12 / 25
12、逃げるが勝ち!
しおりを挟む「なあ、これからどうするんだ?」
「先に国境を越えてしまった方が良い気がするな」
まだ朝の時間帯で良かったとつくづく思う。これが深夜だったら気付きもせずに捕らえられていただろう。
オリナルト公国の領土に入ってしまえば、中々追手は差し向けられないだろうし、面を合わせるのも更なる手続きが必要となってくる。
オリナルト公国で人型になったグライトの存在が知れ渡っているかどうかも気になるところだが。
その前に今回の追手は聖女関係なのかそれとも金庫内の金関係なのかも分からない。両方だとするとまた話はややこしくなりそうで胃が痛んだ。
「オリナルト公国で、誰かグライトの人型の姿を知ってる人はいるのか? 書籍か何かに記されてるとか」
グライトが軽く首を傾げて考えている。「まだ生きていれば……」と珍しく弱目の口調で言っていた。それらから察するに相手がいかに高齢者かがうかがえる。
生死に関わらず、ボケている可能性もある。ここはハッキリさせておきたい。
「生きていれば……か。そう仮定するとして、その人って何歳くらいなんだ? 人間なんだよな?」
「ああ、人間だ。もう二百四十歳くらいだろう」
——いや、それ確実に死んでるやつ……。
短命化が進んでいる中で、今の人間のおおよその寿命は八十年くらいだからだ。生きていたとしても長生きで済む所の話じゃない。早々に希望は断たれた。
「グライトの存在が知られていなければ、不法入国者としても捕らえられるかもしれないって事だよな。金庫から持ち出す時は誰かに姿を見られてないか?」
「見られるようなヘマはしない」
——あ、そう……。
ラスティカナ帝国から亡命を果たしたとしても、このままでもオリナルト公国で入国を歓迎して貰えないかもしれない。
ラスティカナ帝国とオリナルト公国が戦争の末に同盟を果たした際、グライトは精霊術師と一緒に一度ラスティカナ帝国へと人質として行かされている。事情を話した所で歓迎されないかもしれないという可能性も出てきた。
「俺が精霊獣から人型になる瞬間をオリナルト公国の神殿に行って披露すれば良い。精霊獣はオリナルト公国にとっては神に等しい存在だからな。ラスティカナ帝国に連れて行かれる時も人間側では相当揉めていた。神を侮辱する行為になると……。それにラスティカナ帝国は元々悪い噂の絶えない帝国だったから余計だろう」
「そうなのか。ならこのまま目指して旅をしても安心だな。それとついでに城下街で聞き込みするのも有りだな」
つい数日前にこの世界に来たばかりだ。何もかもが初めての事尽くしなので、覚えるのが大変そうだ。
これからどうしようかと逡巡しているとグライトに口を塞がれて軽々と担がれた。
気がついた時には木の枝の上にいて、悲鳴を上げそうになる。数分後、木の下を馬に乗った警備兵と指示を出している男が駆け抜けて行く。グライトが気が付いてくれなかったら、見つかっていた。
「ありがとうグライト。全然気が付かなかった」
「千颯を守るのが俺の役割だからな。それより通常ルートで行くとバレそうだ。獣道から行こう」
「分かった。そうしよう」
ベッドで寝れなくなるのは惜しいが命の方がもっと惜しい。
グライトが先に歩いて通りやすいように育って伸びていた枝などを避けてくれた。おかげでかすり傷一つ出来る事もなく、サクサクと進んでいける。
そして、また問題に直面してしまった。
「……」
「よし、下るぞ」
——無理ですけど!?
目の前には底の見えない断崖絶壁があるのだ。いくら魔法があったとしても無事に下りられる気がしない。無言で左右に激しく首を振るとまた横抱きにされた。
「待て待て待て待て! グライト、これは物理的に無理だ!! 無理っ、嫌だ! 絶対死ぬ!」
「俺がいるから大丈夫だ」
「グライトが凄いのは知ってるけど、見ろよこれ! 下が見えないんだぞ!? どこに到着するんだよ!」
「土の上だ」
「そういう意味じゃない! 普通に返すな!」
力いっぱい叫ぶとグライトに顎を取られて上向かせられる。これは狡い。この良い顔でやられるとその気がなくてもドキリとしてしまう。
——オレってミーハーだっけ?
いや、違う。美人を見てもドキドキした試しはなかった。この世界に来てから挙動のおかしい己自身に悲しくなってくる。
「おい、千颯。俺が大丈夫って言ってるんだ。返事は?」
「…………はい」
どっちが主人なのか分からない関係になっていた。
体が浮いたのと同時にグライトの首にしっかりと抱きつく。もっとゆっくり下りてくれるのかと思いきや、急降下したので思いっきり叫んだ。
そういえばそうだった。二階から飛び降りた時もこんな感じだった。
「ああああああ! 無理ーーー!!」
——風、吹け! 風、吹け! 体を持ち上げろ!!
必死になって心の中で叫ぶ。下っ腹の奥から全身にかけて熱が広がり温かくなっていく気がした。すると落下速度が急激に落ちていき、ゆっくりと地に下りて行く。
——あれ? 滑らかになった?
「ち、はや?」
グライトが呆気に取られた顔をしていた。
「もう! ゆっくり出来るんなら初めっからしてくれよ!」
恐怖で溢れた涙が顔の周辺で漂っている。グライトが微笑んで眦に浮かぶ涙を唇で掬い取った。
「俺じゃないぞ」
「俺じゃないって……もしかして追手の誰か!?」
「そうでもない」
周りを見渡すも誰の姿もない。それどころか底なし加減を見て気絶しそうになる。本当に土の上に下りられるのかどうかも疑わしい程に真っ暗なのだ。
——今は下を見たらダメだ!
己を叱咤し、気を持たせる。
「くくく、まさかここまでとはな」
グライトの顔が楽しそうに輝いている。まるで新しいおもちゃを与えられたこどものようだった。
331
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】元勇者の俺に、死んだ使い魔が美少年になって帰ってきた話
ずー子
BL
1年前くらいに書いた、ほのぼの話です。
魔王討伐で疲れた勇者のスローライフにかつて自分を庇って死んだ使い魔くんが生まれ変わって遊びに来てくれました!だけどその姿は人間の美少年で…
明るいほのぼのラブコメです。銀狐の美少年くんが可愛く感じて貰えたらとっても嬉しいです!
攻→勇者エラン
受→使い魔ミウ
一旦完結しました!冒険編も思いついたら書きたいなと思っています。応援ありがとうございました!
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる