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第七話、暗転と亀裂
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しおりを挟む「僕には殺すなとか言ってた癖に自分は迷いもしないんだね。あ~あ、やっぱり口先だけか~」
「もうその手に乗るかよ。お前の陰湿な手口はウンザリだ。俺は自分の守りたいと思った物を守る。それでいい。別に誰にでも認められる良い子ちゃんを目指してるわけじゃねえんだよ。俺は俺だ。それで悪と言われるのなら悪でいい」
「そう。前はあんなに動揺してたのにね」
目を細めて見せた物部を鼻で笑い返す。
両手を肘より上に掲げ戯けて見せた物部を視界に映した。
——あ、れ?
物部の姿が二重にブレて見え、朝陽は目を擦った。気分の悪さといいやはり体が変だ。
「やっと効いてきた?」
突然大きく心臓が脈打ったのが分かり、朝陽は心臓に手を当てる。
「ほら、そんなに動くから薬の回りも早まっちゃったじゃん」
「お前……ッ、俺に何をした?」
発熱したかのように全身が熱くなってきて息苦くなった。
朝陽は荒い息を肩で押し殺し、祭壇を降りると目の前にいる物部を睨みつける。
「ヒートにする薬と、激物を体内に注入しただけだよ。お兄さんのその体は〝容れ物〟だからね。それプラス……」
気が付けば、物部が目の前にいて目を瞠った。手を伸ばされ、頸に触れられる。
「何して……る……っ」
「ねえ、お兄さん。やっぱり気が付いてなかったんだね? 僕も貴方の番候補者なんだよ」
首筋を撫で上げられて、ゾワリと全身総毛立った。心臓が破裂しそう程に脈打っている。
「触るな!」
その言葉が冗談じゃないのは、肌を指すプレッシャーが物語っている。
——何でだよ⁉︎ もう番契約は全員分埋まっている筈だろ。
「もし貴方が華守人のままだったら番は五人のままで済んでたのにね。神造人の番は無制限。貴方が望むまま番える。ニギハヤヒはそんな大切な事も教えてくれなかったの?」
「は……っ? 無制限⁉︎」
信じたくない気持ちが大きくて物部から距離を取る。
これ以上背後に回られないように、途切れがちになっている意識の中で懸命に足を動かすが、力が入らなくなって、ついに朝陽の足が止まった。
祭壇から数歩行った所で崩れ落ちる。膝が笑っていて上手く立てない。
「やめろ。いや、だ……っ、俺に近づくな!」
寄ってきた物部に腕を引かれて、立ち上がらされる。
よろけたところを支えられて、朝陽はまた物部に祭壇の上へと寝かせられた。
「さっきまでの威勢はどうしたの? ねえ〝朝陽〟僕に抱かれる準備を始めなよ?」
薬に輪をかけて更に強制発情させられる。体の感覚をおかしくさせる薬を打たれているせいで、言葉だけでヒートにさせられた朝陽の体は大きく震えた。
「ぅ、ああ゛あ゛あ゛‼︎」
その瞬間、体がバラバラになりそうな程の痛みが全身に走り朝陽が叫ぶ。
どれだけ呼吸しても酸素が足りなく感じて、短い呼吸が過呼吸へと変わっていく。
下肢を大きく割られ、その間に身を割入れられた。
「やめ、ぁ、ああ、あ゛あ゛あ゛! いや、だ!」
呼吸が上手く出来ずに喉に手を当てる。苦しさで生理的に溢れ出た涙で視界が歪んだ。
しかし、朝陽の体に触れようとした物部の手が弾かれる。
「こざかしい真似してくれるじゃん」
朝陽の体を五重になった結界が包み込む。
朝陽の感情に比例して発動する仕組みになっている結界は、朝陽が拒絶している全ての事象から護る為に展開されていた。
朝陽が寝ている間に、番の五人が其々張った五種類の加護の結界である。
「ねえ、朝陽。これじゃ貴方の事を抱いてあげられないけどいいの? 番である僕を拒む気?」
害意のない甘い声で囁きかけ、物部が朝陽の顔を覗き込む。
ヒートを強制的にかけられ薬と激物で混乱している朝陽に、また囁きかける。
「朝陽、番の僕を拒むの?」
「い……らない。お前……、なんか……、いらな……ッ」
「嘘だね。僕に抱かれたくて堪らないって顔してるのに、本当にいいの?」
節々が痛みを発している一方で、体は疼いて疼いて堪らなかった。
Ωの性質がこんなに忌まわしいと思った事はない。己の意思に反して体は戦慄き、空気の揺れにすら反応する。
「朝陽」
声だけで下っ腹が疼いた。
「ホントΩって浅ましいよね。素直に僕を求めて後ろを向きな。挿れてあげるからさ」
頷きそうになる首に力を入れて、左右に頭を振った。
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