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第0188話「番号」
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ふぼひゃくはちじゅうはちしょう へんごう
ふたつの船、 よんにんの潜水士が水库で一昼夜捜索した結果、 四つのかばんを発見した。
かばんの体積と重量が小さいため、 散らばる範囲も広く、 捕獲するのも困難だった。
しかし本当の苦労は、 重大な責任感と圧力にあった。
清河市局の幹部たちが連続して電話で状況を尋ねてくる。
こちらは解剖室の王澜と繋ぎ続けている。
四つのかばんが運び込まれたとき、 解剖室にはまだ前回の四体の遺体が処理中だった。
法医たちが新たな小かばんを見た瞬間、 皆一様に厳粛な表情になった。
数人の視線が江遠を指し示すのは、 犯罪の重大化とさらなる遺体発見が予測されるからだ。
「そのまま煮続けろよ。
次にかばんが届いたら、 お前たちも寝る暇はなくなるぜ。
」
江遠はため息をつきながらそう言った。
王澜も嘆息し、 疲労困ぱいの法医たちを見つめ、「みんなで交代して休もうか? まず一組が寝て、 うん……誰か残ってくれる?」
と提案した。
「俺は残るよ。
」江遠はちょっとだけ気分を変えてみせた。
昨日食事の時間に短時間睡眠を取ったため、 充分な休息はできていた。
さらに若い法医二人と牛峒が残ることを選んだ。
王澜も逃れられず、 他のメンバーに先に休ませてから、 残り四名で作業を続けることにした。
「とにかく人間は交代して鍋だけ回すんだよ。
」
そう考えた瞬間、 王澜がまた嘆息し、 解剖室に入ってきた刑事の背中に声をかけた。
「お疲れ様です。
あと二つ高圧鍋買ってきてくださいな。
」
その刑事は最初から顔を引き攣らせていたが、 最終的に我慢できず、 身体を曲げて嘔吐し始めた。
「地漏れに吐きなさいよ。
解剖台の上で吐くのはダメだぜ。
」牛峒は同じ高さまで立ち上がり、 声を上げた。
この刑事も三十代後半で、 十年以上勤務している。
子ども二人がいて離婚寸前、 財産負担が重いのに会合には顔を見せないような生活だ。
普通なら吐くほどではない状況なのに、 今日の光景は視覚・嗅覚・心理的衝撃で十数年の耐性を完全に破壊した。
「ぐあーっ!」
刑事が吐きながらも地漏れに噴き出す熱気は、 不快な臭いを逆上させた。
江遠たちが嫌悪のあまり扇いでいると、 王澜が他の刑事に向かって促す。
「帰宅組は八時間以内に必ず戻ってきてください。
十時間以上は無理だよ。
」
十二名の法医はあるが、 年齢層や怠惰な人もいる。
例えば隆利県の葉法医も来ていたが、 全体的にぼんやりと仕事をしているため実用性に欠ける。
王澜には管理権限もないし、 市局所属でも資格は同等だ。
また今回は各地から市局を支援する形で集まったので、 他人の使いすぎはできない。
解剖室に戻ると、 残りのかばんが運び込まれていた。
王澜と江遠が顔を見合わせた瞬間、 二人の目には同じ焦燥感が浮かんだ。
ふと、不適切ではあるが妙に「伝神」な比喩が浮かんだ。
年越しの日に家族全員で半頭の豚を煮るようなものだ。
その手間と時間は計り知れない。
四体の遺体を脱骨まで煮る必要があるのだ。
換気扇が必死に働いていた。
バサバサという音も、解剖室の熱気を消し切れない。
江遠が新たな小包を開けた時、いつものようにDNA採取→水質検査→残存組織採取の手順で終了させた後、鉄製の容器に再び番号を付け、遺体断片を一つずつ確認しながら入れ込んでいく。
表面には何らかの痕跡は見当たらなかった。
だからこそ、次の煮込み作業が終われば、その鍋の中にそのまま投入できるのだ。
現在使われているのは50kg級の超大型ステンレス鋼製容器だ。
もっと早く煮えれば釜で直接調理するほどだが、煮るのに時間がかかるため、このサイズを選んでいるらしい。
三つ目の包を見た時、江遠が長い息を吐いた。
「どうした?」
王藍が振り返った。
「腕が三本見つかって……」江遠は首を横に振り、四つ目を開封する。
やはり一二四の包は同一人物だ。
三番目は別の人物のものだった。
「次は潜水士の出番だな」若い法医が疲れきったように笑いながら言った。
「彼らが残り二つの包を見つけなければ、我々も上がれない」
江遠はその話に耳を貸さず、再びステンレス鋼製の大容器を引っ張ってきた。
一二四の断片を解剖台に並べ、接合を試みる。
「まあ、頭以外はほぼ揃ってるわ」牛峒が手伝いながら、当然そうなると思っていたような顔で言った。
「遠くに捨てて近くに埋める犯人なら、頭も遠くに持っていくか隠すかするものよ」
「遠投近埋」という手法は刑事の常套手段だ。
人々は一般的に頭蓋骨が最も個人を特定しやすいと考えるから、解体殺人の犯人は頭部を特別に処理したり、より遠くに捨てたり、別々に隠すことが多い。
この「遠投近埋」+「頭遠身近」という手法からは、現代の捜査技術について理解が浅い人物で、資料収集や学習を好まない可能性が高いと推測される。
むしろ、普通の人間が犯罪を重ねる過程で進化した犯人像が浮かぶ。
「四体+二体=六人目だわ」江遠が三番目の包を開けた。
上半身を中心に男性のものだった。
「電話するわ」王藍が言った。
すぐに動くわけではなかった。
少し考え込んだ後、続けた。
「こうなったら我々も分担してみよう」
皆が王藍を見やった。
「まずは江遠に骨格分析をやってもらう。
何かヒントがあるかもしれない」
王藍はさらに説明した。
「現在の状況から見て、これらの遺体はまだ全てではない可能性が高い。
一刻も早く何らかの手掛りを見つけないと、捜査範囲が広がる前に……」と続けた。
「我々が情報を掴めない間に、犯人が逃亡したり証拠を隠滅したり行動を変えたりするかもしれない」
王藍は江遠に作業を始めさせ、「今は争分奪秒だ。
犯人に再び準備の時間を与えたり、証拠を消去されたり、行動変更をさせたりしてはならない」と続けた。
総じて、犯人が情報を得る前に証拠を掴み、情報を特定することで捜査と訴訟に有利になる。
王澜が伝えたいのはまさにその点だ。
牛峒は一瞬でその意図を悟り、馬鹿げたような笑い声を上げながら言った。
「つまり俺たちの技術は江遠さんに及ばないから、江遠さんにお任せして俺たちは調理係に戻る……」
「なぜ人類学にここまで執着するのか分からないわ」王澜は牛峒を見下しながら尋ねた。
牛峒は恥ずかしげもなく笑った。
「まあ適当に話すだけよ」
彼が法医人類学の才能を強調する前に、王澜が共に働くよう命じる瞬間が来れば、彼の弱みが露呈してしまう。
他の二人の若い法医は争う要素もなかった。
彼らの人類学知識は限られたものだった。
現代では法医不足で死者数が増える一方だが、解剖用の遺体は常に不足している。
学校や研修だけで人類学者としてのスキルを養うのは不可能で、現場での経験と観察が必要不可欠だ。
例えば現在のように、とにかく多くの遺体を見ること。
江遠は王澜が後ろから支え始めたことに気づき、調理台から離れて解剖台に戻り、骨に集中した。
番号3の遺体は男性で30代、身長175cmだった。
番号4の遺体は女性で40代、身長165cmだった。
まとめると最初の四具の遺体は中年の男女二人組で、平均的な身長と歯磨耗度合い、普通の生活習慣を持っていた。
法医たちが最も嫌うのは「普通の人」だ。
特に法医人類学では、特殊な人々の中からさらに特殊な人物を探す必要がある。
そうすれば骨片一つで死者の特定ができるのだ。
ここでいう特殊はあくまで常識外れではなく、単に一般的ではない程度のものだった。
例えば番号1の遺体が20歳で子供を産んだ女性で身長170cmなら、病院のシステムで簡単に見つかるだろう。
あるいは45歳以上の未妊女性で身長170cmの場合も調査すればヒットするはずだ。
江遠は骨をひっくり返しながら漫然と眺めていた。
王澜は黙って遺体を煮る作業に没頭していた。
この最も汚い仕事から逃れようとする理由は何でも、責任者として放り出すのは気が済まないのだった。
一方江遠が骨を組み立てる際には既に王澜を超えた人類学的能力を見せていたため、彼女は干渉する必要を感じなかった。
解剖室は再び静寂に戻った。
全員が極度の疲労感で仕事に没頭していた。
その時江遠は番号3の遺体を20分以上観察した後、「この遺体は特殊だ」と口を開いた。
「どういう意味?」
王澜は反射的に近づいて訊ねた。
「背中の肋骨に斧痕がある」
王澜が驚きながら尋ねる「死因か?」
遺体の所在を特定するのは重要だが、死因さえ判明すればそれで十分だった。
えんえんは「そうじゃない、彼の肋骨は斧のようなもので折られたみたいだけど、足関節とかは切り機を使ったんだ」
「斧と鋸を使うのか?」
「そうだ」
「これは何か意図があるね。
斧が効かなくなったから切り機に変えたんじゃないかな?」
わらんが近づいて楔形の切口を見つめながら目を輝かせた「こういうケースは、この遺体が前後のものと繋がるキッカケになることが多い」
えんえんは首を横に振った「切り機の使用方法は他の遺体との差はない。
斧の方は使い慣れているみたいで学習曲線が見られない」
これは犯罪現場調査の工具痕跡の部分だから、えんえんも詳しくないし、大まかな説明しかできない
もっと興味深いのは熟練度の問題だった
学習曲線がないということは犯人が業界の人間か、それとも練習用に遺体を使ったのか
でもそんな推測を勝手には言えない。
とりあえず댐で捜索中だから結果を待つしかない
わらんもその意味を悟り眉をひそめた「この人の道具はなかなか充実してるね」
「それに広い場所が必要だ」えんえんが続けた
話はそうでも、これらが犯人を特定するにはまだ遠い。
清河市には小型工場がたくさんある。
政府が求めていたハイテク大工場は一つも来ず、結局地元の小規模工場に貸し出された
それ以外にも農村部には油搾り場や蜂蜜加工場など個人経営の作業所がある。
20年前に廃業したものが最近復活している
死ぬ気でやっているのに、その中でさらに殺人を犯す者がいる
「もっと具体的な情報を提供してくれないか」えんえんが話を戻した
「どうぞ」とわらんが頷いた
えんえんは順番に説明し始めた
「1号の歯。
陶器冠があるから、その方面で探す」
「2号の右上腕骨骨折。
これは医療機関で治療が必要だった」
「3号は腰椎と大腿骨から重労働をしていたと思われる」
「4号は長年ヒールを履き、歯列矯正を受けた」
えんえんは各遺体に捜査の方向性を与えた
わらんがようやく肩の力を抜いた「これだけあれば何とかなる。
一具見つければ犯人も分かるかもしれない」
(本章終)
ふたつの船、 よんにんの潜水士が水库で一昼夜捜索した結果、 四つのかばんを発見した。
かばんの体積と重量が小さいため、 散らばる範囲も広く、 捕獲するのも困難だった。
しかし本当の苦労は、 重大な責任感と圧力にあった。
清河市局の幹部たちが連続して電話で状況を尋ねてくる。
こちらは解剖室の王澜と繋ぎ続けている。
四つのかばんが運び込まれたとき、 解剖室にはまだ前回の四体の遺体が処理中だった。
法医たちが新たな小かばんを見た瞬間、 皆一様に厳粛な表情になった。
数人の視線が江遠を指し示すのは、 犯罪の重大化とさらなる遺体発見が予測されるからだ。
「そのまま煮続けろよ。
次にかばんが届いたら、 お前たちも寝る暇はなくなるぜ。
」
江遠はため息をつきながらそう言った。
王澜も嘆息し、 疲労困ぱいの法医たちを見つめ、「みんなで交代して休もうか? まず一組が寝て、 うん……誰か残ってくれる?」
と提案した。
「俺は残るよ。
」江遠はちょっとだけ気分を変えてみせた。
昨日食事の時間に短時間睡眠を取ったため、 充分な休息はできていた。
さらに若い法医二人と牛峒が残ることを選んだ。
王澜も逃れられず、 他のメンバーに先に休ませてから、 残り四名で作業を続けることにした。
「とにかく人間は交代して鍋だけ回すんだよ。
」
そう考えた瞬間、 王澜がまた嘆息し、 解剖室に入ってきた刑事の背中に声をかけた。
「お疲れ様です。
あと二つ高圧鍋買ってきてくださいな。
」
その刑事は最初から顔を引き攣らせていたが、 最終的に我慢できず、 身体を曲げて嘔吐し始めた。
「地漏れに吐きなさいよ。
解剖台の上で吐くのはダメだぜ。
」牛峒は同じ高さまで立ち上がり、 声を上げた。
この刑事も三十代後半で、 十年以上勤務している。
子ども二人がいて離婚寸前、 財産負担が重いのに会合には顔を見せないような生活だ。
普通なら吐くほどではない状況なのに、 今日の光景は視覚・嗅覚・心理的衝撃で十数年の耐性を完全に破壊した。
「ぐあーっ!」
刑事が吐きながらも地漏れに噴き出す熱気は、 不快な臭いを逆上させた。
江遠たちが嫌悪のあまり扇いでいると、 王澜が他の刑事に向かって促す。
「帰宅組は八時間以内に必ず戻ってきてください。
十時間以上は無理だよ。
」
十二名の法医はあるが、 年齢層や怠惰な人もいる。
例えば隆利県の葉法医も来ていたが、 全体的にぼんやりと仕事をしているため実用性に欠ける。
王澜には管理権限もないし、 市局所属でも資格は同等だ。
また今回は各地から市局を支援する形で集まったので、 他人の使いすぎはできない。
解剖室に戻ると、 残りのかばんが運び込まれていた。
王澜と江遠が顔を見合わせた瞬間、 二人の目には同じ焦燥感が浮かんだ。
ふと、不適切ではあるが妙に「伝神」な比喩が浮かんだ。
年越しの日に家族全員で半頭の豚を煮るようなものだ。
その手間と時間は計り知れない。
四体の遺体を脱骨まで煮る必要があるのだ。
換気扇が必死に働いていた。
バサバサという音も、解剖室の熱気を消し切れない。
江遠が新たな小包を開けた時、いつものようにDNA採取→水質検査→残存組織採取の手順で終了させた後、鉄製の容器に再び番号を付け、遺体断片を一つずつ確認しながら入れ込んでいく。
表面には何らかの痕跡は見当たらなかった。
だからこそ、次の煮込み作業が終われば、その鍋の中にそのまま投入できるのだ。
現在使われているのは50kg級の超大型ステンレス鋼製容器だ。
もっと早く煮えれば釜で直接調理するほどだが、煮るのに時間がかかるため、このサイズを選んでいるらしい。
三つ目の包を見た時、江遠が長い息を吐いた。
「どうした?」
王藍が振り返った。
「腕が三本見つかって……」江遠は首を横に振り、四つ目を開封する。
やはり一二四の包は同一人物だ。
三番目は別の人物のものだった。
「次は潜水士の出番だな」若い法医が疲れきったように笑いながら言った。
「彼らが残り二つの包を見つけなければ、我々も上がれない」
江遠はその話に耳を貸さず、再びステンレス鋼製の大容器を引っ張ってきた。
一二四の断片を解剖台に並べ、接合を試みる。
「まあ、頭以外はほぼ揃ってるわ」牛峒が手伝いながら、当然そうなると思っていたような顔で言った。
「遠くに捨てて近くに埋める犯人なら、頭も遠くに持っていくか隠すかするものよ」
「遠投近埋」という手法は刑事の常套手段だ。
人々は一般的に頭蓋骨が最も個人を特定しやすいと考えるから、解体殺人の犯人は頭部を特別に処理したり、より遠くに捨てたり、別々に隠すことが多い。
この「遠投近埋」+「頭遠身近」という手法からは、現代の捜査技術について理解が浅い人物で、資料収集や学習を好まない可能性が高いと推測される。
むしろ、普通の人間が犯罪を重ねる過程で進化した犯人像が浮かぶ。
「四体+二体=六人目だわ」江遠が三番目の包を開けた。
上半身を中心に男性のものだった。
「電話するわ」王藍が言った。
すぐに動くわけではなかった。
少し考え込んだ後、続けた。
「こうなったら我々も分担してみよう」
皆が王藍を見やった。
「まずは江遠に骨格分析をやってもらう。
何かヒントがあるかもしれない」
王藍はさらに説明した。
「現在の状況から見て、これらの遺体はまだ全てではない可能性が高い。
一刻も早く何らかの手掛りを見つけないと、捜査範囲が広がる前に……」と続けた。
「我々が情報を掴めない間に、犯人が逃亡したり証拠を隠滅したり行動を変えたりするかもしれない」
王藍は江遠に作業を始めさせ、「今は争分奪秒だ。
犯人に再び準備の時間を与えたり、証拠を消去されたり、行動変更をさせたりしてはならない」と続けた。
総じて、犯人が情報を得る前に証拠を掴み、情報を特定することで捜査と訴訟に有利になる。
王澜が伝えたいのはまさにその点だ。
牛峒は一瞬でその意図を悟り、馬鹿げたような笑い声を上げながら言った。
「つまり俺たちの技術は江遠さんに及ばないから、江遠さんにお任せして俺たちは調理係に戻る……」
「なぜ人類学にここまで執着するのか分からないわ」王澜は牛峒を見下しながら尋ねた。
牛峒は恥ずかしげもなく笑った。
「まあ適当に話すだけよ」
彼が法医人類学の才能を強調する前に、王澜が共に働くよう命じる瞬間が来れば、彼の弱みが露呈してしまう。
他の二人の若い法医は争う要素もなかった。
彼らの人類学知識は限られたものだった。
現代では法医不足で死者数が増える一方だが、解剖用の遺体は常に不足している。
学校や研修だけで人類学者としてのスキルを養うのは不可能で、現場での経験と観察が必要不可欠だ。
例えば現在のように、とにかく多くの遺体を見ること。
江遠は王澜が後ろから支え始めたことに気づき、調理台から離れて解剖台に戻り、骨に集中した。
番号3の遺体は男性で30代、身長175cmだった。
番号4の遺体は女性で40代、身長165cmだった。
まとめると最初の四具の遺体は中年の男女二人組で、平均的な身長と歯磨耗度合い、普通の生活習慣を持っていた。
法医たちが最も嫌うのは「普通の人」だ。
特に法医人類学では、特殊な人々の中からさらに特殊な人物を探す必要がある。
そうすれば骨片一つで死者の特定ができるのだ。
ここでいう特殊はあくまで常識外れではなく、単に一般的ではない程度のものだった。
例えば番号1の遺体が20歳で子供を産んだ女性で身長170cmなら、病院のシステムで簡単に見つかるだろう。
あるいは45歳以上の未妊女性で身長170cmの場合も調査すればヒットするはずだ。
江遠は骨をひっくり返しながら漫然と眺めていた。
王澜は黙って遺体を煮る作業に没頭していた。
この最も汚い仕事から逃れようとする理由は何でも、責任者として放り出すのは気が済まないのだった。
一方江遠が骨を組み立てる際には既に王澜を超えた人類学的能力を見せていたため、彼女は干渉する必要を感じなかった。
解剖室は再び静寂に戻った。
全員が極度の疲労感で仕事に没頭していた。
その時江遠は番号3の遺体を20分以上観察した後、「この遺体は特殊だ」と口を開いた。
「どういう意味?」
王澜は反射的に近づいて訊ねた。
「背中の肋骨に斧痕がある」
王澜が驚きながら尋ねる「死因か?」
遺体の所在を特定するのは重要だが、死因さえ判明すればそれで十分だった。
えんえんは「そうじゃない、彼の肋骨は斧のようなもので折られたみたいだけど、足関節とかは切り機を使ったんだ」
「斧と鋸を使うのか?」
「そうだ」
「これは何か意図があるね。
斧が効かなくなったから切り機に変えたんじゃないかな?」
わらんが近づいて楔形の切口を見つめながら目を輝かせた「こういうケースは、この遺体が前後のものと繋がるキッカケになることが多い」
えんえんは首を横に振った「切り機の使用方法は他の遺体との差はない。
斧の方は使い慣れているみたいで学習曲線が見られない」
これは犯罪現場調査の工具痕跡の部分だから、えんえんも詳しくないし、大まかな説明しかできない
もっと興味深いのは熟練度の問題だった
学習曲線がないということは犯人が業界の人間か、それとも練習用に遺体を使ったのか
でもそんな推測を勝手には言えない。
とりあえず댐で捜索中だから結果を待つしかない
わらんもその意味を悟り眉をひそめた「この人の道具はなかなか充実してるね」
「それに広い場所が必要だ」えんえんが続けた
話はそうでも、これらが犯人を特定するにはまだ遠い。
清河市には小型工場がたくさんある。
政府が求めていたハイテク大工場は一つも来ず、結局地元の小規模工場に貸し出された
それ以外にも農村部には油搾り場や蜂蜜加工場など個人経営の作業所がある。
20年前に廃業したものが最近復活している
死ぬ気でやっているのに、その中でさらに殺人を犯す者がいる
「もっと具体的な情報を提供してくれないか」えんえんが話を戻した
「どうぞ」とわらんが頷いた
えんえんは順番に説明し始めた
「1号の歯。
陶器冠があるから、その方面で探す」
「2号の右上腕骨骨折。
これは医療機関で治療が必要だった」
「3号は腰椎と大腿骨から重労働をしていたと思われる」
「4号は長年ヒールを履き、歯列矯正を受けた」
えんえんは各遺体に捜査の方向性を与えた
わらんがようやく肩の力を抜いた「これだけあれば何とかなる。
一具見つければ犯人も分かるかもしれない」
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