「甜麺醤」が読めなかったんです。

秋蒼

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1話「甜麺醤、これ読める?」

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一人暮らしって、学生時代に憧れていたものとは結構違った。
好きなことが出来て、親に怒られることもなくて、友達を家に呼んでワイワイやって……

でも実際は、家事は全て自分がやらなければいけなくって……
親に怒られないから好き放題サボって……
友達呼ぶ以前に部屋汚いから呼べなくって……

一人暮らしって、すごく大変。

そして、私「西谷 和加にしや わか」は一人暮らしを始めて1年と数ヶ月……ようやく念願のオンラインゲームを買いました…!!

ジャンルはアクションゲームで、主に日本刀を振り回してオンラインプレイヤーたちとギルドを作ってこのゲームのトップを目指す!みたいな感じなやつです…!

今日は日曜日、仕事も休みだから好き放題遊ぶぞぉ……って私はいつもよりテンション高めにパソコンをカチカチしておりました。

プレイヤー名「しえ」
武器「打刀」
容姿「赤髪のセミロング、金目」

迷うこと無く私はキャラ設定を済ませ、オンラインサービス開始の時刻を待つ。


時刻はお昼の十二時。

ようやくサービスが開始され、私こと「しえ」はこのゲームの最初の街『シャンダラ』へと足を踏み入れた。

どこかの狩りゲーみたいにアバターはそれなりにリアルで、私のキャラクターは十字キーで動かすことが出来た。


さて、ここからは「しえ」視点でお送りします。


最初の街はとてもにぎやかで、他のプレイヤーたちも私同様に街を散策していた。
私はまず、街の回復アイテムを知るべく道具屋を探した。
それはすぐに見つかったが、何やらプレイヤーが店主と話をしていた。

「おじさん、ここの食材はどれが一番オススメですか?」

「んー、こっちの野菜なんてどうだい?」

店主にまるでスーパーのおばさんかの如くオススメを聞いている人は二十歳より上っぽい女の人だった。
私がジロジロ見ていたせいなのか、女の人はこちらに気づくと首を傾げる。

「どうしたの?……あ、もしかして邪魔だった?」

「あぁ、いえ…お気になさらず」

紺色のショートに金目、目の色が同じ……しかし相手は片目を前髪で隠していた。

「オンラインゲームは初めて?」

「はい、まだまだ初心者です……あ、私しえって言います!」

このゲームではオンラインプレイヤーに「名刺」を渡すことが出来るらしく、私は相手に名刺を渡した。

「あ…ご丁寧にありがとうございます、僕は【カズ】って言います」

そう述べるとカズさんは私に名刺を手渡した。
一人称が『僕』だったから一瞬男かと思ったけど、名刺を見る限りどうやら女で間違いないみたいだ。

「カズさんですね…よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしく。早速なんだけど……ちょっと手伝ってくれない?」

「手伝う?」

カズさんはニコリと笑うと私の左手を握ってこう聞いてきた。

「お腹、すかない?」


それから十分後。

「んー美味しい…!!」

「それは良かった」

私は宿屋の一角でカズさんと麻婆豆腐を食べていた。
もちろんこれはオンラインゲームの、なりきりチャットみたいなものなので私こと和加は食べてません……んー食べたい……

「料理上手いんですね!」

「まぁ、よく友達に作ってたからね」

「あ、そういえば……途中でカズさんの使ってた調味料で一つだけ読めないものがあったんですけど……」

「あー……これ?」

カズさんが取り出したのは『甜麺醤』と書かれた小瓶。

「……読める?」

実際のところ、私は漢字に弱い。
多分普通の人でも読める人少ないんじゃないの?と私は思っている。(あくまでも私個人の意見ですけどね)

「ギブ……読めません。」

「フフッ、これはね、甜麺醤てんめんじゃんって読むんだよ?」

「てんめんじゃん?」

「そ、甜麺醤。」

私はボソリと甜麺醤の読み方を呟く。
そしてカズさんの方を見る。

「カズさん…よければ、一緒にギルド組みませんか……そして、麻婆豆腐もう一回食べたいです!」

カズさんは私を見てギョッと驚くとスプーンで掬っていた豆腐が落ちた。
しばらくするとスプーンを置いて、私を見つめた。

「こんな直球に仲間になってくださいとか聞いたことないよ……でも、僕でいいならぜひとも仲間に入れて欲しいな。」

「ほんとですか!?ありがとうございます!!」


和加は画面の前でガッツポーズを取る。
初めてのフレンド、初めてのギルドメンバー!!
祝、コミュ障卒業!!
私はパソコンに向き直ると静かに深呼吸をしてキーボードに手を置く。
これから新しい生活が始まる、リアルとは違う広い世界で、私は……一人ぼっちを卒業してやるんだ!


「カズさん、これからよろしくお願いします!」

~続く~
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