国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0331話 ターゲット変更

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「殷绯の倉庫の後ろの鍵と印刷用紙、残してありますか?」

捜査官が追及した。

張項の目は120キロ級の筋肉男の鋭い光を放ちながら答えた。

「当然、銀行の金庫に預けてます。

年6万円です」

監視室の数人が微妙な表情を見せた。

つまり誰も本当の馬鹿ではないのだ。

張項のような体格で薬物乱用で頭がボロボロと見せているような連中でも、残された脳細胞を使い最適な選択をしたのである。

捜査官は感心して「いいね、金庫に預けるなんて」

「家に放火されないようにね」元放火犯の張項は世界を見透かしたような笑みを浮かべた。

捜査官が考える間、「あなたは殷绯を自ら訪れたのですか?」

と尋ねた。

「はい」

「そのきっかけとは? 当時なぜ殷绯に後ろからナイフを持って向かったのか?」

張項が回想するように答えた。

「契約書を作成する必要があったんです。

殷绯が選んだ運送会社は我々と対立していたので、『そんな連中には頼めない』と言ったんですが、彼女は私たちを小間者扱いしたんですよ。

あのクソ、ベッドにも乗れないような三流チンピアスにまで装うなんて……」

話すうちに憤りが顔に出た。

明らかに尊卑の概念に対して過敏なようだ。

組織で長く働くとその潜規則を社会全体の法則として認識し、実行するようになるものだ。

捜査官は張項の言葉から矛盾を見出せなかったため、「誰が鍵を渡したか知っていますか?」

と続けた。

「知らない」張項は首を横に振った。

「推測してみて」

「分からない」

捜査官が眉をひそめると、すぐに切り戻し「殷绯の倉庫の後ろの鍵と印刷用紙で書かれた指示を渡した人物。

その人物と目的は?」

「建元の人でしょう。

誰だか分かりません」張項は気安く答えた。

「数年間何も調べようともしなかったのか?」

張項が驚いたように目を見開き、笑った。

「あなたの言葉の意味は、私が誰かを陥れることで自分の身を守ろうとするというわけですね。

でも正直に言って、私は誰かを指名できるなら『殺人依頼』などと告発すれば死なないかもしれない。

だがそれはできないよ。

私が誰かを噛めばその相手は必ず私を殺すだろう」

「建元社ほど強力ではないし、あなたの事件は長陽市警が担当しているから関与できない」

「たぶんね」張項は肩をすくめた。



「入室、二人死亡、放火焼死体、これらは死刑に当たる。

共犯者を告発したり、黒幕を指名すれば緩和される可能性もあるが、そうでなければほぼ間違いなく即決死刑だ」捜査の専門家も偽りを装わず、圧力を張項にかけた。

張項の顔は真っ赤になり、取り調べ用の椅子から「ばらばら」と音を立てながらも、まだ何にも言えなかった。

共犯者は突然現れるものではないし、黒幕を証明することも難しい。

自分がこれまでやったことや得た金銭、持ち物を考えると、張項はなおさら決断できなかった。

畢竟、ナイフが首に当てられていなかったからだ。

事務所では江遠らが待機していた。

派出した刑事が銀行に置いてあった張項の荷物を回収してきた。

中には鍵、紙片、プラスチック袋、石があった。

江遠は特にその鍵に注目した。

余温書らも焦じ立って江遠を見つめていた。

彼が何か良い知らせを出すことを期待していたのだ。

江遠はゆっくりと鍵を見てから他の三つにも目をやった。

実際、鍵を受け取る瞬間に、その鍵は後ろのドアの錠前に傷をつけたものであることはほぼ確定したが、実際にドアを開けるのに使える鍵ではなかった。

鍵には非常に細かい粉塵が付着しており、微量物証鑑定を行うとほとんど全てが後ろのドアの錠前に一致するだろう。

問題は、その鍵を認めたところで何の役にも立たないということだ。

江遠は少なくともこの鍵を使って鍵を作成した機械を探し出し、かつその機械の刃先が交換されていない場合にのみ有用になるという点で、時間的にも困難だった。

つまり、その機械が数年前から完璧に保存されていた必要があったのだ。

紙片と印刷された文字については江遠も分析できる。

LV3の文書鑑定スキルはまさにそのためのものだ。

しかし、LV3の文書鑑定はやはり「無米炊飯」状態で、鍵と同じように対照サンプルが必要だった。

指紋が証拠王となった理由や、後にDNAが大規模犯罪を解決した理由は、成熟した指紋データベースとDNAデータベースがあったからだ。

痕跡データベースや文書データベースは弱すぎ、ほとんど役に立たない。

江遠はしばらく考えていた後、「これらは今のところ手助けにならない」と両手を広げて言った。

「見つからないのが普通だよ」申輝国が慰めた。

申耀偉は「もしかしたら単なる言い訳かもしれない。

罪を免れるためのものかも」と言った。

「そうだね、これらだけでは手掛かりなんてない」

余温書はそう言いながら、少しだけ落胆した。

彼はすぐに気持ちを抑え込んだ。

そして自分の内面を見つめた:余温書よ、そんな考えは間違っている。

何でも江遠に答えを求めることはできない。

江遠は借りた者だ、買ったのではないのだ。

もしもいつか現場で犠牲になったらどうするのか?

彼はすぐに正しい答えを導き出した:当然のことながら、江遠のレンタル期間が終わる前に、彼に最も多くの土地を耕し、最も多くの麦を刈り取り、最も多くの殺人犯を斬り、最も大きな京观(敵将の首級を積み上げたもの)を作らせればいいのだ。



底层には暴力犯罪の凶悪犯の大粒頭蓋骨が並べられ、中段に容姿端麗な男女を成列させ、頂上には記念すべき罪行に関連する加害者の首級を飾り付けた...

余温書は江遠が証拠品を収集しているのを見ながら言った。

「手掛かりがないならこの事件は一旦保留にしよう。

二人で片付けて様子を見てみる。

張項が言うその人物が本当に存在するとしても、起訴や判刑は難しいだろう。

死刑になるか殺人罪になるかというレベルではない...」

実際のところ、相手が金銭と鍵を渡しただけで教唆や買収に至っていないなら、有罪とは言えても懲役程度の処分しか下せない。

江遠の頭の中で何人かの人物が浮かんだが、「鍵の所有者に関する情報がない限り、私は建元製薬の駐車場警備員を調べてみるのも手だ」と続けた。

余温書は申耀国を見やった。

申耀国は驚いていたが、江遠の真剣な表情を見て「調べるのは構わないが、無理やりだと建元製薬に不利益になる。

袁建生氏は省内でも名のある人物だ」と反論した。

「無理やりではない。

袁董には息子を私に送り込んだし、もう一人の死体検査も私が行ったんだ」江遠が手を叩いて清潔な姿勢を見せた。

申耀国は先日借りた人情を返さないわけにはいかず、「承知しました。

ただし私の意見では確実な証拠で一網打尽にすべきです」と頷いた。

「当然だ」江遠が余温書を見やり、「次は張項の案件から手をつけるか?」

と尋ねた。

「構わないよ」余温書は特に興味を持たず、ただ「貴方はどうするつもりか?」

と訊ねた。

江遠が笑みを浮かべてスクリーン上の張項を指し、「建元の工場や倉庫周辺で未解決の事件があれば一緒に解決してみよう」と提案した。

余温書は特に異存なく、頭の中で何やら映像が浮かんだ。

建元製薬の駐車場には青いガードハウスではなく、小さな京观(敵将の首級を積む土台)があった...

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