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白い狐と懐かしい名前
私って、ちょっと図々しすぎるかもしれない。
うどんを汁まで全部頂いて、熱燗も遠慮無しに頂いて、紺さんに愚痴まで聞いて貰った後なんと満足して眠ってしまった。
眠ったのは三十分程だったのかもしれない、でももう夜中だ。
ぐっすり眠って満足して起きたら、まだ和室で毛布も掛けられていて、ぎゃあと悲鳴を挙げて飛び起きて、隣の部屋に居た紺さんが驚いて飛んできた。
不作法を詫びて、不作法ついでにおトイレまで借りて、また誠心誠意謝った。
紺さんは夜中起きているからと笑っていたけれど、そんなの初対面の図々しい行ないを許す理由にはならない。
「本当に申し訳ありません。あの、お礼にもお詫びにもなりませんが、良かったら」
白ワインはすでに全部飲んでしまったから、袋に残っていたコップ酒と焼酎とウィスキーの瓶を差し出した。ついでにおつまみと炭酸も。
「気にしないで下さい。本当に、夜一人でいつも暇だったんです。だから、気にしないで」
そう言って、紺さんは夜だからと白湯を入れてくれる。
飲み過ぎた脱水症状の体に、温かい白湯が優しく染みていく。
「でも、あ。じゃあお稲荷さんは」
「お稲荷さん。さっきお供え頂いた?」
「はい。まだあるので、こちら良かったら」
袋に入ったそれを差し出したら、その様子に驚かれた。
ビニール袋の中で、透明なパックにはみ出しぎみに入っているお稲荷さんはちょっとシュールな見た目だと私も思う。
「一人じゃ食べきれないですし」
「随分沢山買われたんですね」
「坂の下でお稲荷さんの屋台が出ていて、狐面をしたお兄さんがサービスしてくれて」
「ああ、成程。だからですか」
「え」
「いいえ。では、お酒は遠慮しますが、お稲荷さんは何個か頂いても?」
「勿論です」
お礼ところか、これは押しつけになっちゃうかも。
ちょっと悩みながら、紺さんが持ってきたお皿にお稲荷さんを五個移した。
「こんなにいいんですか」
「はい。食べて下さい。美味しそうですよね」
「では、朝ご飯に頂きます」
「是非」
残った二個は無事パックに収ったので、安心してコンビニ袋の中にしまう。
「じゃあ、帰ります」
「もう遅いですが、大丈夫ですか」
立ち上がり荷物を掴むと、紺さんは心配そうにコートを渡してくれた。
地面に座ってたのに、不思議とどこにも汚れがついていない。
「大丈夫です。夜遅いのは慣れてますから」
仕事で終電なんてのもたまにあるし、週末動画撮っていて夜中にお腹が空いてコンビニに買い物なんてのもたまにある。
思えば、透先輩は部屋に泊った事も無かったな、忙しいといつも言ってたからこちらから言うのは気が引けて、週末は透先輩からの連絡待ちつつ動画撮ったり編集したり、作品作ったりばかりしてた。
先輩は自宅から通勤してたし、会うのは私のマンションが多かったのに、仕事が忙しいと平日は仕事の後たまにご飯を食べに行く程度で、週末会えるのも月に一、二度。
これで真面目に付き合ってたと思ってた私が馬鹿だったんだ。
花村さんが忙しい時の暇つぶしを私でしてただけじゃないの。
本当、私間抜けだ。なんで気がつかなかったんだろう。
「由衣さん?」
「灯り、綺麗ですね」
社務所の外に出て、ぼおっと考えながら赤い鳥居が続く参道を照らす灯りを見ていた。
青白い灯りは小さな石の灯籠の様だけど、蝋燭の明りの様に揺れている。
電気じゃないのかな、蝋燭を使ってる?
「私がいる時は灯りがついていますから」
「そうなんですね」
ということは、いつもいるわけじゃないのかな。
「きゅう」
考えていたら足下で鳴き声がした。
「あ」
「おや」
すりすりと小さな白い頭が足にすり寄る。
ふわふわの毛が少しくすぐったい。
「抱っこしてあげてください」
「いいんですか? おいで」
しゃがんで両手を差し出すと、ぴょんと腕の中に飛び込んできた。
可愛い。
「見送りに出てきてくれたの?」
ふわふわの毛を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
「この子が送って行きます。夜道は暗いですから」
「え」
送ってくれるって、この子が?
首を傾げて見つめると、一緒に首を傾げる。
そういえばこの子なんて名前なんだろう。
「名前なんていうの?」
「この子は、十和。数字の十に平和の和でとわと言います」
「えっ」
十和って、私が昔持っていたぬいぐるみの名前と同じだ。
凄い偶然。
「どうかされましたか」
「いえ、あの。なんでも可愛い名前ですね。十和」
「白い狐は珍しいでしょう。小さいですが、頭が良い子ですから安心して連れて行って下さい。一人で戻ってきますから」
狐って飼っていいんだ。というかこの子、犬だと思ってた。
「いえ、あの一人で帰すのはあれですし」
どうしよう。今夜一人でいるのはちょっと辛い気もするし、十和が一緒ならちょっと嬉しいけど。
「じゃあ、明日まで預かって頂けますか? ご飯等は心配不要です。明日の昼は私はいませんが、参道の前で離して頂けたらここに戻ってきますから」
「いいんですか。大丈夫ですか?」
躾されてても、本当にそれで大丈夫なのかな。
ちょっと心配だけど、十和は私の腕から出る気が無いみたい。
「じゃあ、十和に付き合って貰おうかな」
頷く紺さんに見送られて、私はこうして帰路についたのだった。
うどんを汁まで全部頂いて、熱燗も遠慮無しに頂いて、紺さんに愚痴まで聞いて貰った後なんと満足して眠ってしまった。
眠ったのは三十分程だったのかもしれない、でももう夜中だ。
ぐっすり眠って満足して起きたら、まだ和室で毛布も掛けられていて、ぎゃあと悲鳴を挙げて飛び起きて、隣の部屋に居た紺さんが驚いて飛んできた。
不作法を詫びて、不作法ついでにおトイレまで借りて、また誠心誠意謝った。
紺さんは夜中起きているからと笑っていたけれど、そんなの初対面の図々しい行ないを許す理由にはならない。
「本当に申し訳ありません。あの、お礼にもお詫びにもなりませんが、良かったら」
白ワインはすでに全部飲んでしまったから、袋に残っていたコップ酒と焼酎とウィスキーの瓶を差し出した。ついでにおつまみと炭酸も。
「気にしないで下さい。本当に、夜一人でいつも暇だったんです。だから、気にしないで」
そう言って、紺さんは夜だからと白湯を入れてくれる。
飲み過ぎた脱水症状の体に、温かい白湯が優しく染みていく。
「でも、あ。じゃあお稲荷さんは」
「お稲荷さん。さっきお供え頂いた?」
「はい。まだあるので、こちら良かったら」
袋に入ったそれを差し出したら、その様子に驚かれた。
ビニール袋の中で、透明なパックにはみ出しぎみに入っているお稲荷さんはちょっとシュールな見た目だと私も思う。
「一人じゃ食べきれないですし」
「随分沢山買われたんですね」
「坂の下でお稲荷さんの屋台が出ていて、狐面をしたお兄さんがサービスしてくれて」
「ああ、成程。だからですか」
「え」
「いいえ。では、お酒は遠慮しますが、お稲荷さんは何個か頂いても?」
「勿論です」
お礼ところか、これは押しつけになっちゃうかも。
ちょっと悩みながら、紺さんが持ってきたお皿にお稲荷さんを五個移した。
「こんなにいいんですか」
「はい。食べて下さい。美味しそうですよね」
「では、朝ご飯に頂きます」
「是非」
残った二個は無事パックに収ったので、安心してコンビニ袋の中にしまう。
「じゃあ、帰ります」
「もう遅いですが、大丈夫ですか」
立ち上がり荷物を掴むと、紺さんは心配そうにコートを渡してくれた。
地面に座ってたのに、不思議とどこにも汚れがついていない。
「大丈夫です。夜遅いのは慣れてますから」
仕事で終電なんてのもたまにあるし、週末動画撮っていて夜中にお腹が空いてコンビニに買い物なんてのもたまにある。
思えば、透先輩は部屋に泊った事も無かったな、忙しいといつも言ってたからこちらから言うのは気が引けて、週末は透先輩からの連絡待ちつつ動画撮ったり編集したり、作品作ったりばかりしてた。
先輩は自宅から通勤してたし、会うのは私のマンションが多かったのに、仕事が忙しいと平日は仕事の後たまにご飯を食べに行く程度で、週末会えるのも月に一、二度。
これで真面目に付き合ってたと思ってた私が馬鹿だったんだ。
花村さんが忙しい時の暇つぶしを私でしてただけじゃないの。
本当、私間抜けだ。なんで気がつかなかったんだろう。
「由衣さん?」
「灯り、綺麗ですね」
社務所の外に出て、ぼおっと考えながら赤い鳥居が続く参道を照らす灯りを見ていた。
青白い灯りは小さな石の灯籠の様だけど、蝋燭の明りの様に揺れている。
電気じゃないのかな、蝋燭を使ってる?
「私がいる時は灯りがついていますから」
「そうなんですね」
ということは、いつもいるわけじゃないのかな。
「きゅう」
考えていたら足下で鳴き声がした。
「あ」
「おや」
すりすりと小さな白い頭が足にすり寄る。
ふわふわの毛が少しくすぐったい。
「抱っこしてあげてください」
「いいんですか? おいで」
しゃがんで両手を差し出すと、ぴょんと腕の中に飛び込んできた。
可愛い。
「見送りに出てきてくれたの?」
ふわふわの毛を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
「この子が送って行きます。夜道は暗いですから」
「え」
送ってくれるって、この子が?
首を傾げて見つめると、一緒に首を傾げる。
そういえばこの子なんて名前なんだろう。
「名前なんていうの?」
「この子は、十和。数字の十に平和の和でとわと言います」
「えっ」
十和って、私が昔持っていたぬいぐるみの名前と同じだ。
凄い偶然。
「どうかされましたか」
「いえ、あの。なんでも可愛い名前ですね。十和」
「白い狐は珍しいでしょう。小さいですが、頭が良い子ですから安心して連れて行って下さい。一人で戻ってきますから」
狐って飼っていいんだ。というかこの子、犬だと思ってた。
「いえ、あの一人で帰すのはあれですし」
どうしよう。今夜一人でいるのはちょっと辛い気もするし、十和が一緒ならちょっと嬉しいけど。
「じゃあ、明日まで預かって頂けますか? ご飯等は心配不要です。明日の昼は私はいませんが、参道の前で離して頂けたらここに戻ってきますから」
「いいんですか。大丈夫ですか?」
躾されてても、本当にそれで大丈夫なのかな。
ちょっと心配だけど、十和は私の腕から出る気が無いみたい。
「じゃあ、十和に付き合って貰おうかな」
頷く紺さんに見送られて、私はこうして帰路についたのだった。
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