美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
16 / 200

サキとの出会い(ラグト)

しおりを挟む
 物心ついた時から俺は醜いのだと分かっていた。散々悪口を言われ、殴られて。最初は抵抗していたが六歳になる頃にはもう諦めていた。

「お前ほんと醜いよな!」
「はは、俺も知ってるー」
「こいつ自分で認めてるのかよー!」

 何を言われても気にしていないフリをして明るくかわす。そうしているうちにいじられ役として上手く周囲に溶け込めていた。
 でもやっぱり色々言われると辛くて無理やり笑顔を作るのにも疲れて、俺は町を離れて黒騎士団に入った。
 ここには自分と同じような容姿の人ばかりで、初めてミスカ先輩に会った時も安心したんだ。
 あぁ、俺のほうがきっとマシだと。
 しかしそうじゃなかった。
 先輩は圧倒的に強かった。年上を相手にしても怯むことなく剣を振るい勝利を手にする姿は、今まで出会った誰よりもカッコよく見えた。
 俺もこの人のように強くなりたい。容姿で馬鹿にしてきた人たちを見返せるくらいに。

 そう心に決めていたのだが、この黒騎士団に女の子が住むことになったという話を聞いて、そして今、その子と対面して正直動揺した。
「めっちゃ美人!」と思わず声出してしまう程の目を引く黒髪黒目、可愛らしい顔立ち、小柄な体。男の理想を具現化したような容姿にドキッと胸が高鳴る。
 だからこそ、周りからさぞ優遇されてきたであろう彼女にどんなことを言われるのか考え怖くなってしまった。

「はじめましてラグトさん、ここでお世話になっているサキです。あの……私は大丈夫なのでお顔は隠さないでください」

 え?想像していた反応と違う?
 当たり前のように挨拶をし、顔を見せても良いと。信じられなかったが、尊敬する先輩の前でうじうじしているのもカッコ悪い。
 どうにでもなれ、と顔を隠していた手を退ける。
 俺の顔を見たサキちゃんは怖がらず、それどころか目を輝かせ嬉しそうに笑った。

 キュンとした。

 その後も照れてしまい終始おちゃらけた態度だった俺にも彼女は優しく何より誠実に接してくれて、俺の胸はずっとキュンキュンしぱなっしだった。
 サキちゃんと話していると楽しくて自然と笑顔になる。彼女も笑顔にしたくなる。
 浮き足立っているのがバレていないか心配だった。
 
 食堂に着くと、サキちゃんは俺の分も一緒におやつを作ってくれると言う。
 すごく嬉しくて手伝いたかったけど「お礼」だと言われてしまって、それも嬉しかったので大人しく座って待っていた。

「ラグト、まだ居たのか」
「先輩!?」
「サキが何か作っているのか」

 ちょうどサキちゃんがキッチンから出てくる。

「お待たせしましたー!」

 机にはふわふわのパンケーキ。
 サキちゃんが!俺のために!作ってくれたパンケーキだと思うとそれはもう輝いて見えた。
 結局先輩も食べていたけど。
 朝飯も美味しくてびっくりしたけど、やっぱり本当に料理上手なんだな……。

 すっかり食べ終えると、ふとサキちゃんの唇の端にちょんと生クリームが付いてしまっているのに気がつく。
 先輩が彼女に伝えるが、なかなか場所が分からないようで不思議そうな顔をしている。そして少し拗ねたように「取ってくださいよ」と言った。
 くるくる変わる表情も可愛くてずっと見ていたいが、この状況ではそうもいかなくなった。
 どちらが生クリームを取るのか……二人は真剣な眼差しで睨み合う。約一分間の接戦の末、俺は勝利を手にした。
 先輩はあまり表情には出ないが相当悔しそうだ、というか後が怖い。しかし女性に無関心なはずのミスカ先輩がサキちゃんのことになると行動力が増しているように思える……。

「ちょっと失礼……」

 俺が手を伸ばすと彼女は目を伏せ、こちらに顔を寄せた。黒く長いまつ毛に見惚れながら、なるべく触れる面積が少ないようにと親指だけ出してそぉっと近づける。
 触れるか触れないか、いや、これは触れているのか?生クリームの表面では?
 距離感が分からなくなって手に力が入ってしまうと、不意にふにっと柔らかいものに指先が触れた。可愛らしい小さな唇。
 わっ……!!
 手が震わせながらそのまま優しく横になぞった時だった。

「んっ……」

 彼女の唇がキュッと堪えるように動く。
 えっっ??
 可愛い、こんなに可愛い人が目の前にいるなんて、今触れているなんて信じられない。このまま時間が止まってしまえばいいのに。
 先輩に首を締められるまで俺は天国にいた。

 鍛錬に戻った俺は先輩に執拗に虐められながらもサキちゃんのことで頭がいっぱいだった。
 こんな容姿の奴に触れられても気にせず、「ドキドキした」なんて顔を赤らめて言われたら……。

 あぁー!もう、めっちゃ好き!!

 出会ったばかりで好きになるなんて俺は軽薄な男なのかもしれない。でもなんと言われようと構わない。もう他の女性なんてどうでもいい。
 ずっと胸がキュンと締め付けられて苦しいんだ。それがとてつもなく幸せで。
 幼い頃の無理やり笑っていた俺が遠くに消えていく。
 いつの間にか俺の笑顔は作り物じゃなく本物になっていたんだ。

「はぁー……っ、よし!」

 俺は彼女を幸せには出来ないけど、笑顔にすることはきっと出来る。その為の努力なら、俺はいくらでもやってやる。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

処理中です...