トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第76話 モフモフパニック②

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「にゃはは、今回も大漁なのだ~!」

 スゥはニコニコしながら、魔石の詰まった袋を大きく掲げた。
 その隣を歩きながら、マイアとリーシャも思わず微笑む。

「予想より少し数が多かったですが……問題にはなりませんでしたね。」
「ま、この辺りだと、もうその程度で困る気はしないわ。」
「……」

 だが、その一歩後ろで、エトだけが少し複雑な顔をしていた。

 今回は複数のCランククエストを受け、連続でこなしてきたのだが、結果は余裕の勝利だった。
 特に大きかったのが、マイアの『目』による索敵。今までエトが感覚で行っていた索敵と違い、障害物を貫通して魔物を『視る』ことのできるマイアの力は確実で、しかも弓で攻撃ができるので、機を逃すことも少なかった。
 単体ならその矢で終わるし、複数居てもリーシャの追撃でほとんど壊滅、まれに抜けられたとしても、スゥの強烈な一撃がある。

 ようするに、みんなが強すぎて、盾役がほとんど必要なかったのだ。
 危うい戦い方よりずっといいし、むしろ喜ぶべきなのだろうが、それでも活躍できないのは少し寂しい。

「たしか、マスターも今、ギルド協会にいるのですよね。」

 そんなことを考えていた折、ふいにマイアがこちらを向いたので、エトはあわてて表情を直した。

「あっ、うん! 他のギルドの人たち向けに、教師みたいなことをしてるらしいよ。」
「おお、ロルフが教師……! それは……特に何の意外性もないのだ。」
「いや別に意外性はいらないでしょ。綱渡りでもしててほしかったの?」

 リーシャの言葉に各々想像を膨らませてしまい、思わずクスクスと笑う。

「マスターのことですから、案外、器用にこなしてしまうかもしれませんね。」
「アハッ……もう、やめてよマイアちゃん~」
「にゃははっ。じゃあ、その様子を見に行くとするのだ!」
「いや、だから、やってはないのよ……フフッ」

 横一列になって、笑いながら歩いていく四人。
 そこには、とてもゆったりとした、心地よい空気が流れているように感じた。

 ――このときまでは。

「んあ? ちょっとリーシャ、袋を引っ張らないでほしいのだ。」
「え? 別に引っ張ってなんかないわよ。」
「あれ? じゃあ……」

 四人が振り向くと、スゥの持つ魔石の袋に、何かがぶら下がっているのが見えた。
 それを見たリーシャは悲鳴を上げ、即座にエトの後ろに隠れた。

「きゃぁっ!? ね、ネズミじゃない!!」
「け、結構おっきいね……袋と同じくらいあるよ。」
「おお、本当なのだ。ずいぶん丸っこいやつなのだ。」

 エトも思わず身構えたが、スゥとマイアはむしろ興味深そうに、その丸い生き物を見ていた。

「これは……確か、Cランクの魔物なのです。魔石を食べるとか、なんとか。」
「えっ、それじゃ困るね……かわいいけど、追い払わなきゃ。」
「か、かわいくなんかないわよっ! 魔法で燃やすわ、いいわね?!」

 目をぐるぐるさせて杖を構えるリーシャを、エトが慌てて止める。

「わーっ! 待って待ってリーシャちゃん、袋も燃えちゃうよ!」
「ホアアー! 杖ぶれっぶれなのだ、スゥごとこんがりは勘弁なのだー?!」

 そう言ってスゥが走り回った結果、ネズミは袋から剥がれ落ち、地面に落ちた。
 それは足をばたつかせ、ぴょこんと起き上がると、素早い動きで森の入り口の方へと消えていった。

「あ。逃げてったのだ。」
「あはは……リーシャちゃん、大丈夫……?」
「はぁ、ふぅ……なんなのよ、もぉ……」

 苦笑しながら、リーシャの背をさするエト。
 その様子を見て、スゥはいたずらな笑みを浮かべた。

「にゃはは、それにしても、リーシャがネズミなんか苦手なんて、意外なのだ~」
「しょ、しょうがないでしょ。でっかいネズミよ? むしろなんでアンタたちは平気なのよ!」
「リ、リーシャちゃん、あんまり服引っ張らないでぇ……」

 そんな中、マイアは一人、小さく首を傾げていた。

「でも、変ですね。あの魔物は、あんまり人のいるところには出てこないはずなのですけど……」

 そのまま、少し先の森の出口まで歩いていく。
 森の出口は高台のようになっていて、ギルド協会までの道を見渡すことができた。

「……えっ。」

 マイアはそこでぴたりと足を止めると、ぎこちない動きでこちらを振り向いた。

「? マイアちゃん、どうかした?」
「ちょっと、何かあったの……って、わぁっ?!」

 その様子を見て、三人が駆け寄ると、マイアはとっさにリーシャの後ろに回り込み、両目を抑えた。

 何が何だかわからず、リーシャは両手を前に突き出したまま、硬直した。

「あの……マイア……? 何、してるの?」
「……応急処置なのです。」
「えぇ……?? な、何が見えるのよ……?」

 つかの間の沈黙。

 誰もが説明に困る中、スゥが辛うじて口を開き、その状況の言語化を試みた。

「ああぉ……ギルド協会が……モフモフなのだ……」
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