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第七話、暗転と亀裂
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朝陽は帰路を辿っていた。
欲しい情報を持っているのは、恐らくは物部アマヤとニギハヤヒだけだった。
しかし、ニギハヤヒとはもう会っていない。物部は得体が知れなくて嫌悪感しか湧かない為、論外だ。自分からは関わりたくもない。
道中ずっと考え事をしていたからか、駅に着くまで随分と早く感じられた。
鍵を開けて扉に手を掛ける。
灯りのない冷えた室内は、何の気配もない。痛いほどの静寂が凶器となって身に突き刺さった。
脳裏を過ぎるのは、ここで共に暮らしていた己の番たちの顔で、朝陽は眉根を寄せて俯いた。
——皆んな、何しているんだろう。
自分から関係を切ったというのに会いたくて堪らない。
寂しさが胸中を占めている。
これまでずっと一緒にいて、六人から急に一人になってしまってから、妙に家が広くて心細さを誘う。
とても居心地が悪かった。
中に入ったのはいいが、玄関先で立ち尽くす。
こうなるのなら引っ越さなければ良かったと頭のどこかで思う一方、出会った事や今まで共に過ごした時間を後悔していないのが不思議だった。
クセの強い同居人たちが居るのは何だかんだと賑やかで朝陽は楽しかった。
他人の前で初めて普段の自分を曝け出せた。
だからこそ裏切られた気持ちでいっぱいで、こんなにも胸が苦しいのかもしれない。
寂しい、という感情が人よりも乏しく、恋愛経験さえ無い朝陽には今の感情は手に余った。
胸を締め付ける感情の名を朝陽は知らない。
余計な事を考え始めている思考回路を断つようにため息をついた。
チクリと下っ腹に痛みが走り手を当てる。
最近妙な痛み方をするようになっていて体も怠い。考えてみればこの数日間まともな食事をしていなかった。
そのせいで体調を崩しかけているのかも知れないと考え、コンビニに行こうとまた家を出た。
「朝陽……っ」
声のする方へ視線を向けると、そこにはオロと将門がいた。
「あの、ボク……」
無言で二人の前を通り過ぎて、コンビニへと向かう。
——あいつらもう居なくなったかな……?
朝陽は、結構長い時間を潰してから帰って来たのだが、二人はまだ居た。
「何してんだよ……お前ら。さっさと持ち場に帰れ」
ちゃんと視線を合わせては言葉を紡げなかった。
「俺の帰る場所はお前の所だけだと言った筈だ」
「ボクはっ、ボクは……また皆んなと一緒にここに住みたい」
長い沈黙が三人の間に落ちる。どうすべきか逡巡していたが、答えは出そうになかった。
朝陽は大きなため息をついて、結界の強度を緩める。
「……入ってもいいぞ」
「朝陽ぃ~っ」
オロが泣きながら朝陽に抱きついた。
「泣くな、オロ……」
この二人は始めっから今回の件にほぼ関わっていない。それが朝陽の心を緩ませた。
ダイニングテーブルに腰掛けて食につく。
朝陽が食事を終えると将門が口を開いた。
「本当はお前が病院に居た時に話そうと思っていたが、それどころではなくなったから今の今まで話しそびれている事がある」
「何の話だ?」
「この家には一階にも二階にも目的の意図が分からないカメラが十数台仕掛けられていた。以前居た部屋にあった物とは用途の異なりそうな機械だ。初めはあの赤嶺という男かと思い見張っていたが、あの男を見張っていた限りでは怪しい動きはなかった。操られているような妙な気配もない。可能性は薄いと見切りをつけて貸し出した人物を探っていた。そいつの家には霊体用の結界が幾つも張られていて、俺でも近付けない。十中八九、仕掛けたのはそいつで間違いないだろう」
霊体を拉致された時の物部とのやり取りを思い出す。
「そうか……。俺を攫った奴らと関わりがあると見ていいかもな。こっち側の情報は全て筒抜けだった。俺の中に十種神宝があるのも、俺が神を産んだ事も、お前らの事も全て知られている」
将門が赤嶺の事をやたら気にしていた理由が分かった。
「なあ。十種神宝の事で何か分かる事はないか?」
「残念ながら俺はニギハヤヒ程古い存在じゃない。もう既に文献でしか触れられない代物だった。現物も見た事がない。お前が持つ情報と大差ないだろな」
「時代的にはボクの方が神宝より古い存在だと思う。でもその神宝はアマテラスから貰ってニギハヤヒが持ってるって事しか知らない」
十種神宝の事はネットや書籍などを調べて分かった。
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