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Period 1 ならまちを知りましょう。
第6話 高速餅 前編
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今日は一時間目がホームルームで、二時間目からはもう普通の授業が始まった。中学の時よりも格段に授業スピードは速くなる、とは塾の先生に聞いていたが、本当にその通りだった。
一時間目はクラスメイトの簡単な自己紹介と、伊納先生の自己紹介と学級委員その他諸々の委員決めだった。叶恋のこともあって弓道に力を注ぎたいと思っていたので、申し訳ないと思いつつも私は何にも立候補しなかった。学級委員には希咲がなり、他の委員もすぐに決まっていった。
「それにしても希咲、よく立候補なんかしたな」
「中学の時も三年間そうだったから。逆に春夏ちゃんが何にも入らなかったのが意外だったよ。こういうの進んでやりそうなのに」
口調が昨日と全く違い、また「希咲」に戻っているのが怖くてたまらないが、それは置いといて。
「弓道頑張りたいなって。そうだ、料理部はどうだった?」
「よく聞いてくれました。本当は昨日聞いてくれるかなって期待してたんだけどね。……それで、料理部はなんか楽しかったよ。言葉で言い表せないけど。あ、そうだ。部員は一人だったよ」
「えっ?」
「金幹って、部員が一人でも、顧問の先生さえいれば『部活』扱いになるらしいね」
「顧問って?」
「それがさ、ビックリしないでね。伊納先生らしいんだ」
伊納先生の方を思わず見てしまった。二時間目はそのまま伊納先生が担当してる数学Ⅰだから、教室の前の方で静かに読書をしていた。気付かれないうちに目をそらす。
「その一人の子って、どんな子だった?」
「料理を上手になりたいけど、家じゃ危ないからって練習できないんだってさ」
「へぇ。タメ?」
「うん、一組の……秋月さん、だったかな?」
希咲がそう言ってから、少しの間私は固まっていた。既視感、というか既聴感を感じ取ったからだ。必死の思いだそうとしても、昨日一日だけで色んな事があって、情報が多すぎる。その名前、聞いたことあるんだよな……。
「あっ! もしかして秋月紗穂って子じゃない?」
「あぁ、そうそう。なんで春夏ちゃんが知ってるの?」
「ちょっと会ってくる!」
まだ授業開始まで充分に時間はある。一組の扉を引いて、紗穂ちゃんを探す。
「いた」
教室の隅で、誰とも話すことなく料理のレシピ本を読んでいる少女は、あの時私を助けてくれた秋月紗穂ちゃんに間違いなかった。
「紗穂ちゃん!」
彼女の机の前まで行き、声をかけた。
「えっ、あ……? この前の」
「うん、そうだよ。金幹なら教えてくれれば良かったじゃん」
「あぁ、ごめん。確か金幹って言ってたね。それで、なんか用事?」
「ん? 別に用ってわけじゃないけど……。そうだ、お昼一緒に食べない? 三組に昨日、料理部に行った希咲って子と、この組にいる弓道部の馬鹿と一緒にさ」
「おう、聞こえとるわい」
「おはよ、叶恋」
「おはよう。ちょっと春夏……」
叶恋が手招きしてくる。叶恋は紗穂ちゃんに聞こえないくらいの声で、小さく私の耳元で言う。
「秋月さんはそっとしてあげた方がいいんじゃないか、と私は思う。私もぼっち歴長すぎるから分かるけど、秋月さんはきっと、望んで一人を選んでるんだと思う」
「望んで?」
「うん、単純に一人が好きなんだろう。春夏が、みんなで食べたほうが楽しいと思うのと同じだよ。まぁ、今日くらいそっとしといてやろうよ。また向こうから誘ってくれたら一緒に食べようよ」
「なんか、私たちが紗穂ちゃんを避けてるみたいで嫌だよ。でも……うーん、難しいな。言葉にちゃんとしてくる」
「……うん。春夏は優しいな」
「紗穂ちゃん、またいつでも言ってね」
「分かった。私もその気になったら一緒にお願いするよ」
これが単なる社交辞令にならないように、私は紗穂ちゃんが心地良い距離で接することを決めた。
「じゃあ、叶恋はお昼三組に来てよ」
「分かった」
二時間目を告げるチャイムが鳴る。私は慌てて教室へ戻った。
「疲れたなぁ~」
六時間目の授業を終えて、私は希咲の前の机でぐだっと寝ころんだ。高校の授業というものは恐ろしいな。初日で真面目に頑張ろうと思っても、すぐ船を漕いでしまうのだから。
「今日も部活あるよね?」
「いいや、今日も仮入部だけど、もう別に入るの決めたしいいかなって。叶恋もそうするらしいし。希咲はどうするの?」
「私もじゃあ帰ろうかな。あっ、そうだ」
「ん?」
私が聞くと、希咲は素直に答えずにんふふ、と笑った。なんなんだよ、可愛いなぁ。
「おーい春夏、希咲。帰ろう」
「ちょっと待ってて。えーっと正門で」
「ん? うん、分かった」
私たちは、どこかへ行く希咲と反対に駐輪場に先に行って、正門で待っていた。午後四時なのに、薄暗くないのは確かに季節が冬から春へと進んだという証拠だ。ただしなんせ寒い。入学式は終わったのでコートを着込み、ストールをぐるぐる巻きにしているが、それでもまだ寒い。
「希咲、なんか楽しそうだったな」
「うん。あの子、よく分かんないところでウキウキするような子だから」
「へぇ。今からまたどっか寄る?」
「うん、あの高速でお餅を突くとこ行きたい」
「あぁ、中谷堂か。いいよ」
それもずっと気になっていた場所だった。テレビでもよく紹介されている、あれが何の餅なのかは知らないが、とにかく行ってみたい。家の手伝いは今日からだが、六時からでいいと言われているので、心配はいらない。
「お~い! 連れてきたよ~!」
希咲が笑顔でこちらに手を振る。その傍らには、なんと紗穂ちゃんが「うわ」と言いたげな顔でいた。
「なんで紗穂ちゃん?」今日は一緒に帰ろって言ってたから。ちょうどさ、若草山の方に住んでるらしいから方面一緒だし」
「そうなんだ! じゃあ一緒に帰ろ」
「まぁ、春夏がいるなら……」
「なんか言った?」
「なんでもない……っ!」
一時間目はクラスメイトの簡単な自己紹介と、伊納先生の自己紹介と学級委員その他諸々の委員決めだった。叶恋のこともあって弓道に力を注ぎたいと思っていたので、申し訳ないと思いつつも私は何にも立候補しなかった。学級委員には希咲がなり、他の委員もすぐに決まっていった。
「それにしても希咲、よく立候補なんかしたな」
「中学の時も三年間そうだったから。逆に春夏ちゃんが何にも入らなかったのが意外だったよ。こういうの進んでやりそうなのに」
口調が昨日と全く違い、また「希咲」に戻っているのが怖くてたまらないが、それは置いといて。
「弓道頑張りたいなって。そうだ、料理部はどうだった?」
「よく聞いてくれました。本当は昨日聞いてくれるかなって期待してたんだけどね。……それで、料理部はなんか楽しかったよ。言葉で言い表せないけど。あ、そうだ。部員は一人だったよ」
「えっ?」
「金幹って、部員が一人でも、顧問の先生さえいれば『部活』扱いになるらしいね」
「顧問って?」
「それがさ、ビックリしないでね。伊納先生らしいんだ」
伊納先生の方を思わず見てしまった。二時間目はそのまま伊納先生が担当してる数学Ⅰだから、教室の前の方で静かに読書をしていた。気付かれないうちに目をそらす。
「その一人の子って、どんな子だった?」
「料理を上手になりたいけど、家じゃ危ないからって練習できないんだってさ」
「へぇ。タメ?」
「うん、一組の……秋月さん、だったかな?」
希咲がそう言ってから、少しの間私は固まっていた。既視感、というか既聴感を感じ取ったからだ。必死の思いだそうとしても、昨日一日だけで色んな事があって、情報が多すぎる。その名前、聞いたことあるんだよな……。
「あっ! もしかして秋月紗穂って子じゃない?」
「あぁ、そうそう。なんで春夏ちゃんが知ってるの?」
「ちょっと会ってくる!」
まだ授業開始まで充分に時間はある。一組の扉を引いて、紗穂ちゃんを探す。
「いた」
教室の隅で、誰とも話すことなく料理のレシピ本を読んでいる少女は、あの時私を助けてくれた秋月紗穂ちゃんに間違いなかった。
「紗穂ちゃん!」
彼女の机の前まで行き、声をかけた。
「えっ、あ……? この前の」
「うん、そうだよ。金幹なら教えてくれれば良かったじゃん」
「あぁ、ごめん。確か金幹って言ってたね。それで、なんか用事?」
「ん? 別に用ってわけじゃないけど……。そうだ、お昼一緒に食べない? 三組に昨日、料理部に行った希咲って子と、この組にいる弓道部の馬鹿と一緒にさ」
「おう、聞こえとるわい」
「おはよ、叶恋」
「おはよう。ちょっと春夏……」
叶恋が手招きしてくる。叶恋は紗穂ちゃんに聞こえないくらいの声で、小さく私の耳元で言う。
「秋月さんはそっとしてあげた方がいいんじゃないか、と私は思う。私もぼっち歴長すぎるから分かるけど、秋月さんはきっと、望んで一人を選んでるんだと思う」
「望んで?」
「うん、単純に一人が好きなんだろう。春夏が、みんなで食べたほうが楽しいと思うのと同じだよ。まぁ、今日くらいそっとしといてやろうよ。また向こうから誘ってくれたら一緒に食べようよ」
「なんか、私たちが紗穂ちゃんを避けてるみたいで嫌だよ。でも……うーん、難しいな。言葉にちゃんとしてくる」
「……うん。春夏は優しいな」
「紗穂ちゃん、またいつでも言ってね」
「分かった。私もその気になったら一緒にお願いするよ」
これが単なる社交辞令にならないように、私は紗穂ちゃんが心地良い距離で接することを決めた。
「じゃあ、叶恋はお昼三組に来てよ」
「分かった」
二時間目を告げるチャイムが鳴る。私は慌てて教室へ戻った。
「疲れたなぁ~」
六時間目の授業を終えて、私は希咲の前の机でぐだっと寝ころんだ。高校の授業というものは恐ろしいな。初日で真面目に頑張ろうと思っても、すぐ船を漕いでしまうのだから。
「今日も部活あるよね?」
「いいや、今日も仮入部だけど、もう別に入るの決めたしいいかなって。叶恋もそうするらしいし。希咲はどうするの?」
「私もじゃあ帰ろうかな。あっ、そうだ」
「ん?」
私が聞くと、希咲は素直に答えずにんふふ、と笑った。なんなんだよ、可愛いなぁ。
「おーい春夏、希咲。帰ろう」
「ちょっと待ってて。えーっと正門で」
「ん? うん、分かった」
私たちは、どこかへ行く希咲と反対に駐輪場に先に行って、正門で待っていた。午後四時なのに、薄暗くないのは確かに季節が冬から春へと進んだという証拠だ。ただしなんせ寒い。入学式は終わったのでコートを着込み、ストールをぐるぐる巻きにしているが、それでもまだ寒い。
「希咲、なんか楽しそうだったな」
「うん。あの子、よく分かんないところでウキウキするような子だから」
「へぇ。今からまたどっか寄る?」
「うん、あの高速でお餅を突くとこ行きたい」
「あぁ、中谷堂か。いいよ」
それもずっと気になっていた場所だった。テレビでもよく紹介されている、あれが何の餅なのかは知らないが、とにかく行ってみたい。家の手伝いは今日からだが、六時からでいいと言われているので、心配はいらない。
「お~い! 連れてきたよ~!」
希咲が笑顔でこちらに手を振る。その傍らには、なんと紗穂ちゃんが「うわ」と言いたげな顔でいた。
「なんで紗穂ちゃん?」今日は一緒に帰ろって言ってたから。ちょうどさ、若草山の方に住んでるらしいから方面一緒だし」
「そうなんだ! じゃあ一緒に帰ろ」
「まぁ、春夏がいるなら……」
「なんか言った?」
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