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令嬢執事ハンスの受難
受難5~病んでるハンスの境界線~
しおりを挟む天罰なのだろうか。お嬢様のお願い事を断った天罰が降ったのだろうか。もしくは、隠し事をしているせいなのか・・・・。休日を終えてから・・・・色々ありすぎて精神的に限界が近い。特に・・お嬢様に避けられているのがきつい。
この数日、会話どころか、目すら合わせてもらえない。ルビアナ嬢に頼んだのか、土壁に隠れて移動したり・・・・俺を見かけるとレオニダスを連れて脱兎の如く逃げる。本人的に、こそこそと忍んでいるつもりなのか。それ、逆に目立ってますよ。お嬢様。
逃げられると、追いかけたくなる。追い詰めて、捕まえて、問い詰めて、逃げ出さないように繋いで・・・
「ハンス。お前、目がマジでヤバいぞ」
教室で机に突っ伏していたら、レオニダスが声をかけてきた。お前、最近お嬢様とよくいるよな。そこは、俺の場所なんだが。いっそ此処でレオニダスを消したら、お嬢様の隣に戻れるだろうか。
「・・・・うわっ。なんか今背筋に寒気がっ。風邪でも引いちまったかな? 」
「それはないだろ。・・・・馬鹿は風邪を引かない」
脳内で5回程レオニダスを消したが、残念ながら目の前にいるレオニダスは消えなかった。ちらりとお嬢様の方を覗きみる。
お嬢様は、ルビアナ嬢と話しをしている。羨ましい。俺も話しをしたい。
「ハンス・・・・俺の話し聞いてる?俺、今魔法の練習を・・・・から、・・・・を・・・・えて欲しいんだけど・・・・」
お嬢様とルビアナ嬢が、教室をでた。もうすぐ授業が始まるというのに。仕方ないので、後を追う。お嬢様の学園生活のサポートをする為に俺はここにいる。これは、俺の仕事だから。
「おい!ハンス!何処に行くんだよ!? 」
後方で、レオニダスが叫ぶ。
「救護室。お嬢様が体調を崩してるから。Mrsシャーウッドにそう言っておいてくれ」
「は?はあ? 」
ちょうどいい。お嬢様を捕まえよう。捕まえて、ちょっとばかし隔離して、話しをしよう。
限界だ。
理由もわからずに避けられるなんて耐えられない。
レクリエーションからずっと不運が続いている。これもそれの一環なのだろうか。最終的にお嬢様に捨てられるんじゃ・・・・。そんな思考に辿りつき、焦燥に胸が潰れそうになる。
限界だ。
◆◆◆
お嬢様を捕まえた。
廊下の曲がり角。俺の腕の中に飛び込んできたお嬢様。
やっと捕まえた。
「お嬢様。廊下はあれほど走ってはいけないと・・・・。怪我をされたらどうするのです」
抱き締める腕に力が篭ってしまう。
離したくない。このまま攫ってしまいたい。
俺の幸せの為に、お嬢様を奪ってしまおうか?お嬢様は、俺が好きなんだろう?なら、このまま攫って囲って閉じ込めてしまえばいい。俺だけを見るようにすればいい。お嬢様の幸せ?傍にいられないなら・・・・そんなモノどうでも・・・・
醜く、どろどろとした気持ちを抱えたままお嬢様を抱き締める。どんどんどんどん黒く染め上げられていく俺の内側。
お嬢様の震えに気付き、ハッとする。
俺はナニを考えていた?
こんなのだから、ブルーテス様に牽制されるんだ。あの方は、心からお嬢様の幸せを願っている。俺みたいな歪んだ人間と違っていて。お嬢様と同じで真っ直ぐで眩くて。
生きる世界が違う。
「お嬢様・・・・本当に・・・・どうされたのですか?顔色も悪い。授業も始まってますが・・・・今日はこのまま寮に戻られた方が・・・・」
ここ数日、ずっと顔色が悪い。目の下にクマもできている。あまり寝むれていないようだ。お嬢様は、何かに思い悩んで苦しんでいる。・・・・それを俺には隠そうとしている。隠されている事がショックだ。悩みを打ち明けてもらえず、避けられ続け・・・・お前は不要だと言われているようで・・・・
「放っておいてちょうだい。貴方に関係があって? 」
ぐるぐると暗闇に囚われる俺に、お嬢様が言い放つ。
「私・・・・ハンスといたくありませんの。離して下さる?傍に寄らないで」
睨まれ、腕と言葉で拒絶された。
聞き間違いだろうか?
聞き間違いであって欲しい。
頭がうまく働かない。
真っ白だ。
真っ白になって、黒くなる。
「・・・・貴方が傍に居るのが・・辛いのよ。だからお願い。ハンス。私の執事を辞めてちょうだい」
ああ。そうか。お嬢様は、俺が不要になったんだ。俺以外を見て、世界を広げて欲しい。そう願っていた筈なのに。喜ばしい事の筈なのに。頭を鈍器で殴られ、心は鉛のように重い。
ーお前は、いらない。
お嬢様から告げられる事が、こんなにも苦しいだなんて・・・・。
「・・・・嫌です」
気付けばそう吐き出していた。ずっと隠していた本音。
「嫌です。・・・・嫌だ。俺はっ・・・・俺は」
「俺は、お嬢様から・・・・離れたくないっ」
お嬢様。
俺の居場所を取らないで。
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