3流リーマンがテイマーでポリマー(改)

頑張るマン

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第二話

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 -汎用古紙リサイクルスライム、通称エコスライムは今までの古紙リサイクルの概念を突き破った全く新しい存在として位置づけられています。
 今まではリサイクルが不可能だった紙製品、例えば防水加工が施された紙コップやシールなどの粘着テープ、箔押しされた紙(いわゆる金銀の折り紙など)もリサイクル可能な存在で、それら全てを飲み込み、一定量に達するとリサイクル可能なパルプ材として排出される。
「……他にも石鹸などを包装していた臭いの付いた紙や地図等に代表される合成紙ストーンペーパーなどもリサイクル可能で、古紙リサイクル業界としても今以上のエコスライム活用を期待しているぅぅぅぅあぁぁぁぁ!!!」

 『サルでもわかるハウツー本』に書かれているエコスライムの項目をつぶさに読むが、黒スライムの存在は全く書かれていなかった。
 今更ながら改めて厄介ごとを抱えた事を理解する。どう考えてもなんくるなくね?無理じゃね?

 ちらっと横目で黒スライムを見る。つぶらな瞳で俺を見ていた。
 ぷるぷる。ぷるぷる
 …くそ、やっぱ可愛いわコイツ。
 通報義務違反だとか、重大違反には刑罰だとかどうでもよくなってきた。
 新種だからなんだってんだ。
 んなもん人間の勝手な都合だろ。コイツらには何の関係もない。

「…お前はどうしたい?探索者協会に通報して保護してもらうか…?」
「もしくは然るべき行政機関に…どこが然るべきなのかはまだ分からないけど、お前がそれを望むんなら俺もきちんと調べる。」
 黒スライムは反応しない。
 そりゃそうだ。言葉が通じないんだから。
 はぁぁ…と大きくため息を吐いて、黒スライムを少し撫でた。
 ぷにぷに感が気持ちいいね。

「もういっその事、このままうちに住まわせてしまおうか?」

 俺の言葉に黒スライムのつぶらな瞳が大きく見開かれた。
 すると黒スライムは机の上で何度も何度もぴょんぴょんと飛び跳ねだしたのだ。

「えっ!?お前俺の話してる内容がわかんの!?」
 俺の言葉に飛び跳ねるのをやめ、その場でぷるぷると震えた。
「マジでわかってるみたいだな。すげぇじゃん」
 話してて段々と俺も楽しくなってくる。

「探索者協会に通報する」
 反応なし。
「然るべき行政機関に保護してもらう」
 反応なし。
「この家でこっそり俺と住む」
 ぷるぷる、ぷるぷる。

「…すげええぇぇぇぇぇ!!!」
 思わず俺も立ち上がって一緒にぷるぷるの舞を舞うくらいに凄かった。


◆◇◆◇
「よーしよしよし、よーしよしよし」
 家族の一員となった黒スライムを改めて撫でまわす。

「よし、それじゃぁ正式に同居人となったところで、お前に名前を授けよう。ペットであり同居人であるお前にいつまでも黒スライムと呼ぶのも、な」
 ぷるぷる。ぷるぷる。
 よしよし喜んでいるのが今だと手に取るようにわかる。
 かわいい。

 色々とネットサーフィンしながら黒スライムの名前を考えていたが、どうにもいい名前が思いつかない。だってペット飼ったことないし。
 俺の性格上、犬を飼ったら間違いなくポチと名付けるタイプ。猫ならタマ一択だな。
 いや待てよ、犬ならゴン太もアリか…?

 色々な命名サイトも唸りながら見てみるが、どうにも思い浮かばない。
「だめだ、名前が全然思いつかん。もう名前クロでいい?」
 とりあえず例の如く諦める事にした。黒スラを見るとぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。どうやら飼い主同様に楽天的な性格のようだな。

 俺はおもむろに立ち上がり、黒スライムにビシッと指差した。
「よし!それでは只今をもってお前の名をクロと命名する!」
 
 その瞬間、ビビッ!と何かが俺とクロの間を走り抜けた。
 何というか繋がった?ような感覚か?
 俺とクロがリンクしているような、なんか不思議な変な感覚が。
「これは早くも家族の絆が生まれたのか!?」
 俺のそんな言葉にクロはぴょんぴょんと飛び跳ねながら喜んだ。


◆◇◆◇
「いやぁ、今日はめでたい日だ。俺もついに家族持ちってやつか」
 近くのスーパーまでひとっ走りし、色々な物をクロに与えてみた。
 ここまでで判明したところだと、主に合成樹脂素材を使って作られた物がクロは好きなようだった。ナイロンやポリエチレン、ポリエステル…。
 とりあえずざっくりとプラスチック素材が好きだと分かっただけでも良かった。
 アルミなどの缶は、まぁ食べれるけどそんなに好んで食べるものでもないってところか?
 クロは勿論話すことが出来ないので直接聞くことは出来なかったが、なんとなくそう理解できた。
 これも家族の絆の賜物だな。まだ半日も経っていない絆だけど。
 
 しかしまぁよく食べる食べる。
 ノリで買ってきたポリバケツも一口で一気に食べたくらいだから、よっぽど空腹だったんだろう。
 消化器官があるように到底思えないけど、まぁその辺は汎用エコスライムも一緒だからな。
 困った時のファンタジーだ。とりあえずファンタジーって言っとけば大体なんとかなるだろ。
 結局買ってきた素材は全部食べた。俺がさっき飲んだビール缶も食べきってしまった。プラスチック素材より明らかに咀嚼に時間がかかっていたが。

 最後に俺が食べた弁当箱もペロリ。これで俺もクロもごちそうさまだ。お腹いっぱいです。
「さて、なんだかんだやってるうちにもういい時間だな。今日は朝が早かったし腹が落ち着いたら風呂入ってさっさと寝るかね」
 俺は満腹で少し苦しいので腹が落ち着くまで小休憩。
 クロは全くそんな素振り見せずぴょんぴょんと跳ねてテレビの前に座ってテレビを見ている。

「お前ほんとテレビ好きだねー。何がそんなに面白いんだ?」
 生まれたばかりだからか知識欲にでも溢れているのか?
 でもそんなスライム聞いた事ないし。
 なんだったら黒いスライムも見た事ないけどさ。
 あ、またエミール社のCM流れてるわ。

『探索者に超人気ブランド、エミール社から今冬新作が発売!フレイムドラゴンの背骨を丸ごと使った豪華素材でどんなモンスターも一撃!なんとお値段はお手頃価格の128万円からご用意致します!お求めはお近くのエミール公式ショップへお越しください』

「かっこいいよなぁ、この槍。128万がお手頃価格とは全く思えんけど、こんなん付けて早見 唯奈みたいに探索者して命がけで平和を守るってやっぱり男としてはちょっと憧れるんだよな」

 俺だって学生時代は奮起して探索者になろうか悩んだものだ。
 一瞬で諦めたけど。
 どう見てもモブキャラの俺に探索者が務まるはずなんかない。
 そもそも俺みたいな奴がダンジョンアタックしてもろくにモンスターを討伐出来ないまま俺がモンスターに討伐されるだろう。そう思って一瞬で諦めたもんだ。
 それはそれとして、やっぱり男は一度はヒーローに憧れるもんだからな。
 俺はたまたまヒーローがリーマンに変わっただけ。3流のな。

「さて、そろそろ風呂入るかな。テレビは点けたまんまにしとくからいい子にしとくんだぞー」
 クロにそう声を掛けた。
 クロはその場でくるっと振り返り俺を見る。
「ん?どした?なんか気になるもんでもあったのか?」

 突如としてクロがその場でブルブルと震えだした。
 昼間のような小刻みにぷるぷる震えるような感じじゃない。
 どう見ても異常だった。
「クロ…ど、どうした?ほんとに大丈夫か?」
 思わずクロのそばに座って少し撫でてみる。
 次の瞬間、ポリバケツを一気に飲み込んだ時よりも大きな口を開けた。
 どう見ても体積よりも口が大きいが、その分だけ縦にびよーんと伸びる。 

 …食われるっ!?有機物も食べんの!?

 思わず後ろに少しのけぞった。
 するとクロの口から、スポンッ、と気持ちのいい音と共に槍が排出され、俺の頭を超えて後ろの畳に槍が刺さった。

「……は?」

 クロが排出した槍は、先程テレビで流れていたエミール社の新発売商品そっくりそのままのフレイムドラゴンの背骨を使った豪華絢爛な槍にそっくりだった。



「ふぅむ……」
 俺は机の上の槍を見ながら唸った。もうかれこれ30分間このままの状態だ。
 見れば見る程にCMで見たエミール社製新商品の槍と酷似している。装飾などもバッチリと似せており、素人目には違いは見当たらない。
 ちなみにクロはといえば、俺の膝の上に乗ってプルプルしていた。

「クロ、特に辛いとか苦しいとかは無いか?」
 ぷるぷる。
 …ふむ。特に影響は無しか。むしろ出すもん出してすっきりしたか?
 とすれば、やはりエコスライムとしての気質か?
 エコスライムが定期的にパルプ材を排出するのは、いわば人間の排泄と同じだとネットですでに得ていた知識だ。ならばクロが鎧を排出したのも、俺がう〇こをしたのと同義となる。
 ……ま、まぁ、う〇こにしてはちょっと形が尖りすぎてるけれど。


「あれ?」
 手に持って、その軽さに驚いた。
 先程は気が動転して気付かなかったが、手に取るとめちゃくちゃ軽い。
 CMで流れていた新商品を手に取った事がないから本来の重さは知らないが、少なくともこんなに軽くはないはずだ。
 どの程度の重みだろう…?と思い、部屋中の色々なものと比べてみる。
 食事などに机…机のほうがかなり重い。
 買って一回しか使わなかった5キロのダンベル…ダンベルの方が重い。
 16インチノートパソコン…少し槍の方が重いか?

 ノートパソコンの背面を見ると約2.0キロと書いてある。
 となると恐らく3キロ程度だろうか。本物がどの程度の重さなのかは不明だが、絶対にここまで軽くはないはずだ。昔、一度だけ刀を持った事がある。その時でもここまで軽くはなかった。

 となると、軽さの原因はやはりこの槍の素材のせいだろう。
 あれだけプラスチック製品を食べたクロが排出したのだから、素材もプラスチックで間違いない。
 事実、槍を手に持ちながら上下させると若干だがしなる。
「これ、どう考えても耐久値皆無だな…」
 見た目はめちゃくちゃカッコイイけど、一発攻撃したらすぐに壊れそうだ。
 軽い、というのは取り回しには非常に有利だが、そもそも最も重要な攻撃力が期待出来ないとなんら意味が無い。

「クロ、この槍だとちょっと危なすぎるわ。こんな感じの槍とかは出せないの?」
 俺はネットで調べた長さ1メートルほどのシンプルな槍をクロに見せる。
 目の前にある槍のように装飾も無い、穂先と柄だけの本当にシンプルな槍だ。
 …。
 クロは震えない。
「ん?これは無理なのか?どう見てもフレイムドラゴンの槍よりも簡単そうだけど…」
 そこまで考えて、アッ、と気付く。
「もしかして作れるほどの素材が無いって事か?」
 ぷるぷる。ぷるぷる。
 ビンゴ!やはり素材不足が原因か!
 これだけ見事な槍を吐き出したんだからそりゃ出すもんないわな。
「とはいえ、もう部屋の中には食べさせられるプラ製品は無いしなぁ…」
 部屋を見渡して呟く。すでに時刻は深夜。スーパーも閉まっている。台所なども漁ってみたがやはり碌な物がなかった。

…出してもらって悪いけど、さっきの槍食べさせたらいけんじゃね?
 ふと思い、部屋に戻ってクロに聞いてみる。
「クロ…、せっかくこれだけ立派な槍を出してもらって悪いんだけど、たぶんこの槍は使えないんだ。まず新発売の槍を俺が持っていたら不審がられる事。それと…ちょっと耐久値が低すぎるかな…」
 ………。
「いや、全然悪くないんだよ?見た目めっちゃカッケーし、俺は好きなんだけど、でもただのリーマンがいきなりあんな高い槍持ってたらおかしいじゃん?」
 ……。
「だ、だからちょっとこのままじゃダメかなーって、な?わかるだろ?」
 ぷるぷる。
「そ、そうなんだよ!だから本当に俺が使えるように、使っても不審に思われないようにまずはこのシンプルな槍が妥当だと思うだろ?」
 ぷるぷる。
「なのでせっかく出してくれた槍なんだけど、これを素材にしてシンプルな槍を出してくれるかな?」
 ぷるぷる。ぷるぷる。

 大黒柱としての威厳を槍投げ選手並みに思いっきりぶん投げたけど、代わりの槍を作ってくれるみたいだ。槍を投げて槍を手に入れるとは、これいかに。


「よしよし、それじゃ槍を入れるから口を開けてくれ。あ、ちなみにだが可能な限り固くしてくれるか?それと穂先は出来るだけ鋭く頼む」
 クロは小さくぷるぷる、と震えた後で口を大きく開いた。

 うっ…やっぱり改めてきちんと見てもちょっと怖いな。
 大きく開いた口の中をそっと見るが、中が全然見えない。なんというかブラックホールみたいな感じか?
 入ったら出てこれなくなりそうだな、と思いつつ槍をクロの口に入れた。明らかにクロの身体よりも大きい槍が吸い込まれるように口の中へ消える。
 俺の中でいよいよクロの体内ブラックホール説が濃厚になりつつ、槍が排出されるのを待つ。
 鎧を食べてからおよそ30秒ほどだろうか。クロが小さく震えた。


「おっ、そろそろ来るか?」
 口を大きく開けて、スポンッ、とまたも気持ちのいい音とともに槍が吐き出され、そのまま座っている俺に向かって放物線を描いて飛んでくる。
 ひゅー…ぐさっ。

 タラリ…、と冷汗が一筋伝った。
 槍はちょうど胡坐をかいて座っていた俺の両足と股間の間に刺さった。
 俺の股間本拠地まで約30センチ…。
 危うくプラ槍の為に、俺の短槍が分断されるところだった。

 オーダー通りの鋭さ、有難うございます…。

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