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第一部
4章-5
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ブチ猫は立ち上がると、カテリアーナとノワールを簀巻きにしていた縄をナイフで切る。
「お前らは部外者だ。巻き込まれないうちに裏口から逃げな」
「妖精石はいらないの?」
体が自由になったカテリアーナはこてんと首を傾げる。
「それは惜しいが……部外者を巻き込むわけにはいかねえからな」
ブチ猫は見た目に反して……いや見た目はカテリアーナには十分に魅力的なのだが……。乱暴な言動に反して、意外と人情に厚い性格のようだ。猫だが……。
ツリーハウスの入り口に立つと、ブチ猫は手下の猫たちに檄を飛ばす。
「野郎ども! 行くぞ!」
「おー!」という声とともに猫たちが飛び出して行く。
取り残されたカテリアーナとノワールは彼らの後ろ姿を見送る。
「ハードボイルドね」
「それとは違うな。猫たちの熱き戦いといったところだろう」
「え! ソゥレの森のやつらというのも妖精猫なの?」
「エルファーレンの多くの民はケットシーだ」
それを聞いたカテリアーナはいてもたってもいられず、窓に駆け寄る。眼下には猫たちの戦いが繰り広げられていた。
「もふもふがいっぱい! はっ! こうしてはいられないわ」
カテリアーナは壁に立てかけてある弓を持ち、隣に置いてあるトランクから矢を取り出す。
ルゥナの森の猫たちは律儀にカテリアーナの荷物を運んでくれたのだ。
「カティ、何をする気だ?」
「牽制をするのよ」
弓に矢を番え、窓から放つ。木を打つ高い音が聞こえると、猫たちの動きがピタリと止まる。
放たれた矢は猫たちの頭上を横切り、木に命中したのだ。
「あなたたち! ケンカはやめなさい!」
よく通るカテリアーナの声がルゥナの森に響く。
◇◇◇
その場に居合わせた猫たちは一斉にカテリアーナのほうを見る。
「もふもふがわたくしに注目している! ああ、どの子もなんて可愛いの!」
「そのようなことを言っている場合か? せっかくルゥナの森のごろつき猫が逃がそうとしてくれたのに、標的がカティに変わったらどうするのだ?」
緊迫感がないカテリアーナにノワールが二足立ちして彼女を叱る。
「それでいいのよ。牽制といったでしょう? これ以上、猫たちが傷つくのを見るのはいやだわ」
「カティ……」
ツリーハウスの入り口に駆け出したカテリアーナは一気に地面めがけて飛ぶ。
いきなり木の上から降ってきたカテリアーナに驚いた猫たちは、反射的に後退りする。
「何やってんだ!? 逃げろって言っただろうが!」
いち早く反応したのはブチ猫だった。
「ルゥナの森の。その娘はハイエルフか? 何だってこんなところに?」
ブチ猫の反対側にいるのは、顔がくしゃっとした猫だ。今まで見かけたことがないので、おそらくソゥレの森から襲撃してきた猫だろう。
「ソゥレの森の。この娘は関係ねえ。見逃してやっちゃくれないか?」
「あら、可愛い。くしゃ猫ちゃん」
ソゥレの森のリーダーらしき猫はカテリアーナに撫でられて、喉をゴロゴロと鳴らす。いつの間にブチ猫からくしゃ猫のほうへ移動していたカテリアーナだった。
「ゴロゴロ……にゃああん……じゃなくて! 誰がくしゃ猫だ!」
どこかで見たようなやり取りだ。
ソゥレの森のリーダーはカテリアーナから素早く離れる。
「ブチ猫ちゃんにも同じことを言われたけれど、わたくしはハイエルフではないわ、くしゃ猫ちゃん」
「だから、くしゃ猫じゃねえって言ってんだろうが! これはな。漢同士の戦いだ! 女は引っ込んでろ!」
くしゃ猫は爪を出しながら、腹の底に響くような声で怒鳴る。
「そういうわけにはいかないの! 今すぐケンカはやめなさい!」
「関係のないやつが顔を突っ込んでくるな!」
「だって! もふもふが傷つくのを見るのはいやなの!」
その場にいた猫たちは皆、カテリアーナの力説に呆気にとられる。
「「「「「は!?」」」」」
「ぶっ!」と噴き出す声がツリーハウスの裏手から聞こえる。
ノワールにしては声が違う。それにノワールはカテリアーナのそばにいる。
「カルか。遅いぞ」
「申し訳ありません。少し手間取りました」
声の主に不機嫌そうな声でノワールが言う。
ツリーハウスが建っている木の陰が出てきたのは、エルファーレンの国王補佐カルス・フェアフィールドだった。よく見ると、カルスの裏からエルファーレン王国の騎士たちも姿を現す。カテリアーナを護衛してくれた騎士の姿もある。
「げっ! マッドサイエンティスト・カルスじゃねえか。何でこんなところに?」
ブチ猫の呟きにカテリアーナは眉を顰める。
「マッドサイエンティスト? カルス様が?」
「姉ちゃん、あいつと知り合いなのか?」
「ええ、まあ……」
カルスとエルファーレンの騎士がここに来たということはフィンラスもここに来ているということだ。
カテリアーナは思わず冷や汗が出る。
「どこへ行く? カティ」
その場からこっそり抜け出そうとしていたカテリアーナをノワールが呼び止める。
「ちょっと、お花を摘みに……」
口に手を当てて、「オホホホ」とカテリアーナはごまかし笑いをする。
「今度は逃がさぬぞ。カテリアーナ」
ぽんという音とともにノワールの姿が変わる。
「お前らは部外者だ。巻き込まれないうちに裏口から逃げな」
「妖精石はいらないの?」
体が自由になったカテリアーナはこてんと首を傾げる。
「それは惜しいが……部外者を巻き込むわけにはいかねえからな」
ブチ猫は見た目に反して……いや見た目はカテリアーナには十分に魅力的なのだが……。乱暴な言動に反して、意外と人情に厚い性格のようだ。猫だが……。
ツリーハウスの入り口に立つと、ブチ猫は手下の猫たちに檄を飛ばす。
「野郎ども! 行くぞ!」
「おー!」という声とともに猫たちが飛び出して行く。
取り残されたカテリアーナとノワールは彼らの後ろ姿を見送る。
「ハードボイルドね」
「それとは違うな。猫たちの熱き戦いといったところだろう」
「え! ソゥレの森のやつらというのも妖精猫なの?」
「エルファーレンの多くの民はケットシーだ」
それを聞いたカテリアーナはいてもたってもいられず、窓に駆け寄る。眼下には猫たちの戦いが繰り広げられていた。
「もふもふがいっぱい! はっ! こうしてはいられないわ」
カテリアーナは壁に立てかけてある弓を持ち、隣に置いてあるトランクから矢を取り出す。
ルゥナの森の猫たちは律儀にカテリアーナの荷物を運んでくれたのだ。
「カティ、何をする気だ?」
「牽制をするのよ」
弓に矢を番え、窓から放つ。木を打つ高い音が聞こえると、猫たちの動きがピタリと止まる。
放たれた矢は猫たちの頭上を横切り、木に命中したのだ。
「あなたたち! ケンカはやめなさい!」
よく通るカテリアーナの声がルゥナの森に響く。
◇◇◇
その場に居合わせた猫たちは一斉にカテリアーナのほうを見る。
「もふもふがわたくしに注目している! ああ、どの子もなんて可愛いの!」
「そのようなことを言っている場合か? せっかくルゥナの森のごろつき猫が逃がそうとしてくれたのに、標的がカティに変わったらどうするのだ?」
緊迫感がないカテリアーナにノワールが二足立ちして彼女を叱る。
「それでいいのよ。牽制といったでしょう? これ以上、猫たちが傷つくのを見るのはいやだわ」
「カティ……」
ツリーハウスの入り口に駆け出したカテリアーナは一気に地面めがけて飛ぶ。
いきなり木の上から降ってきたカテリアーナに驚いた猫たちは、反射的に後退りする。
「何やってんだ!? 逃げろって言っただろうが!」
いち早く反応したのはブチ猫だった。
「ルゥナの森の。その娘はハイエルフか? 何だってこんなところに?」
ブチ猫の反対側にいるのは、顔がくしゃっとした猫だ。今まで見かけたことがないので、おそらくソゥレの森から襲撃してきた猫だろう。
「ソゥレの森の。この娘は関係ねえ。見逃してやっちゃくれないか?」
「あら、可愛い。くしゃ猫ちゃん」
ソゥレの森のリーダーらしき猫はカテリアーナに撫でられて、喉をゴロゴロと鳴らす。いつの間にブチ猫からくしゃ猫のほうへ移動していたカテリアーナだった。
「ゴロゴロ……にゃああん……じゃなくて! 誰がくしゃ猫だ!」
どこかで見たようなやり取りだ。
ソゥレの森のリーダーはカテリアーナから素早く離れる。
「ブチ猫ちゃんにも同じことを言われたけれど、わたくしはハイエルフではないわ、くしゃ猫ちゃん」
「だから、くしゃ猫じゃねえって言ってんだろうが! これはな。漢同士の戦いだ! 女は引っ込んでろ!」
くしゃ猫は爪を出しながら、腹の底に響くような声で怒鳴る。
「そういうわけにはいかないの! 今すぐケンカはやめなさい!」
「関係のないやつが顔を突っ込んでくるな!」
「だって! もふもふが傷つくのを見るのはいやなの!」
その場にいた猫たちは皆、カテリアーナの力説に呆気にとられる。
「「「「「は!?」」」」」
「ぶっ!」と噴き出す声がツリーハウスの裏手から聞こえる。
ノワールにしては声が違う。それにノワールはカテリアーナのそばにいる。
「カルか。遅いぞ」
「申し訳ありません。少し手間取りました」
声の主に不機嫌そうな声でノワールが言う。
ツリーハウスが建っている木の陰が出てきたのは、エルファーレンの国王補佐カルス・フェアフィールドだった。よく見ると、カルスの裏からエルファーレン王国の騎士たちも姿を現す。カテリアーナを護衛してくれた騎士の姿もある。
「げっ! マッドサイエンティスト・カルスじゃねえか。何でこんなところに?」
ブチ猫の呟きにカテリアーナは眉を顰める。
「マッドサイエンティスト? カルス様が?」
「姉ちゃん、あいつと知り合いなのか?」
「ええ、まあ……」
カルスとエルファーレンの騎士がここに来たということはフィンラスもここに来ているということだ。
カテリアーナは思わず冷や汗が出る。
「どこへ行く? カティ」
その場からこっそり抜け出そうとしていたカテリアーナをノワールが呼び止める。
「ちょっと、お花を摘みに……」
口に手を当てて、「オホホホ」とカテリアーナはごまかし笑いをする。
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ぽんという音とともにノワールの姿が変わる。
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