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或るスライムの独白 第一話
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我はショゴススライム。名はまだ無い。
気付けば見知らぬ場所に降り立っていた。隣には下等種族であるレッドスライムが呆けた面で立っている。阿呆の一つ覚えのように紙を食う種族だ。だが我のような高貴な種族は紙など好かん。断じてあれらを食べ物だとは認めん。
周囲を見渡すと、ここはどうやら大きな建物の一角のようだ。少し高い場所には壁に沿って小さな箱がいくつも付けられてあり、その中でもいくつかの箱の口からは様々な紙がはみ出しておる。横の阿呆がそれらをじっと見つめておる。紙を見れば目の色を変えおって。
馬鹿めっ。
「これは一体何事……?」
声がする方を見ると、いかにも冴えなさそうな男が一人立っていた。なんじゃこいつは?ショゴススライムである我を見下ろしおって。オリジン種には未だ到達せずとも、高貴なる我を見下ろす何たる不届きものよ。クソッ、我を見下ろすな。
「お前もエコスライムなのか?」
ぬ?エコスライムとはなんぞ?そのような種族は聞いた事がないぞ。まさか……。
男が我の前で手に持った色のついた紙を数度はためかせた。
うぬぅ!まさか我をレッドスライムと同種と思うておるのか!
なんたる侮辱!無礼討ちをされても文句は言えんぞ!
貴様も阿呆な面で口を開けるな!貴様には矜持は無いのか!
「うーーん。どうしたものか…」
男が何やら考えておる。困ったなぁ…といった顔かの。余計に阿呆面になっておるぞ。
まぁ、貴様が誠意を持って土下座をすれば?許してやらんでもないが?
我もいつまでもここにいても仕方なし。妥協に妥協を重ねて貴様を我の犬にしてやっても構わんが?
「よし、放っておこう!」
ナヌ!?こいつ今なんと言った!?この高貴なる我を前にして放っておくだと!?
今すぐに詫びろ!そして我ほどの者に出会えた事に感謝し、我の犬となる事を誓え!
あ、おい!どこに行くのだ!本当に放って行くのか!?
クソッ、本当に我を見捨て……放ってどこかにすたすたと歩いて行くようだ。冴えない男だが少なくとも初めて見た知有生命体だ。このまま行かせてしまう事が良くない事はわかる。次に知有生命体にいつ出会えるかわからんからな。
何といっても生を受けたばかり。この世界の知識は全く無い。ショゴス・オリジンへ昇華するのが我の使命である事は理解しているが、如何せんこのままでは身動きが取れん。
我に対する態度は万死に値するが、ここは苦渋の決断をせねばなるまい。
おい男!待たぬか!待て!待ってぇぇぇ!!!
◆◇◆◇
何やら男は四角い板を開け、狭い建物の中に入って行こうとする。我も慌てて身体を潜り込ませる。
よしっ、間一髪入り込めたな。
「ふぅ……」
ふっふっふっ。我から逃げきれたとでも思うておるのだろう?馬鹿めっ。
貴様が何者なのかは知らんが精々我がこき使ってやろう。泣いて喜ぶがいい。
男が身体をぴくり、とさせてこちらに振り向いてくる。
アッハッハ!これは滑稽な面よ!阿呆な面がさらに阿呆になっておるぞ!
なぜ我がここにいるかわからんと言った面だな?残念!こっそり後ろを付いてきたのだ!
さぁ、我のもとに跪いて、っておい!我を摘まんで持ち上げるな!や、やめんか!不敬だぞぉっ!
◆◇◆◇
「コイツ、どうしてくれようか…」
グヌッ!……んむぅ、フゥ…。我もいい加減覚えたからな。この程度で我を忘れては大望は成し得ぬ。平静に、平静にだな。
例え犬が”あっ、言っちゃった”みたいな顔をしていようともぉ!グぬヌヌ!!
あまりの怒りに身心が震えてしまったわ。うっかりうっかり。
…おぃ!我を愛玩動物のような目でみるな!我は高貴なるショゴススライムぞ!
男は我を放ってどこかへ行きよった。どうもこの場所は男の自室のようだな。
広くは無いが、まぁ犬が住む分には十分だの。
色々な物が置かれているが、使い方がよくわからん。机の上には我よりも少し小さな薄い鋼鉄で出来た何かがあるな。
ふむ。ペタペタと触ってみる。おっ、何やら少し出っ張っているところが押せるようだぞ。
ぽちぽち、と押せるようだ。押したところで何も変わらんが何とも不思議な感触だな。癖になる押し心地だ。
よくわからん箱をぽちぽちしていると何やら音が聞こえてきた。この部屋には誰もおらんはずだが。
音のする方向を向くと、四角い箱から声が聞こえてくる。これまた何とも奇怪な物だ。箱の中には人間がかなりの数いるようだが、一体どうなっておるんだ?
箱を触ってみても箱の中にいる人間は気にもしておらん。構造はよくわからんがどうやらこれらの人間は箱の中にいるわけではなさそうだ。
◆◇◆◇
奇怪な箱は中々に面白かった。どうやら場面が次々と変わるようで、この世界の情報を得るに丁度よかった。
『探索者に超人気ブランド、エミール社から今冬新作が発売!フレイムドラゴンの背骨を丸ごと使った豪華素材でどんなモンスターも一撃!なんとお値段はお手頃価格の128万円からご用意致します!お求めはお近くのエミール公式ショップへお越しください』
ふむ、フレイムドラゴンの背骨を丸ごととな。確かに彼奴は背骨だけは固いからな。ただし頭蓋骨が異常に脆く、頭に一発当てれば容易く死ぬのが玉に瑕だがの。そのせいで他種族から乱獲されるという馬鹿な種族よ。
いつの間にやら戻ってきた男が飯を食べながら何やら書物を読んでおる。顔が少し赤くなってきているのを見ると恐らく酒を飲んでいるようだ。
「おーい、黒スラー。お前何食うんだよ。紙食わねぇのかー?」
こ、こやつ……。我の前にまたしても紙をひらつかせておる。直視してはいかん。少しだけ見てすぐに視線を奇怪な箱に戻す。
「ホントになんもいらんの?腹減ってないのか…?」
無視だ無視。クッ!我をつんつんするでないっ!無礼者が!
怒りを抑え、そのまま無視しているとどうやら男も諦めたようだ。貴様、もう少しで命運の灯を消すところであったぞ。我にむせび泣きながら感謝するがよい。
男をそのまま無視していると今度は書物を読みながら何やら叫び出した。
「【ダンジョンおよびモンスター等における通報条約について】ダンジョンおよびモンスター等における生態系やドロップ物資等については不明な点が多く、未解明がそれらほとんどを指す。市民は特異点および発見について早急な通報を義務とする。重大違反の場合は程度によっては刑罰に処される場合もあるぅ……!?」
キャンキャンと喧しい犬だのぅ。犬が言っている意味はとんと分からぬが、処されるというのならばいっそ処されてしまえ。この駄犬めがっ。
「だめだ。もう寝よ」
今度は諦観の表情で寝床に入ってしまいよった。こやつ情緒不安定か?少しは我を見習わんか全く。
気付けばもう鼾をかいている。さすがは駄犬。眠りの速度だけはピカイチだの。
やっと男が寝た事で室内をゆっくり物色出来るわ。
しかし流石に腹が減った。レッドスライムのように紙などは食わんが、とはいえ我も生物である以上は何かを食さねばならん。さもないと衰弱してしまうからな。
ただここで一つ問題なのが我が食す物が何かわからんという事だ。少なくとも紙で無い事だけはわかっておるが、では何を食すのかが己でもとんとわかっておらん。
という事で、室内を物色して何か食せる物がないか探すとしよう。まるで駄犬に施しを貰うようで癪ではあるが、生き永らえる為にはやむを得ん。力を得た際には精々こき使ってやるのだ。ふはははは!!
ぐるり、と見まわす。机上には先程まで駄犬が貪り食っていた飯の残骸が残っておる。食った後の片付けも出来んとは、こやつは本当に駄犬だな。片付けも出来んとは犬として使えるのかすら疑うレベルだぞ。
…ん?何やらいい匂いがするな。はて、どこからだ?
むむっ、どうやらいい匂いの出処は駄犬が食した残骸ではないか。これはどういう事だ。
…じゅるり。……んはっ!こ、これはどういう事だ!気が付けば口を開けて駄犬の残骸を食そうとしておった!
ま、まさか我が好む食材は駄犬の残骸……?そんなはずがあるわけがない!
我は高貴なるショゴススライムぞ!?駄犬如きの残骸を食すなどそんな事、大望たる矜持を持った我があり得るわけがなんムグっ、なかッ、もぐもぐ、なかろうモゴろぅが。
もぐもぐもぐもぐ。ごっくん。けぷっ。
…ふぅ、美味であった。ゲップまでしてしまったわぃ。いやこれはうっかりうっかり。
……んはっ!気付けば駄犬が食した残骸を我が食してしまっておった!
何を言っているかわからんと思うが我にもわからん。
本当に駄犬の食した残骸が我の好物だと言うのか…。これはちょっとあんまりにも癖が過ぎんか!?
いかん、これは作戦変更の必要性がある。本当に我の好物が駄犬の残骸だとすると、安易に敵愾心を持たせるのは得策ではない。甘んじて受け入れるわけではないが、万が一駄犬が使い物にならなかった場合の確保策を考えねばならんからな。
机上に残った軽い鉄のような物で出来た円柱の物を食みながら考える。確か駄犬が酒を飲んでいた時の器だな。
ふむ、これも中々の味。乾物に近いかの?コリコリとした触感が癖になるな。
当初の目的である腹は満たした事だし今日のところは大人しくしておくとする。
駄犬の阿呆面と奇怪な箱でも見ながら朝を待つとするか。
箱を見続けたらいつの間にやら朝か。
男が起きたようだ。我の方に手が伸びてきたぞ。
んんっ♡…ん?
……んんあぁっ♡♡うぁっ♡やっ、やめんか♡我をぷにぷにするでないっ♡
やめっ、んほおおぉぉぉぉ♡♡♡……あっ。
「ぷにぷに!?」
こやつ……我を散々の如く手練手管で弄びおった。
こ、これは責任問題じゃぞ……♡?
◆◇◆◇
「お前、やっぱりまだいたんだな…。まぁそりゃそうか…」
くっ、殺せ!一思いに殺せ!
あのような嬌声を上げるなど、ショゴススライムたる我の一生の不覚!
駄犬の発言は決して我の失態を指しているわけではないとわかっておるが、それでもその呆れた面が…くぅっ!
突起状の棒でつんつんするでないっ。あっ、ちょっと美味しそう♡
…んはっ!危ない危ない。またしても我を忘れるとこじゃった。うっかりうっかり。
「あー…なんかどうでもよくなってきた。いきなり起きたから気持ち悪いし」
あっ。また目の前に美味しそうなものが
「……なんで机の上に何も無いんだ?」
……我が食べちゃったからだ。
「昨日は帰ってきてコイツを見つけて、とりあえず現実逃避して風呂入って、あがったらやっぱりコイツがいて、飯食って酒飲んでそのまま寝た」
……ん?これは少し風向きが違う、か?
「お前が片付けてくれたのか……?」
ま、まぁそういう考え方もあるな!うむ!我が駄犬の代わりに片付けてやったのよ!
「どういう事よ?」
どういう事?そういう事よ!
そんなに我を責めるような目で見るでない。それより目の前の物を早ぅどこかに追いやってくれ!もうたまらんぞ!?
……。
だめだぁ!もう辛抱タマラン!!
モゴムグもぐもぐもぐ。ごくん。
あ、……また食べちゃった。なぜだ、なぜ我は駄犬の食した物にここまで興味をそそられるのだ。我は、そこまでの癖持ちなのか?もはや根から我は駄犬の駄犬になってしまうのか。
「えっ……えっ」
……んはっ!あっ。
我をそんな目で見ないでくれ……。
気付けば見知らぬ場所に降り立っていた。隣には下等種族であるレッドスライムが呆けた面で立っている。阿呆の一つ覚えのように紙を食う種族だ。だが我のような高貴な種族は紙など好かん。断じてあれらを食べ物だとは認めん。
周囲を見渡すと、ここはどうやら大きな建物の一角のようだ。少し高い場所には壁に沿って小さな箱がいくつも付けられてあり、その中でもいくつかの箱の口からは様々な紙がはみ出しておる。横の阿呆がそれらをじっと見つめておる。紙を見れば目の色を変えおって。
馬鹿めっ。
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声がする方を見ると、いかにも冴えなさそうな男が一人立っていた。なんじゃこいつは?ショゴススライムである我を見下ろしおって。オリジン種には未だ到達せずとも、高貴なる我を見下ろす何たる不届きものよ。クソッ、我を見下ろすな。
「お前もエコスライムなのか?」
ぬ?エコスライムとはなんぞ?そのような種族は聞いた事がないぞ。まさか……。
男が我の前で手に持った色のついた紙を数度はためかせた。
うぬぅ!まさか我をレッドスライムと同種と思うておるのか!
なんたる侮辱!無礼討ちをされても文句は言えんぞ!
貴様も阿呆な面で口を開けるな!貴様には矜持は無いのか!
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まぁ、貴様が誠意を持って土下座をすれば?許してやらんでもないが?
我もいつまでもここにいても仕方なし。妥協に妥協を重ねて貴様を我の犬にしてやっても構わんが?
「よし、放っておこう!」
ナヌ!?こいつ今なんと言った!?この高貴なる我を前にして放っておくだと!?
今すぐに詫びろ!そして我ほどの者に出会えた事に感謝し、我の犬となる事を誓え!
あ、おい!どこに行くのだ!本当に放って行くのか!?
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我に対する態度は万死に値するが、ここは苦渋の決断をせねばなるまい。
おい男!待たぬか!待て!待ってぇぇぇ!!!
◆◇◆◇
何やら男は四角い板を開け、狭い建物の中に入って行こうとする。我も慌てて身体を潜り込ませる。
よしっ、間一髪入り込めたな。
「ふぅ……」
ふっふっふっ。我から逃げきれたとでも思うておるのだろう?馬鹿めっ。
貴様が何者なのかは知らんが精々我がこき使ってやろう。泣いて喜ぶがいい。
男が身体をぴくり、とさせてこちらに振り向いてくる。
アッハッハ!これは滑稽な面よ!阿呆な面がさらに阿呆になっておるぞ!
なぜ我がここにいるかわからんと言った面だな?残念!こっそり後ろを付いてきたのだ!
さぁ、我のもとに跪いて、っておい!我を摘まんで持ち上げるな!や、やめんか!不敬だぞぉっ!
◆◇◆◇
「コイツ、どうしてくれようか…」
グヌッ!……んむぅ、フゥ…。我もいい加減覚えたからな。この程度で我を忘れては大望は成し得ぬ。平静に、平静にだな。
例え犬が”あっ、言っちゃった”みたいな顔をしていようともぉ!グぬヌヌ!!
あまりの怒りに身心が震えてしまったわ。うっかりうっかり。
…おぃ!我を愛玩動物のような目でみるな!我は高貴なるショゴススライムぞ!
男は我を放ってどこかへ行きよった。どうもこの場所は男の自室のようだな。
広くは無いが、まぁ犬が住む分には十分だの。
色々な物が置かれているが、使い方がよくわからん。机の上には我よりも少し小さな薄い鋼鉄で出来た何かがあるな。
ふむ。ペタペタと触ってみる。おっ、何やら少し出っ張っているところが押せるようだぞ。
ぽちぽち、と押せるようだ。押したところで何も変わらんが何とも不思議な感触だな。癖になる押し心地だ。
よくわからん箱をぽちぽちしていると何やら音が聞こえてきた。この部屋には誰もおらんはずだが。
音のする方向を向くと、四角い箱から声が聞こえてくる。これまた何とも奇怪な物だ。箱の中には人間がかなりの数いるようだが、一体どうなっておるんだ?
箱を触ってみても箱の中にいる人間は気にもしておらん。構造はよくわからんがどうやらこれらの人間は箱の中にいるわけではなさそうだ。
◆◇◆◇
奇怪な箱は中々に面白かった。どうやら場面が次々と変わるようで、この世界の情報を得るに丁度よかった。
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いつの間にやら戻ってきた男が飯を食べながら何やら書物を読んでおる。顔が少し赤くなってきているのを見ると恐らく酒を飲んでいるようだ。
「おーい、黒スラー。お前何食うんだよ。紙食わねぇのかー?」
こ、こやつ……。我の前にまたしても紙をひらつかせておる。直視してはいかん。少しだけ見てすぐに視線を奇怪な箱に戻す。
「ホントになんもいらんの?腹減ってないのか…?」
無視だ無視。クッ!我をつんつんするでないっ!無礼者が!
怒りを抑え、そのまま無視しているとどうやら男も諦めたようだ。貴様、もう少しで命運の灯を消すところであったぞ。我にむせび泣きながら感謝するがよい。
男をそのまま無視していると今度は書物を読みながら何やら叫び出した。
「【ダンジョンおよびモンスター等における通報条約について】ダンジョンおよびモンスター等における生態系やドロップ物資等については不明な点が多く、未解明がそれらほとんどを指す。市民は特異点および発見について早急な通報を義務とする。重大違反の場合は程度によっては刑罰に処される場合もあるぅ……!?」
キャンキャンと喧しい犬だのぅ。犬が言っている意味はとんと分からぬが、処されるというのならばいっそ処されてしまえ。この駄犬めがっ。
「だめだ。もう寝よ」
今度は諦観の表情で寝床に入ってしまいよった。こやつ情緒不安定か?少しは我を見習わんか全く。
気付けばもう鼾をかいている。さすがは駄犬。眠りの速度だけはピカイチだの。
やっと男が寝た事で室内をゆっくり物色出来るわ。
しかし流石に腹が減った。レッドスライムのように紙などは食わんが、とはいえ我も生物である以上は何かを食さねばならん。さもないと衰弱してしまうからな。
ただここで一つ問題なのが我が食す物が何かわからんという事だ。少なくとも紙で無い事だけはわかっておるが、では何を食すのかが己でもとんとわかっておらん。
という事で、室内を物色して何か食せる物がないか探すとしよう。まるで駄犬に施しを貰うようで癪ではあるが、生き永らえる為にはやむを得ん。力を得た際には精々こき使ってやるのだ。ふはははは!!
ぐるり、と見まわす。机上には先程まで駄犬が貪り食っていた飯の残骸が残っておる。食った後の片付けも出来んとは、こやつは本当に駄犬だな。片付けも出来んとは犬として使えるのかすら疑うレベルだぞ。
…ん?何やらいい匂いがするな。はて、どこからだ?
むむっ、どうやらいい匂いの出処は駄犬が食した残骸ではないか。これはどういう事だ。
…じゅるり。……んはっ!こ、これはどういう事だ!気が付けば口を開けて駄犬の残骸を食そうとしておった!
ま、まさか我が好む食材は駄犬の残骸……?そんなはずがあるわけがない!
我は高貴なるショゴススライムぞ!?駄犬如きの残骸を食すなどそんな事、大望たる矜持を持った我があり得るわけがなんムグっ、なかッ、もぐもぐ、なかろうモゴろぅが。
もぐもぐもぐもぐ。ごっくん。けぷっ。
…ふぅ、美味であった。ゲップまでしてしまったわぃ。いやこれはうっかりうっかり。
……んはっ!気付けば駄犬が食した残骸を我が食してしまっておった!
何を言っているかわからんと思うが我にもわからん。
本当に駄犬の食した残骸が我の好物だと言うのか…。これはちょっとあんまりにも癖が過ぎんか!?
いかん、これは作戦変更の必要性がある。本当に我の好物が駄犬の残骸だとすると、安易に敵愾心を持たせるのは得策ではない。甘んじて受け入れるわけではないが、万が一駄犬が使い物にならなかった場合の確保策を考えねばならんからな。
机上に残った軽い鉄のような物で出来た円柱の物を食みながら考える。確か駄犬が酒を飲んでいた時の器だな。
ふむ、これも中々の味。乾物に近いかの?コリコリとした触感が癖になるな。
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……んんあぁっ♡♡うぁっ♡やっ、やめんか♡我をぷにぷにするでないっ♡
やめっ、んほおおぉぉぉぉ♡♡♡……あっ。
「ぷにぷに!?」
こやつ……我を散々の如く手練手管で弄びおった。
こ、これは責任問題じゃぞ……♡?
◆◇◆◇
「お前、やっぱりまだいたんだな…。まぁそりゃそうか…」
くっ、殺せ!一思いに殺せ!
あのような嬌声を上げるなど、ショゴススライムたる我の一生の不覚!
駄犬の発言は決して我の失態を指しているわけではないとわかっておるが、それでもその呆れた面が…くぅっ!
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あっ。また目の前に美味しそうなものが
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……ん?これは少し風向きが違う、か?
「お前が片付けてくれたのか……?」
ま、まぁそういう考え方もあるな!うむ!我が駄犬の代わりに片付けてやったのよ!
「どういう事よ?」
どういう事?そういう事よ!
そんなに我を責めるような目で見るでない。それより目の前の物を早ぅどこかに追いやってくれ!もうたまらんぞ!?
……。
だめだぁ!もう辛抱タマラン!!
モゴムグもぐもぐもぐ。ごくん。
あ、……また食べちゃった。なぜだ、なぜ我は駄犬の食した物にここまで興味をそそられるのだ。我は、そこまでの癖持ちなのか?もはや根から我は駄犬の駄犬になってしまうのか。
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