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第一部
4章-6
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ノワールがいた場所に現れたのは、エルファーレンの国王フィンラスだった。しかも中洲でカテリアーナに見せた大きな猫姿だ。
あらためて見る猫姿のフィンラスは大きかった。青年姿の時より長身だ。
「ノワールがフィンラス様? フィンラス様がノワール? え? ええっ!」
「後で説明する。カル。カテリアーナを守れ」
「承知いたしました」
混乱しているカテリアーナをカルスに託すと、フィンラスは森同士で争っていた猫たちに向き合う。
「あ! こここ……国王陛下!」
「何で国王がこんなところに!?」
突然現れた国王フィンラスにルゥナの森の猫たちもソゥレの森の猫たちも混乱する。
フィンラスは猫たちを見据えると、大きな体を揺らす。
「ここへ来たのは偶然だ。だが、『悪しきマタタビ』と呼ばれる麻薬の出どころが判明したことは僥倖だったな」
「『悪しきマタタビ』? 新種のマタタビじゃねえのか?」
フィンラスの言葉に真っ先に反応したのはソゥレの森のリーダーだ。カテリアーナがくしゃ猫と呼んだ猫だった。
「それがな。そこの姉ちゃんが言うには『マタタビモドキ』っていう毒らしいんだ」
ソゥレの森のリーダーの問いかけに答えたのは、ルゥナの森のリーダーのブチ猫だ。肉球が覗く前足でカテリアーナを差す。不覚にもチラ見えした肉球にときめいたカテリアーナだった。
「毒だと!? おめえはそんなものを売りつけてたのか? ルゥナの森の」
「これが毒なんて知らなかったんだ! 俺は新種のマタタビとしか聞いてねえからよ」
ルゥナの森とソゥレの森のリーダーが言い合いをし始める。
フィンラスは互いのリーダーを見やると、ため息を吐く。一呼吸した後、カルスに向かって声を張り上げる。
「詳しい話を聞く必要がありそうだ。カル、こやつらを全員捕縛せよ!」
カルスが騎士たちに命じて猫たちを捕縛しようとする。騎士たちが動き始めると、玲瓏な声が響いた。
「お待ちください! フィンラス様!」
冴えた美しい声の主はカテリアーナだった。猫たちが捕縛されると聞いて混乱が解けたようだ。
「どうした? カテリアーナ」
「発言の許可をいただけますか?」
「カテリアーナ姫! 何を!?」
「構わぬ。申してみよ」
カテリアーナを止めようとしていたカルスを手で制すると、フィンラスは続きを促す。
「ここにいる猫たちの中には怪我を負っている者がおります。まずは手当ての許可をいただきたく」
誰もがカテリアーナの言葉に呆気にとられる中、フィンラスのみが不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう。カル、手伝ってやれ」
◇◇◇
互い相対する森同士の戦いで傷ついた猫たちをカテリアーナとカルスが中心になって手当てを行なった。トランクに詰めてきた薬草を次から次へと取り出すカテリアーナの手元をカルスが興味津々に見ている。
「これはオオヨモギにクマツヅラですね」
「ええ。さすがですね。乾燥させてあるのに分かりますか?」
オオヨモギは止血、クマツヅラは痛み止めの効能がある。薬草は乾燥させてしまうと、ただの枯れ草にしか見えない。
「私は半分ケットシーですので、匂いを嗅ぎ分けることができるのですよ」
「猫は嗅ぎ分けができるといいますものね。あ! 申し訳ございません。ケットシーでしたね」
妖精猫であるケットシーをただの猫扱いしてしまったことにカテリアーナは謝罪する。
カルスはにっこりとカテリアーナに微笑みかけた。
「いいのですよ。ケットシーといえども猫には違いありませんから」
「ところでフィンラス様はどうして猫姿なのですか? 他の皆様は人型でいらっしゃるのに」
「人型よりあの姿の方が迫力があるからですよ」
カテリアーナは大きい猫姿で騎士たちにテキパキと指示を出しているフィンラスを見やる。その風貌はいかにも『猫の王様』という感じだ。
「確かにそうですわね」
今、カテリアーナはブチ猫の手当てをしている。ブチ猫は軽い打ち身を負っていたので、患部に湿布をあてるが、巻くものがないことに気づく。
「トランクの中に包帯があったわね」
包帯をトランクの中から取り出すカテリアーナをブチ猫が不思議そうに見ている。
「どうなってんだ? そのトランク」
見た目は大判の本くらいのサイズだ。それほどたくさんの荷物が入るとは思えない。
「ああ。これね。『収納魔法』とやらが付与されているんですって」
「マジか? 『収納魔法』は高度な魔法だぞ」
「そうなの?」
このトランクはノワールに贈られたものだ。嫁入り道具が全くといっていいほどないカテリアーナだが、いろいろと持ち出したいものがあった。だが、それらの荷物を持っていくには、大きい衣装箱が必要だ。
エルファーレンとの国境からは、一人で荷物を持っていかなければならないことを考えると衣装箱は無理だった。ノワールに相談したところ、このトランクをくれたのだ。
古びた皮で作られた小さなトランクは不思議なことに何でも入った。組み立て式といえども、とても入りそうにない弓も楽々と収納できたのだ。取り出す時にはカテリアーナの意思に答えるように欲しいものが出てくる。
「ねえ、ブチ猫さん」
「イアンだ」
「え?」
「俺の名前だ」
ぷいとそっぽを向いたブチ猫イアンが名乗ってくれたことがカテリアーナは純粋に嬉しかった。
「わたくしはカテリアーナよ。カティでいいわ」
あらためて見る猫姿のフィンラスは大きかった。青年姿の時より長身だ。
「ノワールがフィンラス様? フィンラス様がノワール? え? ええっ!」
「後で説明する。カル。カテリアーナを守れ」
「承知いたしました」
混乱しているカテリアーナをカルスに託すと、フィンラスは森同士で争っていた猫たちに向き合う。
「あ! こここ……国王陛下!」
「何で国王がこんなところに!?」
突然現れた国王フィンラスにルゥナの森の猫たちもソゥレの森の猫たちも混乱する。
フィンラスは猫たちを見据えると、大きな体を揺らす。
「ここへ来たのは偶然だ。だが、『悪しきマタタビ』と呼ばれる麻薬の出どころが判明したことは僥倖だったな」
「『悪しきマタタビ』? 新種のマタタビじゃねえのか?」
フィンラスの言葉に真っ先に反応したのはソゥレの森のリーダーだ。カテリアーナがくしゃ猫と呼んだ猫だった。
「それがな。そこの姉ちゃんが言うには『マタタビモドキ』っていう毒らしいんだ」
ソゥレの森のリーダーの問いかけに答えたのは、ルゥナの森のリーダーのブチ猫だ。肉球が覗く前足でカテリアーナを差す。不覚にもチラ見えした肉球にときめいたカテリアーナだった。
「毒だと!? おめえはそんなものを売りつけてたのか? ルゥナの森の」
「これが毒なんて知らなかったんだ! 俺は新種のマタタビとしか聞いてねえからよ」
ルゥナの森とソゥレの森のリーダーが言い合いをし始める。
フィンラスは互いのリーダーを見やると、ため息を吐く。一呼吸した後、カルスに向かって声を張り上げる。
「詳しい話を聞く必要がありそうだ。カル、こやつらを全員捕縛せよ!」
カルスが騎士たちに命じて猫たちを捕縛しようとする。騎士たちが動き始めると、玲瓏な声が響いた。
「お待ちください! フィンラス様!」
冴えた美しい声の主はカテリアーナだった。猫たちが捕縛されると聞いて混乱が解けたようだ。
「どうした? カテリアーナ」
「発言の許可をいただけますか?」
「カテリアーナ姫! 何を!?」
「構わぬ。申してみよ」
カテリアーナを止めようとしていたカルスを手で制すると、フィンラスは続きを促す。
「ここにいる猫たちの中には怪我を負っている者がおります。まずは手当ての許可をいただきたく」
誰もがカテリアーナの言葉に呆気にとられる中、フィンラスのみが不敵な笑みを浮かべる。
「よかろう。カル、手伝ってやれ」
◇◇◇
互い相対する森同士の戦いで傷ついた猫たちをカテリアーナとカルスが中心になって手当てを行なった。トランクに詰めてきた薬草を次から次へと取り出すカテリアーナの手元をカルスが興味津々に見ている。
「これはオオヨモギにクマツヅラですね」
「ええ。さすがですね。乾燥させてあるのに分かりますか?」
オオヨモギは止血、クマツヅラは痛み止めの効能がある。薬草は乾燥させてしまうと、ただの枯れ草にしか見えない。
「私は半分ケットシーですので、匂いを嗅ぎ分けることができるのですよ」
「猫は嗅ぎ分けができるといいますものね。あ! 申し訳ございません。ケットシーでしたね」
妖精猫であるケットシーをただの猫扱いしてしまったことにカテリアーナは謝罪する。
カルスはにっこりとカテリアーナに微笑みかけた。
「いいのですよ。ケットシーといえども猫には違いありませんから」
「ところでフィンラス様はどうして猫姿なのですか? 他の皆様は人型でいらっしゃるのに」
「人型よりあの姿の方が迫力があるからですよ」
カテリアーナは大きい猫姿で騎士たちにテキパキと指示を出しているフィンラスを見やる。その風貌はいかにも『猫の王様』という感じだ。
「確かにそうですわね」
今、カテリアーナはブチ猫の手当てをしている。ブチ猫は軽い打ち身を負っていたので、患部に湿布をあてるが、巻くものがないことに気づく。
「トランクの中に包帯があったわね」
包帯をトランクの中から取り出すカテリアーナをブチ猫が不思議そうに見ている。
「どうなってんだ? そのトランク」
見た目は大判の本くらいのサイズだ。それほどたくさんの荷物が入るとは思えない。
「ああ。これね。『収納魔法』とやらが付与されているんですって」
「マジか? 『収納魔法』は高度な魔法だぞ」
「そうなの?」
このトランクはノワールに贈られたものだ。嫁入り道具が全くといっていいほどないカテリアーナだが、いろいろと持ち出したいものがあった。だが、それらの荷物を持っていくには、大きい衣装箱が必要だ。
エルファーレンとの国境からは、一人で荷物を持っていかなければならないことを考えると衣装箱は無理だった。ノワールに相談したところ、このトランクをくれたのだ。
古びた皮で作られた小さなトランクは不思議なことに何でも入った。組み立て式といえども、とても入りそうにない弓も楽々と収納できたのだ。取り出す時にはカテリアーナの意思に答えるように欲しいものが出てくる。
「ねえ、ブチ猫さん」
「イアンだ」
「え?」
「俺の名前だ」
ぷいとそっぽを向いたブチ猫イアンが名乗ってくれたことがカテリアーナは純粋に嬉しかった。
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