国民の監察医(こくみんのかんさつい)

きりしま つかさ

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第0599話 蓋を開ける

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江遠が三十数人を連れて走馬道派出所に来ると、たった数日の滞在で看守所へ数十名の人員を送り込んだ。

主に各部署の作業方法が類似しており、長年にわたり固定的詐欺手法が形成されていたからだ。

一人を捕まえると一連の犯人を引き連れ出すという構造だった。

その中には脱走犯も含まれていた。

経済犯罪で3年間服役中に縫製機械操作技術を習得し、再び犯罪に手を染めた際は逃亡したが、今度は逮捕されると前科と合わせて10年の刑期が見込まれた。

これにより彼は筑基級の縫製技術まで磨き上げることになるだろう。

他の事件に関わった人々はやや劣る成績だった。

5年間服役する者もほとんどいなかった。

特に観光店舗の若手グループは目立っていた。

就職活動中で新卒採用され、歌と踊りを駆使して元気に働いていたが、収入は少なかった。

数十人の客相手にしかならず、緩和処分の可能性が高い。

この一連の捜査も3日間かかったが、捜査段階よりもさらに疲弊させられた。

最もコストのかかるのは観光客への聴取だった。

寧台を訪れる観光客の大半は1日しか滞在しない。

早朝に列車で到着し、夜にはバスで去る者も多かった。

彼らを特定するためには、バスが必ず通る道端で待機し、確実なナンバープレートを見つけてから聴取を行う必要があった。

あるツアー客のバスは帰路で民怨が沸き立ち、双方が罵り合う状態だった。

その際の聴取は効果的だった。

しかし別のツアー客のバスでは帰り道にガイドが人情味溢れる対応をし、乗客たちは歌い踊りながら警察の存在を不満視したこともあった。

その後、レストランで個別に聴取する方法に切り替えたが、問題は同じだった。

被害を受けた観光客は行程を遅らせるのが嫌で、警察を催促し続けたのだ。

幸い江遠が派出所の人員を倍増させたことで、他の所長である談靖警部補はまだ崩壊寸前だった。

とはいえ談靖警部補も限界に近かった。

老練な派出所長だが、体調管理の許容範囲を超えるほどの過労が続いたのだ。

現在の状況では新たな嫌疑人が連日送検されるため、逮捕直後に取り調べを開始する必要があった。

また管内での事件も減るどころか増加傾向で、何かトラブルがあれば出動が必要だった。

談靖警部補は最も苦労する仕事からは免れていたが、普段の業務量は明らかに増えた。

一日の疲れが身に染みる中、談靖警部補が事務室を出て行くと、大部屋では依然として忙しい声が響いていた。

「私のペンはどこだ?誰かが取ったのか」

「私にペン貸して」

「印鑑泥はどこにあるんだ」

「私の徽章はどこに」

聞きなれた声に談靖警部補はほっとした瞬間だった。

江遠が後ろから挨拶してきた。

「談警、帰宅時間ですか?」



「出てみようか、特に問題ないなら帰るわ」谭靖は仕事帰りを暗示した。

江遠は「みんなでご馳走しようよ、所長もどう?」

と笑いながら、派出所の予算を使い放題だった。

所長不在だからこそ使いやすいのだ。

「我々がお誘いするべきでしょう」と谭靖は返すしかない。

「得々だね、貴方所の口座は既に赤字ですよ」江遠は派出所の予算を気にしない。

小さな派出所で命案級の捜査費なんて到底賄えない。

柴通が不在だからこそ存続しているのだ。

「金のことには触れたくないわ、頭痛くなる」

「晩ごとビーフグリルにしようよ」江遠は笑みを浮かべ、「個人的にご馳走するからね。

うちの牧場で飼育中の牛が市場に出る前に、父が家に運んでくるんだ。

皆様のご意見を聞かせて」

「そんなお言葉は…」

「都合のいい時間なら来て、そうでない場合は構わないわ」江遠は手を振って帰宅した。

早帰りだったのは料理するためだ。

富江町の江富镇が肉料理で有名になった後、江遠もたまに調理するようになったが、犬用が多い。

今回は大壮たち警犬のために特別な日だった。

最近習得した未使用スキル+1を犬食に投入し、LV6級の犬飯を作り始めた。

前作LV5より風味と季節感を考慮し、新鮮で当季食材を使い、警犬の必要性も考慮して調整。

高価な食材は人間好みだが、犬には適さないから安価な牛下臓を選んだ。

牛心や牛肝など安い部位だが栄養価は決して劣らない。

江遠の理念通り、見た目と香りが最高の一鍋になった。

蓋を開けた瞬間、犬だけでなく人間も集まった。

警犬たちは興奮で鳴き声を上げる。

江遠の視線を感じて、十七叔の炒飯を作り始めた。

大量のご飯に卵を溶かし、油少なめの鉄鍋で炒める。

黄金色になり香ばしくなると、周囲が驚嘆する。

「富江町は本当に裕福ねえ、江遠さんは本当に節約上手よ」

「牛下臓を使っているなんて知らなかったわ」

「十七さんの炒飯と同じ調理法で、材料表がシンプルね」

大壮たち警犬たちは待ちきれない様子。

江遠は犬にご飯を分けつつ、炒飯も盛り付けた。

休日中の派出所員達は涙ぐんでいた。

「江隊長が残ってくれたらいいのに…技術教えてくれれば」

牧志洋は笑って「その技術を学んだとしても、毎日炒飯食うの?」

「美味しいわよ」

牧志洋は鼻をつねった。

「命案でない限り、江隊長は帰るわよ」

話している最中、江遠のスマホが鳴った。

「レストランで死人が出た」短い電話後、肉串を置いた。



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