転生×召喚 ~職業は魔王らしいです~

黒羽 晃

文字の大きさ
20 / 35
二章 「初めて会った時から」

20話

しおりを挟む
 目が覚める。
 瞼を開くと、どこか見覚えのある天井が見えた。
 腕を動かそうとするが、全身を激痛が走り、結局は動かせない。

「起きたかな、アルバート」

 男の声。随分と懐かしく感じるな。
 何とか首だけを動かして声のした方を向いた。

「セルゲイか。悪いな、このような無様な姿で」

「構わないよ」

 セルゲイとは二年間会っていない、嘗ての友とでも言うべき者だ。
 今はすでに引退し、ギルドマスターをしていると聞いている。まさかまた会えるとは思わなかったな。

「お前がいると言う事は、ここはギルドか?」

 腹に巻かれた包帯の感触を確かめつつ、セルゲイに訊く。

「ああ。他の施設は怪我を負った冒険者たちの治療に使われているからね。アルバートには悪いけど、ギルドの簡易施設で我慢してくれ」

「構わん。それで、侵攻はどうなった。被害は?」

 我としては、自身の怪我よりは街の事が重要だ。
 変わっていないなと、セルゲイが呆れ顔で方をすくませながら答える。

「死者42。怪我人は重傷軽傷合わせて122。行方不明者が67だ。この中に市民は入っていないよ」

「そうか。あの大規模な侵攻の被害としては小さいな」

「違い無い。ただ、それは君の働きがあってこそのものだって事は頭に入れておいて」

 我の働きか。
 我がこの侵攻の際にやった事と言えば、ただ戦うだけなのだがな。
 Bランク相当の魔物ならば何体か斬ったが、それでも全てを殺せた訳では無いしな。

「アルバートが、今回の侵攻の黒幕、『魔物使い』を倒したんだってね」

 黒幕。
 ああ、あの悪魔族デーモンの娘。奴を倒した、か。まあ倒したとは言えるな。
 勝ったとは、とても言えんが。

「あの娘はどうなった」

「今は、大罪人として拘留しているよ」

 なるほど、即刻に処刑とはいかないようだ。
 少し安心した。流石に、殺すために戦った相手が知らぬ間に死んでいたら遣る瀬無い。

 どこに捕らえているか聞き出そうとしたが、止めた。
 血は止まり、傷もだいぶ塞がっているようだが、何の弾みで広がるか分からない。
 何より、奴に会いに行ったとして、衝動が抑えられる自信が無い。
 奴との戦いは、それだけの刺激だったのだ。今でもあの感覚は鮮明に思い出せる。

 魔族でありながら、今一度剣を交えたいと思わせる。荒っぽさの残る、しかし確かな執念の籠った剣。

 セルゲイが息を呑む音が聞こえる。無意識に威圧を発していたらしい。
 我もまだ修練が足りぬな。感情が表に出てしまう。

「……奴は殺すな」

「……言うと思った」

 今度は打って変わって安堵するような声音。
 暫く会っていないとは言っても、冒険者時代には長く組んでいたのだ。人となり程度は把握できているのだろう。

「あの娘、セシリアって言うらしいけど、この侵攻はアルバートを殺すためだけに起こしたようだよ」

「我をか?」

「うん。個人的な恨みがあったらしいね」

 恨みか。魔族殺しを最優先にして生きている我ならば、魔族からの恨みも数え切れん程にあるだろう。聞いてやる必要もない。

「恨みを買った覚えならば幾らでもあるからな。結局はその中の一つだろう。生憎と、今回のはその殺意が街にまで向けられてしまったようだが」

「それを伴うことを覚悟しての君の生き方だろう? 魔族を敵にするのが」

「ああ」

 それを最後に、我らの会話は終わった。いや、終わらされたと言うべきか。
 扉をノックする音が聞こえると、セルゲイはそちらの方へ行ってしまった。あの侵攻の後だ、ギルドマスターに息を吐く暇などは無いのだろう。
 寝転がりながらセルゲイを見送る。我に出来ることも無さそうだ。
 戦う事しか出来ないのならば、今は回復に努めるべきだろう。

 疲労が抜け切っていなかったためか、瞼を閉じると直ぐに眠気が襲ってきた。




「セルゲイさん、エンマさんが来ています」

「うん。今行く」

 久方ぶりのアルバートとの会話も束の間、アレシアに呼ばれた私は、直ぐにギルドのロビーに向かう。
 侵攻から二日。あの大群が齎した被害は甚大で、最小限に抑えられたと言っても復興には暫くかかる。その間は国から派遣された兵士と共に、リェリェンを警備する必要がある。
 魔物からもそうだけど、魔物使いによる侵攻が起こった後なら魔物に備える必要はなく、寧ろ警戒すべきは人間だ。この事態に乗じて良からぬ事を企む輩もいない訳では無いので、気は抜けない。

 今はギルドから直々に街内巡回の依頼も出している。報酬もそれなりの額を提示しているので、そこそこの実力者も受ける者はいる筈だ。

 それは兎も角として、今は目の前の事を考えようか。時間的な関係で人の少ないギルドには、そのイメージにそぐわない容姿の銀髪の少女……幼女……がいた。
 彼女こそがエンマ君。三日前にリェリェンに来て、二日前の侵攻ではアルバートに並ぶと言って過言ではない活躍をした人物。

「や、一昨日ぶりだね。調子はどうかな?」

「俺は快調ですよ。元気に復興作業を手伝えるくらいには」

「それは何よりだ」

 彼女は先日の侵攻の際、初めから戦列に立っていた訳では無かった。
 私がアルバートに助けられ、街へ戻った時、私に続くようにしてオーガの大軍がリェリェンへ進撃していた。キング一体とジェネラル数十体、リェリェンの残存戦力でどうにかできる規模では無かった。

 全ての冒険者が絶望を露わにした。数少ないBランク冒険者と私が時間稼ぎの為に玉砕覚悟で前に出ようとした時だ。
 彼女が現れた。東のどこかの国で【カタナ】と呼ばれる剣でオーガキングの首を斬り落とし、その後数分程度で残ったジェネラル達を斬り伏せた。

 私は、私たちは何が起きたのか理解が出来なかった。何秒、何十秒、沈黙している間にエンマ君は平原へと駆けた。恐らくは、セシリアをどうにかしに行ったのだろう。
 その後、想像もしない形で終結した侵攻に沈黙していた冒険者達が湧いた。各々で解散し、ある者は残党を探しに、ある者は討伐数の報告をしにギルドへと。
 私もよく分からないままにギルドへ戻り、避難していた職員や受付嬢たちに侵攻の終結を告げた。

 冒険者たちの対応に追われて、宴などは無かったが。

「驚いたよ。君が気絶しているアルバートとセシリアを担いで来た時は」

 私がギルドマスターとしての仕事をしていた時、エンマ君は件の二人を担いでギルドに届けて来た。冒険者たちの色めき立つ気配がして、仕事を中断して来てみれば、取り敢えず近くの冒険者にアルバートを預けているエンマ君の姿があったと言う訳で。

 その直後に色々と質問したのは言うまでもない。

「そりゃまあ、主犯を連れてくるのは間違いでは無いでしょう。死んだら困るから回復はしときましたけど。あ、アルバートは近くで気を失っていたからついでに」

「アルバートはついでか。しかしまあ、アルバートと引き分けられる程の実力者がいたとはね」

 実情を聞いた時は耳を疑ったな。侵攻の規模から魔物使いも相当の実力を持っているとは確信していたけれど。
 アルバートなら大丈夫、なんて言う過剰とも言える期待があったのも否定は出来ないけど。

 改めてエンマ君を観察する。もちろん気付かれてはいるんだろうけど、外面からはそれを感じさせない。
 何度見ても、果てしない。
 何度測ろうとしても、彼女の力量を想像できない。

 アルバートには、まだ見えた。私よりも遥か上の実力を持っていると言う事は理解できたんだ。
 だけど、エンマ君のはまるで暗闇の中を見るように先が見えない。手を伸ばせば届くのか、幾ら飛んでも届かないのか、全く。

「それで、何の用事で来たのかな」

 警戒はしておく。こんな所で暴れ回るなんて事は無いと思うけど、それでもどんな拍子で事態が変わるか分からないから。

 何もする気は無いと言う風に両手を広げて、エンマ君は言った。

「セシリアを拘留している場所を聞きたくて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...