国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0484話 黄昏は夜の深さを知らず

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暗闇。

濃霧。

強風が吹き荒ぶ中、短髪の少女たちの毛髪を逆立させた。

牧志洋はその根数多い髪型の娘たちを見つめながら胸を撫で、股を開いて自分の方へ駆け寄せてくる様子に熱い息を吐いた。

彼女らが蒸し暑いクラブに向かって走り去る瞬間、隣に立っていた躍起になっている高玉燕の肩を軽く叩き「お前たちが本格的に捕まえるなら俺は第二陣でいいよ。

心配するな」と囁いた。

「あんたなんかどうせ外周警備くらいしかできないわよ」高玉燕は鼻を鳴らして董冰と唐佳の背中を見つめた。

「私たちが先に動くから」

国内では可能な限り女性警察官が女性犯罪者を逮捕するよう求められる。

この点において被疑者の待遇と病気患者の自由度は明らかに前者の方が高い。

当然、逮捕時の警対犯比例も診察時の医患比よりずっと大きい。

今日は**を捕まえるための警察官が約30人集結していた。

普通なら一人で十分な相手だが、白健や幕後の余温書が絶対に外せない重大案件であることと、**が過去何度も治安罰則を受けた悪質犯であること、そして最近彼女が仲間を呼んで身近に護花使者をつけるようになったことからこれほどの人員が必要だった。

長陽市刑捜は数時間かけて**の居所を特定し、夜店の「菜王」であるクラブ常連客を呼び出して彼女を誘い出した。

夜店では美人女性を「菜」と呼ぶ。

無料プレイヤーが有料プレイヤーに提供される機能のように、美しい女の子の数はクラブの競争力の一つだ。

この「菜王」から派手な服装の美女を送り込む行為は「発菜」であり、その能力が高い店は「菜王」と呼ばれる。

**は以前からよく「菜王」に誘われて遊びに出かけたが、今日は200円のタクシー代で30分かけてメイクして専用車を手配し、クラブ前まで来た。

彼女が「水央宮」の前に現れた瞬間、男20人以上と女性6人が注目した。

高玉燕は最後に確認を求めた。

「本当に?」

「ええ、間違いなく」複数の刑事が詰め寄りながら確認した。

牧志洋はため息をついた。

「この写真を見せてと言われたら以前なら見分けられなかったよ。

やっぱり警察勤務は人間を鍛えるわね」

「とにかく決まったから黙ってろ」高玉燕は牧志洋を押しのけて車の前に立った。

到着したのは彼女だった。

ドアが開いた瞬間、高玉燕は槍のように飛び出した。

特別に速くはないが驚異的な爆発力で。

夜店に慣れた**はそんな経験などない。

体重90kg未満の細身の体を黒豹のような動きで突き出す高玉燕を見た彼女は叫び声も出せずに沙哑になった。

ドンと高玉燕が壁に押し付けた。



彼女は依然として優しい心を抱いていたが、通常の対応としては即座に倒し地面に押し潰すのが安全だったはずだ。

唐佳が近づき、***の腕を強引に捻じ曲げた時、高玉燕よりもさらに暴烈な動作で「名前は?」

と尋ねる。

彼女たちが拐売取り締まりを行う際には体重150ポンド以上の女性を多数逮捕し、その手順は相当に熟練していた。

「貴方達は誰ですか?」

***は予感はしていたもののまだ希望を持っていたようだ。

「名前は?答えろ!」

高玉燕の口調は宮廷教育を受けたかのような厳格さだった。

「***」

董冰が即座に手錠をかけながら「警察です。

静かにしてください」と指示した。

テレビで聞くものと現実で耳にするものは全く異なる感覚だ。

牧志洋らも車から降り、警服の外側に配置された刑事たちが観客を見回し、周囲に警戒線を設定。

スマートフォンで撮影する人々には捜査員が执法記録器の角度を調整し顔を確認しただけだった。

***は即座に囚人用車両へ引き込まれた。

孟成標は既に待機しており、車が動き出すと直ちに強制尋問を開始した。

「名前は!」

「***!どうして名前だけ聞くんですか?」

「質問されたものを答えろ。

もう一度言うんだ──名前は!」

「***」

「そうじゃないのかい?」

孟成標は笑みを浮かべた。

彼のような取調べのプロは、驚愕状態の少女に簡単に感情を揺さぶる術を持っていた。

数問尋ねられた後、***は質問されれば何でも答えるようになっていた。

車がゆっくり走行するように指示し「もう少し質問してから休憩にするよ。

王興寨という人物をご存知か?」

「うーん……知っています」「貴方とどういう関係ですか?」

「***」と答えは変わらなかった。

孟成標が頷き「最後に王興寨と会ったのはいつだい?」

と追及すると、***は小さな声で日付を告げた。

「王興寨は死んだんだよ!」

孟成標が突然鋭く尋ねる。

***の体がびくりと震えた。

「本当ですか?」

返事なしに「貴方最後に会った時、何があったのか?」

と迫る。

***は「彼が……連れて行かれたんです」と答えた。

囚人車内の刑事たち全員が耳を澄ませた。

孟成標が「誰が?」

と尋ねると「知らない」の返事だった。

「その時の状況を詳しく話してくれ」

***が数秒間迷った後、告げ始めた。

「私はちょうど服を着て整髪を終え、出かける準備をしていた時、ドアを叩く音がした。

王興寨が見に行ったが、突然私にクローゼットに入るように言い、何万円か渡し『隠れろ』と指示して……」

「その後どうなったんだい?」



「老鬼に黄立が来たと言わせろ、金とスマホは俺のものだ」と言われた。

その言葉をずっと胸の中にため込んでいた。

成標が目配りするとすぐに報告が回ってくる。

振り返って成標が訊く。

「どうしたんだ?」

「スマホを売り飛ばし、金は取り戻した」――その答えは意外だった。

「なぜスマホを捨てたのか?」

「何かトリックがあると思った。

昔流行った特殊工作の設定みたいな。

とにかく彼に払わせればいいやと思って」

「スマホはどこに売ったんだ?」

「回収業者に売った」――理直らしく答えた。

成標は毒物取引者が墓穴で亡くなった様子を想像し、暗に首を横に振る。

さらに訊く。

「金はいくらか……」

「六七万くらいかな、数えなかったし使い切った」

「六七万も使い切ったのか?どのくらいの期間か?」

「そんな金額ならすぐ使うものだよ。

バッグや服を買って残りはほとんどないだろう。

警察の給料ってこんなに安いわけじゃないよね」

……会議室。

白健が頬を膨らませてタバコをくわえ、鴨のように見えた。

「現在の手掛かりは二つある。

スマホの行方と老鬼・黄立の関係だが、知っているか?」

この段階で案件は白大佐の制御外に出ていた。

特に長陽市では地元民でもないため力不足を感じていた。

しかし進行中の捜査を止められず、他の誰も反対しなかったので白健は続ける。

「小劉、スマホ探しは続けろ。

通信傍受と連携して電話番号の特定も」

「了解」「できる」両チームが応じた。

柳景輝が白健がタバコをくわえる様子を見て笑いながら訊く。

「江遠、部屋の手掛かりはどうだ?黄立の足跡や指紋は?」

王興寨は完全に強制連行されたわけではないかもしれない。

意図的に残した痕跡がある可能性も。

しかし江遠は首を横に振るだけだった。

「彼が雇った掃除婦さんは固定時間で来るので、我々が来た時には既に10回近く掃除されていた。

床の足跡や手形などはもう消えていた」

「構わん、山やれば道ありだ。

とにかく今は殺人の名前を知っているんだ。

本名は分からないけど死因も分かったし、目撃証人もいる。

あの日酔いだったけど過程は見なかったが……勝利は目前だ!」

白健の口調が硬くなり、部下たちに再び元気を取り戻させようとした。



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