妖精姫ともふもふな妖精猫の王様~妖精の取り替え子と虐げられた王女は猫の王様と冒険がしたい~

雪野 みゆ

文字の大きさ
29 / 40
第二部

1章-4

しおりを挟む
 エルシーに導かれ食堂に現れたカテリアーナを見て、フィンラスは息を吞んだ。フィンラスだけではない。食堂にいた給仕たちもだ。

 カテリアーナのあまりの美しさに誰もが目を奪われた。

「お待たせいたしました。カテリアーナ様をお連れいたしました、陛下」
「あ、ああ」

 食堂の入り口でエルシーに声をかけられ、フィンラスは己の間抜けな生返事に驚いた。

 席に着いたカテリアーナが訝しそうにする。

「フィンラス様。どうかされましたか?」

 さすがに一国の国王を使用人たちの前で愛称で呼ぶわけにはいかないので、カテリアーナはあえてフルネームでフィンラスに声をかける。

「いや。お転婆姫が化けたものだと思ってな」
「まあ! 誰がお転婆姫ですか?」

 ぷうと頬を膨らませるカテリアーナの愛らしい仕草に、誰もが顔を緩ませる。

 晩餐のメニューはカテリアーナが食べられないものは何一つなかった。フィンラスがあらかじめ料理人にカテリアーナの苦手なものを伝えてくれたのだろう。

 野菜をふんだんに使ったオードブル、メインは肉に見えるように豆を加工したステーキ、デザートは新鮮な果物。肉や魚が食べられないカテリアーナに配慮されたものだった。

 給仕たちはカテリアーナの食べっぷりに驚いたようだ。所作こそ優雅だが食事の摂取量が多い。同じ年頃の娘たちに比べると、倍以上はあるのだ。

 大食いだとフィンラスから聞いてはいたが、その食べっぷりはいっそ清々しいほどだ。

 カテリアーナが料理を完食したと聞いた料理人たちの気合いの入りようが変わったのは、仕方のないことだろう。

◇◇◇

 エルシーに手伝ってもらい、入浴を終えたカテリアーナは座り心地のいいソファで寛いでいた。

 扉をノックする音が聞こえる。おそらくフィンラスだろう。

 訪問があることは聞いていたので、入浴後、寝間着ではなく部屋着に着替えていた。

 まだ、結婚前の男女が会うのだ。二人きりというわけにはいかないので、エルシーに部屋で待機してもらっている。

 入室許可をすると、フィンラスが部屋の中に入ってきた。

「カテリアーナ、疲れているところをすまない」
「いいえ。晩餐前に少しうたた寝しましたので、大丈夫ですわ。フィンラス様こそお疲れでは?」
「俺は大丈夫だ」

 猫は一日の半分は寝ているのだ。しかし、夜行性だったとカテリアーナは失礼なことを考えていた。実際、ケットシーは夜に強いが、だからといって半日寝てばかりではない。生活形態は人間と変わらないのだ。

 カテリアーナの向かい側のソファに座ると、フィンラスは一本の瓶をテーブルの上に置く。

「これは何ですか?」
「果実酒だ。先日、カテリアーナは成人を迎えただろう? 祝いの酒だ。初心者でも飲みやすいものを選んだ」

 どこの国でも飲酒が許されるのは成人後のようだ。カテリアーナも今日初めて酒を飲む。

 エルシーがグラスを二つ用意し、果実酒を注いでくれる。

 フィンラスとカテリアーナはグラスを持つ。

「成人おめでとう、カテリアーナ」
「ありがとうございます、フィンラス様」

 グラスを軽くぶつけると、高く澄んだいい音がする。

 カテリアーナは一口果実酒を飲む。爽やかな甘酸っぱさの中に少し苦みが混じった果実酒は芳醇な味だ。

「美味しい」
「それはよかった」

 楽しみながら果実酒を味わっていると、フィンラスから話が切り出された。

「明日からのことだが、カテリアーナには妃教育を受けてもらうことになる。王族としての教育はクローディアから受けているとは思うが、人間と妖精の国では異なることもあると思う」
「はい。わたくしも妖精のことをいろいろ学びたいと思っております」
「三ヶ月後には各種族の国を訪問することになる。カテリアーナの披露目をするためにな」

 王族が結婚する時、先に伴侶の披露目をするのが妖精の国の習わしだ。各種族の国を訪問して挨拶をする。フィンラスとカテリアーナの成婚の儀は早くても半年後になるという。

 人間の国では各国の代表が結婚式に出席し、その後披露宴を行うのだ。

「それは、妖精の国を探訪できるというわけですね?」
「そういうことになるな」
「それは楽しみですわ」

 フィンラスはカテリアーナに驚かされてばかりだ。

 ノワールとしてカテリアーナを見守っていた時も思っていたことだが、カテリアーナは常に前向きだ。どんなに辛くても絶望はしない。決して後ろを振り向かず、前を向いて生きている。

 ふっと笑うと、フィンラスはカテリアーナを見つめる。

「そういえば、カテリアーナは世界を旅するのが夢だったな」
「ええ。だからワクワクします」

 フィンラスは部屋を退室する間際、思い出したように振り返る。

「カテリアーナ、まだ約束を果たしていなかったな。時間が空いたら二人きりで遠乗りでもするか」

 それはあの場所に連れていくという意味だ。

「はい。ぜひ!」

 もう一つ、フィンラスはなぜノワールとしてカテリアーナの前に現れていたのかという疑問があった。しかし、カテリアーナはあえて追求しなくてもいいと思っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、すれ違いの末に離れ離れになった夫婦の物語。 再会したとき、二人が選ぶのは「離婚」か、それとも「再構築」か。 妻を一途に想い続ける夫と、 その想いを一ミリも知らない妻。 ――攻防戦の幕が、いま上がる。

処理中です...