国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0486話 東南の日出

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昼下がり。

捜査に出た刑事たちが次々と帰ってきて、それぞれの手がかりをまとめ始めた。

余温書は再び会議室に現れ、果物皿を持ってきた。

その中には全てオレンジが入っていた。

これは彼が副局長から教わったものだ。

葡萄やイチゴのような取りやすく食べやすい果物なら、テーブルに出せば五分でなくなってしまうだろう。

美味しくないか関係なく、一人ずつ試食すれば一皿ごとになくなる。

酸いのが好き、淡白なのが好き、塩辛いのが好き、靴下の匂いがするのを好む者、生のまま食べたい者、柔らかいのがいい者、硬めのが好み、大きさや形も様々...

要は十人十色で、簡単に消える。

例えばオレンジなら手を汚すし、汁を垂らすので、多くの人は見ただけで諦める。

白大队长が不自然に体を動かした。

会議室では彼が最も高い立場だった。

柳景輝は省公安廳の四级警長だが具体的な職務がないため、県警刑事課長である余温書とは比べ物にならない存在だ。

しかし余温書は白いシャツを着ていて、会議室の中に居ても存在感を放っていた。

「始めるか。

」会議を進行するのは白大队长だった。

彼がタバコに火をつけた瞬間、一斉に煙草の炎が部屋中に広がった。

江遠は防御的にタバコを口にくわえた。

余温書は眉をひそめただけで何も言わなかった。

省公安廳の刑事課ではもうそのような習慣は廃止されていた。

石庭県の中隊長が立ち上がり、「常家桂のスマホの最終消去地点は長陽市の和平鎮の物流パークだ。

その施設は失敗してしまったが、現在最大の企業は駐車場業を営んでいる」と報告した。

「技術捜査班の車で現地に行ったが、常家桂の大型トラックは見つからなかった。

和平鎮の物流パークは入城国道の前にあり、新しくできた道路を通るため広大な空き地がある。

我々が訪れた際には駐車場に大型トラックや貨物ラーニングカーが停まっており、ほとんどが外ナンバーだった。

駐車の規則も厳密ではなく、警備員が私的に通行料を徴収するケースもある」

「駐車場の監視カメラは半年分しか保存されておらず、当時の出入り記録は見つからなかった。

その後我々で話し合った結果、杞省の刑事たちもこの方面に調べた可能性があると連絡した」

中隊長が王伝星を見やると、王伝星は立ち上がり、「被害者常家桂が失踪して一ヶ月後、元妻が杞省で警察に届けを出した。

当地警備当局は成人男性の無断失踪とは考えず、人員を動かして捜索したが、常家桂が本県で行方不明であると判明したため、四人を山南省へ派遣した」と説明した。

王伝星が記録を見ながら続けた、「我々は当時の担当の杞省刑事に連絡し、彼らは車両を追跡して来た。

最終確認ポイントは平江省辛県で高速道路を降り、国道に出た後、それ以上行方不明となった」



「車両検問所で人影を撮影できなかったのか?」

柳景輝が先に尋ねた。

王伝星は首を横に振った。

「相手方は予防策を講じていた。

マスク・帽子・サングラスといった装備一式を着用し、その時期も平江晒の季節だった……」

彼はプロジェクターで一枚の写真を表示した。

スーツ姿の人物が検問所を通る様子が映っていた。

いくらか過剰なまでの隠蔽とはいえ、この季節ならば交通停止されていない限り、運転手の服装まではチェックされないのが常だった。

江遠は一瞥し、「王興寨を連行した人物とは別人だ」と指摘した。

王興寨を連行したのは犯人本人である可能性が高く、その歩き方については江遠が詳細に記憶していた。

体格の正確な描写は難しいものの、写真と比較すれば同一人物でないことは判別できた。

白健は「うむ」と頷いた。

「つまり組織による犯行だということか」

石庭県では闇討ちを掃討するため多数の活発な社会勢力が排除されていたが、この殺人鬼はその影響を受けず、白健も憤りを感じていた。

余温書が尋ねた。

「杞省の刑事たちが調査を続行しなかったのか?」

王伝星は軽く首を横に振った。

「彼らは遺体を発見できなかった。

車両だけという手がかりで、失踪事件として立件したものの、当地が協力して捜索を続けたにもかかわらず車両の所在が判明せず、最終的には撤退せざるを得なかった」

「車は山奥に押し込まれたんだろう」柳景輝は周辺県市の地形に詳しく地図を見ることなく、「辛県を出ると長い山道が続く。

崖や川があり、多くの峠の下には通行人がいないエリアがある。

うまく操作すればトラック一機を落とせば探すのは困難だ」

余温書は「つまり彼らも諦めたのか」と尋ねた。

「その場合、人員を少しずつ派遣して谷間まで捜索するか、ドローンを使うなど……」柳景輝の表情が真剣になった。

ニュース記事で一般的な用語だが、この場合は特に強調されるべきだ。

また排查にも種類がある。

例えば柳景輝が現在説明しているようなケースと以前の魯陽市での山岳地帯での捜索とは難易度が異なる。

中型トラックを探す場合でも何年経とうと大きな目標であるため、それなりに困難ではあるものの……。

困難は少なからず存在する。

山岳地帯での排查は山を登り越える必要があり、食事やトイレも問題となるが、道路沿いの捜索なら飲食も容易で、参加者の苦労度合いは比べ物にならないほど楽だった。

白健はまたタバコに火をつけた。

この案件ここまで進めるためには石庭県が費用を負担している。

そしてその高額な排查費用が県外での実施となるとは白健も予想していなかった。

「白大隊長、どうしてもなら長陽市刑事部隊が引き継ぐこともできる」余温書は二分間待って白健に選択肢を提示した。

これはあくまで協力の申し出であり、特に大きな圧力ではない。



「やる気がないなら、案件を譲ってもいいさ。

車が見つかればこの案件は明るい方向に進むだろう。

その点で言うと余温書は端锅走りに過ぎず、煮るのも自分自身の責任だ」

白健は深呼吸しながら言った。

「いいや。

我々でやろう。

」彼の大半の部下は石庭県に引き留められていたし、平江省にも慣れていないし、局からどれだけ予算が出せるか分からないが、自信という点では負けたことはなかった。

余温書は肩をすくめて笑った。

「それも良さそうだ。

運がよければドローンで発見できるかもしれない。

その場合、手間は省ける」

もし運が悪ければ短時間に捜索できないなら、実際に山の中に入って探る作業は誰もやらないような仕事だ。

余温書自身もやりたくなかった。

白健は煙草を吸いながら眉をひそめ柳景輝を見た。

「柳課長、あなたが指揮官になってはどうですか?」

彼は柳景輝を頼りにできると感じていた。

柳景輝の省庁職員という立場は、県外の同僚との連携を容易にする。

省庁自体にも一定の交流メカニズムがあるからだ。

一方で柳景輝も組織能力はあるが徐泰寧ほどではない。

規模の小さい野外捜索なら問題ないだろう。

柳景輝は江遠を見つめて爽やかに言った。

「構わないよ。

省庁には連絡して、平江省とも打ち合わせてみよう」

このレベルの案件は省庁自体が補助金を出すべきだ。

特に貧しい県でも重大な事件は発生する。

予算がないからといって放置することはできない。

白大隊長は心からの感謝を表した。

県警のトップとして、彼はこれまでこんな助けを得たことが少なかった。

会議終了後江遠は牧志洋や王伝星といった複数の男刑事を連れて自宅へと向かった。

その家は小さいが4部屋あり、多人数で安全に過ごせる。

プロの殺人鬼か毒薬組織の手先だろうと考えると、彼らは極めて凶悪な存在だった。



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