曖昧な関係

木嶋うめ香

文字の大きさ
13 / 23
後日談と言う名のおまけ

その後の俺たちは1(蛍視点)

「これ美味しいっ」

 夕飯の後で俺は拓が入れてくれたミルクティーを飲みつつ、拓が買ってきてくれたシュークリームを堪能している。
 高校からの友達で、大学卒業後の三年間一緒に暮らしていた拓と俺蛍はついこの間想いが通じ合い、晴れてお付き合いというものを始めた。
 高校の頃からずっと拓に片思いしていた俺にとって、生まれて初めて出来た恋人って奴だ。
 想像でもしも拓が俺の事好きになってくれたら……なんて思ったことすら無かった俺は、はっきり言って毎日が夢の様な気持ちでいっぱいだ。
 だって、好きって思ってくれてるんだよ。
 両想いだぞ、両想い。
 拓の事ずっと好きだったし、これから先も気持ち変わらないだろうから、俺一生一人でこの気持ち抱えてくんだって考えてたのに、両想いで、こ、恋人とか。
 神様、ありがとうって感じだ。
 昔から優しかった拓は恋人になってから更に優しくなり、たまに俺が好きな甘いものを会社帰りに買ってきてくれる様になった。
 今日は金曜日、風呂入った後はネットで映画を観る約束をしている。
 去年の末頃上映してた奴なのに、もうネットで観られる世の中って映画館が苦手な俺にはとってもありがたい。
 映画館って、ずっと同じ姿勢で観なきゃいけないのが辛いんだよなあ。
 でも拓と出掛ける理由になるから、今度は誘ってみようかな。確か今月末から拓の好きなドラマが映画化された奴が始まるんじゃなかったっけ?

「……そうか。美味しいなら良かったよ」

 拓の土産に喜びつつ密かにデート(デートでいいんだよな?)の計画を考えてる俺を、彼はミルクティーを飲みながらにこにこと見つめている。
 甘いものが苦手な拓の前にあるのは、ミルクティーをいれたマグカップだけだ。
 申し訳なく思うも、俺はありがたく生クリームがたっぷりつまったシュークリームに齧り付いている。

「そんなに見られると食べにくいんだけど」

 俺が甘いもの食べている時、飲み物しかない拓は暇なのか俺の顔をただ見ている。
 今までは食後にお茶飲みながらスマホ弄ったりテレビ見たりしてたのに、最近の拓はスマホなんて帰ってきたら自分の部屋に置きっぱなしだ。

「嫌か?」
「嫌っていうか、なんというか」

 顔を上げると拓と目が合う、俺の大好きな人が目を細めて俺を見つめてるとか、何でこんなに幸せで、嬉し恥ずかしって気持ちになるんだろう。

「だって、俺が変なこと言って蛍を誤解させていたからさ、今まで幸せ一杯な蛍の顔を見そびれてたんだろ? もうずっと見てたいんだよなぁ」

 拓の殺し文句に、顔がカッーと熱くなる。
 昔聞いた拓の言葉が理由で、俺は拓の前で甘いものを食べないようにしていた。
 でも誤解だと分かったお陰で恋人になれて、ついでにこうして甘いものを食べられるようになったのだから、嬉しいに決まっている。

「ずっと見てられる、可愛い」
「な、何言って!」

 動揺して、力加減を間違えた俺は右手に持ったままの食べかけのシュークリームを潰しかけ、はみ出た生クリームが人差し指に大量についてしまった。

「うわっ」

 咄嗟に拓は立ち上がりティッシュの箱をキッチンカウンターから持ってきて、俺は条件反射で自分の手についたクリームを舐めた。

「蛍」
「ごめん、行儀が悪かった」

 ティッシュの箱を持ったまま立ちすくんでいる拓に謝りながら、急いで残りを食べきった後手を洗うためキッチンに向かう。

「俺の方こそごめん」

 早口で言う声に横を向くと、拓が眉尻を下げ立っていた。

「俺浮かれ過ぎだな、ずっと見てたいとか、ごめん」

 それは、あの、恋人になったからって解釈で合ってるんだろうか。

「それなら、俺も浮かれてるから、同じだろ」

 浮かれてるけど、実はまだキスすらしてない。
 拓がそういう雰囲気出してくると、つい俺が逃げちゃうんだ。

「そっか」
「うん」

 俺が逃げ腰になってるの、拓は気がついてるんだろう。
 
「俺、風呂入ってくる。悪いけどカップ洗ってもらっていいか?」
「りょーかい!」

 ふざけて敬礼の真似すると、苦笑いして拓はキッチンから出て行ってしまった。

「……どうしよ」

 一緒に暮してる、拓曰く同棲ってことだ。
 それってつまり、いや、拓にどこまでの感情があるか分からないけど、でも、付き合い出したいい大人の行き着く先って、そういうのだろう。
 もう、露骨に言葉にするのも頭に血が上る。
 
「でも、怖いんだよなあ」

 恋人になれてからすぐに調べた。
 スマホの検索履歴を誰にも見せられないレベルの恥ずかしい単語を並べて、調べまくった。
 受と攻という言葉を、俺は最近知ったばかりだ。
 生涯片思いだと思っていたから、男同士の知識なんて漫画の世界のものですら、自分の耳に入れないようにしていたから、驚愕だった。
 拓と俺なら、間違いなく俺が受なんだろう。
 それはつまり、そういうことで、準備とか考えるだけで貧血になりそうだった。

「上手く出来る気がしない、怖すぎる」

 いつかは決心しないといけないことだけど、今はまだ無理、怖いから途中まででなんて言ったら駄目だよなあ。
 ため息をつきながらマグカップを回収しにリビングに移動した俺は、自分の呟きを拓に聞かれていたと知らなかったんだ。

あなたにおすすめの小説

愛を目にして名前を知る

名衛 澄
BL
しがないサラリーマンの他丸 成誓(たまる なりちか)には、特技ともいえない残念な特性があった。それは、マッチングアプリで出会った相手から恋愛相談を受ける、というものである。なぜかいつも聞き役となって話をするうちに、相手は別の相手への想いを燃え上がらせ、成誓は振られるのがお決まりだった。 誰か自分を見てくれる人はいないのか。落ちこむ成誓の前に現れたのは、クールな年下の青年、『ゆきさん』で―― 内に情熱を秘めた年下学生×不憫な世話焼き年上リーマン -マチアプ全敗おじさんがクールな無表情年下男子に陥落する話-

サンタからの贈り物

未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。 ※別小説のセルフリメイクです。

好きなタイプを話したら、幼なじみが寄せにきた。

さんから
BL
無愛想美形×世話焼き平凡 幼なじみに好きバレしたくない一心で、真逆の好きなタイプを言ったら……!?

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

鈴木さんちの家政夫

ハル
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて鈴木家の住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

幼なじみをやめる正しい方法

ryon*
BL
翔太は万年恋人募集中の、非モテ陽キャ男子。 そのため大学一のモテ男で、幼なじみの朔に相談する。 翔太がマッチングアプリで知り合った年上の女性・早苗と会おうとしていると知り慌てる朔。 実は朔は翔太を独占するために、裏で妨害工作を続けてきた超ド級の執着男だったのだ! いきなり会うのではなく、自分とデートの練習をしてみてはどうかと朔は提案。 素直でおバカな翔太は、それを大喜びで受け入れるが……!? *** ※表紙にはミカスケ様のフリーイラストをお借りしています。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??