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二章 「初めて会った時から」
19話
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【剣聖】の剣閃がオーガジェネラルの首を落としていく。オーガキングを殺すため、その障碍を斬り伏せていく。
三年振りに見る、その剣技。
やっぱり、綺麗だ。
「ねえ、アルバート」
君は、その美しい剣で何を殺してきたの?
その剣技で、どれだけのものを斬ってきたの?
答えはいらないよ。
「ずっとずっと、逢いたかった!」
君の事を考えない日は無かった。君を思い出して悶えない日は無かった。
私はずっと、君を殺したくて仕方が無かった!
民家の屋根の縁を蹴って、リェリェンの東門を飛び越える。直ぐに行くよ、君のところに。
ああ、また殺された。私の配下が減った。
【視借】を通して、ジェネラルの視界が私の元に届けられる。今、そのジェネラルが死んだ。
どんどん君への貸しが増えていくね。楽しみだよ、返してもらう時が。
【踏空】【飛翔】の併用で空を駆ける。こうしている間に何体のオーガ達が死ぬか分からない。キング相手でも彼は難なく殺してみせるだろうしね。
無駄に殺させる趣味は無いし、何より一刻も早く再開したいから。
「見つけた!」
地面に降りて、アルバートを視界に収める。彼はもうオーガ達の半数を殺していた。急所を貫かれた死骸が足元に散らばっている。
オーガキングはAランクの魔物だし、それがいなくてもBランクの大軍だから、もう少し保ってくれると思ったんだけどな。それだけアルバートも、あの時より強くなっているって事かな。
腰に吊るしてある【ストレージ】を魔法付与された袋から、私の『武器』を取り出す。それは、武器と言われれば首を傾げてしまうような代物。
水晶玉みたいな印象を受けるこの球体は妖精の一種、【闇の妖精球】。悪魔族にしか懐かない妖精。
「ごめんね、あんな狭いところに閉じ込めちゃって。今、餌を見つけたから」
『……』
そして、魔力を与えるとその主に適した武装に変形すると言う特質を持つ。その性質は元来凶暴で、常に威力と速度に特化したものになる。
下手をすると、悪魔族すら食いかねない。父さんに貰った子供の妖精だけど、とんだじゃじゃ馬だよ。今だってとんでもない量の魔力を吸い出されてる。
妖精にも感情があるからね、やっぱり怒ってるのかな。【ストレージ】の中って窮屈らしいから。
「大丈夫。たくさん、暴れさせてあげるから」
闇の妖精球の変形が完了する。
「へえ、これが『私』か」
『……!』
手元にあるのは、真っ黒な剣。この妖精が私に適したと判断した形。
思わず苦笑してしまう。奇しくもアルバートと同じ形の剣になった訳だ。
これはもう、運命が私に彼と戦えと言っているみたいじゃないか。
「さあ、行こう」
魔力は隠していない。アルバートもこっちに気付いてるだろうね。私が敵意を持っている事も。
ジェネラルの頭を突き、アルバートがこっちを向く。そこに表情は無く、新たな敵を見つけた程度の情緒しかない。
「何者だ」
アルバートが口を開く。
私はアルバートに突きを入れる。が、彼は難なくそれを逸らした。
「黒幕」
今の私の表情はどうなっているだろう。きっと、口元が大きく歪んで笑みを作っている筈だ。
アルバートの滑るような逆袈裟をすんでのところで躱す。前髪が数本切れて、はらりと宙を舞う。
目が合った。
「ならば斬る」
「今更だよ」
直ぐさま体勢を立て直して、アルバートの振り下ろしを剣の側面で受け流す。軌道を変えて追ってくる剣筋を後ろに跳んで躱し、地面を蹴って剣をアルバートの眉間へ。
これで決まるなんて思っていない。弾かれた剣を引き戻して、横一文字に振り抜かれたアルバートの剣を更に横に流した。
オーガキング達には、私たちの邪魔をしないように命令を修正した。今頃は三分の一くらいに減らされた戦力でリェリェンに向かっている。
アルバートもそれは分かっていて、私を倒す事を少しは急いでるみたい。だけどさ、
「実力はほぼ互角。どうするの? ここで戦う? 街の人を助ける?」
互角と言うには押され気味だけどね。
それに、君がどっちを選ぶかも知ってる。
「奴らがリェリェンに到達する前に貴様を伐つのみだ」
だろうね。戦う以外を選択する筈が無いって、そんな事は知ってる。
被害なんか度外視して、目的を達成する事だけを最優先にするのが君なんだから。
アルバートが加速する。無属性魔法を無詠唱で発動したみたい。
無詠唱にはかなりの鍛錬とセンスが無いと駄目な筈なんだけど、流石にSランクだね。それに、まだ余裕が窺える。
あっさり殺されてくれたら私が困る。三年抱き続けた復讐が簡単に終わっちゃったら、流石にやるせない。
確実に頭、首、胸と言った急所を狙う斬撃を、時に躱し、時に受け止め、受け流す。その際に生じる隙を突いてアルバートの軽鎧に傷をつけていく。
もちろん私も無傷じゃない。衣服はところどころが斬られていてボロ布みたいになっている。避けきれなかった斬撃で肌を切り裂かれていて、少量ながらも血が流れていた。
妖精に魔力を持って行かれる所為で、無属性魔法の行使に回せる魔力が無い。だけど、不思議と魔力が抜けていく時の脱力感も無かった。
アルバートを前にした現状への高揚がそれを上回っているのだと気付く。私の中で彼は、ここまで大きな存在になっていた。
アルバートが後ろへ跳んだ瞬間に、剣をアルバートへ突き入れる。直撃はしなかったけど、アルバートの首元から血が流れるのが見えた。
彼は少しの驚愕を見せて、また無表情に戻る。対して、私の高揚は更に高みを増した。
そして分かった、私に慎重は似合わない。
この胸の高鳴りを抑えたまま戦うなんて、我慢できない!
もともとここで終結するつもりだったんだ。後先なんて考えるな、私!
「ぐっ……!」
防御を捨てて攻勢に出る。アルバートの額に汗が光った。
その表情からは余裕が消えて、彼は守勢に回る。
初めからこうすれば良かったなんて思わない。この瞬間まで溜め込んできた感情が爆発した、ただそれだけの事。
ああ、笑いが止まらない。この瞬間の全てが楽しい。
アルバートは無属性魔法を重ねがけして身体能力を更に底上げする。目に見えて剣撃が速くなり、段々と押し返されてきた。
継戦能力を諦めて、私も無属性魔法【身体強化】を行使する。これでまた互角だね。
いや、互角とは違うかな。アルバートの剣筋が乱れて来ている。
事前にかけた闇属性魔法で疲労を無くしている私とは違って、アルバートには並外れたスタミナはあっても限界がある。
それに彼は、私が来る前に相当な数のオーガ達と戦っていた。倒すのは簡単でも、攻撃には受ければ無視できないダメージを食らうだろうし、長時間そのプレッシャーの中で戦うのは、かなりの疲労を伴う。
そこに私が現れた。新たなる自身と同格の敵。
アルバートにとっては、最悪とは行かなくてもかなり悪い方のシチュエーション。
「防戦一方、敗北は必至か」
「何言ってるのさ」
「せめて、刺し違えようか」
ヒュッと、頬を掠める何か。
アルバートの反撃。脇腹に私の突きを受けながら、剣を振り抜いた。
「ッ……!」
胸の奥に驚愕が広がる。
まさか相打ち狙いで、怪我なんか厭わずに攻勢に出るとか。
びっくりした、想定はしていたから何とか躱せたけど。
「終わらせんよ」
肉の断ち切れる音に、剣から伝わる感触。
アルバートは、腹を貫かれながら剣を振り上げていた。
拙い。
咄嗟に剣から手を離して横に跳ぶ。さっきまで私の顔があったところに剣が振り下ろされた。
自分の身体を突き刺される事で剣を封じるって、君はどれだけのものを切り捨てられるんだ。
人も命も、果ては自分まで。
でも、そうだね。終われる筈が無かった。
妖精が球体に戻り、私の下に帰ってくる。
「なるほど、妖精球か。道理で、膨大な魔力を放っている」
ふらふらの脚で、アルバートは剣を構える。
もう一度妖精球を剣に変形させる。
闇属性魔法の効果が切れてきた。疲労が戻りつつある。魔力も、余り残っていない。
次が、終わりだ。
お互いに余力は無く、最後の一撃に全てを。
意図せず、私と彼は同時に足を踏み出し、剣を交差させる。
終わりは、残酷な程に一瞬だった。
妖精の、黒色の剣がアルバートの剣を砕く。
弾き飛ばされる柄を手放したアルバートがもう一歩踏み込んで、私の鳩尾に拳を叩き込んだ。
アルバートは剣を諦めて、確実な決着を選んだ。
殴り飛ばされ、地面を転がる。骨が折れて臓腑に刺さったようで、口から血が出ている。
痛い。
戻ってきた疲労が全身を蝕む。
アルバートが倒れ込む瞬間が見えていた。
相打ち。
私の、三年間の結果がこれか。何だか、嫌な感じがする。
ここで終わりたかった。これを、私の幕切れにしたかった。
彼に勝てるなら良かった。負けて、殺されるにしてもまだ納得はできた。
こんな、はっきりしない終わり方なんて嫌だ。
魔力は、ほんの少しだけ残ってる。
闇属性魔法。気絶しないくらいの程度で、動けると錯覚する。
「こんな決着、認めない……」
殆ど気力だけで立ち上がる。
一歩ずつ、倒れているアルバートに近付いていく。
「立ってよ、アルバート。このままじゃあ、私が個人的に、戦った気になれない」
返事は期待しないつもりだった。人形に話しかけているつもりで言った言葉だった。
応える声は、予想外にあった。
「……で、あろうな」
地面に手をついて、ゆっくりと立ち上がるアルバートの姿。血はまだ出ている。
絶えず流れ出ている血には気も留めていない。
「魔族を殺すのが我が使命。よもやそれと刺し違えよう等と、気が狂ったとしか思えん」
「……そうだよね」
互いに殺意を持つ二人。立つ理由ならそれで充分で、でも、どちらも戦える状態じゃない。
「だが、正直恐れ入ったぞ。まさか 女子の身で我と互角に渡り合えようとはな」
「はは、私もずっと強くなったつもりだったんだけどな。流石に化け物と謳われるSランクだ。まだ伸び代があるなんてね」
「くくく」
「ははは」
互いを見据えて、笑い合う。
私でもどうかしてると思う、異様な光景。
もう一歩も歩けない。飛びそうになる意識を、必死に繋ぎ止める。
「つけたかったな、決着」
でも、もう限界かな。
違うね。とっくに限界は来ていたんだ。
急速に暗転する視界。
落ちていく意識の片隅で、『全くだ』と声が聞こえた。
三年振りに見る、その剣技。
やっぱり、綺麗だ。
「ねえ、アルバート」
君は、その美しい剣で何を殺してきたの?
その剣技で、どれだけのものを斬ってきたの?
答えはいらないよ。
「ずっとずっと、逢いたかった!」
君の事を考えない日は無かった。君を思い出して悶えない日は無かった。
私はずっと、君を殺したくて仕方が無かった!
民家の屋根の縁を蹴って、リェリェンの東門を飛び越える。直ぐに行くよ、君のところに。
ああ、また殺された。私の配下が減った。
【視借】を通して、ジェネラルの視界が私の元に届けられる。今、そのジェネラルが死んだ。
どんどん君への貸しが増えていくね。楽しみだよ、返してもらう時が。
【踏空】【飛翔】の併用で空を駆ける。こうしている間に何体のオーガ達が死ぬか分からない。キング相手でも彼は難なく殺してみせるだろうしね。
無駄に殺させる趣味は無いし、何より一刻も早く再開したいから。
「見つけた!」
地面に降りて、アルバートを視界に収める。彼はもうオーガ達の半数を殺していた。急所を貫かれた死骸が足元に散らばっている。
オーガキングはAランクの魔物だし、それがいなくてもBランクの大軍だから、もう少し保ってくれると思ったんだけどな。それだけアルバートも、あの時より強くなっているって事かな。
腰に吊るしてある【ストレージ】を魔法付与された袋から、私の『武器』を取り出す。それは、武器と言われれば首を傾げてしまうような代物。
水晶玉みたいな印象を受けるこの球体は妖精の一種、【闇の妖精球】。悪魔族にしか懐かない妖精。
「ごめんね、あんな狭いところに閉じ込めちゃって。今、餌を見つけたから」
『……』
そして、魔力を与えるとその主に適した武装に変形すると言う特質を持つ。その性質は元来凶暴で、常に威力と速度に特化したものになる。
下手をすると、悪魔族すら食いかねない。父さんに貰った子供の妖精だけど、とんだじゃじゃ馬だよ。今だってとんでもない量の魔力を吸い出されてる。
妖精にも感情があるからね、やっぱり怒ってるのかな。【ストレージ】の中って窮屈らしいから。
「大丈夫。たくさん、暴れさせてあげるから」
闇の妖精球の変形が完了する。
「へえ、これが『私』か」
『……!』
手元にあるのは、真っ黒な剣。この妖精が私に適したと判断した形。
思わず苦笑してしまう。奇しくもアルバートと同じ形の剣になった訳だ。
これはもう、運命が私に彼と戦えと言っているみたいじゃないか。
「さあ、行こう」
魔力は隠していない。アルバートもこっちに気付いてるだろうね。私が敵意を持っている事も。
ジェネラルの頭を突き、アルバートがこっちを向く。そこに表情は無く、新たな敵を見つけた程度の情緒しかない。
「何者だ」
アルバートが口を開く。
私はアルバートに突きを入れる。が、彼は難なくそれを逸らした。
「黒幕」
今の私の表情はどうなっているだろう。きっと、口元が大きく歪んで笑みを作っている筈だ。
アルバートの滑るような逆袈裟をすんでのところで躱す。前髪が数本切れて、はらりと宙を舞う。
目が合った。
「ならば斬る」
「今更だよ」
直ぐさま体勢を立て直して、アルバートの振り下ろしを剣の側面で受け流す。軌道を変えて追ってくる剣筋を後ろに跳んで躱し、地面を蹴って剣をアルバートの眉間へ。
これで決まるなんて思っていない。弾かれた剣を引き戻して、横一文字に振り抜かれたアルバートの剣を更に横に流した。
オーガキング達には、私たちの邪魔をしないように命令を修正した。今頃は三分の一くらいに減らされた戦力でリェリェンに向かっている。
アルバートもそれは分かっていて、私を倒す事を少しは急いでるみたい。だけどさ、
「実力はほぼ互角。どうするの? ここで戦う? 街の人を助ける?」
互角と言うには押され気味だけどね。
それに、君がどっちを選ぶかも知ってる。
「奴らがリェリェンに到達する前に貴様を伐つのみだ」
だろうね。戦う以外を選択する筈が無いって、そんな事は知ってる。
被害なんか度外視して、目的を達成する事だけを最優先にするのが君なんだから。
アルバートが加速する。無属性魔法を無詠唱で発動したみたい。
無詠唱にはかなりの鍛錬とセンスが無いと駄目な筈なんだけど、流石にSランクだね。それに、まだ余裕が窺える。
あっさり殺されてくれたら私が困る。三年抱き続けた復讐が簡単に終わっちゃったら、流石にやるせない。
確実に頭、首、胸と言った急所を狙う斬撃を、時に躱し、時に受け止め、受け流す。その際に生じる隙を突いてアルバートの軽鎧に傷をつけていく。
もちろん私も無傷じゃない。衣服はところどころが斬られていてボロ布みたいになっている。避けきれなかった斬撃で肌を切り裂かれていて、少量ながらも血が流れていた。
妖精に魔力を持って行かれる所為で、無属性魔法の行使に回せる魔力が無い。だけど、不思議と魔力が抜けていく時の脱力感も無かった。
アルバートを前にした現状への高揚がそれを上回っているのだと気付く。私の中で彼は、ここまで大きな存在になっていた。
アルバートが後ろへ跳んだ瞬間に、剣をアルバートへ突き入れる。直撃はしなかったけど、アルバートの首元から血が流れるのが見えた。
彼は少しの驚愕を見せて、また無表情に戻る。対して、私の高揚は更に高みを増した。
そして分かった、私に慎重は似合わない。
この胸の高鳴りを抑えたまま戦うなんて、我慢できない!
もともとここで終結するつもりだったんだ。後先なんて考えるな、私!
「ぐっ……!」
防御を捨てて攻勢に出る。アルバートの額に汗が光った。
その表情からは余裕が消えて、彼は守勢に回る。
初めからこうすれば良かったなんて思わない。この瞬間まで溜め込んできた感情が爆発した、ただそれだけの事。
ああ、笑いが止まらない。この瞬間の全てが楽しい。
アルバートは無属性魔法を重ねがけして身体能力を更に底上げする。目に見えて剣撃が速くなり、段々と押し返されてきた。
継戦能力を諦めて、私も無属性魔法【身体強化】を行使する。これでまた互角だね。
いや、互角とは違うかな。アルバートの剣筋が乱れて来ている。
事前にかけた闇属性魔法で疲労を無くしている私とは違って、アルバートには並外れたスタミナはあっても限界がある。
それに彼は、私が来る前に相当な数のオーガ達と戦っていた。倒すのは簡単でも、攻撃には受ければ無視できないダメージを食らうだろうし、長時間そのプレッシャーの中で戦うのは、かなりの疲労を伴う。
そこに私が現れた。新たなる自身と同格の敵。
アルバートにとっては、最悪とは行かなくてもかなり悪い方のシチュエーション。
「防戦一方、敗北は必至か」
「何言ってるのさ」
「せめて、刺し違えようか」
ヒュッと、頬を掠める何か。
アルバートの反撃。脇腹に私の突きを受けながら、剣を振り抜いた。
「ッ……!」
胸の奥に驚愕が広がる。
まさか相打ち狙いで、怪我なんか厭わずに攻勢に出るとか。
びっくりした、想定はしていたから何とか躱せたけど。
「終わらせんよ」
肉の断ち切れる音に、剣から伝わる感触。
アルバートは、腹を貫かれながら剣を振り上げていた。
拙い。
咄嗟に剣から手を離して横に跳ぶ。さっきまで私の顔があったところに剣が振り下ろされた。
自分の身体を突き刺される事で剣を封じるって、君はどれだけのものを切り捨てられるんだ。
人も命も、果ては自分まで。
でも、そうだね。終われる筈が無かった。
妖精が球体に戻り、私の下に帰ってくる。
「なるほど、妖精球か。道理で、膨大な魔力を放っている」
ふらふらの脚で、アルバートは剣を構える。
もう一度妖精球を剣に変形させる。
闇属性魔法の効果が切れてきた。疲労が戻りつつある。魔力も、余り残っていない。
次が、終わりだ。
お互いに余力は無く、最後の一撃に全てを。
意図せず、私と彼は同時に足を踏み出し、剣を交差させる。
終わりは、残酷な程に一瞬だった。
妖精の、黒色の剣がアルバートの剣を砕く。
弾き飛ばされる柄を手放したアルバートがもう一歩踏み込んで、私の鳩尾に拳を叩き込んだ。
アルバートは剣を諦めて、確実な決着を選んだ。
殴り飛ばされ、地面を転がる。骨が折れて臓腑に刺さったようで、口から血が出ている。
痛い。
戻ってきた疲労が全身を蝕む。
アルバートが倒れ込む瞬間が見えていた。
相打ち。
私の、三年間の結果がこれか。何だか、嫌な感じがする。
ここで終わりたかった。これを、私の幕切れにしたかった。
彼に勝てるなら良かった。負けて、殺されるにしてもまだ納得はできた。
こんな、はっきりしない終わり方なんて嫌だ。
魔力は、ほんの少しだけ残ってる。
闇属性魔法。気絶しないくらいの程度で、動けると錯覚する。
「こんな決着、認めない……」
殆ど気力だけで立ち上がる。
一歩ずつ、倒れているアルバートに近付いていく。
「立ってよ、アルバート。このままじゃあ、私が個人的に、戦った気になれない」
返事は期待しないつもりだった。人形に話しかけているつもりで言った言葉だった。
応える声は、予想外にあった。
「……で、あろうな」
地面に手をついて、ゆっくりと立ち上がるアルバートの姿。血はまだ出ている。
絶えず流れ出ている血には気も留めていない。
「魔族を殺すのが我が使命。よもやそれと刺し違えよう等と、気が狂ったとしか思えん」
「……そうだよね」
互いに殺意を持つ二人。立つ理由ならそれで充分で、でも、どちらも戦える状態じゃない。
「だが、正直恐れ入ったぞ。まさか 女子の身で我と互角に渡り合えようとはな」
「はは、私もずっと強くなったつもりだったんだけどな。流石に化け物と謳われるSランクだ。まだ伸び代があるなんてね」
「くくく」
「ははは」
互いを見据えて、笑い合う。
私でもどうかしてると思う、異様な光景。
もう一歩も歩けない。飛びそうになる意識を、必死に繋ぎ止める。
「つけたかったな、決着」
でも、もう限界かな。
違うね。とっくに限界は来ていたんだ。
急速に暗転する視界。
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