国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0573話 前路知る人無しと莫れ

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京陽線三屍事件の各参戦機関も沈黙裡に再検証を重ねていた。

長陽市刑捜が最も解決可能性が高いとされていたのは事実だが、彼らの焦点は最初の被害者に固定され、二名の被害者の関係性を探ることに没頭していた。

しかし殺害対象を選んだという点自体が偶然だったため、この事件は極めて困難な無差別殺人事件となり、さらに強姦要素すらない無差別殺人となったことでより複雑化した。

後日再編成された専門チームも無差別殺人を想定して調査を開始したものの、より深刻な局面に直面せざるを得なかった。

江遠が完成させたプランを両機関が受け取ったとしても、その難易度は依然として高いままであった。

王世開の「学習精神」は捜査方針を完全に誤導した。

通常殺人事件にはいくつかの主要な捜査方向がある。

金銭目的や性欲目的、あるいは連続殺害者の無差別犯など、様々なタイプが存在する。

警察は一般的に手口から突破口を開くことが多い。

例えば刃物強盗犯は次も同じ手口を使う傾向があり、頭部を刨锛で打って奪う犯人は同じ工具を使用し位置もほぼ変わらない。

催眠薬を使った強姦犯は次回も同様の薬品を選択するなど、過去の成功パターンに依存する「道徴的依存」が働いている。

犯罪というものは安全を重視するのが普通で、新たな手法を開発することはリスクが高い。

連続事件では加害者が既定のパターンから逸脱することで露見することが多い。

京陽線三屍事件において王世開は手口そのものが全く異なり、また移動手段も異なる都市ごとに変化を余儀なくされていた。

さらに犯罪動機も各ケースで異なっていた。

最初の殺害では学習目的だったが、二つ目は意図的な殺人、三つ目は警察を欺くための罠であった。

そのため標的選定にも多様性があった。

初犯である王世開は最も容易に殺害できる対象を選んだが、その時点で既に自身の暴露を減らすための待機期間も考慮していたのである。



第二起事件において、被害者である劉麗敏は王世開が意図的に標的にした対象であった。

そのため彼は厳密な選別を行わず、初犯時の経験を活かして二つのケースを類似しつつも異質なものとして構成した。

第三起事件では、王世開は警察の注意を混乱させるため改良版の手口とより適切な標的选择を採用し、場所変更という新たな要素を加えた。

最終的にこのシリーズ事件が解決される可能性が高いのはDNA鑑定であったが、国内では03年頃からようやく広範に導入され始めた。

87年に初の活用例があったものの当時は試薬不足で標準化された実験室すら存在せず、検査コストと時間は数千円単位だった。

特に重要だったのは03年頃からようやくDNAデータベースが構築され、大量の未解決事件を解明するための体系的活用が始まった点である。

この時期以降部委が「命案必破」を掲げた背景には、王世開が利用したという極めて稀な欠陥があった。

鉄道車両のDNA汚染問題だ。

当時はトイレ設備が未整備で乗客の排泄物が線路に散らばる状態だった。

高速走行中の便は風乾し、軌道周辺に散在する。

王世開が選んだ地点での車両衝突後、遺体組織は即座に汚染された。

当時の加害者はDNA問題に無関心で捜査官もその重要性を認識していなかったため、警察と鉄道関係者が遺体断片を収集する際には指紋以外の証拠がほとんど残らなかった。

車両への付着物は駅到着時に洗浄され、事件発覚時には既に次の衝突現場へ移動していた可能性があった。

柳景輝の判断と徐泰寧の捜査、江遠の定点爆破作戦がそれぞれ大きな役割を果たした。

これらを欠いても解決可能ではあるものの、時間と労力は2倍乃至10倍に膨らんだと言える。

各省庁が協議する際には諦めムードが漂った。

江遠の能力は明確な価値付けされていたが、今やさらに高額化していたからだ。

事件終結後も何日かを要した。

送別の朝、長陽市局・霍市局・青白市局と省庁・部委代表が駅に集まった。

別れの情は血のように濃厚だった。



「県庁で不満があるなら長陽市に来ればいいよ、事件を解決したり休んだりして構わない。

買った家があるから帰るのも簡単だろ」余温書は何かしらの情報を得たように重苦しい表情を作り江遠を誘うが内心では笑い転げていた

「分かりました」江遠はお礼を言い「村に住み慣れたので都会には馴染めない。

県庁の仕事片付いたら長陽に戻って事件解決するつもりです」と答えた

「そうか……」余温書が肩を叩き耳元で囁く「何かあれば遠慮なく言えばいいんだよ」

江遠が要求しない限り勝手に介入しようとは思わないようだ

江遠が礼を言い終わると隣のホ州市局支隊長が抱きしめられ、次に青白市局の某副局長と接吻する。

黄強民は大きな力で江遠を取り戻した

するとホ州市局支隊長が黄強民を胸に押し付けながら話す「最近忙しいから後日ゆっくり話そう」

黄強民は支隊長の胸を押し返して離れた

支隊長は笑みを浮かべた

一連の社交が終わると送別会の検察官が「王世開の方は問題ない。

彼の弟については定罪が難しい。

事件時、弟は知らない可能性が高いし、その後も推測した程度で確信はない」

「家を奪ったからだ」ホ州市局支隊長が関心を示す

検察官は「王家が返済する用意があるし、これまでの賃料も考慮する。

王世開は弟の手術時間に合わせて殺害したが唆した証拠はない。

弟が病院から出た時も王世基を説得して嫌疑者にならないようにした」

「全て王世開の発言だ」支隊長が付け足す

検察官は「それは妥当で常識に合致する。

次に遺体の運搬だが、王世開は183cmの体格で三人の女性(体重100kg未満)を一人で運べる。

現場再現実験でも問題なかった。

三輪車を使う点もメリットしかない」

この説明は江遠ら他の機関の警察官にも向けられたものだ。

普通の事件なら検察官が一言で決めるところだが、大規模な案件では少し説明が必要だった

江遠らは黙って聞いていた

ある意味王世基も被害者と言える。

彼は相手の家をもらうために結婚を前提とした交際をしていたが、目的は両親の承認を得て共同目標を達成することだった。

そのため当時は本当に愛を失ったと感じていた

ただ、その後の財産問題において王世基は半ば強制的に家を手放した点が大きな汚点となった。

さらに重大な汚点は犯人が王世開であるという事実だ。

兄弟である王世基が完全に関与を否定するのは困難だった。

法は道徳的な問題を問わないからこそ、柴通柴局長のような手段も違法ではない。

黄強民・江遠・牧志洋・伍軍豪とその秃頭のチームが高速鉄道で寧台県へ帰還する中、これまで一言も発さなかった万宝明はスマホを必死に振り回し、江遠に微信を見せた。

江遠が微信を開くと、万宝明が新しく投稿した朋友圈には以下のような詩が並んでいた。

同僚の別れを惜しむ 旧友の思い出が胸に押し寄せる

船出時の情熱は忘れず 優れたチームスピリットが今も残る

忙しい業務と向き合いながら 珍しく余暇を過ごす機会を得て

短い人生の別れは多く 永遠に続く喜びを願う

月明かりと共に歩むように 未来への夢を照らし続ける

共に進む道は未完であるが 光栄ある前進を祈る

知らない人がいないとは言えず 天下の誰もが知っている君

末尾の詩はChatGPTによる調整で約20分かけたものだが、万宝明という人物像を豊かにするため水に帰す必要があった。

本来3時寝だったのに結末を仕上げるだけで4時近くまでかかった。

ふ~

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