転生×召喚 ~職業は魔王らしいです~

黒羽 晃

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二章 「初めて会った時から」

21話

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 セルゲイに連れられて、薄暗い階段を降りる。聞いた話では、ここは国の重役や貴族、そしてギルドマスターしか知らない極秘の拘留所らしい。
 一見、ギルドや貴族とは全く関係の無さそうな場所。表向きでは売れている娼館だった。そこを前にして顔を顰めてしまった俺を見た時の、セルゲイの苦笑いは忘れられない。

 そして、この空間に入ってからの違和感も。

「魔法阻害? んな高度な魔法を魔法付与エンチャントされてんのかよ、この壁」

「主に、魔法を使う凶悪犯罪者を捕える場所だからね。これ専門の高ランクの術者も居るんだ」

 やべ。独り言のつもりだったんだがな。声が大きかったか。
 まあ、その前に驚愕の色を感じ取れたんだけどな。魔法付与エンチャントの内容を推測できる奴はいても、解析ができる奴はいなかったのか?
 この世界の人族の国で過ごすのもまだ五日目だし、分からない事が多いのは理解できるんだが……

「さて、着いたよ」

 俺の思考を遮って、セルゲイは足を止める。前を向くと、これまた重厚な雰囲気のある金属の扉が行く手を阻んでいる。
 セルゲイが特殊な鍵で扉を開けると、殺風景な部屋とも呼べない空間が。そしてその中央で厳重に拘束されているセシリアの姿があった。

「あれ、誰か来たの?」

 五感を殆ど封じられている状態であるにも関わらず、“誰か”の気配を感じ取るセシリア。それなりに元気そうだ。
 まだ、アルバートとの戦いの傷が癒えた訳では無いだろう。復讐は果たせなかったようだが、あの戦いでセシリアはどう変わったのか。

「一昨日ぶりだな、セシリア」

「あれ、もしかしてエンマちゃん? ちょっとぶり~。見えないし聞こえないけど」

 声を聞けば、二日前と殆ど変わりないように思える。だが、変わりないと言うのは、セシリアの境遇を思えばむしろ異常だ。
 親の仇に会って、仇を討つのに失敗して。更には何も感じられないこんな所に閉じ込められる。気が狂ったとしても可笑しくは無い。

 またなのか? アルバートと会って動き出したセシリアの心は、また静止してしまったのだろうか?
 分からない。アルバートと戦ったセシリアはどうなったのか。何が変わって、何が変わらなかったのかが。

「セルゲイさん、今はセシリアと二人にさせてくれませんか?」

 首肯する気配。余人に介入して欲しくない会話をするのだと察してくれたみたいだ。
 続いて、小さい金属音と、扉を開ける音。鍵を開けたのだろう。
 そして扉が閉まる瞬間に聞こえたガチャンと言う音。まさかのオートロック式だった。

 ……あれ、俺はどうやってここから出るんだろう。

「ん、メモ書きが……なに、『半刻後にまた来る。』って?」

 なるほどな。確か一刻が二時間くらいだったから、だいたい一時間後に迎えに来んのか。
 セシリアと話をするならその間にって事だな。取り敢えず目隠しと耳栓は邪魔だから取っておこう。

 って、結構固く縛られてんな。指が細くて助かった。
 てか、今まではあまり精密な作業をやってなかったから気のせいだとも思っていたんだが、確実に思考処理速度は上がってるよな。これの解き方も結び方も直ぐに分かったし。

 さて、これで目隠しは取れたな、耳栓も。

「取れたぞ」

「ん? ああ、ありがとう。エンマちゃん」

 閉じられていた瞼を開き、欠伸をしながらそう言うセシリア。本当に、拘束されているとは全く思えない態度だ。
 だがまあ、そうでなければセシリアでは無いとすら思えるくらいに、セシリアらしい態度でもある。

「改めて、久しぶり」

「ああ。そんなに長くも無いが」

「どーでも良いでしょ、そんな事」

 見た目は以前と変わらない、しかしどこか無理の無いように見える笑顔。どうやら吹っ切れたみたいだ。

「ギルマスから聞いたよ~。キングとジェネラルを倒したんだってね」

「何とかな。結構ギリギリだった」

「ふうん。それは、エンマちゃんが? それともリェリェンが?」

 声の温度が下がった。
 何がギリギリだったかって、それは当然リェリェンだ。見た感じだと、セルゲイやアルバート以外にオーガキングと戦える冒険者は居なかった。
 いや、もしかしたらリェリェンの冒険者と兵士らしき者たちが全員で掛かれば、キングを殺しきるぐらいは出来たかも知れない。
 だが、それだと全体の八割以上の人たちが死ぬ事になっただろう。そしてその人数では、後続のジェネラルに全滅させられる。

 ……つまりは俺が居なければ、セシリアの侵攻は成功していたのだ。

「街の方だな。残念ながらオーガキングでは、俺は殺せないみたいだ」

 そう答えると、セシリアはまた笑顔に戻る。

「だろうね。エンマちゃんは、私なんかがどんな策を講じても勝てる道理が無いから」

 その声には、自嘲めいた響きがあった。
 セシリアでは俺を殺せない。そんな純然たる事実だけ。

 ーーだから。

「だから、セシリアはリリスを使って、俺を封じた」

「あ、そうそう。それ訊きたかったんだよ。そうやって別れたのに、なんでエンマちゃん参戦できたの?」

 今度は興味津々と言う風で、ぐっと身を乗り出して……拘束具で全く動けないのだが……訊いてきた。
 さっきから思っていたが、今のセシリアは少し挙動不審なように見える。何かがあって、セシリアが変わったのは間違い無いのだが。
 それはともかく。
 今はセシリアとの問答が先だ。そして、セシリアからの質問も出来る限り答えようと思っている。

「【度忘れさせデリートメモリーズ】」

「?」

「俺が持っているユニークスキルだ。効果時間中、詳しく言えば三秒間、対象は俺を完全に忘却し、認識できなくなる」

「……それで、その三秒間で君はリリスちゃんをどうにかしたって言うの? ふざけてるよ」

 セシリアの言う事は尤もだ。しかし何故か、ユニークスキルと言うものではそのふざけた事がまかり通ってしまう。

「俺は、この【度忘れさせデリートメモリーズ】を、リリスだけを対象に行使した。あの時のお前の命令は、簡単に言えば『俺が不審な動きをしたら自殺をしろ』と言うもの。つまりは判断をリリスに一任してたんだ」

「……なるほど。その間だけ、リリスちゃんの中からエンマちゃんの存在が消えた訳だ。それで、闇魔法の命令に矛盾が生じる」

「そう言う事だ」

 セシリアの命令は、俺の行動で発動するようになっていた。だが、その俺の事を知らなかったら、正しくは、知らない事にされていたら。
 リリスの知る限りエンマは存在せず、しかしセシリアからの命令ではエンマは存在する。リリスが、知らない誰かを知っていると言う前提の下で。

「俺を認識できないだけならば、認識できなくなったと言う事で命令は発動しただろう。忘却しただけだったとしても、或いは目の前にいる誰かが俺だと推測はできたかもしれない。だがこのユニークスキルは、それを両立させた」

 後は、三秒間でナイフを取り上げて、闇魔法を解くだけ。ただ、不得手だったのもあって魔法の解除が非常に難しかったが。
 それを理解したのだろう。セシリアは、数瞬呆然としてから、やがて得心したと言わんばかりに笑い出す。

「いやぁ、完敗完敗。ユニークスキルか、想定していなかったな。それに、もっと複雑に闇魔法をかけておいたらなんとかなったかもしれないけど、今更言っても仕方が無いね」

 まあ、確かにそうだな。異変があったら自殺しろ、とか命令されていたら、もう少しシビアになっていただろうし。まあ、曖昧な命令ほど難しくなるんだけどな。何を異変とするかの設定とかで。
 そこまで複雑に魔法をかければ数日単位の時間がかかるから、土台無理な話だった訳だ。
 いや、そもそもセシリアにとってはそこまでする訳には行かなかった。

「わざと単純な命令にしたんだろ? リリスに死んでほしく無かったから」

「へ?」

「侵攻の前日。俺たちはセシリアのとこの宿に泊まった」

「うん、そうだったね」

「夕食の時のやり取り。俺にはあれが演技だと思えなかった。そして、それは気のせいじゃないと思ってる」

 つまり?
 セシリアが視線で促す。
 正直、セシリアにこれを言うのは少し躊躇われる。人族を憎む彼女にとっては、許容できない事の筈だから。
 だがまあ、セシリアも自覚はしているんだ。ただ信じたくないだけで。

「人間であるセシリアの母さんが、悪魔族デーモンを愛したようにさ。半悪魔族ハーフデーモンセシリアは、リリスが好きなんだよ」

 それに俺は、偽らないから。
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