転生×召喚 ~職業は魔王らしいです~

黒羽 晃

文字の大きさ
22 / 35
二章 「初めて会った時から」

22話

しおりを挟む
 セシリアの表情が歪む。その表情が湛えるものは、憤怒か悲哀か、それとも困惑か。
 セシリアには、到底許容できない事だった。人族に好意を持つ事が。ずっと、憎まなければ保てなかったから。
 だけどこのまま、人族に憎しみしか持ちたくないと言う事は、悲しい事だと思う。当然俺の価値観だ、強要はできない。
 だが、今のセシリアにはそれが必要だ。誰だって、憎しみだけで心を保つ事なんて出来ないし、復讐の意思だけで生きてなんていけない。

 そしてこれは、セシリア自身が乗り越えなければならない問題だ。例えば、俺に洗脳の能力があったとして、それでセシリアに認めさせても、それは解決したとは言えないから。

 セシリアは呟く。

「私が、好きだって? 人族リリスを? あり得ない。私は人族が嫌いだし憎んでる。でも……」

 思っている事が口から出ているとは、今のセシリアの状態を言うのだろう。そしてそれは、セシリアのまぎれもない本心。
 もしも、心の底から人族が嫌いで憎いのなら、セシリアが葛藤する事は無いだろう。逆もまた然りだ。

 初めに親を亡くした悲しみがあって、アルバートへの怒りがあって、そして人族への恨みに転じた。やがてその恨みは、魔族を否定する風潮を作った人族を憎まなければ自己を保てない程に大きくなった。
 とは言っても、これは俺の想像でしか無い。実際のところは、全く違うのかも知れない。

 独りよがり。つまるところ、俺はそれでセシリアを苦しませていると言う事になるのだろう。しかし……いや、だからこそ俺は間違っていると思ってはならない。
 独りよがりの偽善だからこそ、何より自分で疑ってはならない。

「別に友情じゃなくたっていい。良い表情をする客と言う認識だけでも良い。セシリア。お前は、少なくともリリスは恨みたいと思えなかったんじゃ無いか?」

「……恨みたいと思えない?」

 セシリアがぴたりと止まった。
 得心がいったとか、そんな感じでは無いな。どちらかと言えば、考え過ぎてフリーズしたような感じだ。
 俺の主観の下で、話を続ける。

「あの時、侵攻を起こした時だ。お前は闇魔法でリリスの行動を縛って、見事に俺を拘束した。俺がリリスを死なせる訳が無いと確信していたから」

 そう、セシリアはリリスを殺したく無かった。リリスは貧弱な人族で、仮に侵攻に立ち向かったとすれば、直ぐに命を落とす事は明白だったから。
 だからこそ、誰よりもリリスを殺せない俺を使った。他でもない、リリスを死なせない為に。

「そうなんだろ、セシリア」

「……ははっ」

 乾いた笑み。
 今までのどんな声よりも無感情で、まるで底なしの崖を眺めているようだった。

「そうかもね。もしかしたら私は、私も気付かない内にリリスちゃんが好きだったのかも知れない」

 その声には、何故か諦めの念すら込められていて。
 セシリアの独白。

「人族に、私はもう少し期待していたんだろうね。もしかしたら友達になれるかも、仲良くなれるかもって。結局、人族を憎みきれなかったんだ」

「違うだろ。そもそも人族と言う全体を、お前は憎みきれる訳が無かったんだよ」

「……それはどうして?」

 セシリアは、その答えを理解している。既に自分の本心に気付いていて、それを認めたくない自分がこの反応をさせている。
 感情と言うのは、理屈でどうこうできるものでは無い。説明なんて、するだけ無意味なのだと俺は思っている。

 だが、セシリアにはそれが必要だった。意味の無い問題に対する、明確な意味のある解答が。

「セシリアは、母親を憎めるか?」

「……憎む訳ないだろ、私を産んでくれた恩人なんだ」

「だが、その母親も人族だ」

 なんて事は無い、既にセシリアには『好きな人族』が居るのだ。今更それが一人増えたところで、大して変わりは無いと言う事。
 答えは、今すぐに出せるものでは無いだろう。こんな一時の問答でそれまでの人生を覆ってもらったら、俺が困る。いや、困る事は何も無いのだが。
 セシリアは呻く。それは葛藤から来るものかは分からない。

「もうすぐ、半刻が経つ」

 扉の外に気配。間違いなくセルゲイのものだろう。それくらいの時間も経っている気はするし。
 欲を言えば、もう少し話をしておきたかったが、これも初めから無理を言っての面会だったんだ。これ以上を求めればバチが当たる。
 更にはこれから先、リェリェンはもっと忙しい事になるだろう。ギルドマスターであるセルゲイもそれは例外では無い。

 気配が止まり、直後に金属の扉が開く。

「時間だよ」

 拘留所に入って来たセルゲイは、その一言を淡々と言った。
 俺はセルゲイの指示に従い、セシリアに背を向け、拘留所を出る。

「エンマちゃん」

 呼び止める声。言わずもがな、セシリアのだ。

「またね」

「ああ」

 セシリアとて、話したい事があったのは同じなのだろう。だがそれを堪え、俺とセシリアは最後にそれだけを交わした。
 セルゲイが扉を閉め、鍵がかかった事を確認する。

「話したい事は話せたかい?」

「ええ、まあ」

「なら良かった。さて、前に言った通り、ここは極秘の施設だ。くれぐれも口外しないように」

「分かりました」

 セルゲイに再度口止めされてから、俺たちはこの拘留所を去った。
 この後、セシリアがどうなったのか、俺には知る由も無い。

 ここには、もう来る事は無いだろう。セシリアの処罰は、何故かアルバートと言う名の冒険者に一任される事になっているし。

 思わずため息をつく。
 色んな事があった数日間だった。
 リリスと出会い、冒険者に登録してガズルドに絡まれて、セシリアは魔族とのハーフで。そして侵攻があって。
 更に、今思えばこその謎だってある。

 まあ、考えていたってキリが無いからな。ここで思考停止しておこう。

 なんて思ってると、いつの間にかギルドに着いていた。

「それじゃあ、仕事もあるから私はこれで。縁があればまた」

「仕事って……ええ、会わざるを得ない時には」

「あれ、私って嫌われてる?」

 俺がそれに答える前に、音も無く忍び寄って来た受付嬢アレシアに首根っこを掴まれて引き摺られて行った。
 周りの人が『またか……』って感じの反応をしているから、あれがいつも通りなのだろう。

 さて、俺も手持ち無沙汰になってきたし、リリスの様子を見に行かなきゃならんしな。そろそろ宿屋に帰るか。
 セルゲイが奥の部屋に消えていくのを見届けて、俺は踵を返して宿屋の方向を向いた、が。

「よお、エンマとか言ったか? 三日ぶりだなあ」

「えっと、ガズルドだったか? Cランクの」

「覚えてもらえてるたぁ、光栄だな」

 大剣を抱えた大柄な男。初めて会った時より装備は悪くなっているが、その気配は以前と比較にならない。
 それに、今回はあの取り巻きもいないようだった。

「だがCランクってのは訂正させろ。こないだの侵攻でBランクに昇格したんでな」

「そいつは良かったな。おめでとう。で、そのBランクになったガズルドが俺に何の用だ?」

 こんな時に来るのだ、何かガズルドにとって重要な理由がある筈。

「別に大した事じゃ無え。俺は今日か明日、この街を出て行く予定なんだ」

 ガズルドが大剣を構える。
 俺もそれに合わせ、身構えた。

「その前に、てめえと手合わせしときたかったんだ。どんくらいの力の差があるかを知りてえ」

「……【ストレージ】」

 前のような下卑た笑みではなく、純粋な戦闘者の表情。油断を全て取り払った、強者の表情だ。
 俺も、敬意を表そう。

 空間魔法【ストレージ】から、ある武器を取り出す。

「……いいじゃねえか。
 なあ、ここだと周りに被害が出るだろ、平原でろうぜ」

「ああ、そうだな」

 俺の返事を合図にしたように、ガズルドは門の方へ駆けた。
 それに続き、俺もガズルドの後を追う。街の人から怪訝な表情を向けられるが、お構いなしのようだ。

「ここなら良いだろ」

 数分後、俺とガズルドはリェリェンから大分離れた平原に立っていた。
 得物を構え、お互いに向き合う。

「さて、始めようか」

「おう。行くぞ、エンマぁ!」

 ガズルドが大剣を、水平に構えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...