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二、優歌

3 変化する日本

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 坂野さかの優歌ゆうか、推定十八歳、女。種族、アクエクス。第十期セロッドスクール卒業生。西連邦皇国にしれんぽうこうこく出身で、〈神鳴〉によって両親は死亡。弟は行方不明。十三歳の頃に西国を脱走。オーリスに逃げてきた数日後、栄養失調で倒れるが、搬送先の病院で治療にあたった俯業ふぎょう咲葉さきは総司令により、翌年よりスクールに入学。首席卒業生。
 ──新たな仲間は年下の女の子だった。それは当たり前なんだけど、その基本情報を見る限りとんでもないエリートだ。まずアクエクスという時点で強いのは自明だが、それに加えて西国出身ウエスタンとは。しかも咲葉に見初められるなんて、凄い子じゃないか、優歌ちゃん。
 私は今、その個人情報を見ながらモノレールに揺られている。なんせレーヴェルマキナからスクールのあるカーナムまでは距離が異様に長い上に交通の便が悪い。
 日本国の中枢都市「オーリス」は大きく四つの地域に区分されていて、上空から見るとまず真ん中にひし形の形に綺麗に区画された「レーベルマキナ行政特区」がある。その周りを囲うようにして、北側に日本最大の繁華街「アステガルド区」、南東側に帝国政府官邸や皇族邸、そしてセロッドの本部も構える「レミア区」、南西側にはセロッドスクールをはじめとした一般教育機関も数多く密集する「カーナム学園都市」があるのだ。
 その中でもひと際異才を放つのが、私たちが住んでいるレーヴェルマキナだ。レーヴェルマキナは政府認定のスラムで、それを解放せんと私たち〈黒犬〉が日々奮闘しているわけがだが、ひし形に見えるのは、レーヴェルマキナが他の地域とひし形の壁で隔絶されているからである。門はアステガルドに通ずる一つしかなく、それ故レミアやカーナムに行くにはモノレールが必要というわけだ。……って誰に解説してんだっ。いや、しかしなんだか誰かに見られている気がしてやまない。挨拶しとくか。
 私は犬上いぬがみあい。帝国政府直属の武装組織『防国府セロッド神使しんし課・〈黒犬〉副隊長セカンドキャップを務めてます!
 なんちゃって。実はそろそろラジオにも飽きてきて、本格的に人肌が恋しくなっただけさ。ねぇ、誰でもいいから話相手になってよ!
 そんなこんなで脳内バカをしている間に、カーナムの「セロッドスクール駅」に到着した。私も二年前まではこのスクールで退屈な日々を送っていたもんだ。どれだけ頑張って良い成績を取ろうが、進路なんて決まっていたから。大好きな同期の親友がいなければ今の私はいないのだ。私みたいに暗い心のまま、〈黒犬〉に入って欲しくはない。なるだけ優しく、優歌ちゃんを一人前の〈黒犬〉にしてみせるんだ。
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