119 / 122
第119話 お屋敷での怪異②
しおりを挟む
「ったく、ちょっと目を話した隙に……!」
そう焦りの言葉を口にしながら、リーシャは小走りで広い廊下を進んでいた。
その隣にはマイアが、その後ろには面白そうについてくるカレンと、頭の後ろで手を組んだスゥが続いている。
「にゃはは。まぁ、シロはウチでも好き勝手に部屋を抜けてたのだ。よーあることなのだ。」
「あら、恥ずかしがり屋さんかと思ったら、案外やんちゃさんなのですわね。」
もう、気軽に言ってくれちゃってぇ……
スゥたちの会話を背後に聞きながら、リーシャはどんよりと顔をしかめた。
会話の通り、いつの間にかシロが部屋から居なくなってしまったので、その捜索をしているのだ。
スゥのいう通り、ギルドハウスでは日常茶飯事だったわけだけど、そこはこの豪邸。
こうやって廊下を歩いている間にも、高そうな壺やら彫刻やらが次々目に入ってくるわけで……ここでうっかり、何かをガシャーン!――なんて考えたら、正直、気が気ではない。
「……見つけました。」
「!」
ふいに、マイアが目を細めた。その瞳は琥珀色に輝いている。
「この先を、右に曲がった突き当りの……部屋の中です。エトも、一緒みたいですね。」
「でかしたわ、マイア!」
リーシャはぱぁっと表情を明るくして、ぐっと親指を立てた。
ちなみにマイアの『目』は魔力の流れを見ることができるので、多少の壁を無視して中の様子を探ることができるらしい。
直接見えるわけじゃないけど、魔力の流れには個人差があって、良く見知った相手なら探せるのだと、マイアは言っていた。
まあ、ロルフが「そんな簡単なことではないはずなんだが……」と唸っていたので、きっとこれも凄いことなんだろうけど……ともかく、こういう時に頼りになるのは、間違いない。
「でも、ま、エトが一緒なら、とりあえず安心ね。」
「ええ。きっと、エトを探しに行ったのですね。」
エトが付いていれば、困ったことにはならないだろう――二人はほっと胸をなでおろしたが、それも長くは続かなかった。
「右の突き当り……というと、宝物庫のあたりですわね。」
ぴきっ、と、リーシャとマイアの動きが固まる。
「おお。なんか、アッと驚くお宝があったりするのだ?」
「ああ、いえ、宝物庫といっても倉庫みたいなもので、古いものがあるだけなのですけど。」
なんで……なんでエト、そんなとこにいるのよ……っ!
あと、お金持ちの「古いものがあるだけ」は、まったくアテにならないわよぉ……!
『うう、リーシャちゃん、シロちゃんがこれを、なんやかんやで木っ端みじんに……』
『まあ、それは家宝の、なんかとってもすごい、はちゃめちゃに高い像ですわ!』
『そ、そんなべらぼうな金額、払えないよーっ!』
『仕方ないので、お金の代わりにこの子は貰っていきますわ~!!』
『し、シロちゃーん!!』
『キュ~イ~』
リーシャは頭を振って、脳内の謎劇場を振り払った。
ともかく、何か起こったとは限らない。一刻も早く、エトに確認を――
「あれ? エトがこっちに走ってくるのだ。」
その間にひょいひょいっと角まで進んだスゥが、通路の奥を見ながら言う。
「なんか、めっちゃ焦ってる感じだけど――」
「……」
思わず、角まで飛び出すリーシャ。
通路の向こうに見えたのは、真っ青な顔でこちらに駆けてくるエトの姿と、その腕に抱えられたシロ。
どう考えても、何もなかった感じではない。
「ど、どうしたの、エト、まさかシロが何か壊し――」
「……に、にに……」
……に?
リーシャが首を傾げた、次の瞬間。
「逃げて――っ!!」
そのエトの悲鳴にも似た叫びに続いて、廊下の奥の扉がはじけ飛んだ。
そして、そこから見事なランニングフォームで飛び出してきたのは――
人の四倍はあるであろう、巨大な石像だった。
「ワォ……」
スゥがそう呟いた以外には、この時点で、他に声を出せたものはいなかった。
そう焦りの言葉を口にしながら、リーシャは小走りで広い廊下を進んでいた。
その隣にはマイアが、その後ろには面白そうについてくるカレンと、頭の後ろで手を組んだスゥが続いている。
「にゃはは。まぁ、シロはウチでも好き勝手に部屋を抜けてたのだ。よーあることなのだ。」
「あら、恥ずかしがり屋さんかと思ったら、案外やんちゃさんなのですわね。」
もう、気軽に言ってくれちゃってぇ……
スゥたちの会話を背後に聞きながら、リーシャはどんよりと顔をしかめた。
会話の通り、いつの間にかシロが部屋から居なくなってしまったので、その捜索をしているのだ。
スゥのいう通り、ギルドハウスでは日常茶飯事だったわけだけど、そこはこの豪邸。
こうやって廊下を歩いている間にも、高そうな壺やら彫刻やらが次々目に入ってくるわけで……ここでうっかり、何かをガシャーン!――なんて考えたら、正直、気が気ではない。
「……見つけました。」
「!」
ふいに、マイアが目を細めた。その瞳は琥珀色に輝いている。
「この先を、右に曲がった突き当りの……部屋の中です。エトも、一緒みたいですね。」
「でかしたわ、マイア!」
リーシャはぱぁっと表情を明るくして、ぐっと親指を立てた。
ちなみにマイアの『目』は魔力の流れを見ることができるので、多少の壁を無視して中の様子を探ることができるらしい。
直接見えるわけじゃないけど、魔力の流れには個人差があって、良く見知った相手なら探せるのだと、マイアは言っていた。
まあ、ロルフが「そんな簡単なことではないはずなんだが……」と唸っていたので、きっとこれも凄いことなんだろうけど……ともかく、こういう時に頼りになるのは、間違いない。
「でも、ま、エトが一緒なら、とりあえず安心ね。」
「ええ。きっと、エトを探しに行ったのですね。」
エトが付いていれば、困ったことにはならないだろう――二人はほっと胸をなでおろしたが、それも長くは続かなかった。
「右の突き当り……というと、宝物庫のあたりですわね。」
ぴきっ、と、リーシャとマイアの動きが固まる。
「おお。なんか、アッと驚くお宝があったりするのだ?」
「ああ、いえ、宝物庫といっても倉庫みたいなもので、古いものがあるだけなのですけど。」
なんで……なんでエト、そんなとこにいるのよ……っ!
あと、お金持ちの「古いものがあるだけ」は、まったくアテにならないわよぉ……!
『うう、リーシャちゃん、シロちゃんがこれを、なんやかんやで木っ端みじんに……』
『まあ、それは家宝の、なんかとってもすごい、はちゃめちゃに高い像ですわ!』
『そ、そんなべらぼうな金額、払えないよーっ!』
『仕方ないので、お金の代わりにこの子は貰っていきますわ~!!』
『し、シロちゃーん!!』
『キュ~イ~』
リーシャは頭を振って、脳内の謎劇場を振り払った。
ともかく、何か起こったとは限らない。一刻も早く、エトに確認を――
「あれ? エトがこっちに走ってくるのだ。」
その間にひょいひょいっと角まで進んだスゥが、通路の奥を見ながら言う。
「なんか、めっちゃ焦ってる感じだけど――」
「……」
思わず、角まで飛び出すリーシャ。
通路の向こうに見えたのは、真っ青な顔でこちらに駆けてくるエトの姿と、その腕に抱えられたシロ。
どう考えても、何もなかった感じではない。
「ど、どうしたの、エト、まさかシロが何か壊し――」
「……に、にに……」
……に?
リーシャが首を傾げた、次の瞬間。
「逃げて――っ!!」
そのエトの悲鳴にも似た叫びに続いて、廊下の奥の扉がはじけ飛んだ。
そして、そこから見事なランニングフォームで飛び出してきたのは――
人の四倍はあるであろう、巨大な石像だった。
「ワォ……」
スゥがそう呟いた以外には、この時点で、他に声を出せたものはいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい
夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。
彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。
そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。
しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる