【完結/BL】霊力チートのΩには5人の神格αがいる

架月ひなた

文字の大きさ
26 / 74
第四話、美青年陰陽師に異界を憑れ回された挙げ句に扱かれています……

2

しおりを挟む


***



 次の日、朝陽は博嗣の付き添いで某神社に来ていた。
 二人が鳥居を潜った瞬間、風もないのにザワザワと桜の木が揺れだす。
 花をつけるにはまだ早い時期だと言うのに、桜の花吹雪が舞っていた。
 境内に生えている桜の木は、もちろん蕾一つ付けていない。
 ——幻覚?
 朝陽は足を止めて、周りにある桜の木々全体を見渡した。
 陽の光を反射しながら、薄い桃色の花弁が吹き荒れる。
 どこか幻想的で目を奪われてしまった。
 しかし、隣を歩いていた筈の博嗣がいなくなっている事に気がついて、朝陽は声を上げる。
「じいさん?」
 返事がない。
 それどころか桜の木も視界から消えていた。
「え? 何だこれ?」
 疑問を抱いた時には既に遅かった。
 恐らくは妙な空間に紛れ込んでいる。
 音も匂いも風の動きも生き物の気配さえしない、密封された空間に朝陽はいた。
 朝陽の周りだけが切り取られたように静かだ。
 ——もしかしてここ、異界か?
 固唾を飲み込む。
 話には聞いた事があったが、自らが迷い込むのは初めてだ。
 どうやって戻ろうかと朝陽が頭を抱えていると、控えめな笑い声がして瞬時に頭を上げる。
 ——いつからそこに居た?
 朝陽は警戒しながら、声のした方向に視線を向ける。
 そこには和装姿の黒髪の青年が立っていて、朝陽をジッと見ていた。
 男にしては長めのショートカットで、癖一つない毛髪だった。
 前髪の隙間からは碧眼が覗いている。
 キュウとはまた違った味わいのある綺麗な青年だった。
 落ち着き払った雰囲気と佇まいからは、朝陽よりやや歳上の印象を受ける。
「オレが案内してあげようか?」
 静かで澄んだ声音で青年は言うと、有無を言わさず朝陽の手を引く。
「え? ていうか、どちら様……ですか?」
「安倍晴明」
 少しだけ高い青年の目線が下りて、朝陽を捉えている。
 あの安倍晴明か、と朝陽は視線を逸らして遠い目をした。
 断ろうにも異界を出る案がある訳でもなく、外界からの助けも期待出来ない。
 晴明の言う通りにするしか術がなく、朝陽は促されるまま晴明と歩いた。
「何処に向かっているんですか?」
 初対面なのもあり、朝陽が敬語で訪ねると晴明は微かに笑むだけで、何も答えずにまた前を向く。
 やたら長い石段を登っていると思っていたが、突然視界が切り替わる。
 今度は大きな屋敷の中を歩いていた。
「景色が変わった……?」
「心配しなくても大丈夫だよ。ついておいで」
 赤い柱の立つ木の廊下を歩む。
 格式高い神社のような造りになっている。
 通されたのは客間のような場所だった。
 焦茶色をした長方形の座卓を晴明と向かい合わせになるように囲んでいると、黒子みたいな人型のナニカにお茶を出された。
 霊ではない。
 物怪でもない。
 どこか気配はおかしいが悪い物ではなさそうだ。
 ジッと見つめている朝陽に気がついたのか、晴明が「オレの式神だよ」と説明した。
「式神……。あの、ここって?」
「ふふ、オレの社」
「いや、そうじゃなくてですね。俺……祖父のとこに戻りたいんですけど」
「そうだね」
 ニッコリと微笑まれると居心地が悪い。
 話にならないのも困る。
 無言の間が続いた。
 ——どうしよう……。
 逃して貰えそうもなくて、朝陽はお茶に視線を落とした。
 飲んだら異界から出れなくなるとかないよな……と思案する。
 ウェブサイトにあるホラー掲示板で書かれていたのを思い出したからだ。
「大丈夫。心配しなくてもちゃんと帰れるよ」
 何故心の声が漏れたんだろう、と考えてしまい冷や汗が出てくる。
「顔に出てるからね。君の感情は読み取りやすい」
 とたんに恥ずかしくなった。
 そんな朝陽を晴明は楽しそうに観察している。
 時間経過は分からないが、随分と時間が経ってから朝陽は口を開いた。
「あの、安倍……さん」
「晴明」
「はい?」
「晴明、で良い。あと普段の言葉で構わないよ」
 マイペースというか不思議な感覚にさせられる男だった。
「晴明」
 朝陽が名を呼ぶと、晴明は目を細めて優しく微笑んだ。
 その表情にドキリとしてしまう。
 ——いや、そんなに嬉しそうにされても困るんだけど……。
 どうも調子が狂う。
「君がこの神社に来た瞬間、ここの桜たちが騒ぎだしたから見に来たんだ。君に興味が湧いたから思わず連れてきてしまった。後でちゃんと帰してあげるよ」
「はあ……」
 抗うのは即行で諦めてため息をつく。
 最近会ったαたちのせいで朝陽の感覚は麻痺している。プラス持ち前の諦めの早さが災いしていた。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...