国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0480話 身元住所

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朝食。

赤い卵を添えた煎餅二枚を食べ終え、江遠は手を洗い清めると着替えの部屋へ行き、線香が焚かれた解剖室に入り、関二郎に礼を述べた後、一日の業務に取り掛かった。

師匠である吴軍が同行する出張生活は、そのような退屈で幸福な日々だった。

師匠が求める儀式感覚は確かに煩わしいように思えたが、一方では師匠がいる法医学人類学の解剖室には温かみがあった。

煮立てたばかりの赤い卵は全て半熟で、手作りの薄焼きパンは光を反射し、白健(※注:文中の**部分を「白健」と仮置)と巻いた際にほのかに赤味が透けて見える。

師匠自ら作った小菜もまた風味豊かだった。

満腹になり、死体の骨を触る江遠は胃が温かく感じた。

今日の主な業務は骨を調べることだ。

法医学人類学という職業は思考に重きを置くもので、人体の骨格はそれほど多様ではない。

つまり、この職業は「なぜ異なるのか」を説明することにある。

その解釈には時々標準的な答えがあるが、大部分の場合、答えは存在しない。

人間自身についての知識は、我々が認識するよりも遥かに少ない。

したがって、法医学人類学の学者たちは解剖台の前で繰り返し問うのである。

「一体どうやってこんなことになったんだ?」

江遠はLV3(※注:文中の**部分を「Lv3」と仮置)の法医学人類学スキルを持つが、進展はほとんどなかった。

ある人物の骨は正常に成長しており特に特徴がないため、そのスキルでは身元を特定するのが難しいのだ。

四号遺体だけが腕を折られクレーゼンピンを入れた記録があるが、それ以外の三具の遺体については、現在までに得られた情報は些細なものばかりだった。

人間が生きていた頃は組織が均一であることが望ましいが、死んだ後は法医学的に目立つ特徴を持つ方が良いと言えた。

江遠は頭蓋骨修復術でこの三具の遺体の身元を特定しようとしているが、その作業には半月ほどかかるため、結果が出るまで待たなければならない。

吴軍と王鐘が再び部屋に入ってきたとき、彼らが見たのは頭蓋骨を抱えながらパソコンに没頭する江遠だった。

吴軍は笑いながら関二郎に礼を述べ、三本の線香を添えた。

「この姿だと映画で善人とは見なされないだろうよ」と冗談めかして言った。

「師匠が帰ってこられたのですか?痕跡検証の手伝いに行かれたのですか?」

江遠は挨拶した。

「李翔が土を掘り起こすために現場へ行ったので、私も様子を見に行った。

現地の村民たちは非常に熱心で、昼食に誘われたが、私は断った。

『改葬するときにお願いします』と返したんだ…」吴軍は喜々として話した。

彼自身はLv1(※注:文中の**部分を「Lv1」と仮置)の法医学技術を持つが、法医学人類学には無知で、実際の応用も時間の無駄だった。

一方で李翔や村民たちにとっては、吴軍が必要とされる存在感は久しく感じられていなかったようだ。

江遠は「李翔さんの方でも何らかの発見があったのですか?」

と尋ねた。

「ええ、彼は範囲を広げて捜索する予定だが、具体的なことは分からない」と吴軍が答えた。



「はい、どうしてもなら江遠が頭蓋骨を復元するしかないわね」江遠は法医学人類学の技術で死体認定を行うより頭蓋骨を再現することに賛成だった。

主な理由はやはり費用面での優位性があったからだ。

黄強民の歯の鋭さに関わらず、法医学人類学者と協力して捜査するコストは数日で膨大なものになるし、江遠の頭蓋骨再現術ほど安定した結果を出せない。

吴軍も江遠の提案に賛成だった。

彼自身が法医学者でもあり、法医学人類学には神秘的な要素が多すぎると思っていたからだ。

科学的根拠が不足しているように感じたのだ。

話題を続けていると王瀾が解剖室に入ってきた。

清河市からの派遣の法医学者である彼女は基礎的な法医学人類学の知識はあるものの、それほどまでに優れた能力はなかった。

ただまあ普通な程度だった。

数人の法医学者が順次到着し、各自が自分の業務を進め始めた。

江遠という中心人物がいれば他の者は骨を触りながら考える必要もなくて、単純に切片を作成したり検査を実施したり記録を取ったりするだけだ。

何か特別な発見があればそれでいいのだから。

白健はスマホを見ながら正確な時間に解剖室に入ってきた。

吴軍は呆れたように「白大、あなたは事務所を解剖室に移したのか?」

と尋ねた。

「私は最初に警察署に行こうと思ってたが電話を受けたんだ。

四号の死体の身元が確認されたらしい」白健の口調は硬かった。

明らかに不機嫌そうだった。

吴軍は困惑して続けた。

「それは良いことじゃないか? 身元不明なのでは?」

江遠たちも集まってくると、白健は首を横に振った。

「四号は王興寨という名前で長陽市の人だ。

彼のスマホから見ても長期滞在地は長陽市だった」

吴軍は一瞬笑いそうになったがプロ意識で堪えた。

長陽市の人が死んだ後に石庭県に埋葬されたというのは、警察署長としてみれば白健が冤罪に遭ったようにさえ思える。

「彼らは本当に遠くまで運んだわね。

高速道路のチェックポイントがあるのに警官に見つかる心配はないのか?」

王鐘が評した。

白健は首を横に振った。

犯罪心理から考えると、埋葬を選んだということは犯人が罰を恐れている証拠だ。

それだけに百キロも離れた場所まで運ぶのは異常に思える。

高速道路にはチェックポイントがあるし、たとえ一回の検査でも犯人は完全にアウトになるはずだ。

白健は頭が破裂しそうだった。

しかし別の角度から見れば犯人の方法は特殊ではあるものの効果的だった。

県警はその人物の存在を知らないし、死体がない限り事件として扱わない。

県レベルの警察予算は限られており重大な犯罪以外は手を抜く傾向があるのだ。

白健が江遠にファイルを渡すと江遠は防護服を脱いで資料を見始めた。

「次はどうするんだ? 長陽市に引き継ぐか、あなたたちが続けるのか」

「長陽市は受け付けないわ」白健が答えた。

「少なくとも何人か派遣してもらえるだろうよ」吴軍が代弁した。

長陽市の捜査能力は県警より高いが、四体の死体で重大な事件となると彼らも自信がない。

解決できれば良いがそうでない場合は自分たちに責任が回ってくるからだ。

江遠は資料を閉じて考えながら言った。

「そうすると残り三体の死体や盗墓団も長陽市の人々かもしれないね」

白健は頭が破裂しそうだった。



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