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第0176話「事件請求」
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台河の水は川流々と流れ続けている。
自転車で橋を渡るとすぐに爽やかな風が吹き、江遠は寧台の秋を好む。
万物が豊かに育ち、河水の高さも程よく保たれている。
時折浮かぶ死体は意外な事故や自然災害によるものが多く、人間の醜悪さや悲惨さを連想させるようなものは少ない。
警察署の庭には熱心そうな笑顔が溢れていた。
特に駐車場番の老人は江遠から渡されたタバコを受け取るたびに喜んでいた。
その時黄強民が階段で曲がり角を回ってきた。
江遠を見つけると大壮よりも激しく驚きを表した。
「お前、帰ってこいよ」黄強民は江遠の頭を掴みそうになりながら、「お前は背が高いから手が届かないんだよ」
江遠は笑い声を上げて答えた。
「ちょうど焼身死体の事件があったんだ。
寧台県でこんなのがあるなんて久しぶりだぜ」「寧台県民は純朴だから問題ないのか?」
黄強民は不機嫌そうに言った。
「重大な犯罪や凶悪犯罪が治安レベルを測る指標さ。
うちの県はこの月、窃盗事件もほぼゼロに近いんだから、お前が焼身死体の技術を練習する必要はないよ」
江遠が眉をひそめた。
「でも窃盗事件はあるんじゃないのか?」
「たまにはあるさ。
路不拾遺夜不閉戸は鳥生魚湯の時代だろ。
今は監視カメラ時代なんだよ」「江遠は反論した。
「監視カメラは単に撮影するだけじゃなくて、一連のシステムとして機能させる必要があるんだ。
例えば犯人を追跡する場合、たまに中断点があって犬の鼻で解決するような効率の低さは問題だ。
カメラの品質や監視システムのソフトウェア、そして画像解析技術員の配置など全てが連動しているんだ。
寧台県はまだ最低限使えるレベルだけど、天候に頼ったり運に頼るような状態なんだ」
「県内の若い警察官も向上心がないからだよ。
何度か挑戦してみれば監視カメラの死角を発見できるはずさ。
そうすれば盗む時は盗み、歌う時は歌えるんだぜ。
働きざかりになる必要はないのにね」
黄強民はその話題を続けようとはしなかった。
「そんな大規模なプロジェクトは継続時間が長く、その後も巨額の維持費がかかるものさ。
俺のような警察署長が決めるようなことじゃないし、決めるつもりもないんだよ」
黄強民は笑って江遠を引っ張りながら歩き始めた。
「お前は派出所に勤務したことがないから分からないんだろう。
現代人は殺人はしないけど喧嘩の気持ちは強いんだ。
俺は犯罪が少ないと良いと思ってるぜ。
四里八村を回って、もっと活気のある町並みを見たいさ」
江遠はまだ若いので黄強民の心情を理解できず、同じように笑った。
黄強民は精力旺盛な大男の様子を見て「現行犯がないなら過去の未解決事件でも調べてみろ。
寧台県の負債を清算してやれよ」と言った。
「土地がなくなったからこそ開拓するんだ」
これが黄強民にとって最も期待していることだった。
現在の収穫量は限界まで達しており、開拓にもメリットがあると彼は考えていた。
「試してみるか」江遠は答えた
「殺人事件なら見る価値がある」黄強民は少しだけ強調したように言った。
捜査経費の超支払いも許容範囲だ。
私は振り返った。
「江遠が少し自信を見せた」
確かに彼の技術は多様で相互補完性があり、単に書類を調べただけで省庁の督办案件を解決した実績がある。
その腕前を披露する価値はあるだろう
江遠は考えながら四階の事務室に戻り、笑顔と煙草を交わしながら法医の部屋を通った。
床面はピカピカに磨かれ、水を撒いていた。
吴軍は脚を組み、小曲を口ずさみながら検査書を作成していた。
江遠が入室すると、まず笑顔を見せたがすぐに目線を変えペンを置いた
「師匠、黄隊長から積年の未解決事件をいくつか見て欲しいと」
江遠は中華煙草を渡し残りの半パックを師匠の机に置いた。
吴軍は慣習的に受け取りため息をついて言った。
「よし。
日常業務もそんなに多くない…ところで、今回は殺人放火事件だったのか?」
「はい」
「それなら拝む必要があるな」吴軍が吸い口を指で弾くようにして江遠に操作を促した
江遠は一瞬ためらったがドアを閉めると事務机の下から関羽像を取り出し三度礼をし、中華煙草を点火させて関二郎の前に置いた。
吴軍はなぜか胸が締まるような気がして立ち上がり「関二郎殿、私は長年供えているんだ。
普段は私の煙草を使うんだよ」と言いながら抽屉から白い雲煙を取り出し恭しく関二郎に点火した。
彼自身は230円の云煙を吸うが、この白箱の珠光白も云煙で5.50円と価格差があり入手困難だった。
20本分なら関二郎の一年分だ
振り返ると江遠は普段通りの表情だったので、吴軍はまた一粒の珠光白を地面に置き「火をつけて晦気を払え」と言った。
まだ燃えていない香煙が赤く輝きゆっくりと燃焼していく。
江遠は云煙の上を跨ぎ往復しながら儀式を終えた
二人はそれぞれ席に戻り、江遠はパソコンを開いた。
吴軍はペンを持ち直した
江遠は寧台県の未解決事件を選んだ。
まず無作為に探すようにしていたが次第に大量の血痕がある現場を探し始めた。
彼の得意な技能であるLv5の「狗飯」(捜査)とLv5の「血跡分析」は最強の武器だ。
現在では暴力犯罪件数が減少しているため、20年前なら寧台県で江遠は断絶した命案に追われていたかもしれない。
国内の多くの県でも同様の傾向がある
一方で接触型暴力犯罪が激減し若い世代の減少も要因だが根本的には現代の若者が昔とは違うからだ
10年前の寧台県の殺人発生率は2倍だった。
さらに前年より多くなっていた江遠は画面上をスクロールさせた
「10年前のデータを調べていくと…」
彼は特定のファイルを開いた
自転車で橋を渡るとすぐに爽やかな風が吹き、江遠は寧台の秋を好む。
万物が豊かに育ち、河水の高さも程よく保たれている。
時折浮かぶ死体は意外な事故や自然災害によるものが多く、人間の醜悪さや悲惨さを連想させるようなものは少ない。
警察署の庭には熱心そうな笑顔が溢れていた。
特に駐車場番の老人は江遠から渡されたタバコを受け取るたびに喜んでいた。
その時黄強民が階段で曲がり角を回ってきた。
江遠を見つけると大壮よりも激しく驚きを表した。
「お前、帰ってこいよ」黄強民は江遠の頭を掴みそうになりながら、「お前は背が高いから手が届かないんだよ」
江遠は笑い声を上げて答えた。
「ちょうど焼身死体の事件があったんだ。
寧台県でこんなのがあるなんて久しぶりだぜ」「寧台県民は純朴だから問題ないのか?」
黄強民は不機嫌そうに言った。
「重大な犯罪や凶悪犯罪が治安レベルを測る指標さ。
うちの県はこの月、窃盗事件もほぼゼロに近いんだから、お前が焼身死体の技術を練習する必要はないよ」
江遠が眉をひそめた。
「でも窃盗事件はあるんじゃないのか?」
「たまにはあるさ。
路不拾遺夜不閉戸は鳥生魚湯の時代だろ。
今は監視カメラ時代なんだよ」「江遠は反論した。
「監視カメラは単に撮影するだけじゃなくて、一連のシステムとして機能させる必要があるんだ。
例えば犯人を追跡する場合、たまに中断点があって犬の鼻で解決するような効率の低さは問題だ。
カメラの品質や監視システムのソフトウェア、そして画像解析技術員の配置など全てが連動しているんだ。
寧台県はまだ最低限使えるレベルだけど、天候に頼ったり運に頼るような状態なんだ」
「県内の若い警察官も向上心がないからだよ。
何度か挑戦してみれば監視カメラの死角を発見できるはずさ。
そうすれば盗む時は盗み、歌う時は歌えるんだぜ。
働きざかりになる必要はないのにね」
黄強民はその話題を続けようとはしなかった。
「そんな大規模なプロジェクトは継続時間が長く、その後も巨額の維持費がかかるものさ。
俺のような警察署長が決めるようなことじゃないし、決めるつもりもないんだよ」
黄強民は笑って江遠を引っ張りながら歩き始めた。
「お前は派出所に勤務したことがないから分からないんだろう。
現代人は殺人はしないけど喧嘩の気持ちは強いんだ。
俺は犯罪が少ないと良いと思ってるぜ。
四里八村を回って、もっと活気のある町並みを見たいさ」
江遠はまだ若いので黄強民の心情を理解できず、同じように笑った。
黄強民は精力旺盛な大男の様子を見て「現行犯がないなら過去の未解決事件でも調べてみろ。
寧台県の負債を清算してやれよ」と言った。
「土地がなくなったからこそ開拓するんだ」
これが黄強民にとって最も期待していることだった。
現在の収穫量は限界まで達しており、開拓にもメリットがあると彼は考えていた。
「試してみるか」江遠は答えた
「殺人事件なら見る価値がある」黄強民は少しだけ強調したように言った。
捜査経費の超支払いも許容範囲だ。
私は振り返った。
「江遠が少し自信を見せた」
確かに彼の技術は多様で相互補完性があり、単に書類を調べただけで省庁の督办案件を解決した実績がある。
その腕前を披露する価値はあるだろう
江遠は考えながら四階の事務室に戻り、笑顔と煙草を交わしながら法医の部屋を通った。
床面はピカピカに磨かれ、水を撒いていた。
吴軍は脚を組み、小曲を口ずさみながら検査書を作成していた。
江遠が入室すると、まず笑顔を見せたがすぐに目線を変えペンを置いた
「師匠、黄隊長から積年の未解決事件をいくつか見て欲しいと」
江遠は中華煙草を渡し残りの半パックを師匠の机に置いた。
吴軍は慣習的に受け取りため息をついて言った。
「よし。
日常業務もそんなに多くない…ところで、今回は殺人放火事件だったのか?」
「はい」
「それなら拝む必要があるな」吴軍が吸い口を指で弾くようにして江遠に操作を促した
江遠は一瞬ためらったがドアを閉めると事務机の下から関羽像を取り出し三度礼をし、中華煙草を点火させて関二郎の前に置いた。
吴軍はなぜか胸が締まるような気がして立ち上がり「関二郎殿、私は長年供えているんだ。
普段は私の煙草を使うんだよ」と言いながら抽屉から白い雲煙を取り出し恭しく関二郎に点火した。
彼自身は230円の云煙を吸うが、この白箱の珠光白も云煙で5.50円と価格差があり入手困難だった。
20本分なら関二郎の一年分だ
振り返ると江遠は普段通りの表情だったので、吴軍はまた一粒の珠光白を地面に置き「火をつけて晦気を払え」と言った。
まだ燃えていない香煙が赤く輝きゆっくりと燃焼していく。
江遠は云煙の上を跨ぎ往復しながら儀式を終えた
二人はそれぞれ席に戻り、江遠はパソコンを開いた。
吴軍はペンを持ち直した
江遠は寧台県の未解決事件を選んだ。
まず無作為に探すようにしていたが次第に大量の血痕がある現場を探し始めた。
彼の得意な技能であるLv5の「狗飯」(捜査)とLv5の「血跡分析」は最強の武器だ。
現在では暴力犯罪件数が減少しているため、20年前なら寧台県で江遠は断絶した命案に追われていたかもしれない。
国内の多くの県でも同様の傾向がある
一方で接触型暴力犯罪が激減し若い世代の減少も要因だが根本的には現代の若者が昔とは違うからだ
10年前の寧台県の殺人発生率は2倍だった。
さらに前年より多くなっていた江遠は画面上をスクロールさせた
「10年前のデータを調べていくと…」
彼は特定のファイルを開いた
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