怪談謎解きゲーム〜恐怖とお菓子のパーティ〜

ナナミ

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一話

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 赤い太陽がジリジリと地面を照り付けている。白い入道雲が天へと立ち昇っている。

 ある日、女子高生の藤本沙耶はマンションにいる同級生の友人男子生徒、柴田浩明の家に訪ねて来ていた。メンバーは沙耶を含めて女子三人、浩明含めて男子二人である。

 クーラーの効いた部屋で、お菓子等を囲む中。

 話の流れで、浩明が、ふと顔を上げて言う。

「そうだ、夏なんだし、怪談話しようぜ。」

 後でクイズがあるから、と彼は言う。

 え?嫌だわ。沙耶は眉を下げた。胸に重しが乗ったような気分になる。せっかく楽しいのに。

「ええー?」

 女子の西田レイは、顔を歪めて言った。

「良いね!」

 女子の小山茉莉は、顔を輝かせた。

「面白そうだな。」

 男子の橘孝二は、小さく笑みを浮かべて言った。

 四人はそれぞれ賛否両論であった。

 そんな中、浩明は本を持ち出すと、あるページを開いた。

「正解者一名には後でアイスを奢ってやるから。」

「アイス?」

 浩明の言葉に、全員の目が光った。

 アイス、食べたい……!

 友人達はいそいそと、あるいは渋々と、カーペットの上に座る。沙耶は?早く!と勧められ、沙耶は渋々と席に着いた。アイスを買って貰えるとは言え、憂鬱だわ……。

 全員の顔を見た後、浩明は、流れるように読み出した。


◇◇◇


 仕事帰り。女性、伊住由里は、住んでいる七階建てのマンションを前に、ふう、と一息付いた。疲れたわ。彼女はエントランスをくぐる。自分が住んでいる七階のボタンを押した。

 ジジ……。

「え?」

 一瞬、由里はエレベーターの表示が歪んで見えた。彼女は目を擦り、目を凝らして見た。しかし、何もおかしなところはない。いつもと同じ、一~七階である。

 おかしいわね?

 由里は横に首を傾けた。気のせいかしら?彼女は顔を歪ませる。背筋に鳥肌が立った。


 一度、三階で、エレベーターが停止した。扉が開く。しかし、そこには誰も立っていない。

 あら?

 由里は目を瞬いた。エレベーターの開閉ボタンを押しながら、身を乗り出し、外を見る。人気はなく、しんとした静けさのみが辺りを包んでいた。おかしいわね。彼女は眉を顰める。身体を引っ込めた。扉が静かに閉まる。

 扉が閉まるや否や、由里は右隣に強烈に違和感を感じた。

 何か、変。

 由里は息を呑んだ。彼女は隣に視線を向ける。隣には何もいない。彼女は誰かがそこに佇んでいるような気配感じていた。彼女は試しに左に手を伸ばしたが、宙を切るだけであった。

 何か怖いわ……。

 由里は身を震わせると、エレベーターの階数表示を睨み付けた。

 まだエレベーターは到着しない。由里の心臓が早く鼓動を打つ。

 早く。

 六、七。

──チーン。

 やっと着いたわ!

 由里の顔が輝く。彼女は開いた瞬間、勢い良く外へ飛び出す。


 由里は外の景色を見て、口を開けて硬直した。


「何、これ……!?」


 空は紫色。赤い半月が怪しく辺りを照らしている。室内ですらない。由里も見たことのない場所であった。彼女は良いようのない不安に襲われた。

 ここ、どこ……!?

 目を見開いた由里は、後ろを振り返る。

 戻らないと!

 エレベーターの扉が閉まろうとしていた。

 待って!

 由里は慌てて手を伸ばす。

──パタン。


 無情にも、エレベーターの扉が閉まってしまった。

 そんな……!

 膝を付いてへたり込む由里。足元から崩れ落ちるような感覚になった。胸に伸し掛かるような圧迫感を感じた。

 ふと由里の頭上に、影がかかる。

 え?

 由里が顔を上げた瞬間。


 視界が暗転した。


◇◇◇


 後日。とあるマンションの前にて。女性の遺体が見つかった。

 規制線が貼られた中にて。

 現場に到着した男性の警部や刑事達は、ブルーシートを捲った。警部は遺体を見て眉間を寄せた。

 これは酷いな……。

 警部達は手を合わせ静かに黙祷をした後、観察した。

 女性の遺体は見るも無惨な姿であった。

 仰向けに倒れており、上半身には、まるで何者かに引き裂かれてたかのように跡があり、血で赤く濡れていた。目は恐怖に大きく見開かれている。

 警部が交番の警察官に聞くと、女性はここのマンションの最上階に住む伊住由里だと言うことが分かった。このマンションは地下駐車場があるらしい。

 鑑識に聞くと、死亡推定時刻は、昨日の夜七時から深夜二時頃とのことであった。

 落下したにしては骨が折れていない。被害者が転落したとは思えないな。傷を見るに、殺人か?

 話を聞いた後。

 警部は、地上六階あるマンションを見上げる。とりあえず、被害者の住む部屋に行ってみるか。彼は、部下に声をかけた。

「被害者、伊住由里さんの部屋に行くぞ。」

「はい!」

 
◇◇◇


 その後、警察が懸命に捜査をしたが、由里を殺害した犯人が見つかることはなかった。

◇◇◇


 浩明が怪談を読み終わった後。

 沙耶は顔が強張っていた。身体が小刻みに震えている。

「怖かったわ……!」

 沙耶が小さい声で言うと、レイは首を縦に振った。

「本当にね。」

 レイは孝二にピッタリとくっついていた。

「ねえ?孝二もそう思わない?」

「そうか?」

「え、怖かったわよ。」

 孝二は首を横に傾ける。レイは更に彼の方に身を寄せた。

 レイが怖がっているのは本当であろう。しかし、彼女がここまで密着するのは、他意があるからである。沙耶は普段は応援するところだが、今はとてもそんな気分になれなかった。

 孝二は、身を引きつつ、静かな目を隣の少女に向けた。

「茉莉はどうだ?」

「え?」

 茉莉は、目を瞬かせた。緩く首を傾けると、苦笑を浮かべる?

「怖かった、かも?」

 浩明はそんな沙耶達に視線を巡らすと、パン、と軽く手を叩いた。視線が集中すると、浩明は白い歯を見せて笑う。彼は白い紙とペンを人数分掲げて見せた。

「よーし、クイズだ。怪異や異変は何体か、その理由を含めて、それぞれ紙に名前付きで書いてくれ!」

 更に、浩明は、ルールを説明した。エレベーターそのものは数えず、エレベーターの中のものを示すこと。間を置かずに起きたことは、一体、と数えること。もし二体を書いても、一体としてカウントする、とした。

「回答はページにあるから、本を確認しても良いぞ。その代わり、相談はしないでくれよな。」


 配られた紙を、沙耶はじっと見つめた。怪談が終わったばかりなのに、もうクイズって……。彼女は眉を下げる。思い出したら怖くなるんだけど。

 沙耶は周りに視線を向ける。友人達は──レイも前屈みで本に視線を覗き込んでいた。各自考え込みながら、見えないように紙にペンを走らせている。仕方ないわね……。

 沙耶は小さく息を吐く。彼女はペンを持つと、前のめりになる。文字を目で追いながら思考を巡らせた。背筋に鳥肌が立つ。

 確かにおかしい点は、幾つかあるけど。沙耶は口元を引き締めると、身体を小さくさせながら、紙に回答を書き綴った。

 ふと見ると周りがお菓子を摘んでいるのを見て、沙耶はクッキーを一つ口に入れた。サク、と言う音と共に、優しい甘味が口に広がる。彼女の口元が緩んだ。

「書き終わったか?じゃあ、渡してくれ。」

 浩明の声に、沙耶達四人は紙を彼に渡した。彼は紙が手元に来ると、答えが書かれているページを見えないように開き、一枚一枚に目を通し出した。

 そして、浩明は一人一人に応えていく。

「レイ、二体か。……不正解。」

「えー、残念。怖いけど、折角考えたのに……。」

 レイは、肩を竦める。沙耶と目が合うと、眉を下げて笑った。

「茉莉、三体。……不正解。」

「残念だなあ。」

 茉莉は、眉を下げて苦笑した。

 次を発表する前に、浩明は、本を持ち上げて、目を通す。彼は眉を下げた。

「孝二、四体か。不正解。惜しいな。理由もちょっと違うんだよなあ。」

 孝二は、眉を顰めて浩明を見た。

「四体?五体じゃなくてか?」

 浩明は、孝二と目と目が合うと、首を縦に振った。

「そうだ。五体と書かれていたが、連続する怪異だったら、四体だ。」

「そうか。」

 孝二は、眉を顰めた。残念そうにため息を吐く。数はともかく、不正解だったからであろう。

「私も間違ったから。惜しいだけ凄いわよ。」

「そうよ、あたしも。」

 レイと茉莉が声をかけて励ます。孝二は、二人の顔を交互に見ると、表情を緩めた。

「ありがとう。」

「さて、最後。沙耶……。」

 沙耶は、自分の番になり、息を呑んだ。他の三人の視線が集中しているのを感じる。彼女は両手の拳を握ると、眉を下げ、じっと待つ。折角考えたから、正解であって欲しいな。沙耶は、浩明を挑むようにじっと見た。

 浩明は、本の文字に目を通す。

 数拍置いて。

「五匹!理由もあってるぞ。沙耶、正解!」

「え?」

 浩明は、目を輝かせると、大きく拍手をした。

 沙耶は、目を見開いた。正解!?一瞬置いて、おおー!と歓声が沸く。拍手が上がった。

「凄い!沙耶!」

「やったな。」

「やったね、沙耶!」

 レイ、孝二、茉莉が続々と沙耶を褒める。

 沙耶は、目を白黒させる。浩明と目が合うと、彼は微笑を浮かべていた。沙耶はにかみ、胸の前で手を組む。胸が弾んだ。

「ありがとう。まさか、正解なんて……。」

 そう言った沙耶は、次に浩明の言った言葉に、表情が固まった。

「じゃあ、沙耶。理由を説明してくれないか?」

「え!?私が!?」

 沙耶は目を見開く。身を乗り出して、浩明に尋ねた。浩明は、首を捻っていた。何を言っているんだ?と言わんばかりである。

「でも、正解は、本にあるんでしょう?私が言わなくても……。」

「そりゃ、そうだけど。沙耶が正解したんだから、沙耶が説明した方が良いだろ。」

「ええ……。」

 また、怖い話をするの?沙耶は視線を彷徨かせ、顔を伏せた。

「お願い、沙耶。」

 レイの声に、沙耶は顔を上げる。彼女は目を輝かせてこちらを見ていた。次に、孝二、茉莉に視線を向ける。彼等は、期待に満ちた目で沙耶を見ていた。沙耶の口元が引き攣る。怪談、怖いんだけど……。

 浩明に視線を向けると、はい、と紙を渡された。手元には本。あれを皆で見れば良いのに……。彼女は眉を寄せてそちらを見ていたが、ため息を吐くと、紙を手に保つ。えーと、と呟いてから説明し始めた。

「怪異は、さっき言った通り全部で五体。まず一体目は、エレベーターの表示パネルに憑いているわね。画面が歪んでいたし、ジジ、と言う音がしていたもの。この二つは、一体の怪異としてカウントしたわ。」

 四人は、静かに沙耶の話を聞いている。

「二体目の怪異は、エレベーターに乗って来た怪異ね。ドアが開いたし、見えないけれど、隣に気配を感じていたもの。これらも、一つの怪異としたの。」

 孝二は、静かに頷いた。

「三体目は、エレベーターから出た後の、異界そのものが怪異……、と言えるんじゃないかしら。」

 レイは、あ、そうね、と呟く。

「四体目は、主人公、由里を襲った怪異よね。姿は見えなかったけれど。複数いたかもしれないけれど、クイズなら、一体よね?」

 沙耶は、紙を強く握ると、僅かに震える口で、付け加えた。

「引き裂かれた、とされてたし。」

 レイが、身を震わせた。

 沙耶は、一度深呼吸をしてから、続きを話す。

「最後に、五体目。主人公は、普段からマンションを使っていたはずよね?と言うことは、地下のB1Fを見ていたはず。なのに、1Fから7Fを見ても、何も違和感を感じなかった。つまり、違和感を感じさせないような、怪異がいたんじゃないかしら。表示パネルとは別に。」

「……だから、五体よ。」

 孝二は、成程、と呟いた。茉莉は、確かに、と頷く。

「後は、気付いてる人が多いかもしれないけれど。最初に、主人公由里は、七階建てのマンションに住んでる、と言っていたけれど。多分、地下を含めて七階、と言う意味だったんじゃないかしら。地上七階、とは言ってないもの。警部達は、地上六階あるマンションを見上げた、と最後になっていたし。叙述トリック、じゃないかしら?」

 沙耶は、一通り喋り終えると、ため息を吐いた。知らず識らずの内に肩に力が入っていた。

 一瞬置いて。

 沙耶は左から誰かに抱き付かれた。

「凄いわ!沙耶!」

 沙耶は身を見開いた。左を見ると、レイが、彼女に満面の笑みを向けていた。沙耶は眉を下げて笑う。

「そ、そうかな?」

「そうよ!私は、二体しか分からなかったもの!」

 出題者である浩明は、前のめりで言った。

「解説上手いな!沙耶!」

 浩明の言葉に、沙耶は、顔を綻ばせた。心に日が指す。

「ありがとう。」

 浩明は、続いて説明する。

「表示パネルの音と表記。扉が開いたことと隣の気配は、それぞれ一体として数えたんだ。」

「だから、俺のは四体だったのか。」

 孝二が小さく呟く。茉莉が聞いたところ、彼は扉と気配を別物として数えた、と語った。成る程ね。

「沙耶、凄いな。俺は、表示パネルだけ答えたからな。そうか、思考操作か……。」

 孝二は、腕を組みながら、何度も頷いていた。

「孝二も、凄いと思うけど。」

「勿論、孝二も凄いよ!」

「そうか、ありがとう。」

 沙耶とレイの言葉に、孝二は、穏やかに笑った。

 茉莉は、あーあ、と呟く。

「あたしは、三体って、書いたからなあ。そうか、異界や違和感を感じさせないのも、怪異よね。」

 茉莉は、苦笑すると、続いて付け加えた。

「実は、話を聞いてて、最初、由里も怪異だったりして?と思ったんだよね。……書かなかったけど。」

 え?茉莉が言った言葉に、全員が彼女の顔を見た。彼女は、緩く首を傾けながら、淡い笑みを浮かべて言う。

「実は、由里は悪魔的存在に憑かれていた。エレベーターの先は、魔界で、悪魔は帰らなきゃいけなくなった。それで、取り憑いていた人間である由里の身体から離れた。不要になったから、拠り所であった由里を襲った、とか。違ったけどねー。」

 カラカラ、と明るく笑う茉莉。一瞬おいて、ひえ、と沙耶の口から、小さく悲鳴が漏れる。沙耶とレイは、抱き合って震えた。

「もっと怖くしないで!」

「貴方の発想の方が怖いわ!」

「ごめん、あたし、怪談とか結構読むからさあ。」

 頭に手を当て、軽く笑いながら謝る茉莉。そう言えばそうだった……。

「悪魔とは、本より怖いな!」

 浩明は、あははは、と大きな口を開けて笑っていた。

 孝二は、目を光らせて、茉莉を見ていた。面白いものを見つけたような目に、沙耶は口元が引き攣った。泥沼関係にならないよね?

 沙耶は、頭の中で地獄の構図を思い浮かべた。

 沙耶は、頭を勢い良く振る。ないない!そんなこと、あるわけがない!……そうよね?

 本を皆で確認したが、沙耶の回答したのと同じ答えであった。そんなこともあるのね……。


「じゃあ、沙耶にアイスな。」

 沙耶の気分が僅かに浮上する。アイス!彼女の口元が緩んだ。

「良いな。」

「良いなー。」

「あたしも欲しい。」

 周りは羨ましそうな目を沙耶に向けた。浩明は苦笑した。

「ご褒美だからな。流石に全員分は奢れねえよ。」


 レイあるいは沙耶の顔色を見てか、今日はそのまま解散することになった。

 帰りに浩明は、沙耶にチョコをくれた。

「元気出せよ。」

「ありがとう。」

 沙耶が微笑むと、浩明は満面の笑みを向けた。


 帰り、マンションのエレベーターに乗る時。沙耶とレイの身体が硬直した。

「どうしよう……。」

「ちょっと、怖いわよね。」

 顔を見合わせ、足を縫い付けられたように動かない二人。そんな二人に横から声がかけられる。

「大丈夫だよ。」

「何も起こらないだろ。」

 孝二は真っ先に乗り込み、笑みをこちらに向けた。続いて茉莉が乗り、手招きをして沙耶達を催促する。沙耶とレイは顔を見合わせると、頷き、同時に乗った。

 確認したが、エレベーターの表示に異変はない。沙耶は、胸を撫で下ろす。ため息を吐いた。

 浩明を見ていたためか、孝二は帰りに沙耶達にじゃがこいを買ってくれた。レイが一番嬉しそうであった。

「今度俺も怪談読んでみるか。」

 孝二が呟くのを聞こえて、沙耶は背筋が冷えた。孝二まで?


 途中で友人達と別れ、自転車で帰る沙耶。彼女は、良い知れぬ何かが後ろにいる心地がしていた。

 沙耶は、ハンドルをグッと強く握り締める。絶対今度、浩明にハートフルダッツを買ってもらうわ……!

 沙耶は、追い立てられるようにペダルを踏み込んだ。
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