ならまち、食べ尽くそうや!

おろしちみ

文字の大きさ
17 / 36
Period 1 ならまちを知りましょう。

第17話 今日は何なの? 前編

しおりを挟む
 楽しい楽しい土日を終え、またいつもの日常が始まる。しかしこれまでとは少しだけ、いつも通りではない。というのも、文化祭が始まるからである。
 金幹かなもとの文化祭には行ったことがないし、そもそも高校の文化祭なんて言ったことがない。しかし、マンガやアニメ、小説でよく見る高校の文化祭はとても「青春」という感じがする。
「金幹の文化祭は三日間だ。一日目は朝から100年会館を借りて演劇やバンド、ダンス部の発表がある。二日目と三日目は共に模擬店だ。屋台とかお化け屋敷を二日間で行い、売上が一番良かったところは後夜祭で表彰される。ちなみにうちは前夜祭はない。普通の学校が前夜祭ですることをうちは一日目にまる一日使ってするからな。何をするかとかは全部みんなで決めな。なだ中川なかがわ、あとは任せた」
 学級委員の希咲きさきと中川という男子が先生に言われて教卓にあがる。やはりいつもの怖い時雨しぐれ先生に戻っていたのが惜しい。そして希咲が仕切り始める。中川は板書をするみたいだ。
「二つ決めなきゃね。先に決めやすい模擬店の方から決めようか。なにか良い意見がある人はじゃんじゃん言ってって!」
 本来ならここで手が全然挙がらず学級委員が困ってしまうところだが、うちのクラスは結構積極的だ。故にみんなの手があちこちで挙がる。希咲はご満悦の様子だった。あの子を困らせたらどうなるか、まだみんなは知らないだろうけど。
「はいっ! パンケーキ屋さんっ!」
 初めに当たったのは陽気で天然でおバカさんなのにちゃんと成績が良いという謎人間・椚田くぬぎだ京子きょうこだった。高校から弓道を始めたと言うが、嘘だと思うくらいセンスが光っている。こういう時に先陣を切ってくれるから有難いと思っている。
 気づくと黒板の左半分はすぐに白く埋まっていた。「パンケーキ屋」「お化け屋敷」「焼きそば屋台」「たこ焼き屋台」「メイド喫茶」その他諸々……。私は起床と睡眠の狭間で反復横跳びをしていたため知らなかったが、こんなにも案が出たのか。
「じゃあこの中から多数決で決めていきます。パンケーキ屋が良いと思う人~」
 ピーンとオノマトペが付きそうなほど真っ直ぐに京子は手を挙げた。他の人も疎らに手があがる。しかし本当に疎らだったから、京子は少し不満げに「ぶー」と口を尖らせた。
 私はなんとなくメイド喫茶に手をあげた。提案したのはスケベちゃんな男子だったが、希咲にメイド服を着させるのも悪くない。京子も若干ボーイッシュでメイド服なんか嫌がりそうだから、着させてみたい。私も充分にスケベである。
「メイド喫茶が多いね。ていうかメイド喫茶でパンケーキをメニューにすればいいんじゃない?」
「あ、ホントだ」
 まーた天然晒してるよ、可愛いなこの野郎。京子は教室の前の方の席でゲラゲラ大笑いしている。それを、後方右角で肘をつきながらニヤニヤと見つめる私。スケベである。
「じゃあ多数決でメイド喫茶になりました! 次は舞台発表だけど……何が良いですか?」
「はいっ!」
「はい、京子ちゃん」
「演劇! ダンス!」
 京子は元気だなぁ。今日のMVPだよ、あんたは。などと馬鹿なことを考えていると、また二つの案で多数決になった。決まったのは演劇だった。
「演目はどうしようか……」
 どれだけみんなが積極的であろうと、劇の脚本となるとどうしても手があがらない。数十秒の沈黙を解いたのは、目の前の席の男子だった。名前は、柳沢やなぎさわ悠里ゆうりだったと思う。物静かでいつも何をしているのか分からない。
「わ、私が脚本をします。任せてもらっても良いですか……?」
 すると希咲は閃光のように悠里の前に駆けてゆき、ずいっと身を乗り出した。悠里ちゃんは「ひいっ!」と萎縮してしまった。そりゃそうだ、こんな可愛い子に迫られたら声も出てしまう。
 希咲は眉をハの字にして悠里の手を取った。そしてブンブンと上下に振る。
「本っ当にありがとう!! いやぁ助かったよ。このまま誰も出なくて長い議論になったら嫌じゃない? だから本当にありがとう」
 悠里は恥ずかしそうに俯き、「喜んでもらえるようなもの書いてくるね」と嬉しそうに言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

処理中です...