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第1章 偽王太子断罪編
第1話
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それは王宮舞踏会で突然起こった。
「フィルミナ・ヴィルシュタイン。私は其方との婚約破棄を宣言する!」
よく通る声で、この国の王太子エドワルドは高らかに言い放つ。
エドワルドの目の前に立つ可憐な少女フィルミナは、ヴィルシュタイン公爵家の令嬢でエドワルドの婚約者である。
フィルミナは一瞬の間を置いて、透き通るような青い瞳でまっすぐにエドワルドを見つめる。
「承知いたしました。それではこれにて失礼いたします」
淑女の礼をとると光輝くプラチナブロンドをなびかせ、そのまま出口へ向かおうとする。
「待て。理由くらい聞かぬのか?」
エドワルドはさっさと歩いていくフィルミナを呼び止める。
「別に聞きたくありませんわ」
フィルミナはエドワルドの方へ振り向く。
エドワルドの隣には金色の巻き毛でリボンとレースをふんだんに使ったドレスがよく似合う可愛い少女が並んでいる。
理由は聞かずとも、その光景を見れば婚約破棄の理由は察することができた。
「それでは」と再び出口を目指すフィルミナをまたもや呼び止めるエドワルド。
「待てと言っている。其方にはまだ用がある」
「(ちっ! 面倒くさいですわ)こちらには用はございませんので帰ります(早く帰って本が読みたい)」
「おい! 今、前後に本音が漏れてたぞ」
「気のせいですわ」
「舌打ちしてただろう? ちっ! とか聞こえたぞ。あと本が読みたいってなんだ」
「(意外と耳がいいですわね。地獄耳?)然るべき書類でしたら後ほど宰相である父がご用意いたしますわ」
フィルミナの父であるヴィルシュタイン公爵はこの国の宰相である。
「そういうことではない。また本音が漏れてるぞ!」
本音がだだ漏れのフィルミナの言動にいらついてきたエドワルドである。
フィルミナはやれやれといった風にため息を吐く。
「それではどのようなご用件ですの?」
「其方がここにいるエレナにしてきた所業についてだ」
エドワルドの隣にいる少女エレナの大きな紫の瞳が涙で潤んでいた。その様は庇護欲をそそる。
「エレナ様にしてきたことですか? そもそもわたくしとエレナ様との接点はございませんが、どのようなことでしょうか?」
「とぼけるつもりか! エレナを田舎貴族の娘と罵り、つらくあたったそうではないか!」
それは誰がしたことだろうか? 全く心当たりがないフィルミナである。
「殿下はご存知かと思いますが、わたくしは基本引きこもりですのでエレナ様だけではなく、他のご令嬢ともあまり接点はございません。本が友達です!」
清々しいほどの表情で言い切るフィルミナにエドワルドは唖然とする。
「それは……自慢して言うことなのか……」
唖然としたのはエドワルドだけではなく、周囲にいた面々もだが、そんなことには意も介さずフィルミナは持っていた扇を開き口を覆う。
「それに目の前にいる貴方はわたくしの知っている王太子殿下ではございませんもの」
ほほほと上品に笑うフィルミナの言葉に周囲が「どういうことだ?」とざわめく。
「よく似てはおりますけれど、貴方はエドワルド王太子殿下ではありません」
「フィルミナ! 貴様は私を偽物と申すか? どこにそんな証拠がある!」
エドワルドは端正な顔を歪ませ激昂するが、フィルミナは物怖じせずになおも言い募る。
「わたくしの婚約者であるエドワルド王太子殿下とは3歳からのお付き合いです。細かい所作などもすべて把握しておりますが、決定的に違うことがございます。それはつむじの巻き方です!」
「はあああああ!? 何それ? つむじの巻き方って!? 逆に怖いんだけど!」
怒りで赤く染まっていたエドワルドの顔が今度は青くなる。確かにつむじの巻き方で人を判別する観察眼は「ストーカー?」と言えなくもないが……。
「殿下のつむじの巻き方は渦のようでそれは美しいのですよ。黄金の髪が天使の輪のように光って芸術的ですの」
白磁の肌を薄い紅色に染め、うっとりとした表情でフィルミナは語る。それとは裏腹にエドワルドや隣にいるエレナの顔はどんどん青くなっていく。ちなみに周囲にいた人々もだが。
「それに比べて貴方のつむじは美しくありません! 地肌が一部露出しているからです(ハゲ始めてるのかしら? 若いのに気の毒ですわ)」
気にしていることを指摘された(主に漏れ出た本音で)エドワルドはわなわなと体を震わせ、青い顔を再び赤く染め、フィルミナを指差し大声で近衛兵を呼ぶ。
「近衛兵! この女を捕らえ地下牢に連れて行け! 王族に対する不敬罪で処刑してやる!」
戸惑いながらも近衛兵がフィルミナに近づいた時である。
「そこまでだ! 不敬罪で牢に行くのはお前だ!」
よく通る声が出口から聞こえた。舞踏会場にいた人々の視線が一斉にそちらに向く。
「フィルミナ・ヴィルシュタイン。私は其方との婚約破棄を宣言する!」
よく通る声で、この国の王太子エドワルドは高らかに言い放つ。
エドワルドの目の前に立つ可憐な少女フィルミナは、ヴィルシュタイン公爵家の令嬢でエドワルドの婚約者である。
フィルミナは一瞬の間を置いて、透き通るような青い瞳でまっすぐにエドワルドを見つめる。
「承知いたしました。それではこれにて失礼いたします」
淑女の礼をとると光輝くプラチナブロンドをなびかせ、そのまま出口へ向かおうとする。
「待て。理由くらい聞かぬのか?」
エドワルドはさっさと歩いていくフィルミナを呼び止める。
「別に聞きたくありませんわ」
フィルミナはエドワルドの方へ振り向く。
エドワルドの隣には金色の巻き毛でリボンとレースをふんだんに使ったドレスがよく似合う可愛い少女が並んでいる。
理由は聞かずとも、その光景を見れば婚約破棄の理由は察することができた。
「それでは」と再び出口を目指すフィルミナをまたもや呼び止めるエドワルド。
「待てと言っている。其方にはまだ用がある」
「(ちっ! 面倒くさいですわ)こちらには用はございませんので帰ります(早く帰って本が読みたい)」
「おい! 今、前後に本音が漏れてたぞ」
「気のせいですわ」
「舌打ちしてただろう? ちっ! とか聞こえたぞ。あと本が読みたいってなんだ」
「(意外と耳がいいですわね。地獄耳?)然るべき書類でしたら後ほど宰相である父がご用意いたしますわ」
フィルミナの父であるヴィルシュタイン公爵はこの国の宰相である。
「そういうことではない。また本音が漏れてるぞ!」
本音がだだ漏れのフィルミナの言動にいらついてきたエドワルドである。
フィルミナはやれやれといった風にため息を吐く。
「それではどのようなご用件ですの?」
「其方がここにいるエレナにしてきた所業についてだ」
エドワルドの隣にいる少女エレナの大きな紫の瞳が涙で潤んでいた。その様は庇護欲をそそる。
「エレナ様にしてきたことですか? そもそもわたくしとエレナ様との接点はございませんが、どのようなことでしょうか?」
「とぼけるつもりか! エレナを田舎貴族の娘と罵り、つらくあたったそうではないか!」
それは誰がしたことだろうか? 全く心当たりがないフィルミナである。
「殿下はご存知かと思いますが、わたくしは基本引きこもりですのでエレナ様だけではなく、他のご令嬢ともあまり接点はございません。本が友達です!」
清々しいほどの表情で言い切るフィルミナにエドワルドは唖然とする。
「それは……自慢して言うことなのか……」
唖然としたのはエドワルドだけではなく、周囲にいた面々もだが、そんなことには意も介さずフィルミナは持っていた扇を開き口を覆う。
「それに目の前にいる貴方はわたくしの知っている王太子殿下ではございませんもの」
ほほほと上品に笑うフィルミナの言葉に周囲が「どういうことだ?」とざわめく。
「よく似てはおりますけれど、貴方はエドワルド王太子殿下ではありません」
「フィルミナ! 貴様は私を偽物と申すか? どこにそんな証拠がある!」
エドワルドは端正な顔を歪ませ激昂するが、フィルミナは物怖じせずになおも言い募る。
「わたくしの婚約者であるエドワルド王太子殿下とは3歳からのお付き合いです。細かい所作などもすべて把握しておりますが、決定的に違うことがございます。それはつむじの巻き方です!」
「はあああああ!? 何それ? つむじの巻き方って!? 逆に怖いんだけど!」
怒りで赤く染まっていたエドワルドの顔が今度は青くなる。確かにつむじの巻き方で人を判別する観察眼は「ストーカー?」と言えなくもないが……。
「殿下のつむじの巻き方は渦のようでそれは美しいのですよ。黄金の髪が天使の輪のように光って芸術的ですの」
白磁の肌を薄い紅色に染め、うっとりとした表情でフィルミナは語る。それとは裏腹にエドワルドや隣にいるエレナの顔はどんどん青くなっていく。ちなみに周囲にいた人々もだが。
「それに比べて貴方のつむじは美しくありません! 地肌が一部露出しているからです(ハゲ始めてるのかしら? 若いのに気の毒ですわ)」
気にしていることを指摘された(主に漏れ出た本音で)エドワルドはわなわなと体を震わせ、青い顔を再び赤く染め、フィルミナを指差し大声で近衛兵を呼ぶ。
「近衛兵! この女を捕らえ地下牢に連れて行け! 王族に対する不敬罪で処刑してやる!」
戸惑いながらも近衛兵がフィルミナに近づいた時である。
「そこまでだ! 不敬罪で牢に行くのはお前だ!」
よく通る声が出口から聞こえた。舞踏会場にいた人々の視線が一斉にそちらに向く。
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