元勇者が教える、モブのスキルの活かし方 ~ベンチャーギルドが勇者ギルドを超えるまで~

Deadhimo

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第1章 元勇者アレスの放浪

第4話 勇者アレスの帰還

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 話は戻って、知っての通り、《ラタイアイ平原の決戦》で人類は敗北した。

 そして、敗北するも《不死の勇者》だけは復活し、反撃を図ったことだろう。

 しかし戦いの数日前に《加護》を失い《不死の勇者》でもなくなっていた俺は、横に倒れていた〈モブ〉と共に、雑魚死をしてしまったのだ。
 
 だったら何故いま俺は思考を続けられているのだろうか……?  

「アレス!!!!!!!」
「うわぁ!」

 甲高い声に俺は飛び起きた。


 ―――飛び起きた?

「いつまで寝てんの!間抜け!」

 ちょっと叫ぶのやめてもらっていいですか?思考を整理したいので。
 俺はギルド近くの自室で、ベッドの上にいた。
 あわてて自分の腹を見てみるが、穴は空いていなかった。
 俺はもしや《復活の加護》をまだ持っていたのか?

「ちょっと!何無視してんのよ」

 さっきから叫んでいるのは、サブマスターのセフィナだった。声もうるさいが、炎のような赤髪も同じくやかましい。 

「おはよう」

 寝起き……かは分からないが、朝特有の頭痛はしっかりとあったので、不機嫌な声になってしまった。

「おはようじゃないわよ……あと、ソレ、どうにかしてくれる?」

 セフィナの視線は、俺が腹のキズを見たとき、一緒に腹部かの下の方へ下りていた。
 とても冷たい視線はそのまま俺の顔に向けられる。

「なんで俺の家にいるんだ。どうやって入った」
「こわした」

 素朴な疑問をぶつけると、粗暴な返事が帰ってきた。
 ドアがあった方に目をやると、そこからは外の風景が見えた。

「なにか文句あるの?」

 ある。けどそれより気になることはいくらでもある。

「ありすぎて言い切れねえ、が、それは置いといてだ。俺は死なずに済んだのか?」 

 セフィナは「は?」という表情をした。

「ソレを私に主張した罪で一回殺すくらいなら、今すぐしてあげるけど?」

 「は?」という表情とジト目を同時に達成しながらセフィナが言う。
 ちなみに《勇者》同士では一部の者(記憶にある中ではこの女だけ)の間でふざけて殺すと言ったり実行したりすることがジョークとなっていた。

「ラタイアイはどうなったんだ」

 また「は?」という顔をされる。2回目。

「作戦に変わりはないわよ。王国軍の合流予定も問題ないみたいだし……アンタがそんなこと気にするなんてびっくり」

 俺の記憶では《勇者ギルド》も王国軍も、目の前で全滅したはずだ。

「まだ戦える戦力がいるのか?」

 セフィナの表情はどんどんと歪んでいく。理解できないものを見る目だった。

「まだも何も、こんな戦いは初めてでしょ」

 ようやく俺も気付いた。
 これは多分、話がかみ合ってないな。
 一旦落ち着いてよく考えてみるか。

「う゛!」

 落ち着こうとした矢先、首根っこをセフィアに掴まれた。そしてベッドから引きずり降ろされる。

「それより急ぐわよ、もう出発の時間じゃない」
「どこへだよ!」

 驚いて俺は大きな声を出した。構わず俺を家の外まで引っぱり出し、セフィアは言った。



「《ラタイアイ平原》に決まってるでしょうが!」

 俺は彼女の言葉を理解することをあきらめた。もともとぶっとんでる奴だ。
 だが通りを歩いていると、異常なのはセフィアだけでないことが分かった。
 街では普通に人々が歩いていたり、店をやったりしていたんだ。《勇者ギルド》が壊滅したのに、ここまで街は平常運転なのか。
 通りを抜けて街の出口であるゲートに来ると、さらに驚くべき光景が目に飛び込んできた。

「なんでこいつらみんな居るんだ……」

 ゲートの外には、つい最近全滅したはずのギルドメンバーたちが勢ぞろいしていたんだ。

 勢ぞろいしたギルドメンバーたち、このまるで初めての大きなイベントの前の様な高揚した空気、無傷のラキア王国……。 

 ここに来てやっと俺は気づいた。 
 どうやら、時間がそっくり巻き戻ってしまっていたのだと。
 その瞬間、俺の脳裏には《ラタイアイ平原の決戦》で皆が全滅した光景がうかんだ。

「はやくブレウスと集合するわよ」

 セフィナは呑気に言った。ただ、俺がするべきことは一つに思えた。

「そうだな、はやく出発を止めなきゃいけねえ」
「止めるって、何?」

 困惑するセフィナを横目に、俺は《加護》を発動させる。

「【リピー】」

 そう呟くと、突風が俺の後ろから巻き起こり、そのまま俺の身体を空中に吹き飛ばした。

 もちろん俺が飛ばされていく先は、まさにこのギルドメンバーたちを死地へと出発させようとしていた〈ギルドマスター〉ブレウスに決まっていた。 

「うわあああああああああ」

 ―――ドン!!!!

 俺は大声と大きな衝撃音とともに、軍団の最前列にいたブレウスの目の前に着地した。

「うわあ……アレスか。びっくりしたよ」

 ブレウスは呆れたような目で俺を見た。近くにいたギルドメンバーたちはポカンと口を開けている。

「遅かったじゃないか、また寝坊かい」
「いや、そういうんじゃなくてな」
「こういうときにはホントお前の加護は役に立つね」

 ブレウスはクスりと笑う。だが今はそれどころじゃないんだ。

「そんなことはいいんだ!」

 俺はブレウスの両肩を掴んだ。傍から見れば、遅刻を必死に誤魔化そうとしている情けないやつだが、気にしていられない。

「どうしたんだい」

 両眉をハの字にさせながらも彼は冷静だ。
 だがこれを言ったら冷静ではいられないだろう。
 俺は大きく息を吸ってから言った。

「このままじゃ今日、俺たちは全滅する!」











『このままじゃ今日、俺たちは全滅する!』

 俺の言葉は、ブレウスと近くの数人にしか届かないが、確実に彼らは衝撃を受けたらしい。ブレウスは表情を歪め、最前列の兵士たちも少しだけざわつき始めた。

「なにかあったの?」

 彼は俺の発言の意味を聞いたのだろう。ただ、全滅した未来から来たなんて言ったところで信じてくれるはずがな
い。

「とにかく分かるんだ!このまま戦ったら全滅するんだよ」
「なに馬鹿なことをいってるんだアレス。この作戦は完璧だ―――君のこの発言を除いてはね」

 彼は心底呆れた目つきで続けた。

「普段から馬鹿ではあったけど、ここまでとは思わなかったよ」

 こんな問答をしているところに、地味なギルドメンバーの兵士の一人がブレウスの前に出てきて、言った。


「なあギルドマスター、俺たちって全滅するのかよ?!」

 ―――直後、軍勢全体がどよめいた。

 彼の質問は、とくに大声だったわけじゃない。話の最中だった俺たちも軽く振り返るくらいの声の大きさだった。

 ただ、彼がその言葉を発した瞬間に、数千の軍勢が一斉にどよめくのは理由が必要だ。
 そして前の方の兵士からは「全滅?!」「おい、何の話だ?」というような声が聞こえてきている。
 多分さっきの声は、軍勢全体に聞こえたのだろう。
 同じことをブレウスも察知したのか、かれも焦っている様子だった。

「何が起こっているんだ……」

 少しおろおろとしたあと、ブレウスは落ち着きを取り戻したことをはっきりとさせるように、咳払いをした。

「なあアレス、こんな状態じゃもう集団戦はできない」

 どうしてくれるんだ、と彼は続けた。

「だから、このまま戦ったら全滅するんだって’」
「お前がこんな状態にしなければ勝てたはずだ!僕の作戦は完璧だったんだよ!」

 ブレウスは喚いた。

「しかも、仮に全滅しようがしまいが、モンスター共が攻めてくるのはもう分かってるんだ!どうするんだよ!」

 彼は先程までクールに話していた同一人物とは思えないほど取り乱している。代わって、さっきまで焦っていた俺は冷静になっていた。

「それはあんたの《加護》でどうにかなるだろ、今日は決戦の日じゃなかったんだよ」

 ブレウスの《加護》は《防護の神》のもので、俺の知る限りでは、彼は防護壁や他人に防護のベールを与えることが出来るスキルをもっていた。

 それを駆使すれば、ある程度のモンスターの軍団ならば倒すことはできないまでも、侵略を諦めさせ、撤退させることならできる。これまでにも何度かそうやって「北の砂時計」とラキア王国は救われていた。

「あいつらの数は攻めてくるごとに多くなっている。今回でケリをつけるはずだったのに」

 ブレウスは嘆く。脅威は日々大きくなっていたので、彼の考えが間違いとは言えないが……
 すでに俺は結末を知っている。だから止めるしかない。

「とにかく今回は諦めてくれ」
「ああ―――そうするしかないね。だけど」

 これでひと安心だと思った。ただ、ブレウスは俺を睨みつけながら衝撃の言葉を放った。

 
「アレス、今日をもって君を《勇者ギルド》から追放する」









『アレス、今日をもって君を《勇者ギルド》から追放する』

「え?」
「いつも思ってたんだ。お前はこのギルドの足手まといでしかない」

 突然の宣告に頭が真っ白になる。

「俺はみんなの為に……」
「まだ言っているのか」

 ふん、と鼻を鳴らすブレウス。

「お前は僕たちが世界を救う一歩を台無しにしたんだよ」

「だからそれは!」
 彼は俺の言葉を遮る。

「頭までおかしくなったらもう救いようがないよ」
「な……」

 怒りに体が熱くなるのを感じた。こいつ、とことん馬鹿にしてやがる。

「《加護》もちょっと風を吹かすだけの雑魚で、中途半端なのに《勇者》ヅラしてたのも本当うんざりだったよ」
「雑魚だあ?!」
「そうだよ。ほかの皆は百人力といっても足りない戦闘力を持っているのに、お前はどうしようもない」

 突然ぶつけられ始めた罵倒の数々に俺は言葉を失った。

「ホントね。私たちの陰でピューピューやってるだけよ」 

 代わりに馬でここまで追いついてきただろうセフィナが口を開いた。

「セフィナまでそんなことを」

 騎乗したまま俺を見下ろすセフィナに困惑する。

「僕たちは昔一緒のパーティで戦っていたから、ここまで情けはかけてやったけど」
「もう私たちは我慢の限界よ。荷物をまとめてギルドを出ていきなさい」

 ギルドの2トップである二人にこう言われてはもう抵抗のしようがなかった。

「……分かったよ。じゃあな」

 こういわれても別れを惜しむような俺だったが、二人はというとすっかり俺に見下す目をむけて、離別の言葉に返事もしなかった。
 そんな彼らを背に、俺は悔しさを胸にトボトボとその場を去った。


 自宅に帰った俺は、まだ現実を受け入れることができなかった。

 一日の間に、タイムリープと追放なんてイベントを体験しまったのだ。
 もう頭の中もパンパンだった。まだ昼下がりだが直ぐにでもベットに飛び込みたい気分だった。
 ただ、出て行けと言われた以上、このギルドメンバーのために作られている住居群からは出ていかなければ、最悪起きた時にセフィナに殺されているかもしれない。

 それだけならいいが、大事な食器や家具、武器や防具も破壊されてしまうだろう。

「あの怪力女は脳内だけでも怖いな」

 俺を追い出した後、彼らは仕方なくモンスター達を追い返しに行くだろう。俺に残されたタイムリミットは、彼らの帰還までだということがわかった。

「さてどうやって荷物をまとめようか」

 独り言を言っても事態は改善しない。が、俺の脳内に一人の小間使いが思い浮かんだ。



「ユクリアに頼むか」

 そう思いついた俺は、すぐに家をでてユクリアの部屋へと向かった。

 《勇者》と違い、ギルド内のランクの低いものは一つの家ではなく、いくつか部屋が連なって作られる長屋に住んでいた。部屋を間違えないように丁寧に左のほうから扉を数えていく。
 そして『便利屋ユクリア』と幼い字で書かれた表札を見つけ、俺は力いっぱいノックをした。



 彼女のギルド内でのあだ名はやっぱり『小間使い』だったのだが。


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