【R-18】メドゥーサに愛された男

頑張るマン

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第三話

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 店を出てそのまま港へと足を向ける。
 特に町中で揃える物資もないし、ある程度はアイテムボックスにも入っている。万が一手持ち物資が無くなったとしても、割高にはなるが船内での販売もある。

 港には所狭しと人がいて、少し離れたところにある船着き場には大型船が五隻停泊していた。恐らくこの内の二隻か三隻は帰港した船だろう。

「アミック行きの船は?」
「アミック行きなら一時間後に出港だ!それで今日の最終便だな!」
 帰港した船の荷降ろしをしていた暑苦しい乗組員に聞いたところ、そう言われた。
夕暮れも落ち始めている。恐らく日没あたりで出港か。
「もうすでに船には乗り込めるのか?」
「あー、ちょっと待ってくれよ。聞いてみるわ。おーい!アミック行は乗船行けるかー!?」
「あと十分程度で乗船始めるとこだー!」
「…ってことらしいぜ!」
 少し離れた乗組員からの返答で判明する。軽く礼を言ってその場を離れた。

 乗船開始まで周辺を散歩しながら時間を潰す。
 そこここで家族や恋人と別れの挨拶をしているのが目に入ってくる。いくらマンカラ汽船が世界で最も安全と言われていても、現代日本の感覚で言えば間違いなく危険な部類だ。
 襲撃時に船が無事だったとしても魔物や海賊に運悪く殺される可能性だって十分にある。クラーケンなどが現れたら、イコール死と同義語だ。
 クラーケン以外にも危険な魔物は多数存在しており、夜間航行時も常に索敵が必要だ。
 なまじ腕に覚えがある者は別として、商人や一般人は天に身を任せるしかない。この世界は死が身近な存在として常にある。当然、命の価値は低い。死んだとしても弱い者が悪いという感覚だ。己の身は己で守るしかない。モンスターも危険だが、最も恐ろしきは賊の類だ。だからこの世界では護衛任務がひっきりなしに飛び交っているし、危険度を少しでも下げられるのなら高い金を払ってでもマンカラ汽船に乗りたいと思うのだ。


◆◇◆◇

 航行を開始してすぐに共用スペースである食事会場で夕食を摂っている。外界はすでに闇に落ち、甲板にいる魔術師が唱え続けている光源魔法が無ければ一寸先も見えない状態だ。マンカラ汽船に雇われた魔術師はこのまま交代をしつつ夜間中ずっと光源魔法を唱え続けるだろう。
 夕食を摂っている乗客の数は少ない。全くいないわけではないがちらほらといるだけだ。出港すぐの時間である為、ほとんどの乗客は乗船前にすでに食事を終わらせているのだろう。混み合うとしたら翌日以降かな。
 その代わりと言ってはなんだが、乗組員がかなりの人数いた。現代日本のような大型客船ではない。スタッフも乗客も食事スペースは共用だ。上等客用に個室も少しだけ用意されているらしいが俺は使わない。本来の目的にそぐわないからだ。

「今んところ天候は安定しているみたいだな」
「あぁ、今日明日は大丈夫だろう。問題があるとしたら明後日以降だな」
「やはりオミキナ海峡あたりからか…」
「あそこは海賊も出りゃあモンスターも出るからな。先週も1隻やられたみたいだぞ。沈んではいないがそれなりの被害は受けたと言っていたからな」
「夜間が特に注意だな。防備関係も改めて確認しておくか」
「そうだな、それに乗船冒険者名簿も見といた方がいいぞ。念のために声を掛けておくべきだろう」
「おっとそういえばそうだった。まだ全部は見てねぇわ」
「今回はまぁまぁのレベルといったところか?粒揃いとまではいかんな」
「なら期待薄か。無くて元々ぐらいに思っておいた方がいいな」
「それでいいと思うぞ。過度な期待はダメだ。俺たちだけで何とかするくらいに思っておこう」
「それより西の話は聞いたか?」
「西?アルティス帝国の話か?」
「おぉ、アルティスの話は俺も聞いたぞ。第一皇子と第二皇子がかなり揉めているらしいな。いよいよ帝国の外征開始か?」
「あそこの国は武力主義が強いからな。実力で勝ち取れと皇帝も明言しているらしいしな」
「第一皇子は内政派、第二皇子が軍事派だったな?」
「あぁそうだ。そして第二皇子の武勇は他国にまで響いているからな。第一皇子を侮っているのだろう」
「なら遅かれ早かれこちらにも影響が出るという事か」
「物資の値段が上がり、貨物の量も増えるな」
「それだけなら万々歳だが賊も盛況となるだろう」
「痛しかゆしか。どこかに美味い話は転がっておらんかね?」

 僕は敢えて上級乗組員達が座る席の近くに位置取っていた。単に移動だけなら転移で事が済む。だが情報が入ってこない。どこでどういった情報があるかわからないからだ。酒場に寄ったのも同様だ。
 そもそもが雲を掴むような話。先ほどのような時事から果ては与太話まで耳に入れるだけはしておかないといけない。その上で調査する価値がある、ないを判断していく。
 時間ならある。時間しかないとも言えるけど。先の見通しは立っていない。

 翌日朝の食事では乗客として乗り込んでいた商人達の近くに位置取っていたが、特に気になる話は無かった。念のために昼・夜、乗客・乗組員の話に聞き耳を立てたが、やはりめぼしい情報は無かった。今晩を船の中で過ごし、翌朝に東の大陸に転移する事にした。これ以上この船に乗り続けても時間の無駄という判断だ。

◆◇◆◇

 そんな僕の都合を嘲笑うかのように、深夜未明に賊による襲撃があった。オミキナ海峡まではまだ遠い。乗組員たちが言っていたように今日明日の襲撃は無いと思っていた。だから驚いた。
 襲撃を知らせる鐘が何度も鳴り響く。乗組員達がバタバタと走り回る。怒号が飛び交っているのが客室にいてもわかった。まさか乗組員達もマンカラ近海で賊による襲撃があるとは思っていなかったのだろう。対モンスター用装備は準備してだろうが、白兵戦の準備は万端ではなかったはずだ。
 このまま放って転移しても良かったが、僕は賊がどんな奴らなのかが気になった。マンカラ近海で襲撃を行うのは賊にとって非常にリスキーなはずだからだ。近くにマンカラ汽船の船が航行している可能性があり、最悪の場合は援護射撃を食らうかもしれない。それらを理解していないほど賊も馬鹿ではないだろう。
 じゃあどういった奴らが襲撃を行ったのか?
 途轍もない馬鹿か?はたまた何か意味があるのか?
 海賊は捕縛次第厳しい取り調べの上、問答無用で死罪だ。これは世界共通の法として成り立っている。各大陸間の往来が激しく、ただでさえモンスターによる被害が増え続ける中で、安全を脅かすとは何たることか、というわけだ。それほどまでにこの世界で安全地帯は少ない。価値観が現代日本とは根本から違っている。虐げられた者が声を荒げても、お前の安全に対する考え方が甘かったのだと鼻で笑われるだろう。それほどだ。
 そしてそんな誰からも嫌われ憎まれる存在である海賊。船が沈むかどうかはどうでもいいが、少し見に行ってみるか。
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