おきつねさんとちょっと晩酌

木嶋うめ香

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その後の私達4

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「人から離れた……それは間違ってないけど」

 紺さんがしょんぼりしてしまうと、十和もしょんぼりしてしまうから困る。
 私は紺さんの眷属になって、番になって人の理から外れた存在になってしまったのは事実だ。
 具体的に言えば、私が作った料理は神様でも食べることが出来るし、人じゃないものが見えるようになったし、眠らなくても平気になってしまった。
 一応は、まだ人ではあるけれど、徐々に存在が人では無いものに移行していくらしいけれど、寿命が尽きるまでは人のままだともいうので、自分でもよく分からない存在になりつつある。

「由衣は今の生活、後悔はありませんか」
「後悔は無いですよ。お休み処の仕事も楽しいですし、株は相変わらず謎の利益が出てますが」

 今の生活、私は今稲荷神社の境内でお休み処を営業している。
 会社を三年前に辞めて、調理師専門学校に通い、その後稲荷様のご希望でお休み処を開いた。
 専門学校に通うお金とその頃の生活費は、先輩からの慰謝料を使った株取引先とか私の動画の収益とか、樹脂粘土細工の作品の売上で十分賄えた。
 以前根田さんが金運が良くなると言っていた通り私はお金に困るということが全くなく、それどころか何故か分からないけれど増え続けている。
 最初は取り敢えず始めた株だった。慰謝料をどう使おうと考えて、株主優待目的で良く行くスーパーとかドラッグストア等の株を購入したのが始まりだった。
 慰謝料を自分の貯金と同じ口座に入れたままにしておくのが嫌で、とにかく何かに使ってしまいたかった。それで何となく閃いて、無くなってもいいやとばかりに慰謝料全額で株を購入したのだ。
 株主優待目的のスーパーとドラッグストア、後は何となく気になった銘柄を選んだ。そしたら株価が爆上がりして、想定より多く入ってきた配当金でまた株を買った。
 金運が良くなるは本当だったらしく、というより私の想像を超える良さで、素人がして成功する筈がない株の売買で気がつけばとんでも無く利益が出ていた。
 ちなみに、使ったのは慰謝料のみだ。
 株主優待目的のところは基本購入したらそのままキープ、他は気分で売り買いしていた。
 何か情報を仕入れるのではなく、勘だけで、売り買いしていたのはギャンブルにしても酷すぎたかもしれないけれど、突然あの株売っちゃおうとか、あの会社の株買ってみようかなと思いついて、気がつくと取引してしまっているのだから、なんというか取引しているのは自分なのに、自分じゃない感覚があるのは戸惑うけれど、いつの間にか慣れてしまった。
 
「あぁ、株……楽しんでいる方がいるから……」
「楽しむ?」
「うん、由衣が株で利益が出たら美味しもの沢山作れるようになるかもって以前言っていたから」
「それは覚えがありますけど、それで楽しむ?」

 株って楽しめるものだった? 首を傾げる私に紺さんは「稲荷様と根田さんがね」と打ち明けた。

「ええと、つまり?」
「由衣、普段慎重なのに株関係だけ勘だけで動いているって気がついてる?」
「それは、なんかその方が良い気がして、私全然株に詳しくないですし」

 あれ? 普通詳しく無いなら勉強するものじゃないのかな。私かなり大胆にお金動かしてたかもしれない。そして、それが当然だと今の今まで信じ込んでいた。

「貯金や退職金は使ってないのは知っているよ。由衣は投資で生活しようなんて考えてないのも」
「それは……」

 動画の収益と樹脂粘土の売上だけで生活出来ていたからあまり考えてなかったけれど、株の取引で利益が出ても、配当金は紺さん達に食べてもらうものを作る材料購入以外に使ってないし、株主優待も基本食材購入に使える金券か、お米とかの食材が貰えるものばかりだ。

「でも元々上手く利益が出たら美味しいもの沢山作れるようになるなって思ってたので、そしたら皆喜んでくれるかなって」

 あのお金は悲しい思いの代償に得たものだから、自分のために使うのは嫌だった。
 貯金にしてしまうのも嫌だったけれど、一気に全部使えてしまう様な額では無かったから、皆に食べてもらう食材をずっと買えるように始めたんだ。

「由衣らしい考え方だと思うよ。稲荷様も根田さんもただ寝かせておくだけにしないのが面白いって言ってね。ついつい口出ししてたみたいだね」
「ついつい口出し、つまり私の勘が口出し。あ、まさか宝くじも?」

 稲荷様に神社の境内に店を用意するからお休み処をやって欲しいと言われて、お店を始めるなら自分のお金を使いたいけれど、貯金だけじゃちょっと開店資金には足りないなと考えながら街を歩いていて宝くじ売り場に呼ばれた気がして一枚購入した。
 当たりハズレがすぐに分かるスクラッチのくじをその場で削って、一等が出たのを見て固まったのは私ではなく売り場の人だった。
 マンションを買う時にも経験していたけれど、それよりも高額の一等、同じ一等でも桁が一つ違っていた。スクラッチのくじって一等色々あるんだとその時知ったけれど、お陰で私はお休み処を始める決心がついたのだ。
 今は甘味と軽食を出す小さなお店を、紺さんと二人で切り盛りしている。
 紺さんも昼間に人の形になれるようになったから楽しそうに働いてくれているけれど、私の目には耳や尻尾がある人達が頻繁にお客さんとして来てくれるから、慣れない内は挙動不審になったりした。
 神社の境内は稲荷様の力が強い場所だから、悪いものは入ってこられないけれど、狐とか蛇とか馬とか、神様の使いの方々って色々なんだと勉強の毎日だ。そしてたまに神様らしき方々の姿も稲荷様以外にも見えるから、全く気が抜けない。

「稲荷様、どうしても由衣にお店やって欲しかったみたいなんだよね。稲荷様、由衣が作る料理のファンだから。他の神様にも宣伝という名の自慢をしていたりもするし」
「稲荷様~っ!」

 今更知る事実に、私は思わず叫んでしまうのだった。
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