一斉に変わった。

二十五歳の男ならまだ騙しやすいものだ

取調べ室には必ず一人馬鹿が存在する。

これが所謂取調べ原理というものだ

劉暢の思考が正常に戻り始めたのは最も緊張する瞬間だった。

彼が黙れば捜査は難航する。

数百名の幹部警官たちの一週間の幸福もこれにかかっている

その父親とは五十年代生まれの官僚で、相当な肩書きを持つ「厄介者」だ

「貴方は二十五歳だ。

保護者は不要だ」と五軍豪が突き刺した瞬間、劉暢の心臓部を刺激した

成長の悩みに揺れる少年は見たことがある。

その神経を軽く引っかくと即座に爆発する

「足跡専門家を見ろ！今すぐ！」

彼の手が震え声も荒くなり始めた

ふと、叫び声は「パパ」ではなくなりました。

伍軍豪が息を吐いたものの、まだ終わりません。

劉暢の父親は隣の部屋で取り調べ中だったのです。

父親の方がずっと冷静でした。

小規模な権力を持つリーダー然とした人物で、逮捕された時も官僚的な態度を崩しませんでした。

頑として強がりでしたが、伍軍豪にとっては逆に心配事ではありませんでした。

なぜなら、そのような人間は水に浸すだけで簡単に崩れるからです。

権力と金銭に染まった油っこい便のようなもので、表面は滑らかでも中身は空虚。

しかし若い劉暢の方が不安要素が多かったのです。

感情の起伏が激しく、いつか逆転供述する可能性が高い。

車内で詳細を語っていたのに、取り調べ室に入ると態度を変えたばかりか、次に何をするか分からないような奇妙な行動に出るかもしれません。

殺人経験のある人物は心理的に問題がある場合が多いからです。

伍軍豪は明確な凶悪事件が曖昧な泥のように濁ることを避けたいと考えていました。

取り調べ室外では専門家たちも劉暢の感情コントロールに気づき、江遠に急いで指示を出し、彼を室内に入れました。

彼らは監視カメラ越しに熱心に見守り、拳を握ったまま、主将のファンのような真剣さで待機していました。

江遠がノックして取り調べ室に入ると、伍軍豪は最も広い部屋を使っていた。

長方形の室内のドアから1/3の位置に鉄柵が設置され、劉暢はその向こう側に座っていました。

窓もなければ天井の照明で気分を悪くさせられていた。

所謂「虎の檻」も満杯状態でした。

193cmの男体が最も高い位置まで引っ張り上げても足元から溢れ、手は台の外に出るほど長かったため、手錠すら付けられない状況でした。

後ろの縛具は問題なかったものの、伍軍豪はそれを装着しませんでした。

そのようなものは不快感を増すだけだからです。

自首した劉暢が不満を感じないように配慮していたのでしょう。

犯人が供述する前は警察も優しい兄貴のような振る舞いをするものです。

しかし捕まえた相手には凶暴な一面を見せるのです。

成熟した警察は成熟したプレイボーイのように、未熟な警察は未熟なプレイボーイのように振る舞うと言います。

江遠も高身長で、強光線の中に入ると、自分が座っているような錯覚に陥りました……劉暢も同様に一瞬で自分と見間れそうになりました。

地元でも正直な二代目官僚の息子で、裕福そうな姿でした。

「これが足跡専門の江法医です」と伍軍豪が江遠を自分の隣に座らせ、劉暢にも紹介しました。

「お前はいくつだ？」

と劉暢の瞳孔が縮まった瞬間、彼は質問を投げかけました。

江遠は若い容疑者を見たとき、ファイルや道中で聞いた話、外見も含めある程度予想していたものの、実際に目の前に立ったときは奇妙な違和感を感じていました。

「24歳」

「俺より若いのかよ？」

劉暢が急に驚きの目で伍軍豪を見やった。

足も震える。

「お前らは誰かをだますつもりか？偽物を作り出すなんて、何が面白いんだよ！」

伍軍豪が一瞬硬直し、次いで自分の大きな頭を叩いた。

「早く言ってくれればよかったぜ。

人員が多いから偽造も簡単さ。

お前は専門家と言えば四五十歳くらいで白髪か薄毛のイメージがあるのか？」

伍軍豪が脂ぎった髪を撫でながら続ける。

「知らせてやれよ。

うちのチームには何でもあるけど、年齢と禿げ頭だけは足りてるんだ」

劉暢は返す言葉もなく。

その巨漢の発言に妙な説得力を感じていたようだ。

そして再び向かいの若い男を凝視した。

「どうして俺の身長を見抜いたのか。

前の足跡専門家も県内で有名だったはず」

質問には専門用語が含まれており、事前に調べてきたことが伺えた。

江遠は反問する。

「なぜそれを気にしている？」

「単に知りたいだけさ。

俺は一般人よりずっと高いんだ。

事件発生時、その場の足跡を見た瞬間から違和感があった」

劉暢が平静を装いながら告げる。

「身長を偽装したのは自分で決めたんだ」

その一言で多くの情報を読み取れた。

もし彼の言葉が真実なら、まず劉暢は前回の指紋専門家による身長判断を知らなかったということになる。

つまり父親の関係性は案件情報漏洩までには至っていない。

当時陳文明が推定した178-185cmの範囲外にいるため、もし185と報告すれば即座に射程内に含まれるだろう。

その場合専門チームによる検証は数倍厳格になるはずだった。

次に劉暢が身長偽装を自分で決めたと言っていることから、他の要素は誰かが決定した可能性が高い。

おそらく両親の関与と推測できる。

つまりこの発言は保護者側の庇護を示す証拠となる。

さらに劉暢の心理状態も露呈していた。

若い者が自分の未来を自分で決めたい、現実世界に挑戦したいという気持ちは珍しいことではない。

ただその結果として国父になる人もいれば（孫中山）、殺人犯になる者もいる（秦舞陽）のだ。

江遠は劉暢を見つめるようにじっと見詰めた。

相手の目の奥から何かを学びたいという欲望を感じたのか、あるいは偶然の殺害で済んだが次回に備えるためか？

「言わねばならぬことはない」

劉暢が江遠を制した。

江遠は笑みを浮かべて答えた。

「身長判定は体系的な作業だ。

本にも載ってるよ」

「だからこそ聞きたかったんだ」

「分かった、最も簡単な例から説明しよう。

足の長さで身長を推定するという経験則がある」

江遠がゆっくりと語り出す。

「例えば中国では古来より『立七坐五盤三』という言葉がある。

一般人の身長は頭の7倍、脚もほぼ同じくらいだ」

「ある人は9頭身になることもあるのか？」

「例外だよ。

まずは一般的なルールから話そう」

「上海市の人口は675万人、東北地方は687.6万人、険西は673.4万人、重慶市は685.6万人……」江遠が即座に詳細なデータを提示した。

「でもその日は靴を履いていたんだよ！」

劉暢が最も納得いかない点を口にする。

「しかも普段より少し小さいサイズの靴で、足が圧迫されていた。

サイズ表記と実際の寸法が異なる」

「それが分かるのか？」

「分かります」江遠が頷き、「続けますか？」

「続けて」

「さらに身長を推定するには脚幅のデータが必要です。

貴方の足は確かに長いですが、通常より広い。

これは重要なポイントです」

劉暢は眼前の若手法医の説明に聞き入りながらも、どこか共感の念を抱いていた：

「中国人の足は欧米人よりも幅が広いから、外国製靴は履きにくい」

彼自身の脚幅基準値に深く頷き、適切なサイズの靴を探すのが難しいことを実感していた。

「脚底面積と蹠骨幅を加味した回帰式の信頼性が高まる」江遠は丁寧に説明し続けた。

公開資料に基づく内容だったからこそ。

審査官たちによれば、この時点で劉暢との会話を延長することは有益だと判断された。

「回帰式について眉をひそめた劉畅が尋ねる：

「君の言うのは平均値のことだろ。

どうして私の身長は193cmと断定できるんだ」

「実際の推定範囲は191-195cmで、その中でも最も可能性が高いのが193cmです」江遠が返す。

さらに付け加えた：

「やはり経験則の要素も。

それから足跡や歩幅……」

審査室外の幹部たちは皆理解不能な状態。

混乱した者、畏敬の念を抱く者。

室内で若手法医と若い容疑者が緊迫感溢れる会話を繰り広げている様子はまるでドラマの一場面。

「詳しく説明してもらえるか？」

劉暢が追及する。

「貴方が話す番だ」大柄な老伍が割って入る：

「まずは審査録を補完しよう。

その後、ゆっくりと」

「補完する必要があるのか？」

劉畅の体が椅子に少し後退りかけるが、鉄製チェアは動きないため眉根を寄せた。

「ではなぜ殺人をしたのか説明せよ」伍軍豪は順序を守らず直接質問する。

「そんなこと以前に話したじゃないか？」

劉暢が鼻で笑う。

「これは正式な審査だ。

貴方が自首の意思を示すなら……」

劉畅がゆっくりと頷きながら語り出す：

「当時はバカだったんだよ。

彼の息子と衝突して、お互いに罵り合った。

その男はボロボロの格好で……」

七年前の出来事を振り返るたびに後悔の念が込み上げてくる。

首を横に振って続ける：

「とにかく補償したいと思っていたところ、ちょうど近づこうとした時、自転車に乗って彼の家に行った。

すると父親が現れて私を襲おうとしたら、私は反撃した……」

「どうしてその家の場所を知っていたのか？」

「その男自身が言ったんだ。

県道から二つ目の『翼を広げたライオン』という看板がある通りで、それが彼の家だと」劉暢の声は次第に小さくなっていく…

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