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お仕事初日
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食堂を出た私は廊下を歩いていたミスカさんを見つけ声を掛ける
「……どうした」
「ハインツさんにお話があるんですけど、今どちらにいらっしゃいますか?」
「ああ、団長なら今は執務室にいるはずだ」
「そうですか!ありがとうございます」
三階まで上がってその突き当たりの部屋をノックする。「どうぞ」と声が聞こえたのでゆっくり扉を開けて中に入る。
一人でここに入るのは初めてだったのでちょっぴり緊張した。
「お邪魔します、今大丈夫ですか?」
「ああ、サキか。大丈夫だよ、どうかしたい?」
私は少し躊躇いながら説明する。
「その、私が騎士団の方たちとあまり会わないように気にしてくれているって聞いたんですけど、それだとお仕事の邪魔になってしまいますし……いつも通りにしていてもらいたいです」
そう伝えるとハインツさんは驚き、何度も「本当に大丈夫か」と聞いてきた。私は何度も首を縦に振った。
「そうか……余計な配慮だったね。わざわざ言わせてしまってすまない」
「いえ、こちらこそすみません」
私を考えてのことだから断るのも申し訳ないけれど、ただの居候には少々荷が重かった。
「サキがそう言ってくれるのなら団員たちにも伝えておくよ。私が言うのもなんだが皆いい奴らなんだ。君に危害を加えたりは無いから安心してくれ」
言われなくてもと思ってしまったが、実際男性の中に女一人なのだから普通に考えれば良くはない状況だった。ほとんど警戒心を持っていなかった自分を反省する。
「あとお仕事のことで」
「もう今日からだったね、やっぱり辛かったか?それかヴェルストリアがなにか……」
「いえ、とっても楽しかったです!ヴェルストリアくんは大変なのにこんな風に言うのもあれですけど、これから一緒に料理出来るのが嬉しいです」
ハインツさんは一瞬ポカンとしていたが、「それなら良かった」と何回か頷いた。
「それで、食事は朝と夜だけなので空いた時間に何か出来ることは無いかと思って」
お昼の間何もすることが無いのは流石に苦痛過ぎる。ハインツさんと話し合い、出来る限りの敷地内のお掃除も任されることになった。
その後とりあえず自分の部屋の掃除と夕食の準備と穏やかに進んでいったのだったが…夕食の時間になり、問題は起こった。
「ご飯が足りない!?」
「はい、想定より多く人が来てしまって…今は三十人くらい集まっています」
もともと用意していたのは十人分。まさか三倍だとは。
「朝食が美味しすぎたと噂が広がったみたいで…こうなることは分かっていたのに……すみません」
「ヴェルストリアくんのせいじゃないよ」
しかしわざわざ来てくれたのにそのまま帰ってもらう訳にはいかない。
「よし、今から新しく作る!」
「え!?でも……」
材料はある。メニューは少し変わるが頑張ればそれなりには作れるだろう。
「ヴェルストリアくんは皆さんに遅れるけど用意するって伝えて。あと、まだ手伝ってくれたらすごい助かる!」
「はい……!」
そこからはひたすら作って運んでの繰り返しで、二時間をすぎる頃にようやく全て作り終えた。
団員たちも食べながら待ってくれたようで、今は自由におかずを取り分け美味しそうに食べているそうだ。
「はぁー、焦ったぁ…ヴェルストリアくん、無茶言ってごめんね。本当にありがとう」
「僕は何も。こちらそこ本当に全員に作ってくださってありがとうございます」
ヴェルストリアくんも大変だっただろうに、変わらず爽やかな笑顔を向けてくれる。
正直ヴェルストリアくんの包丁さばきが無ければここまで速くは作れなかっただろう、是非私も見習いたい。
キッチンの丸椅子に座り、私たちも夕食を食べる。
「明日からは作る量増やさないとね」
「サキさんがそこまで無理する必要は無いですよ。事前に何人分しか作らないと知らせておけばいいですし」
確かに、先に伝えておけば先着順だと分かってもらえるだろう。
「でも私のご飯を美味しいって思ってくれているなら皆に食べてほしい。三十人分くらいなら先に準備しておけば大丈夫だから。ヴェルストリアくんは今日と同じ時間にまた来てくれる?」
「……わかりました。時間じゃなくても、手伝えることがあればいつでも言ってください」
初日からこんなドタバタになるとは思っていなかったけれど、私の仕事が認められたみたいで嬉しかった。そして改めて私は料理が好きなのだと実感出来たのだった。
「……どうした」
「ハインツさんにお話があるんですけど、今どちらにいらっしゃいますか?」
「ああ、団長なら今は執務室にいるはずだ」
「そうですか!ありがとうございます」
三階まで上がってその突き当たりの部屋をノックする。「どうぞ」と声が聞こえたのでゆっくり扉を開けて中に入る。
一人でここに入るのは初めてだったのでちょっぴり緊張した。
「お邪魔します、今大丈夫ですか?」
「ああ、サキか。大丈夫だよ、どうかしたい?」
私は少し躊躇いながら説明する。
「その、私が騎士団の方たちとあまり会わないように気にしてくれているって聞いたんですけど、それだとお仕事の邪魔になってしまいますし……いつも通りにしていてもらいたいです」
そう伝えるとハインツさんは驚き、何度も「本当に大丈夫か」と聞いてきた。私は何度も首を縦に振った。
「そうか……余計な配慮だったね。わざわざ言わせてしまってすまない」
「いえ、こちらこそすみません」
私を考えてのことだから断るのも申し訳ないけれど、ただの居候には少々荷が重かった。
「サキがそう言ってくれるのなら団員たちにも伝えておくよ。私が言うのもなんだが皆いい奴らなんだ。君に危害を加えたりは無いから安心してくれ」
言われなくてもと思ってしまったが、実際男性の中に女一人なのだから普通に考えれば良くはない状況だった。ほとんど警戒心を持っていなかった自分を反省する。
「あとお仕事のことで」
「もう今日からだったね、やっぱり辛かったか?それかヴェルストリアがなにか……」
「いえ、とっても楽しかったです!ヴェルストリアくんは大変なのにこんな風に言うのもあれですけど、これから一緒に料理出来るのが嬉しいです」
ハインツさんは一瞬ポカンとしていたが、「それなら良かった」と何回か頷いた。
「それで、食事は朝と夜だけなので空いた時間に何か出来ることは無いかと思って」
お昼の間何もすることが無いのは流石に苦痛過ぎる。ハインツさんと話し合い、出来る限りの敷地内のお掃除も任されることになった。
その後とりあえず自分の部屋の掃除と夕食の準備と穏やかに進んでいったのだったが…夕食の時間になり、問題は起こった。
「ご飯が足りない!?」
「はい、想定より多く人が来てしまって…今は三十人くらい集まっています」
もともと用意していたのは十人分。まさか三倍だとは。
「朝食が美味しすぎたと噂が広がったみたいで…こうなることは分かっていたのに……すみません」
「ヴェルストリアくんのせいじゃないよ」
しかしわざわざ来てくれたのにそのまま帰ってもらう訳にはいかない。
「よし、今から新しく作る!」
「え!?でも……」
材料はある。メニューは少し変わるが頑張ればそれなりには作れるだろう。
「ヴェルストリアくんは皆さんに遅れるけど用意するって伝えて。あと、まだ手伝ってくれたらすごい助かる!」
「はい……!」
そこからはひたすら作って運んでの繰り返しで、二時間をすぎる頃にようやく全て作り終えた。
団員たちも食べながら待ってくれたようで、今は自由におかずを取り分け美味しそうに食べているそうだ。
「はぁー、焦ったぁ…ヴェルストリアくん、無茶言ってごめんね。本当にありがとう」
「僕は何も。こちらそこ本当に全員に作ってくださってありがとうございます」
ヴェルストリアくんも大変だっただろうに、変わらず爽やかな笑顔を向けてくれる。
正直ヴェルストリアくんの包丁さばきが無ければここまで速くは作れなかっただろう、是非私も見習いたい。
キッチンの丸椅子に座り、私たちも夕食を食べる。
「明日からは作る量増やさないとね」
「サキさんがそこまで無理する必要は無いですよ。事前に何人分しか作らないと知らせておけばいいですし」
確かに、先に伝えておけば先着順だと分かってもらえるだろう。
「でも私のご飯を美味しいって思ってくれているなら皆に食べてほしい。三十人分くらいなら先に準備しておけば大丈夫だから。ヴェルストリアくんは今日と同じ時間にまた来てくれる?」
「……わかりました。時間じゃなくても、手伝えることがあればいつでも言ってください」
初日からこんなドタバタになるとは思っていなかったけれど、私の仕事が認められたみたいで嬉しかった。そして改めて私は料理が好きなのだと実感出来たのだった。
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