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陛下の寵姫⑵
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リ……陛下!?」
目線が一気に高くなった。彼の両腕が自分の足を支えている。向かい合い、密着した体勢で彼を見下ろす。
――た、縦抱っこ……! なんでいきなり?
リアムはにこりとほほえんだ。
「私の凍える心を温めることはできる」
顔が、かっと熱くなった。
――さっきからなに? 近いし、触ってくるし、抱っこまで!
ミーシャがパニックになっていると、彼は「身体を反るな、力を抜け。抱きにくい」と、ため息を混ぜながら言った。
「だって、この体勢! 私、子どもじゃないです。下ろしてください!」
「俺の妃は美しい魔女だと、見せつけているだけだ」
心臓が、ばくばくと高鳴っていた。
炎を司る魔女なのに、燃えるように熱い身体を制御できない。碧い瞳を細める彼から顔をそらすのがせいいっぱいだ。
「私は、見せつけて欲しいわけじゃありません!」
「ははっ。すごい、必死な顔」
向けられた眼差しはミーシャを慕うようなやさしいものだった。まるで、師と弟子だったころに戻ったみたいだ。
「陛下、もう十分です。目立ちすぎです!」
「気にするな」
「無理です。気になります。お願い、早く離して」
リアムは涼しい顔のまま、列席者に向けて声を張った。
「みんなもう理解したな。炎の鳥も、炎の魔女も怖くないと」
その場にいた人たちは呆気にとられている人ばかりだった。さっきまでの硬い表情がゆるんでいる。納得したようすの者は、次々と臣下の礼をするため胸に手をあて頭を下げていく。
ノアは一人、満面の笑みで手をあげ、雪と炎の鳥を見ていた。
みんなの反応に満足したのか、リアムはふっと笑うとまた声を張った。
「私の麗しい寵姫は今日、この地に参り降りたばかりで疲れている。我々はさがらせてもらうが、あとは引き続き心ゆくまで楽しんでいってくれ」
言い終わったあと、リアムは再びミーシャを見た。そのまま動かない。
「陛下。もういいでしょう? 早く下ろして……」
こそっと話しかけると、彼は不敵に笑った。
「だめだ。魔女は危険ではないともう少しアピールしよう。どうぞ」
「どうぞって、なに?」
「……鈍いな」
リアムはわざとらしくため息をつくと、唇の端をあげた。
「俺にお願いをしたいならまず、キスをして。そしたら、この場から立ち去ってやる」
ミーシャは目を丸めたまま絶句した。
「……アピールは、もう足りています!」
「いや、足りない。それともこのままみんなに見せびらかしたいのか? 俺はそれでもいいが」
「追い打ちかけないで!」
会場内に白い雪と、炎の鳥からこぼれた火の粉がふわふわと降り続け、きらめいている。
ミーシャは幻想的な光景に見とれる余裕がなくなった。体温が上がっていく。涸渇している魔力が満ちているのか、それとも……。
わからない。ただ、彼が本気で言っていることだけはわかった。
「俺は、きみから親愛の証を賜りたい」
懇願するような瞳を向けられて、心臓がひときわ強く跳ねた。
手は、身体を支えるためにリアムの両肩に置いている。そっと、彼の襟元を握った。
「……わかりました」
肘をゆっくりと曲げて、リアムのきれいな顔に近づいていく。せっかくまとめていた髪が乱れて垂れ下がると、カーテンのように自分たち以外の人の視線を遮った。
朱鷺色の髪のカーテンの内側で、鼻先が触れる距離まで近づいてもリアムの表情は崩れない。自分だけ動揺していて悔しくなった。彼をにらむ。
「キスしたら、下ろしてくださいね?」
「もちろん」
「……こんな、いじわるな人だとは思わなかった」
「冷酷とはよく言われるが、いじわるは初めて言われた」
リアムの髪は、夜の雪原に浮かぶ、銀色の月の色をしている。さらさらで柔らかいのは昔と変わらない。
ミーシャは、美しい彼の前髪にそっと、自分の唇を押し当てた。
冷たい額に触れた瞬間、熱が彼に伝わっていく。
親愛の証のキスなのに、クレアだったころとは違う感情が、胸の奥から湧いてくる。
「いじわるだけど、あなたは冷酷じゃない。やさしい、氷の皇帝です。あなたのことは私が、……必ず守ります」
ミーシャは心から、リアムに笑いかけた。
目線が一気に高くなった。彼の両腕が自分の足を支えている。向かい合い、密着した体勢で彼を見下ろす。
――た、縦抱っこ……! なんでいきなり?
リアムはにこりとほほえんだ。
「私の凍える心を温めることはできる」
顔が、かっと熱くなった。
――さっきからなに? 近いし、触ってくるし、抱っこまで!
ミーシャがパニックになっていると、彼は「身体を反るな、力を抜け。抱きにくい」と、ため息を混ぜながら言った。
「だって、この体勢! 私、子どもじゃないです。下ろしてください!」
「俺の妃は美しい魔女だと、見せつけているだけだ」
心臓が、ばくばくと高鳴っていた。
炎を司る魔女なのに、燃えるように熱い身体を制御できない。碧い瞳を細める彼から顔をそらすのがせいいっぱいだ。
「私は、見せつけて欲しいわけじゃありません!」
「ははっ。すごい、必死な顔」
向けられた眼差しはミーシャを慕うようなやさしいものだった。まるで、師と弟子だったころに戻ったみたいだ。
「陛下、もう十分です。目立ちすぎです!」
「気にするな」
「無理です。気になります。お願い、早く離して」
リアムは涼しい顔のまま、列席者に向けて声を張った。
「みんなもう理解したな。炎の鳥も、炎の魔女も怖くないと」
その場にいた人たちは呆気にとられている人ばかりだった。さっきまでの硬い表情がゆるんでいる。納得したようすの者は、次々と臣下の礼をするため胸に手をあて頭を下げていく。
ノアは一人、満面の笑みで手をあげ、雪と炎の鳥を見ていた。
みんなの反応に満足したのか、リアムはふっと笑うとまた声を張った。
「私の麗しい寵姫は今日、この地に参り降りたばかりで疲れている。我々はさがらせてもらうが、あとは引き続き心ゆくまで楽しんでいってくれ」
言い終わったあと、リアムは再びミーシャを見た。そのまま動かない。
「陛下。もういいでしょう? 早く下ろして……」
こそっと話しかけると、彼は不敵に笑った。
「だめだ。魔女は危険ではないともう少しアピールしよう。どうぞ」
「どうぞって、なに?」
「……鈍いな」
リアムはわざとらしくため息をつくと、唇の端をあげた。
「俺にお願いをしたいならまず、キスをして。そしたら、この場から立ち去ってやる」
ミーシャは目を丸めたまま絶句した。
「……アピールは、もう足りています!」
「いや、足りない。それともこのままみんなに見せびらかしたいのか? 俺はそれでもいいが」
「追い打ちかけないで!」
会場内に白い雪と、炎の鳥からこぼれた火の粉がふわふわと降り続け、きらめいている。
ミーシャは幻想的な光景に見とれる余裕がなくなった。体温が上がっていく。涸渇している魔力が満ちているのか、それとも……。
わからない。ただ、彼が本気で言っていることだけはわかった。
「俺は、きみから親愛の証を賜りたい」
懇願するような瞳を向けられて、心臓がひときわ強く跳ねた。
手は、身体を支えるためにリアムの両肩に置いている。そっと、彼の襟元を握った。
「……わかりました」
肘をゆっくりと曲げて、リアムのきれいな顔に近づいていく。せっかくまとめていた髪が乱れて垂れ下がると、カーテンのように自分たち以外の人の視線を遮った。
朱鷺色の髪のカーテンの内側で、鼻先が触れる距離まで近づいてもリアムの表情は崩れない。自分だけ動揺していて悔しくなった。彼をにらむ。
「キスしたら、下ろしてくださいね?」
「もちろん」
「……こんな、いじわるな人だとは思わなかった」
「冷酷とはよく言われるが、いじわるは初めて言われた」
リアムの髪は、夜の雪原に浮かぶ、銀色の月の色をしている。さらさらで柔らかいのは昔と変わらない。
ミーシャは、美しい彼の前髪にそっと、自分の唇を押し当てた。
冷たい額に触れた瞬間、熱が彼に伝わっていく。
親愛の証のキスなのに、クレアだったころとは違う感情が、胸の奥から湧いてくる。
「いじわるだけど、あなたは冷酷じゃない。やさしい、氷の皇帝です。あなたのことは私が、……必ず守ります」
ミーシャは心から、リアムに笑いかけた。
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