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帰りたいんです
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「彩菜、大丈夫か?」
心配そうに私の顔を覗き込む龍斗さんの声に、私は我に返った。
「だ、大丈夫……。パルラも、もう泣かないで?パルラが悪いわけじゃないんだし。逆に教えてくれて感謝してるくらいだよ。ありがとう、パルラ。」
泣き続けるパルラに、私は頭を下げる。
パルラが慌てて私の手を取ると、ブンブンと首を横に振った。
「私にお礼なんて言わないで……。私達の為にコトネオールに来てくれたアヤナに、こんな酷い仕打ちをして許される筈はないわ!アヤナ、私の結婚式はいいから、今すぐにでも国に帰った方がいい!アヤナを帰す為なら、私がどんな事でも手伝うから……。」
「ストップ、ストップ。パルラは一旦落ち着け。現実問題、そう簡単には帰れないだろうからな。ひとまず様子をみて、それからまた考えようぜ。話しはそれからだ。」
龍斗さんに促されて、私は自室に戻った。
私と龍斗さんの部屋は、部屋の奥にある扉で繋がっている。
龍斗さんの使っている部屋は、普通は専属侍女が使う為に用意されている部屋なんだって。
龍斗さんがコトネオールに来る条件に、こんな感じの部屋を用意するように付け加えていたらしい。
万が一、夜に私に何かあったらいけないからって。
龍斗さんは本当に私の事を考えて色々してくれている。
部屋も私の方が広いからなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだけど、
『いやいや、十分だ。9、10畳くらいはあるんじゃねえの?日本の家での俺の部屋はもっと狭かったからなぁ。心配すんな。』
って笑いながらガシガシ頭を撫でてくれた。
『ほらよ。これ飲んで少し落ち着け。』
『……ありがとう。』
龍斗さんがホットミルクを手渡してくれた。私は有り難くそれを受け取る。
龍斗さんの部屋には簡易キッチンも備え付けられているから、ちょっとした物は作れるようになっていた。
龍斗さんはよく紅茶やホットミルクを作って私に出してくれる。
いつもはガサツな感じがするのに、人の気持ちに敏感で察するのがとても上手い。
それだけ龍斗さんが辛い経験をしてきたからなんだと思うと、胸が痛いけど。
『彩菜、お前はどうしたい?』
『私は……フレイ兄様の結婚式に、正直に言うと出席したかった。でも、それは難しいんでしょ?』
『そうだな。間違いなく許可は出ないだろう。許可したら、それはもうお前を手放す事になるんだからな。テックは絶対にお前を帰さないと思うぜ。』
腕を組みながら、龍斗さんは眉間に皺を寄せる。
『だよね~……。』
私は深い溜め息を吐いた後、ヘラッと笑って見せた。
すると、龍斗さんが怖いくらいに鋭く私を睨んだ。
『おい、彩菜。俺にまで作り笑いするんじゃねえよ。マジで怒るぞ。』
『ご、ごめん……。』
既に怒ってるじゃん!
龍斗さんは睨むと顔が怖いからやめてよね!…………睨んでなくても怖いけど。
私の考えていることが分かったのか、龍斗さんが両手に握り拳を作って私のこめかみをグリグリと攻撃してきた。
『なんか腹立つな。』
『痛い痛いっ!!』
私が必死に抵抗するも、龍斗さんは手を離してくれない。次第に力が弱まり、今度は私の顔を両手ですっぽり挟み込むと、龍斗さんは真剣な眼差しで私を見つめた。
『お前はどうしたいんだ。』
『私は……。』
龍斗さんに問われ、私はグッと言葉に詰まった。
そしてその直後、私の頬を涙がポロポロと伝う。
今まで我慢してきたものが、私の中から溢れ出して止まらない。
『っ………フレイ兄様の式に出られないのなら、パルラの結婚式に出たい。出たいけど……そうしたら、テックと婚約する事になるんでしょ?私はリスターの婚約者なのに、そんなの嫌だよ。』
『そうだな。』
龍斗さんが優しく私の涙を拭ってくれる。
『……帰りたい。みんなに、お父様に、お母様に、リスターに会いたい。……リスターのところに帰りたい。帰りたいよ!』
泣き叫んで、私は龍斗さんにしがみ付いた。
龍斗さんは私をしっかりと抱き留め、包み込んでくれる。
わんわんと小さな子供みたいに大泣きする私を、龍斗さんはずっと抱き締め、泣き止むまで優しく背中を摩り続けてくれた。
心配そうに私の顔を覗き込む龍斗さんの声に、私は我に返った。
「だ、大丈夫……。パルラも、もう泣かないで?パルラが悪いわけじゃないんだし。逆に教えてくれて感謝してるくらいだよ。ありがとう、パルラ。」
泣き続けるパルラに、私は頭を下げる。
パルラが慌てて私の手を取ると、ブンブンと首を横に振った。
「私にお礼なんて言わないで……。私達の為にコトネオールに来てくれたアヤナに、こんな酷い仕打ちをして許される筈はないわ!アヤナ、私の結婚式はいいから、今すぐにでも国に帰った方がいい!アヤナを帰す為なら、私がどんな事でも手伝うから……。」
「ストップ、ストップ。パルラは一旦落ち着け。現実問題、そう簡単には帰れないだろうからな。ひとまず様子をみて、それからまた考えようぜ。話しはそれからだ。」
龍斗さんに促されて、私は自室に戻った。
私と龍斗さんの部屋は、部屋の奥にある扉で繋がっている。
龍斗さんの使っている部屋は、普通は専属侍女が使う為に用意されている部屋なんだって。
龍斗さんがコトネオールに来る条件に、こんな感じの部屋を用意するように付け加えていたらしい。
万が一、夜に私に何かあったらいけないからって。
龍斗さんは本当に私の事を考えて色々してくれている。
部屋も私の方が広いからなんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだけど、
『いやいや、十分だ。9、10畳くらいはあるんじゃねえの?日本の家での俺の部屋はもっと狭かったからなぁ。心配すんな。』
って笑いながらガシガシ頭を撫でてくれた。
『ほらよ。これ飲んで少し落ち着け。』
『……ありがとう。』
龍斗さんがホットミルクを手渡してくれた。私は有り難くそれを受け取る。
龍斗さんの部屋には簡易キッチンも備え付けられているから、ちょっとした物は作れるようになっていた。
龍斗さんはよく紅茶やホットミルクを作って私に出してくれる。
いつもはガサツな感じがするのに、人の気持ちに敏感で察するのがとても上手い。
それだけ龍斗さんが辛い経験をしてきたからなんだと思うと、胸が痛いけど。
『彩菜、お前はどうしたい?』
『私は……フレイ兄様の結婚式に、正直に言うと出席したかった。でも、それは難しいんでしょ?』
『そうだな。間違いなく許可は出ないだろう。許可したら、それはもうお前を手放す事になるんだからな。テックは絶対にお前を帰さないと思うぜ。』
腕を組みながら、龍斗さんは眉間に皺を寄せる。
『だよね~……。』
私は深い溜め息を吐いた後、ヘラッと笑って見せた。
すると、龍斗さんが怖いくらいに鋭く私を睨んだ。
『おい、彩菜。俺にまで作り笑いするんじゃねえよ。マジで怒るぞ。』
『ご、ごめん……。』
既に怒ってるじゃん!
龍斗さんは睨むと顔が怖いからやめてよね!…………睨んでなくても怖いけど。
私の考えていることが分かったのか、龍斗さんが両手に握り拳を作って私のこめかみをグリグリと攻撃してきた。
『なんか腹立つな。』
『痛い痛いっ!!』
私が必死に抵抗するも、龍斗さんは手を離してくれない。次第に力が弱まり、今度は私の顔を両手ですっぽり挟み込むと、龍斗さんは真剣な眼差しで私を見つめた。
『お前はどうしたいんだ。』
『私は……。』
龍斗さんに問われ、私はグッと言葉に詰まった。
そしてその直後、私の頬を涙がポロポロと伝う。
今まで我慢してきたものが、私の中から溢れ出して止まらない。
『っ………フレイ兄様の式に出られないのなら、パルラの結婚式に出たい。出たいけど……そうしたら、テックと婚約する事になるんでしょ?私はリスターの婚約者なのに、そんなの嫌だよ。』
『そうだな。』
龍斗さんが優しく私の涙を拭ってくれる。
『……帰りたい。みんなに、お父様に、お母様に、リスターに会いたい。……リスターのところに帰りたい。帰りたいよ!』
泣き叫んで、私は龍斗さんにしがみ付いた。
龍斗さんは私をしっかりと抱き留め、包み込んでくれる。
わんわんと小さな子供みたいに大泣きする私を、龍斗さんはずっと抱き締め、泣き止むまで優しく背中を摩り続けてくれた。
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