転生×召喚 ~職業は魔王らしいです~

黒羽 晃

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二章 「初めて会った時から」

18話

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 漸く国の兵どもが駆けつけて来て、冒険者と共に魔物との戦闘を始めた。
 っつか、遅えんだよ来んのが。国王からの命令が無い限り動けねえってのが難儀だよなあ、こいつら。

 ホブゴブリンの頭をかち割り、頭ん中で愚痴る。
 戦場で仲間割れする事がどれだけ危険か、訓練しかした事の無え兵士よりは実戦の機会の多い冒険者の方が良く分かっている。どいつもこいつも、最悪顔に出すだけで口にはしない。
 想定内の戦力相手なら兵士でも何とかなるだろうが、想定外には弱えんだよなあ。
 ほらな、五人いる癖にオーガ一匹に気圧されて足が竦んでいやがる。

「お、ら、よっと!」

 兵士どもがびびって動けなくなっている間に、背後からオーガの首を叩っ斬ってやった。

「か、感謝する、ガズルド殿!」

 五人一組のリーダーっぽい奴が俺に向かってそう言ってきた。
 だがなぁ、後ろががら空きだっての。

「おらぁっ!」

 兵士の後ろにいたオーク二体を一息で殺す。
 死にに行くのは勝手だが、目の前で死なれんのは迷惑だからな。

「ぺらぺら喋ってる暇があったら戦え。戦場ではてめえらが思う以上に死は近くにあるからな」

 これが最初で最後の忠告だ。
 兵士に背を向け、未だ数の減った気のしない魔物の群れへと駆ける。
 いつ死ぬか分からない状況で、他人を気にかけている余裕なんざこれっぽっちも無え。
 かかってくる魔物を切り捨て、オークの亜種らしき黒毛のオークに斬りかかる。

 ……硬え!?

 あまりに皮膚が硬く俺の大剣が殆ど通用してない。
 こいつは本気で殺るか。

「bgoggggg!」

「るっせぇっ!」

 醜い声で鳴く黒オークに大剣を横薙ぎに振り抜く。
 首を斬り飛ばすつもりで薙いだ剣だが、やはり皮膚に阻まれて弾き飛ばすにとどまる。

 こいつには斬撃が効かねえのか。剣士の天敵みてえな奴だな。だが俺は冒険者、剣に固執する剣士じゃねえ。

 殴りかかって来る黒オークの拳を避け、大剣を手放して、片手で黒オークの腕を掴みもう片方の手で胸元の毛を掴む。
 その直後に黒オークを背負うようにして担ぎ上げ、地面に叩きつけた。

「ga……」

 背中を打ち付けて息を吐いた黒オークの口に、腰に挿していた短剣を突き入れる。

「外側は刃を通さねえくらいに硬いが、中はどうなんだろう、なっと!」

 ぶっ刺した短剣をグリグリと回し、黒オークが死んだ事を確認して短剣を抜いた。
 はっ、我ながら冷静に動けるようになったもんだ。それもあの餓鬼のおかげだと思うと、複雑なもんだな。

 ……思い出したら腹が立って来たな。だが今いない奴に向ける怒りを持っていても仕方がねえか。そもそも今の俺じゃあ勝てねえのは明白だ。
 だから今は、目の前の敵を叩っ斬る。
 それにしても俺に来る魔物の数が多くねえか? 前の方にもいるだろ。まさか俺を脅威だと認識してんのか?

 だったら都合が悪いな。あの黒オーククラスが何体も来ると流石に危ねぇ。しかもこいつら、かなり弱い方の魔物だ。
 強くてもCランク、しかも侵攻が始まってから随分経つ。これは、そろそろ強え奴が来るだろうな。

「うわあぁぁ!」

「な、なんだこいつはあっ!」

 お、来たか?
 悲鳴が聞こえた方を向くと、冒険者二人が民家の壁に叩き付けられて潰れているところだった。
 犯人は無数の触手を自在に操るスライム。先ほどまで束になっていた触手が解けたところを見ると、触手で攻撃する時には数十本の触手を束ねる必要があるんだろう。
 さっきの二人の冒険者には気の毒だが、こんなに早く初見の敵の攻撃手段がわかった事はでかい。

 だが、触手攻撃だけじゃあ無いだろうな。奴が進んだと思われる道に汚れが全く落ちていない。まあそのかわり、変な煙が出てるんだがな。
 とにかく、あれに触れたらやばいだろう。散らかっている筈の魔物の死骸も綺麗さっぱり無くなっていやがる。

「ありゃ強力な酸だな。あんなに早く溶かすくらいの奴だと、煙を吸っただけで拙い事になりそうだ」

 さて、奴をどう殺すか。
 まず正攻法では無理だな。正面からぶつかればすぐに溶かされるか、いや。
 最初に殺された二人が全く溶けていない。となると、酸を分泌するにはそれなりに時間がかかると考えられる。
 だったら、一応は戦いようがあるな。

「おらっ!」

 伸ばされて来る触手を切りつける。数本の触手は本体から離れ、地面に落ちた途端に融解し、消えた。
 まさかこいつ、削って行けば勝てんのか?

 そう思った瞬間、スライムが身体の一部を千切って飛ばして来やがった。
 危ねぇ。注意して観察していたから避けられたものの、不意打ちだったら終わってたな。
 あと、奴は転がっている死体を食って削れた身体を補填している。ちまちま削っていてもジリ貧になるだけだ。

 スライム系の魔物の急所は身体のどこかにある核と決まっている。そこを叩くしかねえか。
 だがこのスライム、何処に核があるか分かんねえんだよな。全身が濃い青色をしているから内部が見えにくい。

 こうなると、急所が見えない分倒すのが難くなる。数撃ちゃ当たるで我武者羅に攻撃する訳にも行かねえしな。全部を吹き飛ばすにしても、それほどの規模の魔法なんざ使えねえ。
 となると、俺の打つ手が全く無くなるんだが。

 一か八かの賭けに出るか? 未知の相手に?
 いや、それは無謀としか言いようがねえ。基本的にスライムの核は身体の中心にあるって聞いた事がある。が、強え奴になれば核の位置を移動させられるらしいからな。
 俺の攻撃じゃあ奴の身体の中心まで届かねえし、核が移動すんならそれを捉える方法が無い以上勝ち目も無え。
 くそっ、考える程に絶望的になっていく。せめて十秒あれば可能性は少しは出てくるんだが、奴が十秒なんて待ってくれる訳も無え。

 いや、考えろ。まだ策はある筈……

「侵食せよ、【凍矢とうや】」

 俺の背後から氷柱が飛来し、スライムに命中する。そして、命中した箇所から氷が侵食してひろがっていき、やがてスライムの動きを縛る枷となる。
 後ろを振り返ってみると、金髪の女が魔法杖を構えて立っていた。

「ガズルドさん。何一人で戦おうとしているんですか。貴方の方の分が悪いのはとっくに分かっていたでしょう」

 呆れたようにため息をつくそいつは、間違いようが無い。ギルドの受付嬢のアレシアだった。

「アレシア、てめえ何でこんなところにいやがる」

「冒険者たちの加勢です。市民と非戦闘員の避難が終わったので」

「……そうかよ」

 色々と言いたい事はある。だが今はそんな事をしている場合じゃねえ。
 アレシアは水属性の適性がある魔法士。半分液体みてえな魔物のスライムにはかなり有効な筈だ。現にさっきの【凍矢】は奴の動きを阻害している。

「倒し切りましょう。そろそろ彼らも他の魔物を倒し終わっている筈です」

 ……彼ら?
 いや、それを気にしている場合でも無えからな。援軍に来るだろうと言う意味で言ったんなら、その内分かるだろ。大体の予想はついているがな。
 スライムに向き直り、大剣を構える。多少は減ったが未だ苛烈を極める触手の攻撃。それを身体を捻って躱し、避けきれないのは打ち払う。
 撥ねた酸がかかり、少しずつだが革鎧が溶けていく。大剣が酸を受けて脆くなっていく。

 やはり短期決戦に持ち込む必要があるな。スライムに碌なダメージを与えられないままだと、本格的に攻撃手段が無くなる。

「アレシア、奴を止められるか?」

「無理です。私だけでは到底不可能だと言わざるを得ません」

「そうか」

 やはりか。
 落胆はしない。元から助けは期待していなかったからな。

「だからって貴方一人で向かわないで下さいね。私だけではって言ったでしょう」

 氷弾で牽制しながらアレシアが言う。

「彼らが来れば、ガズルドさん、貴方の負担を減らせます。上手く標的を操作できれば、五秒から六秒くらいなら稼げますから」

 ほら、と言われ、向いた先には、見覚えのある冒険者三人がスライムに切り掛かっている姿があった。
 戦斧ハルバード使いのゲーテ。大楯殴りシールドバッシュのオズマ。そして、俺を真似たと言う大剣士のアレックス。
 オズマが前に出てスライムの攻撃を引き受け、隙をついてゲーテとアレックスがスライムへと斬撃を浴びせる。俺無しで作用している、拙いながらも連携と呼べるものがそこにはあった。

 自分にしか関心を持たずに過ごしている間に、パーティ『鉄の大剣アイアンソード』は随分と成長しているようだった。
 だが、あいつらもやはりスライムを相手にして、口をきいている余裕は無えみてえだ。

 五秒から六秒。アレシアが言った鉄の大剣アイアンソードの限界。無駄に出来る訳が無え。

「……【身体強化ストレングス】」

 小さい頃から、剣の腕は同年代を遥かに超えた才能を持っていた。それだけが俺だったとも言えた。
 体格に恵まれたのも幸運だった。ガキの頃なら、力が強くて威張れる奴が支配者になれた。
 だが俺には、致命的なまでに魔法の才が無かった。魔力の操作が、同年代の中でずば抜けて下手だった。
 それに加え、俺の魔力量は少ない。火属性魔法で言えば、暖をとる程度の事しか出来ない。魔法では全く戦えなかった。

 俺が唯一適性のあった属性は【無】、特殊属性に分類される属性。主に身体能力の強化に使える、特殊属性の中でも珍しくは無いやつだ。
 俺はその無属性魔法を、数秒かければ使える。焼け石に水程度だが、俺の身体能力の限界を超えられる。しかも実戦では殆ど使えない。
 だから、時間稼ぎを必要とした。

 大剣を振り下ろす腕と、大地を蹴る脚。強化するのはここだけだ。
 スライムの触手を受けて飛ばされるオズマの姿が見える。激昂するな、スライムを殺すチャンスが失われちまう。
 ゲーテの戦斧ハルバードが破壊され、追撃するように伸ばされた触手をアレックスが弾き、その隙をアレシアがついて氷弾を飛ばす。

 身体強化が終わる。スライムの触手がぴたりと止まり、俺の方へ向けられる。
 何故か、さっきまでは反応していたアレックスの攻撃も、今は意に介していない。こいつは頭が良いようだな、俺の次の一撃が危険だと理解していやがる。

 地を踏み、全身を前へ押し出す。二歩、三歩、四歩、今までに無く速く 疾走はしっている筈だが、随分と遅く感じられる。
 五歩、ここで大剣を振り上げる。ぐっと力を入れて、遥か先にも思える次の瞬間を。
 六歩、スライムが触手を束ね、俺を仕留めようと伸ばす。しかしそれらはアレックスに叩き斬られ、アレシアに凍らされる。
 七歩、眼前にスライムが迫る。大剣に力を込めて、振り下ろす。超音速の大剣はスライムに触れ、食い込み、斬る。
 衝撃波はスライムの内部を破壊しながら迸り、中心まで到達した刃から、何か固い物を砕く感触が伝わる。

 八歩、スライムはその形を崩し、液体になって死んだ。

「ガズルドさん!」

 歓喜を湛えた声音で叫ぶアレックスの声と足音。
 スライムの遺骸をかぶった俺に駆け寄って来る。何も無えな、死んだら酸性が消えんのか。

「ガズルドさん、お見事でした!」

 すっかり溶けたスライムを拭ってアレックスに向く。アレックスはいつものように、感激したような眼をしていた。

「んな訳無えだろうが」

 アレックスの称賛を俺は否定する。

「間違いなく俺だけじゃあ勝てなかった。防戦一方だったのを見てたろ、アレックス」

「しかし……」

「奴を倒せたのは、ゲーテ、オズマ、アレシア、それにアレックス、てめえらの力があったからだ」

 衝撃を受けたような顔をするアレックス。
 俺は本当の事を言っただけだ。あのままなら、俺は負けていただろう。結果的に止めを刺したのは俺だが、言っちまえば俺は止めしかしていないのと同じだ。

「まあ、ガズルドさんが戦っていなければ街の被害をここまで抑える事も出来なかったんですけどね」

 そう言って歩いて来たのはアレシア。

「スライム戦についてはそうですが、貴方は今回、この中の誰よりも活躍していたんですよ。もう少し誇って下さい」

「そうっすよ。あいつと戦う前も、そもそもガズルドさんが魔物の数を減らしてくんなかったら俺らがガズルドさんの援護に間に合わなかったかもしんねえんっすし」

「ああ、ガズルドが、一番、戦った。オデより、ずっと」

 続いて、オズマに肩を貸しながらゲーテが来る。
 オズマはスライムに飛ばされた時のダメージが残っているみてえだ。

「ま、ゲーテさんにオズマさん。言いたい事があるのは分かりますけど、今はアレックスが話したそうにしてるから」

 アレシアはそう言って、アレックスに話を譲る。ゲーテとオズマも頷いた。

「ガズルドさん」

「何だ」

「貴方は、やっぱり俺の憧れたガズルドさんです。あの太刀筋、久しぶりに見惚れました」

「何が言いてえ」

 アレックスは、何か決意を秘めた表情で。

「今度、僕と決闘してください。僕には、貴方から教わりたい事がまだ山ほどある」

 そう、言い放った。
 少々予想外な申し出に若干面食らうが、それもいいかとも思える。
 東門の方を見て、言う。

「アレックス、まだお前に負ける気は無えぞ」

「……はい!」

 夕焼け空を見上げ、俺たちは一つの約束を交わした。
 さて、また魔物の影が見えてきたな。
 十体にも満たない数だが、油断は出来ねえ。ただでさえ俺らはスライムとの戦闘で疲労困憊だってのに……

『ッ…………!』

 ただならぬ気配。狂った歓喜と、怒りの感情。
 なんだこれは、冷や汗が止まらねえ。まるで本能に直接叩きつけられたみてえな、そんな感じだ。

 見ると、俺以外の全員も同じものを感じているようだ。

「なん、ですか……これは…………魔力? いえ、しかしこの強さは……」

 唯一、魔法士のアレシアがこの正体が俺らより見えているようだ。

 この侵攻、このままでは終わらねえみてえだな。
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