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第二部
1章-5
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カテリアーナがエルファーレン王宮入りした翌日から、妃教育が始まった。
「本日よりカテリアーナ様の教育係を拝命いたしました。パール・フェアフィールドと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします、パール様。フェアフィールドと申しますと、カルス様の姉君でいらっしゃいますか?」
「いいえ。母です」
「え!?」
目の前の女性はどう見ても二十代後半くらいにしか見えない。フィンラス同様二十代前半の青年に見えるカルスの容姿から、カテリアーナはパールを姉だと思った。
パールにはカルスと同じように頭に羽角がある。髪の色は赤いグラデーションが入った珍しい髪だ。
金色の瞳を細めて、パールは妖艶な笑みを浮かべる。
「カテリアーナ様。妖精は人間よりも長寿なのです。外見はあてになりません」
「そうなのですか?」
そうだとすれば、フィンラスも長寿なのだろうか?
人間であるカテリアーナの寿命は長生きしたとしても、せいぜい七十年ほどだ。
「ふふ。フィンラス様と同じ時が歩めないとお考えでしょうか?」
カテリアーナの考えていることが、パールには分かったようだ。
「それは……そうです。わたくしは人間ですので、妖精より寿命が短いのですよね?」
「そうですね。しかし、カテリアーナ様はこれから妖精族に輿入れをするのですから、寿命が延びます」
「え? どういうことでしょうか?」
「そうですね。今日はそのことからお教えすることにいたしましょう」
遥か昔、人間族と妖精族が共生していた時代、種族の違いを乗り越えて結婚する者たちがいた。しかし、種族が違えば寿命の違いという障害がある。そこで妖精は伴侶となる者に祝福の名を与えることにした。同時に伴侶にも自分へ名を贈らせる。互いに祝福の名を贈り合った者たちは、同じ時を生きることができるのだ。
「まあ、素敵ね」
「ただ、一旦結ばれると将来伴侶と離れることができません。ですから妖精は伴侶を決める時は慎重になるのです」
カテリアーナは王族として生をうけた。いずれは政略結婚か、一生塔の中で生きるかの選択しかなかったのだ。
いまさら恋愛にあこがれたりはしない。だが、フィンラスと一緒であれば何となく上手くやっていけるのではないかと思っている。
パールの指導による妃教育は順調に進んでいく。妃教育の合間にウェディングドレスの採寸があったり、エルファーレンの貴族との謁見を受けたりと瞬く間に一ヶ月が過ぎた。
◇◇◇
フィンラスの執務室に訪れたパールは主に座るよう促される。
「どうだ? カテリアーナの妃教育は?」
「順調ですよ。クローディア様から教育を受けただけあって、教養は教えることがないほどです。覚えも早いので教えがいがありますし」
「そうか。それは何よりだ」
パールは勝手知ったるとばかりに用意されていたティーポットからカップへお茶を注ぐ。フィンラスと自分の二人分だ。
「カテリアーナ様にお会いして、ジェイドの戸惑いが分かりました。あの方は誠に人間の子供なのでしょうか?」
「ラストリアは『妖精の取り替え子』だと言っている。だから自分たちの本当の娘を探し出して返せとな」
「そのような理由でカテリアーナ様は虐げられていたというのですか? 愚かな」
「そのうち後悔することになるであろうな」
フィンラスはパールが淹れたお茶を一口飲む。
「ところで、祝福の名のことは教えたか?」
「ええ。初日にお教えいたしました」
「カテリアーナは俺にどのような名をつけると思う?」
「察しがついているのではありませんか?」
「さあな」と言うと、フィンラスは微笑む。すでに察しはついているが、楽しみにしているといった風に……。
「フィンラス様はカテリアーナ様に授ける名を決めておられるのですか?」
「もちろんだ」
「差し支えなければ、お聞きしても?」
「セレンディーナ」
セレンディーナとは妖精の国の言葉で「森に祝福されし者」という意味だ。
「本日よりカテリアーナ様の教育係を拝命いたしました。パール・フェアフィールドと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします、パール様。フェアフィールドと申しますと、カルス様の姉君でいらっしゃいますか?」
「いいえ。母です」
「え!?」
目の前の女性はどう見ても二十代後半くらいにしか見えない。フィンラス同様二十代前半の青年に見えるカルスの容姿から、カテリアーナはパールを姉だと思った。
パールにはカルスと同じように頭に羽角がある。髪の色は赤いグラデーションが入った珍しい髪だ。
金色の瞳を細めて、パールは妖艶な笑みを浮かべる。
「カテリアーナ様。妖精は人間よりも長寿なのです。外見はあてになりません」
「そうなのですか?」
そうだとすれば、フィンラスも長寿なのだろうか?
人間であるカテリアーナの寿命は長生きしたとしても、せいぜい七十年ほどだ。
「ふふ。フィンラス様と同じ時が歩めないとお考えでしょうか?」
カテリアーナの考えていることが、パールには分かったようだ。
「それは……そうです。わたくしは人間ですので、妖精より寿命が短いのですよね?」
「そうですね。しかし、カテリアーナ様はこれから妖精族に輿入れをするのですから、寿命が延びます」
「え? どういうことでしょうか?」
「そうですね。今日はそのことからお教えすることにいたしましょう」
遥か昔、人間族と妖精族が共生していた時代、種族の違いを乗り越えて結婚する者たちがいた。しかし、種族が違えば寿命の違いという障害がある。そこで妖精は伴侶となる者に祝福の名を与えることにした。同時に伴侶にも自分へ名を贈らせる。互いに祝福の名を贈り合った者たちは、同じ時を生きることができるのだ。
「まあ、素敵ね」
「ただ、一旦結ばれると将来伴侶と離れることができません。ですから妖精は伴侶を決める時は慎重になるのです」
カテリアーナは王族として生をうけた。いずれは政略結婚か、一生塔の中で生きるかの選択しかなかったのだ。
いまさら恋愛にあこがれたりはしない。だが、フィンラスと一緒であれば何となく上手くやっていけるのではないかと思っている。
パールの指導による妃教育は順調に進んでいく。妃教育の合間にウェディングドレスの採寸があったり、エルファーレンの貴族との謁見を受けたりと瞬く間に一ヶ月が過ぎた。
◇◇◇
フィンラスの執務室に訪れたパールは主に座るよう促される。
「どうだ? カテリアーナの妃教育は?」
「順調ですよ。クローディア様から教育を受けただけあって、教養は教えることがないほどです。覚えも早いので教えがいがありますし」
「そうか。それは何よりだ」
パールは勝手知ったるとばかりに用意されていたティーポットからカップへお茶を注ぐ。フィンラスと自分の二人分だ。
「カテリアーナ様にお会いして、ジェイドの戸惑いが分かりました。あの方は誠に人間の子供なのでしょうか?」
「ラストリアは『妖精の取り替え子』だと言っている。だから自分たちの本当の娘を探し出して返せとな」
「そのような理由でカテリアーナ様は虐げられていたというのですか? 愚かな」
「そのうち後悔することになるであろうな」
フィンラスはパールが淹れたお茶を一口飲む。
「ところで、祝福の名のことは教えたか?」
「ええ。初日にお教えいたしました」
「カテリアーナは俺にどのような名をつけると思う?」
「察しがついているのではありませんか?」
「さあな」と言うと、フィンラスは微笑む。すでに察しはついているが、楽しみにしているといった風に……。
「フィンラス様はカテリアーナ様に授ける名を決めておられるのですか?」
「もちろんだ」
「差し支えなければ、お聞きしても?」
「セレンディーナ」
セレンディーナとは妖精の国の言葉で「森に祝福されし者」という意味だ。
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