国民の監察医（こくみんのかんさつい）

0300

第0333話 力学

一隊の保安全員が逮捕されたことで袁建生は最初に驚いた。

次に余温書が電話を連続して受ける様子を見て、彼は早速状況を理解した。

余温書は予期していたため表情を変えず、慣れた口調で相手に説明し数言述べた後電話を切った。

すぐに次の呼び出しに対応する準備に入った。

申耀国も同様の状態だったが、余温書ほど落ち着いていなかったため、どこかに隠れて笑顔で電話を受け付けた。

二人は受話器を持つ手が熱くなるまで連続して電話を処理し、徐々に呼び出し頻度が低下した。

余温書は約3分間新たな電話がないことに安堵し、江遠に向かって笑いながら首を横に振った。

「支隊長室から見れば、支隊長が戦略を練っているように見えるが、中に入るとただの伝声筒だ。

電話機械のように機能しているだけだ」

江遠は理解したように頷いた。

「命令と指示の伝達こそが戦略立案の中間工程だ」

江村で人情に生きていた頃は相手の顔色をうかがっていたが、その後の土地収用や大学進学によりそのスキルが衰えたことを余温書は自覚していた。

彼は笑い声を上げた。

「お前が私の顔を踏まない限り私は大丈夫だ」

この時江遠が一言好意的な発言をしたため、余温書の電話熱傷の耳も癒やされたようだった。

「まあいい。

重点企業に関わる案件では必ず誰かが情を頼みに来る。

その中でも特に無駄なのは状況確認を求める連中だ。

犯罪が告発され捜査に入った段階で、そのような働きかけは形式的だ。

私もその場しのぎで付き合ってやるだけだ」

建元の駐車場保安隊全員が逮捕された後、次に江遠が新たな証拠を特定する必要があった。

余温書は脅迫と騙し術でさらに何人かを捕まえる可能性はあると考えていたが、張項のような慎重な人物にはその方法では到底及ばないだろうと思っていた。

全員を押さえ込むのは現実的ではない。

「次はお前の番だ」

江遠は計画通りの準備を整えていたため、頷いて言った。

「まずは彼らが持ち込んだ装備と機械を確認しよう」

江村で技術力を磨き続けた江遠は新たな手法で捜査に取り組んでいた。

特に今日の案件ではLV6の工具痕跡鑑定スキルを最大限活用する必要があった。

このスキルは通常の工具に対し正確度と速度が超一流だった。

一目見てどの犯罪現場との一致か判断できるほどだった。

また、工具痕跡に精通しているため、捜査記録に関連した多くの機械と痕跡を瞬時に記憶できた（ただし臨時記憶だが効率化に貢献していた）。

通常の鑑識では肉眼観察だけでなく馬蹄金や顕微鏡での詳細検証が必要だが、江遠はLV6スキルでその必要性を感じていなかった。



目的は特徴の特定以外に、痕跡のサイズ・大きさ・形状・輪郭などを記録することであり、さらに標準的な方法では特徴を示す図解も描くべきである。

江遠はこれらの中間工程を省略し、複数の痕跡と複数の工具を同時に記憶し、相互照合を行っていた。

万宝明が率いる刑事科学技術センターから派遣された三名の若い指紋鑑定官たちは、ちょうど新技術・新方法を学ぶ年頃で、江遠の手法を見た瞬間、信仰心そのものが崩壊寸前だった。

「江さん、この捜査ファイルには多くの工具痕跡が関わっています。

まずはこれだけに絞りましょうか？」

と指紋鑑定官がファイルをめくりながら、江遠に数枚の写真を見せた。

その瞬間、疑問が口から溢れ出た。

彼女は一気に十数件の工具痕跡を見せるやいなや、疑念と確信の混ざった感情に陥った。

本当に人間がこれほど多くの情報を記憶できるのか？

江遠は説明する手間も惜しんで、「それなら特徴図解を描いて記憶を強化すればいい」とだけ述べた。

特徴図解と指紋の特徴点は異なる。

指紋の特徴点はコンピュータソフトや裁判所向けに作成されるものだが、工具痕跡の特徴図解は鑑定官自身が理解するためのものだ。

そのため、特徴図解は複雑でなくても良い。

美観や正確さを追求する必要はない。

数筆で特徴を表現すれば十分であり、表現できない場合でも問題ない。

描いた本人が意味を理解できればそれでよいのだ。

すると長陽市の三名の指紋鑑定官たちは、江遠の「龍飛鳳舞体」に目を見張った。

素描スキルがあることは事実だが、特徴図解には素描よりも線の扱いが重要だ。

そのため江遠は最終的には一本の線で全体の特徴図解を完成させた。

若い指紋鑑定官たちも理解できず、ただ見入るばかりだった。

彼らの技術体系そのものが揺らぎ始めたのだ。

「見つけました。

A27番の押痕はB109の鉄槌で作られたものです。

どの事件ですか？」

江遠が真剣に捜査を進めると、三名の若い指紋鑑定官たちは完全に呆然とさせられていた。

ここで言う「A27」は江遠が独自に付けた番号で、A系列はファイル内の痕跡、「B109」は警察が持ち帰った工具で、Bから始まる順番にナンバリングしたものだ。

つまり写真の番号も同じB109を指す。

数百もの痕跡と数百の工具を強制的に記憶するなんて現実的ではないように思えたが、レベル6のスキルにとっては単なる小技だった。

一名の指紋鑑定官が速やかにA27の写真とB109の実物工具を持ってきた。

すると推拉窓の錠前の正反面に明確な押痕があることが判り、江遠の推理は単なる偶然ではないことが証明された。

三人は自然と集まり、江遠と共にA27とB109の鉄槌を比較し始めた。

钳先の幅や側辺の歯数が一致し、凹凸点も同じだった。

彼らはゆっくりと観察したが、矛盾点を見つけることができず、ほぼ同一であることを示していた。



「これはどうやって見つかったんですか？」

最年少の鑑識がわずかに渇望の色を浮かべた。

この武術秘伝書だ、これを掌握すれば本当に世界中どこでも通用する。

江遠はメモを取りながらファイルを隣の王伝星へ渡し「この圧痕の推測案は多いです。

まず圧痕を見つけて収集した工具でどれが作れるか考え、大きさや形状に似たものを選ぶ。

その上で静荷重の問題も考慮する必要があります……」

江遠の前半句を皆必死に聞き書きし

後半句三人の若い鑑識の目は次第に暗くなった。

工具痕跡検証を深掘りすれば力の作用まで研究することになる。

例えば一般的な反発力・応力・外力……そして最重要な力の方向性、大きさ、点線面などの接触関係など

しかし力学に関わるものは理論力学・材料力学・構造力学・流体力学・弾性力学・塑性力学・損傷力学・破断力学・振動力学・爆発力学……どれも厄介なものばかり。

「写真を持ってきます」若い鑑識が悟ったような笑みを浮かべた

「ファイルを持ってきます」少し年上の鑑識が続いた

「私……お茶を……」成人体の鑑識が腰を屈めて頭を下げ「至誠と謹厳さを以て」