ユニバールド シナリオ・守 第零章「聖変詩歌」

おろしちみ

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三、楽越

8 脳髄によく似た

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 一件。
 次に私を呼び止めたのは、少女だった。
「藍お姉ちゃん! 待って、まって!」
 薄紅色の可愛いおべべに包まれた天使は、決して私の妹などではない。彼女は〈灰虫グレイインセクト〉の幹部に誘拐されていたのを救出した子だ。
「あのね、今日学校でね、『大事な人には感謝を伝えましょう』ってハヤテが言ってたの。だからね、藍お姉ちゃんにこれあげるっ」
 少女が差しだしたのは、ガムのボトルだった。なんと私の大好きなイチゴミント味のガム。この子はわざわざ私のために買ってきてくれたというのか。確かに、この世で一番好きなお菓子はガムだ。なんかカッコいいし、普通に美味しいし。
 一件。
 なんなら今も食べてるし。
「ありがとう、お嬢ちゃん。私が大事なんて、お嬢ちゃんも大人になったな~」
「えぇっ! ……ちょっと、それはなんか恥ずかしいよ……」
 はい尊い。可愛い。大好き。
 今まで噛んでいた、味が無くなって粘土のようになっていたガムをティッシュに捨て、少女からもらったイチゴミントのガムを口へ放り込んだ。んまい。
 ──ドサドサっ。
 先程マーケットに立ち入ってから今までの間に無効化した三人の阿呆共が、ようやく地面に落ちてきた。お姉さんとも少女とも話したかったので上空に突き上げていたので、空気抵抗で四肢は分裂し、惨たらしい亡骸が三つ、マーケット内に転がる。私はそれを見せないために、少女の目を手で覆い隠した。
「そのまま振り返らずにお家に帰りな? 詳しい事情は言わなくても分かるよね。今度、私たちの家でパーティーするから、必ず招待するよ。是非おいで」
 少女は途端に大人の顔になった。人間が殺される瞬間を目の当たりにしたころがある十歳などそうそういない。この子は確実に強くなるし、賢いのでこの状況もすぐに理解してくれた。少女は決心したように一度頷き、死体とは反対方向へ帰って行った。
「よし、おりこうさんだ。あぁ! 夕衣さんを探すのが目的だったのに!」
 ちくしょう、本来の目的を見失っていた。いや、本来の目的は「夕衣さんを探すついでに仕事をする」だったから、半分は一応こなしているか。しかし神出鬼没の夕衣さんに会えるかもしれないチャンスを逃してしまったことに多少腹立ち、散り散りになった〈灰虫〉の連中の肉片を踏んだ。最悪な臭い。こんなものマーケットに置いておけば裸売りしている食品が腐ってしまう。
 私は瞬間移動を使って、亡骸の掃除をした。路地裏のゴミ箱に捨てたのだ。
 どうしてそんなことが出来ようか、という質問は当然浮かんでくるだろう。それは、私が言わずもがなアクエクスだからである。アクエクスとは本当に不思議な種族で、人間に似ているんだけど、少し違う。例えば、食欲は旺盛なのに、食事を摂ることによって身体的な変化は何一つとしてもたらされない。つまり、食事は欲を満たすためだけのものであり、最悪しなくてもいいのだ。
 そして特徴の一つとしては、本来全ての生物に備わっているとされる「特性キャラクト」という異能へのアクセスが人間より遥かに簡単に出来ることだ。訓練さえすればボンボン使えるようになるらしいが、そんな訓練などしなくてもアクエクスはいくらでも使える。その代わり、お腹が尋常じゃない程に空くのだが。今の瞬間移動は、半径二百メートル以内の物質は任意の場所に転移出来るというものだ。
「藍ちゃん、今日も有り難うね!」
「藍ちゃんさすがっ!」
「〈黒犬〉最高!」
 マーケットで買い物をしていた人たちが一様に称賛の声を私に浴びせてくれる。この瞬間が最高で、みんなの笑顔を見るために、守るために私は悪党をこの街から排除する。そのためなら手段は厭わないし、必要に応じて殺したりもする。先程の三人は、オーリスの条例を幾つも破ってレーヴェルマキナ送りにされ、挙句、帝国憲章にも背いた罪を被っていた。なのでいずれ死刑になるし、彼らが新たな犯罪を犯してしまう前に殺してやったというわけだ。
「ねぇ、誰か夕衣さんを見なかった?」
 これは違反行為なのではないか、と思うかもしれないが、そもそもは私が勝手に思いつきで始めたゲームなのだ。別に明確なルールはないし、ルールは変えるためにあるのだ、と夕衣さんも言っていた。その教えをあまり良しとしていないから、四行前の私のモノローグがあるわけだけど。
 すると、またもや精肉店のお姉さんが私の問いかけに答えてくれた。大好き、お姉さん。
「夕衣さんならずっと前に来て、そこの果物屋でなんだか色々買って行ったよ」
「ええーーっ! どこか行くって言ってませんでした?」
「うーん、そこまでは分からないけど、普通に仕事に行ったんじゃない?」
 いや、あの人に限って真面目に仕事なんてあり得ない。きっとまたどこかで油を売っているのだろう。
「ありがとうございます」
 そう言って、私はマーケットを出て、違う地区へと歩き出した。
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