トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第19話 パーティー結成②

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 ブラッドグリズリーの全長は、エトの二倍ほどもある。
 平常時は四足歩行だが、臨戦態勢に入ると後ろ足で立ち上がり、前足を攻撃に特化させる。その巨体から来る威圧感は並ではない。
 移動速度は比較的遅いのだが、その筋肉質な腕の動きは俊敏だ。
 大剣など振りの遅い武器は爪で弾かれ、その大きな爪を盾にされると、弓や魔法による攻撃も大したダメージは望めない。
 この対処困難な両腕の大爪が、この魔物をBランクに押し上げているのだ。

 この魔物を討伐するには、主に二つの方法がある。

 一つ目は、より強い力で両爪を破壊し、守りを無効化する方法。
 この方法が一般的なブラッドグリズリーの対処法だが、重戦士などの極めて高い瞬間攻撃力が必要になる。

 二つ目は、爪の届かない背後に回り込み、攻撃する方法。
 簡単そうに聞こえるが、前述の通り腕の動きは素早く、これを回避しながらの攻撃は容易ではない。また遠距離職は背後に回ること自体が難しく、特に魔導士は詠唱時間もあるため、攻撃を成立させるのは至難の業だ。

 もっとも、これは普通のパーティーの場合である。


「いいわ、エト、そのまま回り込んで!」
「うんっ!」

 エトは小さな体を最大限利用し、魔物の背後に滑り込んだ。
 大きな魔物、というか動物は、首が後ろに回る骨格になっていない。そのため背後を向くには、上半身ごと動かす必要がある。

「――向いたわね。『ウィンドカッター』!」

 その首の後ろに、リーシャの魔法が直撃した。
 出力を利用して高速の魔法を放つリーシャの杖は、魔導士では考えられない瞬間攻撃を可能にする。
 死角からの攻撃に驚いた魔物は、必然的に視線をリーシャに移す。

「エト、右足っ!」
「わかった!」

 注意が逸れた瞬間を狙い、エトが伸びきった膝裏を狙う。
 ブラッドグリズリーの毛皮は強靭で、短剣や双剣の刃は通りにくい。しかし、毛のない部分は別だ。

 エトが通り抜けたあと、魔物は右膝を地面についた。

「リーシャちゃんっ!」
「よくやったわ、『ファイアボルト』!」

 動揺した魔物の顔面に、炎の塊がぶつかる。
 熊の低いうめき声が、あたりに反響する。

 一時的に視力を失ったその隙を見逃さず、エトは関節や足首など、機動性にかかわる箇所にダメージを蓄積させていく。
 魔物側も乱雑に爪を振り回して応戦するが、エトにはかすりもしない。
 そうした大ぶりの攻撃に合わせ、リーシャが的確に魔法を打ち込む。

 そのような応戦がしばらく続き、ブラッドグリズリーの動きは、目に見えて鈍くなっていった。
 文字通り、機動力がそぎ落とされているのだ。


 ロルフは興奮を隠しきれなかった。

 ブラッドグリズリーの特性を伝え、二人での立ち回りを指示したのは、確かに自分ではある。
 しかし、これほどまでに完璧に、なおかつ鮮やかに遂行できるとは。
 二人の実力は、完全に、予想を上回っていた。

 そして何より、二人の相性の良さだ。
 個々の力も素晴らしいが、この組み合わせは、その何倍もの力を引き出している。

 このパーティーは――まだまだ、強くなれる。


 エトの攻撃とリーシャの魔法がちょうど左足に合わさり、バランスを崩した魔物は、遂に仰向けに転倒した。
 すぐに起き上がろうと、両腕を地面に突き立てる。

「エトっ!!」
「 これで、最後……っ!」

 エトの刃が、その首元を切り裂いた。


+++


「……えっ?」
「ど、どういうことよ……?」

 ギルド協会の受付で、エトとリーシャは固まっていた。
 それもそのはず、ロルフの手には、Bランククエストの受注書が握られており、おまけに達成印が押されているのだ。

「いや~……それがどうやら、あのブラッドグリズリーの討伐、クエストとして発行されていたらしくてな。」

 エトは受注書を受け取り、内容を読んだ。

「川辺に出没したブラッドグリズリーを駆除……わあ、本当だ……。」
「いやいや、だって普通、受注してから討伐しないとダメなんじゃないの……?」
「俺もそう言ったんだけどな。一緒に達成したクエストと場所も一致してるし、魔石もあるから間違いないだろう……ってことらしい。」

 真っ先に言われたのは、『ロルフさんなら嘘つかないでしょう』だったが、それは黙っておいた。

 ちなみに、魔石というのは魔物の体内にある魔力の結晶体だ。
 魔物の種類によって色が違い、体の大きさに比例してサイズが大きくなるため、専門家が見れば一目で強さがわかるらしい。
 こういった特性から、討伐の証として提出されるのだ。

「ということで、Bランクの報酬が出たぞ。二人で分けてくれ。」
「わわ、こんなに……!」
「二人で分けたら、相当な量になるわね……」

 困惑しながらも、嬉しそうに話す二人。
 ロルフはそれを見ながら、先ほどギルド協会の奥でした会話を思い返していた。

『一つ、ロルフさんに提案があるんです。』

 ギルド協会の所長、エリカからの依頼。
 それは、ロルフにとって――いや、ギルド『トワイライト』にとって、決して悪い話ではなかった。

「なあ、二人とも、ちょっと相談があるんだが。」
「あ、はい。どうしました?」
「なによ、改まって。」

 ロルフはもう一枚の紙を取り出し、エトとリーシャの前に差し出した。
 それは、先ほどのものとは別の、Bランククエストの受注書だった。
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