美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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番外編

〈リクエスト〉素敵な人 1

 海陽様からのリクエストです!
 本編「温かい家庭」でのリュークの両親視点になります。
 私が書きたかった過去の話も勝手に入れさせて頂きました。2から長々と続きますので、サラッと流してもらっても大丈夫です。

 ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー

 秋の田舎町を彩る紅葉が一枚、ひらりと小川に落ちていく。
 エストロにあるリュークの実家では、日常の穏やかな時が流れていた。

「お母さん、ギルお父さんと遊びに行ってくる!」

 リビングで読書をしていたアンナは、ルークの元気な声を聞いて顔を上げる。

「もう勉強は終わったの?」
「まだ!夜やるから!」

 ルークは悪びれもなくはしゃいで外へ出て行き、遅れて用意を済ませたギルも玄関に向かう。

「ギル、そろそろ紅茶が無くなってきたみたいだから帰りに買ってきてね」
「ああ、了解。夕方には帰るよ」
「いってらっしゃい」

 手を振って夫を見送り、アンナは先程まで読み進めていた本を再び開いた。
 順調に本のページをめくっていき、物語の一章を読み終わったところで玄関の扉を叩く音が聞こえる。

「はーい」

 返事をしたアンナが扉を開けると、そこに立っていたのは息子のリューク。

「まあ、リューク!」
「ただいま、母さん」

 リュークはあまり手紙を寄こさないし、帰って来る時もいつも突然だ。
「手紙?あ、忘れてた!」
「いやぁ、ちょうどこっちに用事あったから寄ってみた!」
 こんな調子である。
 その頻度は少ないものだが、アンナたちは息子がいつ帰って来ても良いように、常にダイニングの椅子をもう一つ用意しているのだった。

「あら、ミスカも一緒じゃない!二人してどうしたの?」

 いつもと少し違う面持ちの二人に、アンナは首を傾げる。
 するとリュークが扉の後ろに声をかけ、その人をアンナの前に出す。

「俺とミスカ……彼女と結婚したんだ」
「は、初めまして!サキを申します!この度リュークさんとミスカさんと結婚させて頂きました!」
「……」

 二階に居たジンは、アンナの自分を呼ぶ声がして何事かと部屋の扉を開ける。

「ジン!そんなことしてないで早く来て!」
「そんなことって……ルークの服を繕えと言ったのはアンナだろう」

 呆れながら部屋を出たジンは、アンナからの次の発言に耳を疑う。

「リュークとミスカが結婚したのよ!」
「!?」

 慌てて彼女と共に階段下へ降りると、玄関の前には見知らぬ黒髪の女性がそこに立っていた。

「……」

 けっこん……と言っていたよな、結婚……この女性とか……?
 頭の中が混乱しすぎて階段の最後の一段を降りられずにいたジンを、アンナがぐいぐい引っ張る。

「ほら、ジンはそっちに座って」
「あ、ああ……」

 二人はぎこちなく彼らの向かいの席に座る。

「初めまして、リュークの母のアンナです」
「父のジンです。よろしく」
「よろしくお願いします」

 お互いひとまず挨拶をして一息ついた。

「リュークが……ミスカが結婚だなんて……本当なのよね?」
「うん、三か月くらい前から付き合っててこの前結婚したばっかり」
「……こんなことを聞くのは失礼なんだが、サキさんは……最近噂で聞く黒髪の子だよな?」

 噂と言うのは、「アルデンに黒い髪の美しい女性がいるらしい」という話だ。
 とても曖昧なもので非現実的。町の中でも皆半信半疑といった様子だった。勿論アンナもジンも、所詮は噂話だと流し聞きしていた。
 しかし今、目の前に座っているのは紛れも無い「黒い髪の美しい女性」。噂の通りそのままではないか。
 リュークとミスカに詳しく聞くと、彼女……サキは黒騎士団で働いているらしい。そこで出会い、結婚したと。
 驚きの連発で、質問もなかなか頭に浮かばない。
 しかし、アンナとジンはすでに理解していた。
 初めて対面した時の丁寧な挨拶、緊張したように背筋を伸ばして座る初々しい姿。そして、自分たちに向けられた真剣な眼差し。サキがどれだけ息子たちを強く想ってくれているのかが伝わってくる。
 深く話をしていなくても分かる。彼女は信じられる人だ。
 二人は顔を見合わせ、その判断を目で伝え合う。

「サキさん、本当にありがとう」

 アンナがサキに言葉をかけると、彼女は立ち上がり必死に感謝を伝えてくれた。
 私たちはそこまでしてもらえるような人じゃないんだが……。
 わざわざ夫の両親に挨拶に来てくれただけでも嬉しいのにねぇ……。
 ジンとアンナは逆に少し申し訳なく思ってしまいながらも、サキと握手をする。

「今日、お義母様とお義父様にお会いできてよかったです」
「お義母様だなんて仰々しくなくていいのよ。お義母さんと呼んで欲しいわ」

 もっと気軽に接して欲しいと思いアンナはそう言ったのだが、サキは「おかあさん」と呟くと黒い瞳から涙を零してしまった。ミスカが寄り添い、彼女の頭を撫でる。

「サキの両親は……遠いところに居るからな」
「……うん……」

 事情は分からないが、どうやらサキは今、望んでも親に会えない状況らしい。
 何とか涙を拭って隠そうとしている姿を見て、二人は小さく心を痛めた。
 夫の親に対してさえもこれだけ真摯に向き合っているのだから、どこでも真面目で気を張ってしまう性格なのだろう。
 自分たちも彼女が寄り掛かれる、安心できる場所になりたいと強く思った。
 優しく抱きしめて慰めると、サキはふわっと嬉しそうに微笑んでくれて、また本当に娘のような愛おしさも覚える。

「お義母さん、お義父さん、ありがとうございます!」
「ええ、こちらこそ!」

 そうして彼らはサキを受け入れ、義家族としての縁が結ばれたのだった。

「は!?結婚!?二人とも、この人と!?」
「ちょっとギル、静かにしてちょうだい」
「いや……え?マジかよ……」

 帰ってきて早々に衝撃の報告をされたギルも、何とか事実を受け入れた。
 そもそもこんな美人見たことないって……。どっから連れて来たんだよ……童話じゃないんだから……。
 しばらく頭を抱えていたギルの隣で、ルークはあっさり受け入れていた。

「お兄ちゃんたち、結婚おめでとう!」
「ルーク~!ありがとう!」
「ありがとう」

 全員で仲良く食事をして、いつの間にか窓の外は暗くなっていた。
 リュークたちが宿に泊まることになり、アンナは色々と詰めた袋をサキに渡す。

「これ、好きに使ってね。パジャマは私の昔のもので申し訳ないけれど」
「いえ、こんなに用意して頂けて本当にありがたいです!この髪留め、凄く可愛いですね……!」
「ええ……!そうなのよ!私そういうデザインばかり好きで。顔を洗う時にでも使って欲しいわ」

 何でも嬉しそうな反応を返してくれるサキに、アンナは分かりやすく喜びを表わにしていた。
 そのまま笑顔で三人を見送り、彼女はルンルンしながらダイニングの椅子に座る。

「よし、ルーク。勉強の続きだ」
「やだー!」

 ギルとルークが二階へ上がって行ったので、ジンは二人分の紅茶を入れて、アンナの向かいに座った。

「はぁ……あんなに可愛い娘が出来るだなんて……夢にも思わなかったわ」
「本当だな……」

 頷きながら、ジンは何故か自分の胸をさすっている。

「ジン、どうしたの?」
「……さっき驚きすぎて、まだ心臓が痛いんだ」
「あはは!マッサージでもする?」
「悪化しそうだからやめておくよ」

 紅茶に蜂蜜を入れて一口飲むと、アンナはカップをそっとテーブルに置いた。

「二人とも、あんなに幸せそうで……」

 そう呟き、先程の涙ぐむリュークの笑顔を思い出す。

『世界で一番……ううん、どの世界でも一番素敵な人だよ!』

 リュークが幼い頃、彼にかけた言葉をアンナ自身も深く記憶している。
 あれは決して慰めやその場しのぎの発言ではなく、彼女は心からそう思っていた。
 だって、私がそうだったもの。
 アンナはふと過去を思い出す。

 それは遠い昔、アンナとジンが出会った時のこと……。
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