トワイライト・ギルドクエスト

野良トマト

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第104話 強さを探して②

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「スゥの武器は、『魔剣』の可能性がある。」
「……?!」

 ロルフの言葉に、エト、リーシャ、マイアの三人は、それぞれ驚きの表情を見せた。
 一方で、スゥだけは、ゆっくりと首を傾げた。

「……スゥの武器は、斧なのだ。」
「っ、言うと思ったわ……。あのね、魔法の力を持った武器は、全部『魔剣』って呼ぶのよ。」
「魔法の、力……?」

 スゥの脳裏に、アルバートとグリッツの戦闘の光景がよぎる。

「ほ、本当なのだ?!」

 スゥは飛びつくように、ロルフの目前に迫った。
 それを「まあ落ち着け」と両手でいなして、ロルフは続けた。

「片方だと気づかなかったんだが……どうやらこの二本を合わせると、特殊な魔導回路として機能するようなんだ。内容はわからんが、何かの魔法が使える可能性が高い。」
「……!」

 スゥは、ごくりと喉を鳴らした。
 強くなりたいと思った矢先、それはまさに夢のような話だった。

「でも、マスター。その武器には、魔力が感じられませんが……」
「ああ、一部摩耗してしまってるところがあるみたいでな。回路が働いていないんだ。」
「なるほど。魔剣だけど、壊れてる……ってことですか。」

 エトとマイアは、興味深そうにそれぞれの斧を見比べている。
 スゥは再び身を乗り出した。

「な、直せないのだ?!」
「あ、あのねぇ。魔剣の修復なんて、専門の技術者でも――」
「できるぞ。」
「ほらね、流石のロルフだって……えっ?」

 ロルフは腕を組んで、うーんと唸った。

「ただ、ミスリル鉱っていう貴重な素材と、結構な量の竜炎鉱が必要でな。手元には無いんだ。」
「貴重な……素材……」

 スゥの顔に影が落ちる。

「いや、素材があったらできるってのも、普通にびっくりなんだけど……?」
「あはは。でも、ちょっとそんな気はしてたよ……」
「流石マスター……ですが、今回ばかりはすぐとは行かなそうですね。」
「いやいや、それが案外、なんとかなるかもしれませんぞ。」
「そうりゃそうよ、なんて言ったって……へっ??」

 驚いて顔を向けると、村長が立っていた。

「ほっほっほ、失礼、少々聞かせてもらいましたぞ。そういうことなら、ちょうどいい。」

 村長は頭ほどの大きさの布袋を一つ、ゆっくりと差し出した。
 ロルフは首をかしげながらそれを受け取ると、中身を開き、すぐに村長を二度見した。

「これは……竜炎鉱じゃないですか! それも、こんなに……!」
「盗賊から戻ってきたものの一部ですじゃ。追加のお礼として、ぜひお納めくだされ。」
「い、いやしかし、盗賊団を退治したのは……」

 村長は掌を見せ、ゆっくりと首を横に振った。

「老人は、若者にお節介をしたいものなのですじゃ。どうか、受け取ってくだされ。」
「村長……」
「それから、ミスリル鉱ならば、以前発掘に使っていた廃坑があるのです。少量なら残っておるでしょう。廃坑の魔物を退治してもらう代わりに……というのは、どうですかな?」

 ミスリルは高価な上、取り扱っている商店が少ないので、それは願ってもない話だった。

「やるっ! やりたいのだ、ロルフ!!」

 そしてロルフが答える前に、スゥが飛び跳ねるようにそう言った。

「……ま、そこまで条件が揃っちゃったら、しょうがないわね。」
「素材探しなら、私の目も、力になれると思うのですよ。」
「うんっ! 私たちも手伝うよ、スゥちゃん!」
「みんな……!」

 そう意気込む四人をよそに、ロルフは一人苦笑いすると、村長に深く頭を下げた。


+++


「……ルフ……ロルフっ!!」

 意識を取り戻すと、目の前には涙目になって自分を揺さぶる、スゥがいた。

「う、いっつつ……」
「ロルフ! 大丈夫なのだ?!」
「スゥ……か、ここは……」

 そうだ。確か地面が崩れて、落ちそうになったスゥを抱えて――

 はっとして、スゥの体を見る。
 いくつか擦り傷などはあるが、大きな怪我はないようだ。

 ほっと胸をなでおろした所で、今度は足の痛みに気づいた。
 どうやらこちらは、そこそこ大きな怪我をしてしまったらしい。

「ごめんなさい、ごめんなさいなのだ。スゥのせいで……」
「はは、気にするな。それより、スゥに怪我がなくてよかったよ。」

 そうは言ったものの、周囲の事態は思ったよりも深刻だった。

 まず、天井に穴らしきものがない。
 つまり、二人はどこか横穴のようなところに転がり込んで、落ちた穴は崩れた岩で埋まってしまったという事だ。
 こうなると、自力で脱出するのは不可能に近い。

 頼みの綱はエトたちだが、村に助けを呼んでくれたとしても、この場所を伝えるのは難しい。救出にはかなりの時間がかかるだろう。
 幸い荷物は手元にあるので、水や緊急用の食料はあるが――洞窟で生き埋めとなると、酸素がいつまで持つかも怪しい。

 唯一救いなのは、スゥがほぼ無傷ということくらいか……。

「――!」

 そうして、スゥに再度目をやった時。
 ロルフの目に入ったのは、足元に放り出された二本の斧と、いくつかの青く光る鉱石だった。

 希少鉱石素材――高純度の、ミスリル鉱。

「うん。一つ……いいことを思いついたぞ。」
「……?」

 ロルフは痛む足を引きずり、洞窟の壁に背を預けると、リュックから次々に道具を取り出し始めた。
 その中には、村長から貰った、例の皮袋もある。

「ロルフ……何を……」
「できる、って、言っただろ?」

 ロルフは足元の斧をこつんと叩いて、多少無理をしてつくった笑顔を、スゥに向けた。

「ここで、魔剣を修復する。手伝ってくれるか? スゥ。」

 スゥは泣きはらした目を、更に少し見開いた。
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